【587】 二条乃梨子はそれなりにまごつく  (琴吹 邑 2005-09-20 03:12:53)


琴吹が書いた【No:534】「肋骨に食い込む拳」の続きになります。

物語を最初から確認したい場合は
http://hpcgi1.nifty.com/toybox/treebbs/treebbs01.cgi?mode=allread&no=81&page=0&list=&opt=
を参照してください。



私たちは映画館の前に立っていた。
「やっぱり。どれも時間過ぎちゃってるよ」
「そうですね」
「どうしようか……前が少し欠けちゃうけど見る?」
「テレビじゃないのに、それもどうかと……」
「だよねえ」

私たちが映画館の前に戻ってきた時にはどの映画も開始時間が10分から50分過ぎてしまっていた。
つまり、ゲームセンターで遊びすぎたのだ。
最後にやった、クイズゲームが致命的だった。
二人でやったクイズゲームは、お互いの得意ジャンルが綺麗にかみ合い、またそのゲームの進行も面白いこともあって、最後まで終わらせてしまったのだ。

「じゃあ、買いたい物があるんですけど、つきあってもらって良いですか?」
 私は、しばらく考えてからそう言った。



 駅ビルに向かう途中で私たちはばったりと志摩子さんに出会った。
 志摩子さんは私たち二人を見ると、志摩子さんにしては珍しく有無を言わさず、近くのファーストフードのお店へ私たちを連れて行ったのだ。

「どういうことなのか聞かせてもらって良いかしら?」
 そう言って、志摩子さんがにっこり笑う。でも、その瞳は何故か全然笑っていなかった。
 正直言って、志摩子さんと思えないくらい怖かった。
「えっと、仏像を見に行ったの」
「そうなの。乃梨子は、私の誘いを断って、祐麒さんとデートしてたのね」
「いや、そう言うわけではなくって」
私が志摩子さんに押されてしどろもどろになっていると、祐麒さんが助け船を出してくれた。
「今日は、花音寺の秘仏を見に行ったんですよ。藤堂さんが一緒だと、きっと新聞部のネタにされてしまうから、ってことみたいですよ」
「そうなの。花音寺の秘仏はなかなか見せてもらえなくて、祐麒さんのコネでやっと見せてたの。本当は志摩子さんと一緒に見たかったんだけど、花寺まで行くわけで、しかも祐麒さんと一緒だと目立ちすぎるでしょ?」
 私は、祐麒さんの言葉を補足する。
「そう」
そう言って志摩子さんは、アイスティを口に含んだ。
 その時の志摩子さんの言葉は妙に冷たかった。しかし、今日の志摩子さんはいつもの志摩子さんとは思えないぐらい、感情的になっている気がする。
 いつもこんな事ほとんど無いのに。いつもは見られない志摩子さんを見られて新鮮な気持ちはするけど、でも何でだろうと首をかしげる。
 私は少し考えて、導びきだした答えに、少し憂鬱になった。



【No:626】へ続く


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