根回し次世代 【No:588】 風さん、に、続いているんだけど、このシリーズもはや多少のつじつまは気にしないように。
そろそろ、朝拝の50分前。
ちらほら、と、雪が舞い始めている。
今夜は積もるかもしれない。
「乃梨子。祐巳さんが見えたわ。先に、薔薇の館へ行っていてくれるかしら。暖かくしてお茶を入れていて。」
「わかった、志摩子さん。あのね……。」
「なに、乃梨子?」
「みんな、つながってるの。みんな,祐巳さまにも瞳子にも、志摩子さんにも泣いて欲しくない。忘れないで。」
「うん。」
長身と長い髪が、さっきからマリア様の脇に立っているのが見えた。
「そうそう、瞳子ちゃんを足止めする必要はなくなったわ。可南子ちゃんも一緒に連れて行ってくれるかしら。」
「可南子がいやだって言ったら?」
「その時は無理にとは言わない。けど、たぶん来てくれると思うわ。」
「わかった。それじゃ、薔薇の館で。」
「ごきげんよう、紅薔薇の蕾。」
「ごきげんよう、紅薔薇の蕾。もうお体はいいんですか?」
「うん、ちょっと風邪ひいちゃった。もう大丈夫よ。」
まわりをとりかこまれて、挨拶をしている祐巳さん。
近づいて声をかける。
「ごきげんよう、祐巳さん。」
「あ……ごきげんよう、志摩子さん。」
「もう、身体は大丈夫?」
「うん、熱も下がったし。でも私、ちょっと急ぐんだけど。」
瞳子ちゃんと直接話したいだろう。でも、それはちょっと待って欲しいの。
わかって、祐巳さん。
「瞳子ならまだ来てないわよ。」
あえて、呼び捨てにする。なかったことにはできないのよ。
ちらっと目が泳いだわね。必死で表情を押さえてるけれど。
それは今日は私も同じ。
「薔薇の館に来てくれないかしら。少し話したいの。」
目に見えて戸惑う祐巳さん。
「志摩子さん、あなた、何を考えてるか、わからないよ。」
「3日前までのあなたもね、祐巳さん。だから話したいの。瞳子と話す前に。」
「とうこ・・・・・・・か。わかった。行くわ。」
二人でマリア様に手を合わせる。私が間違った道を進みませんように。
ざざっ、と映画の十戒で海が左右に分かれるようにギャラリーが引いた。
その真ん中を分けて、祐巳さんと歩き出す。
「本気なの?」祐巳さんが聞く。
「姉妹を複数持ってもいいことにするって。」
「本当のことを言うとね、いいも悪いも山百合会が決めることじゃないのよ。」
「は?」
「校則でも山百合会の規則でも何でもいい、姉妹とは何かって書いたもの、見たことある?」
「……ない。」
「でしょ? もともと、上級生が下級生を指導するところから始まって一対一の強いつながりになったけど、それはただの慣習よ。だから多数決も何もないのよ。ほんとはね。」
「ねえ、志摩子さん、姉妹ってそんなに弱いつながりなの? ちがうよね。聖さまと志摩子さんはただ存在してればいいって姉妹だった。乃梨子ちゃんとはもう少し普通の姉妹みたいだけど、別に姉妹でなくてもいいみたい。だけど」
「だけど? 祥子さまと祐巳さんはロザリオがなくなったら切れてしまう関係?」
「そんなことないわ。」
「祐巳さん、考えたことないかな。学園祭の前みたいに、瞳子ちゃんと可南子ちゃんが突っ張りあいながら一緒に山百合会にいて、乃梨子が真ん中で困りながら引っ張ってる光景。」
「夢見たことはあるわ。この3人組が来年の山百合会を背負ったらって。」
「それを自分の妹と思って考えないところがおもしろいのよね、祐巳さんって。」
「はあ。言わないでよ。自分の鈍感さは身にしみました。はい。」
「もし、二人ともが紅薔薇の蕾になれたらっておもわなかった?姉妹は恋人じゃないのよ。違う?」
「………違う。志摩子さん、それ、違うよ。」
「はいここまで、話は二階にあがってからね。乃梨子がお茶を入れてくれているはずよ。」
「なんだか、志摩子さんの思い通りになってるわね。でも、それがなんだか気持ちいい。」
「そう、たまには人の思惑通りになるのもいいでしょ。」
「私、それ、いっつもなんだけど。」
「あー、そうねえ。」
「ふふふふふ。」「へへへ。」
「でも、ここからは本気よ。祐巳さん。」