「ごきげんよう、由乃さま、お一人でいらっしゃいますか?」
「うん、祐巳さんは当番でおくれるって」
それではと、二人分のお茶を用意して席に着くと、瞳子は以前から聞いてみたいと思っていた質問を口にしたのです。
「由乃さまはどうやって、黄薔薇さまにいうことをお聞かせになってるのですか?」
私と由乃さま、ゆ、お姉さまと黄薔薇さま、互いに似通っている。それにもかかわらず、それぞれの姉妹関係の主導権には大きな違いがあるのが現状。他に誰もいないこの機会に秘訣があれば聴いておきたいところですわ。
「まあ、基本的には歴史ってやつだけど。瞳子ちゃんの知りたいコツといえば」
「いえば?」
「視線、だね」
「視線…ですか?」
「そ。それも思いっきり冷たい視線。動きを抑えてただじいっと見つめるの。昔はあんまり動けなかったし自然と身についちゃったというか。濫用は避けてるけど、やれば令ちゃんは一発だね。瞳子ちゃんは女優なんだしすぐにできるんじゃないかな」
本当でしょうか。でも抑えた演技のほうが観客の心を打つのはよくあることですし。
そこで、半信半疑ながら由乃さまの指導を受けていると、お、ちょうどお姉さまが上がってくるようですわ。
「瞳子ちゃーん」
入ってくるなり背後へ回り込んでの抱きつきを敢行しようとする(ていうより抱きついた)お姉さまに、瞳子はなんとか顔を後ろに向けて冷たい視線を発射。すると、ゆ、お姉さまの腕から力が抜けて。
「ど、どうしたの、瞳子ちゃん」じー
「あ、あははー。お茶入れてくるねー」
おお、撃退できましたわ。心なしか顔が赤かったような気がしますけど。
そこで、その日は練習を兼ねて時折、視線を発動してみたのですわ。
翌日、今度は黄薔薇さまと二人になる機会がありましたので、念のため質問してみたのです。
「黄薔薇さまは、由乃さまによくお譲りになられてますわね」
「うん、自然とそうなっちゃたんだよね。由乃は今までたいへんだったから。あとは」
「あとは?」
「愛かな」
「愛…ですか」
「時折向けてくる、熱い視線。あれを感じると何でもしてあげたくなっちゃうね」