何の因果か、私の前にそれはあった。
志摩子からずいぶん大きい小包――大きい小包って何か微妙な言葉だけど――が届いたのは、ほんの数分前のことだった。
なんだこれ? 私に荷物が届くことも珍しいが、送り主が志摩子からって言うのも珍しい。
私は早速、その小包――段ボールを開封した。
「こ、これは……あの時壊れたはずの………」
開封した箱の中から出てきた物、それは、以前写真部が部費の調達をするため、総力をあげて作り上げた1/1祐巳ちゃんフィギュアだった。
しかもあの時と同じように、リリアンの古風な制服にフリフリエプロンとカチューシャを装備している。
「やっぱり祐巳ちゃんはかわいいなぁ。あの時は祥子に邪魔されて抱きつけなかったから、今度こそ」
私は祐巳ちゃんフィギュアの背後に回り、いつも本物にしているように後から抱きついた」
「ぎゃう」
コミュニケーション能力を装備したフィギュアは私の抱きつきに反応して、いわゆる、怪獣の子供のような声を発した。
私はすこし首をかしげた後、祐巳ちゃんフィギュアから離れ、もう一度、さっきと同じように抱きついた。
「ぎゃう」
祐巳ちゃんフィギュアが発した怪獣のような鳴き声が、寒々しく部屋に響いた。
「これは駄目だね」
確かに抱き心地は良かった。特殊開発したウレタンフォームというのは伊達ではないと思う。
でも、あの祐巳ちゃんのぽわぽわとした柔らかさには全然叶わない。
フィギュアが発する恐竜の子供の泣き声も、本物の方が反オクターブ高くそして柔らかい。
祐巳ちゃんにじゃれつけない素人の祥子や電動ドリルなら、まだ、これで満足できるかも知れないが、祐巳ちゃんに抱きつくことに関して、もはや達人の域に達した私にはとうてい満足できる物ではない。
「ちぇ、残念だなあ」
そう言いながら、私は1/1祐巳ちゃんフィギュアを傷つけないように、丁寧に箱に戻した。
「はい。確かにお預かりしました。到着は、明後日以降になる予定です」
次の日、私は大学へ行く前に、昨日届いたそれを、あの人の所に発送した。
それが届いた後で、会いに行って、いろいろといじればきっと面白い反応が返ってくるだろう。
私はニシシと笑いながら、愉快な反応を返してくれるであろうあの人に思いをはせた。
【No:426】へ続く