「とにかく私はイヤだからね!」
「うふふ、いいのよ。 そう言っていられるのも今のうちだけなのだから」
「どう言うイミよ」
白薔薇のつぼみの志摩子さんといつものような駆け引きをしながら由乃がビスケット扉を開けると、祐巳さんが先に来ていてお茶していた。
「ごきげんよう祐巳さん」
「ごきげんよう、祐巳さん随分早いわね。 掃除サボったのね」
「ううん……ちゃんとやったよ……」
祐巳さんは此方に目も向けず、俯き加減で返事を返してきた。 見るからに元気が無い様子。
「どうしたの祐巳さん。 何かあったのね、話を聞かせて貰ってもいいかしら」
「そうよ祐巳さん、私達が相談に乗るわ。 遠慮なんかしないで良いのよ」
志摩子さんと二人、祐巳さんの両隣の席に腰掛け身を乗り出した。
「あのね……ケーキが無くなっちゃったの……」
見ると祐巳さんの目の前に置かれた小皿は確かに空っぽだ。 祐巳さんは泣いてないのが不思議な程しょんぼりした顔で、フォークを握り締めている。
「まあ。 祐巳さんかわいそう……」
「ふ〜ん。 これは内部の者の犯行だわね」
「なぜ? 由乃さん」
「簡単な事よ。 一般の生徒じゃ、この薔薇の館でそんな大胆な行為には及べないわ」
「それはそうね。 では……」
「まあ、関係者の中でもそういう事しそうな人は一人しかいないわね」
「由乃さんね?」
「違うわよっ!! 本当に油断ならないわね……。 良い? 志摩子さんあなたの――」
「お姉さまね。 それには同意するわ」
「……そうよ。 なんか初めて意見が合ったような気がするわ」
「でも、証拠が無いのじゃないかしら。 あのお姉さまの事だから」
「そうだわね……。 あの白薔薇さまのシッポを掴むのは難儀かも……」
「ねえ祐巳さん、証拠を掴む為にもっと詳しく状況を話してくれる?」
空っぽのお皿をボーっと見詰めていた祐巳さんは、話を急に振られてちょっとだけ驚いたように此方に目を向けた。
「う、うん……あのね……」
「うん」
「食べたら無くなっちゃったの……ケーキ……」
『へ?』
どういう事……? ただ自分で食べちゃっただけ?
「もっと食べたかったのに……」
「あ、そう……」
……事件解決。 だけど。
ここは、人騒がせにも程が有るって事を祐巳さんには充分に教えてあげなくてはね。
「祐巳さん、ケーキなら有るわよ。 志摩子さんが作って来たんだって」
「えっ! ほ、ほんと!?」
「そうよ、祐巳さん一人で――」
「本当よ祐巳さん、由乃さんと二人で召し上がって」
「わ〜〜い♪」
「ちょ、ちょっと志摩子さん私は――」
「あら、祐巳さん残念ね。 由乃さんがそんなケーキ捨てなさいですって」
「え〜〜!? 由乃さん酷いよっ!」
「なっ!?」
「ええ、由乃さんってこういう人なのよ?」
「くっ、なんとしても私に食べさせる気ね……その趣味丸出しのケーキ」
最後に油断してしまったようだ。