【626】 おいしいやきもち  (琴吹 邑 2005-09-23 23:49:21)


琴吹が書いた【No:587】「二条乃梨子はそれなりにまごつく」の続きになります。

物語を最初から確認したい場合は
http://hpcgi1.nifty.com/toybox/treebbs/treebbs01.cgi?mode=allread&no=81&page=0&list=&opt=
を参照してください。


 目の前には普段見られないような不機嫌な志摩子さんがいる。
 原因は、私が志摩子さんの誘いを断って、祐麒さんと仏像を見に行ったから。
 これくらいのことで、怒るような志摩子さんとは思えない。
 ということは、他に原因があるわけで、考えられることは、一つしか考えられなかった。

「祐麒さん。申し訳ないですけど、今日は、ここで解散にしてもらえますか? 志摩子さんとお話ししていきたいので」
「確かに、その方がいいかもね。それじゃあ、また」
 祐麒さんが心配そうに、私と志摩子さんを見て、席を立った。
 しばらく、私と志摩子さんの間に重い沈黙が訪れる。
「志摩子さんは、祐麒さんのこと好きなの?」
「え? 祐麒さん? 別に考えたこと無いわ。何でそんなこと聞くの?」
 志摩子さんは、本当にきょとんとして、首をかしげた。
 あれ? 私は自分の立てた予想が簡単に覆されて首をひねらずにはいられなかった。
 志摩子さんが、祐麒さんのことを好きで、私と一緒にいるところを見て、嫉妬したというのを考えていたのだけど、どうやら違うらしい。
「えっと、志摩子さんさっきすごく不機嫌だったから。祐麒さんと私が一緒にいたからかなと思ったのだけど」
 その言葉に、志摩子さんはぽんと手を打った。
「そうか。私、嫉妬してたのね……」
 その言葉に、内心ため息をつく。
「……祐麒さんに」
「え?」
「乃梨子が、祐麒さんと仲良くて、なんかすごく寂しくなっちゃって。祐麒さんに乃梨子を取られてしまう気がしたのよ」
 志摩子さんははにかみながらそう言った。
「志摩子さん……」
 そんなにも、私のことを大事に思ってくれるなんて……。
 私はその言葉に、胸がいっぱいになって何も言えなくなってしまった。
「ごめんなさいね。乃梨子、デートの邪魔しちゃって」
「別にデートというわけじゃなく、仏像見に行っただけなんだけど……」
「別に隠さなくてもいいのよ」
 私がつぶやいた言葉は、志摩子さんに届くことはなかった。



【No:648】へ続く


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