【636】 凸凹騒動  (いぬいぬ 2005-09-24 22:38:32)


※このSSは【No:621】「真美、サイズが合わない」の続きとなっておりますので、そちらを先に読む事をお薦めします。


 昼休みの校庭の片隅で、真美は一人やさぐれていた。
 温泉での一件(※投稿621参照)以来、真美はどうも妹とギクシャクしてしまっていた。年下の日出美に「女」としての部分で負けた事に対するジェラシーと、姉としてはその程度の事など軽く流せる余裕が欲しいという思いとの板ばさみで、ジレンマに陥っているのだ。
(お姉さまだけならまだ流せるけど・・・成長に一年開きがあるんだし)
 真美はいつまでもウジウジと気にする自分にどうにか折り合いをつけようと色々自分に言い聞かせているのだが・・・
(年下の日出美にまで負けるなんて・・・)
 結局はジェラシーが先走ってしまい、そこでまた自分を納得させる言葉を捜すという思考のループに囚われていた。
(だいたいDカップって何よ?私よりも2ランクも上じゃない!)
「真美さん」
(DはダイナマイツバディのD?ハマり過ぎて洒落にもならないわ)
「真美さんてば」
(私だってあと何年かすれば・・・)
「おーい」
(・・・・・・・・・何年かかっても無理かしら?)
「とおっ!!」

 がすっ!!

「痛っ!?」
 真美は突然後頭部に衝撃を受けた。少し涙目になって振り向くとそこには・・・
「・・・由乃さん」
 にっこりと微笑む由乃が立っていた。空手チョップの形になった右手をかかげながら。
「いきなり何?」
 真美が不機嫌を隠さずに詰問すると、答えたのは由乃ではなかった。
「私、日出美さんから相談を持ちかけられたんです。最近、お姉さま・・・真美さまの態度がよそよそしいのだけど、どうすれば良いのか解からないって」 
 答えたのは、由乃の隣りに立っていた乃梨子だった。
「日出美が?」
 真美はショックを受けていた。自分の嫉妬なんかで日出美に辛い思いをさせてしまった事に。
「きっと真美さんと同じ二年生でクラスメイトでもある私達に、真美さんの態度が変わった原因を探って欲しかったんじゃない?」
 由乃が右手を降ろしながらそう言った。
「でも私達には妹が・・・日出美ちゃんと同じ一年生である妹がいないから、蕾つながりで私達に顔の効く乃梨子ちゃんに助けを求めたんじゃないのかな?」
 そう言ったのは、乃梨子の後ろにいた祐巳だった。紅、白、黄の蕾の揃い踏みである。
「日出美がそんな事を・・・」
 真美が態度を硬化させた理由を口にしなかったので、日出美は何とか原因だけでも探ろうと、からめ手を使おうとしたらしい。特に乃梨子と仲が良いという訳でもない日出美にとっては、かなり勇気のいる方法だったのではないだろうか。
 真美は妹を追い詰めている自分に対して、再び自己嫌悪に陥ってしまった。しかし、原因を話すのはさすがにためらわれた。さすがに「原因は私のおっぱいなの」とは言えまい。
「ごめんなさい。でもこれは私自身の問題だから・・・」
 真美がそう誤魔化そうとすると、祐巳が肩にポンと手をかけてきた。
「私達、日出美ちゃんから詳しく事情聴取してね?理由が解かっちゃったの」
「え?」
 真美があっけにとられていると、由乃が神妙な顔で呟いた。
「・・・・・・私達もアナタの仲間だからね」
 そう言われた真美は少し考え、ある結論に達した。
 祐巳には祥子と蓉子が。乃梨子には志摩子と聖という姉たちがいる。
「もしかして・・・令さまも?」
 真美が恐る恐る由乃に問うと、由乃は悔しそうにこう言った。
「運動で胸筋が鍛えられてるせいかしら? そりゃあもう張りのある見事なモノが・・・」
 悔しげに拳を握り締める由乃の肩に、祐巳と乃梨子が手をかけながら言う。
「つまり私達も・・・」
「姉妹で胸の大きさに差がある屈辱は身に染みてるんですよ、真美さま」
 それを聞き真美は・・・
「同士達!!」
 涙を浮かべながら、がっしりと蕾達の手を握ったのだった。
 この瞬間、四人は確かな共感(コンプレックスとも言う)でつながったのである。
 無言でうなずき合う四人の中で、最初に口火を切ったのは祐巳だった。
「そもそも素材に差があるなんて不公平だよね?」
「そうですよ!しかもウチなんか、上二人があのとおり日本人離れした容姿じゃないですか。比べられたらたまったもんじゃないですよ!」
「乃梨子ちゃんはまだ直接比べられてないから良いじゃない!私なんか去年の文化祭で同じ服着せられたんだよ?!肩パットで足りないバストを補正される屈辱っていったら半端じゃないんだからね!」
「私なんか『由乃ちゃんもいずれは成長するわよ』とか優しくフォローされたのよ?!あのデコに!!素直に笑われたほうがまだマシよ!!」
「みんなまだ甘いわよ!私なんか・・・私なんか・・・妹に完敗なのよ?!しかもブラのカップは向こうが2ランクも上なんだから!!」
「私なんか、『市松人形』とか言われるんですよ?!『西洋人形』や『アメリカ人』て言われるのと比べたら、『ずん胴』と同義語にしか聞こえませんよ!!」
「ウチなんか令ちゃんが気を使って、胸の話題避けるのよ?!どうせならからかってくれれば良いのに、気の使い所間違ってるわよ!!」
「私なんかね!妹に負けただけじゃなく、姉までも2ランク上なのよ?なによこの嫌なサンドイッチは!!私はFBIに連行される宇宙人じゃないのよ?!」
 マリア様のお庭の片隅で思うままに嫌な主張をぶつけ合った四人は、ぜぇぜぇと息を切らして黙り込んでしまった。
 ・・・ストレスを吐き出せた余韻に浸っているのかも知れない。
 少し息が整った所で、祐巳が静かに語り出した。
「・・・でもね、真美さん。いくら不公平だからって、それで姉妹が嫌いになる訳でも無いでしょ?」
 祐巳の言葉が当っているだけに、真美は何も言い返せなかった。
「そりゃあ少しは嫌な思いもしただろうけど、真美さんの姉妹の絆って、そのくらいじゃ揺らいだりしないでしょう?」
 そんな由乃の言葉に、真美は真剣な表情で答える。
「・・・・・・そうね、そのとおりだわ。胸の事で嫉妬に囚われていたけど、日出美の事を嫌いになんかならないわ」
 真美は真っ直ぐ顔を上げ宣言した。
「真美さま。この不公平は続くかもしれませんけど、少なくともここに三人は仲間がいるんです。そう思えば少しは気が紛れるでしょう?多少卑屈な考えかも知れませんけどね」
「・・・そうかもね」
 乃梨子の言葉に、真美はクスリと笑う。自分に笑う余裕を与えてくれた蕾達に感謝しながら。
 多少卑屈かも知れないけど、仲間がいると思える事で気が紛れるならそれで良いのだろう。少なくとも妹を落ち込ませるよりは。真美はやっと自分の気持ちに整理がついたのだった。
「じゃあ、さっそく仲直りと行こうか!」
 突然祐巳がそんな事を言い出す。 
「え?」
「日出美ちゃん!出ておいで!」
 由乃が呼びかけると、物陰からおずおずと日出美が姿を現した。
「日出美!もしかして全部聞いてたの?!」
「・・・・・・はい」
 真美は顔から火が出そうなほど赤くなってしまった。
「お姉さま、私・・・」
 しかし、不安そうに話しかけてくる日出美を見て、真美はもう一度開き直る事ができた。
「日出美、ごめんね?つまらない嫉妬でアナタを落ち込ませたりして。私も姉としてまだまだね」
「そんなことありません!お姉さまは尊敬できる大切な人です!」
「日出美・・・」
 日出美はこんな自分でも変わらず慕ってくれる。それが嬉しくて、真美は自然と笑顔を浮かべていた。
「・・・こんな私でも付いてきてくれる?」
「もちろんです!」
 真美の問いかけに、日出美は力強く即答する。真美はそんな日出美が愛しくて、思わず抱き寄せてしまった。
「ありがとう、日出美」
「お姉さま・・・」
「・・・・・・ん?」
 抱き合っていると、真美は腰のあたりに違和感を感じた。下を見下ろすと、日出美が腰に付けている大きなウエストポーチが見える。どうやらコレが当っているのが違和感の正体のようだ。
 真美の視線に気付き、日出美が恥ずかしそうに謝る。
「あ、すいません!・・・もし時間に余裕があれば、昼休みのうちに陸上部に行って幅跳びで都の記録を出した選手にインタビューしに行こうかと思ってたもので・・・」
 姉の事を心配する一方でインタビューの準備もする。日出美は意外にちゃっかりした性格のようだ。
 我が妹ながら大した度胸じゃないか。そう思い、真美は再び微笑む。
「それにしても大きなポーチね。何が入っているの?」
「えっと・・・手帳とデジカメとボイスレコーダーと・・・」
 日出美はポーチを腰から外し、真美の前で中味を一つづつ出して見せる。
「準備万端じゃない。それでこそ次期新聞部部長の妹よ!」
 真美に褒められて、日出美は赤くなりながら微笑んだ。
「よかったねぇ・・・仲直りできて」
 祐巳は仲の良い二人を見て心底ほっとしている。由乃と乃梨子も仲の良さそうな二人を見られて嬉しそうだった。
「日出美さーん!」
 大団円を迎えていた五人に、突然呼びかける声があった。
「あれ?どうしたの?」
 日出美が声の主に問い返す。その声の主は日出美のクラスメイトのようだった。彼女は急いでこちらへと駆け寄ってくる。
「社会科の先生が午後から使う教材を運ぶのを手伝って欲しいって」
 クラスメイトは息を弾ませながら用件を伝える。
「え?・・・・・・あ!私今日日直だったっけ!」
 日出美は慌てて校舎へ戻ろうとするが、ふと自分のポーチに目を落とし悔しそうな顔をする。どうやら昼休みがまだ残っているのにインタビューが出来なくなるのが悔しいらしい。
 そんな妹の記者魂を見て、真美は姉として日出美にしてあげられる事があると思いつき、こう話しかけた。
「日出美、ポーチ貸して」
「え?」
「私が行くわ、インタビュー」
「え・・・でも・・・」
「たまにはお姉さまに甘えても良いんじゃない?」
 そう言って微笑む真美に、日出美は嬉しそうに「はい!」と返事をした。
「ほら、先生を待たせちゃ悪いでしょ?もう行きなさい」
 真美はそう言いながら、日出美の手からポーチを受け取る。
「はい。・・・・・・あの、お姉さま」
「何?」
 日出美はポーチからボイスレコーダーを取り出しながらこう言った。
「できればボイスレコーダーにインタビューの様子を録音してもらえませんか?後で聞いてインタビューをする時の参考にしたいんです」
「・・・判ったわ。まかせなさい」
 真美は二つ返事で請け負うと、ポーチを掲げてウィンクしてみせた。それを見て日出美は嬉しそうに「じゃあ、宜しくお願いします!」と言って、校舎へと続く道を駆けて行った。真美もニコニコとそれを見送る。
「・・・・・・さて!それじゃあ妹のためにひと働きしますか!」
 真美は元気良く宣言し、自分の腰にウエストポーチを・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・あれ?・・・・・・・・くっ!・・・・・・・・この!」
 つけられなかった。
 どうやらベルトの長さが足りないらしい。つまり・・・
「真美さん、まさか・・・」
 由乃が沈痛な面持ちで聞く。真美は焦りながら尚もベルトを引っ張ってみる。
「イヤ、ちょっと待って!・・・そんなはずは・・・・・このっ!・・・・・・・・ふんっ!」
 現実を受け入れようとしない真美は、必死でベルトを引っ張り続ける。そんな真美の様子に、残りの二人の蕾も残酷な事実に気付いたようだ。
「もしかして・・・」
「ウエストきついんですか?」
 紅白の蕾に指摘され、真美の動きが止まった。そしてベルトを握り締めたまま、わなわなと震え出してしまった。
 そんな真美に由乃がフォローを入れようとする。
「あの、真美さん?・・・・・・ベルトちょっとだけ緩めたほうが・・・」
「ムキ────────────ッ!!」
 真美は拳に血管が浮くほどベルトを握り締めたままブチ切れてしまった。
「何よ?何なのよこのオモシロハプニングは!胸で負けただけじゃ飽き足らずに、ウエストでもイヤな現実を突きつけようっての?コンチクショウ!!」
 あまりの切れっぷりに、祐巳が「ま、真美さん落ち着いて!」などとなだめるが、全く効果が無かった。
「なんなのよいったい!豊かなウエストにスリムなバスト?!逆でしょ普通!!私のスタイルはボウリングのピンか!!」
 それどころか益々凶暴化していく真美に、蕾達は「お願いだから落ち着いて・・・」と言う事しか出来なかった。
「笑いたきゃ笑うが良いわ!きっとあのマリア様の微笑みだって、私をあざ笑ってるに違い無いのよ!!」
 もう目からビームでも出しそうな勢いで、真美はとうとう被害妄想まで叫び始めた。もはや誰も真美を止められない。
「日本人なんだから、ずん胴のほうが着物が似合って便利なんだから────!!」
 終いには自己擁護まで叫ぶと、真美は息を切らして黙り込んでしまった。
 蕾達もどうして良いか判らずに(というか逃げるタイミングを失って)立ち尽くしていると、彼女達のもとに歩み寄ってくる人影があった。
「真美、こんなところにいたのね」
 にこやかに話しかけてきたその人物は、真美の姉、三奈子だった。
「・・・・・・お姉さま」
 ひとしきり叫んで落ち着いた真美に、三奈子が嬉しそうに語りかける。
「今そこで日出美ちゃんとすれ違ってね?仲直りできて本当に嬉しそうだったわよ、あの子。『後でお姉さまにインタビューの極意を教わるんです!』なんて張り切ってたし」
 そんな三奈子の言葉に、真美は冷静さを取り戻す。そうだ、自分は日出美の姉として模範となるべき態度を取ろうと誓ったじゃないかと。
 真美は今しがた切れまくっていた自分をたしなめようと、深呼吸をする。
「どうしたの?真美。ずいぶん疲れてるみたいだけど・・・」
 深呼吸の意味を勘違いした三奈子は、真美を心配している。
「そうだ!私が行こうか?インタビュー。私だって、たまにはおばあちゃんとして日出美ちゃんに良いトコ見せたいし・・・」
 三奈子は「そうね、それが良いわ」などと言いながら、真美の手からポーチを奪い取ってしまった。
「いえ、大丈夫ですから・・・私が行きますよ」
 そう呟く真美の前で、三奈子は鼻歌交じりにポーチを腰に巻いて見せ・・・
「あ」
 真美のそんな呟きなど気付かずに、パチリとベルトの金具をはめたのだった。
 特にベルトがキツそうには見えなかった。
 三奈子を見ていた真美は、しばらく呆然としていたが・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 突然、幼児のように大声で泣き出してしまった。
「真美?!どうしたの?!」
 真美が突然泣き出した理由が解からずに、三奈子はオロオロと真美をなだめようとした。
「うわぁぁぁぁん!!私だけが・・・私だけがボウリングのピンなんだぁ!!」
「何?ボウリングのピンがどうしたの?」
 真美の言葉の意味が解からず、三奈子はとりあえず真美の頭を「良い子良い子」と撫でてやるが、真美は泣き止まなかった。
 ・・・というか三奈子が慰めても逆効果であろう。
「うえぇぇぇぇぇん!!遺伝子のばかぁ!もっと根性見せなさいよぉ!!」
「真美・・・何を言って・・・・・・・・・ちょっと、アナタ達も一緒に真美をなだめて・・・っていない?!」
 三奈子が蕾達に助けを求めようと振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。
 どうやら三奈子というイケニエを見つけたので揃って逃げ出したらしい。
「ちょ・・・・・真美、泣き止んでちょうだい・・・・・・誰かー!助けてー!」
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
マリア様のお庭に、切ない泣き声と助けを求める声だけがこだましていた。






 その日の放課後、また姉の様子がおかしいと相談を持ちかけてきた日出美に、乃梨子が「そこで遠慮してはダメよ!そういう時こそ真正面からぶつかりあってこそ姉妹の絆は深まるのよ。辛いかも知れないけど頑張って!」などと屁理屈をこねてまんまと追い返したのは、マリア様にはナイショである。


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