【No:505】 → No530 → No548 → No554 → No557 → No574 → No583 → 【No:593】 → こんなに続けるつもりじゃなかったんだけどまだ続く(困った)
由乃さんを先頭に、目的地に向かった。
行きかたももう調査済みだとか。
由乃さんの中では先日の『作成会議』の日には、もう行くことが決定してたみたい。
目的の都立K女だけど、正式名称は都立K女子高校ではなくて、都立K高等学校坂上女子だとか、元々共学高だったのがなにかの都合で女子部が一校に独立したのだとか、だから近所に都立K高等学校という共学高もあるとか由乃さんからどうでもいいトリビアを聞きながら、リリアンからその通称K女までの徒歩数十分の道のりを歩いていった。というか良く調べたこと。
途中、歩道橋で祐巳と志摩子さんが由乃さんのぱんつを目撃したりと多少のハプニングはあったものの、無事都立K女の校門前に到着した。
「ふう、やってくれるわね都立K女」
いや、一番張りきってた由乃さんが息を切らし気味なのであんまり無事じゃないかも。
「由乃さん、前かがみになると見える……」
「ええっ! もう、このスカート!」
慌ててお尻をおさえる由乃さん。
それにしても、この貸してくれたスカートって由乃さんのはともかく、祐巳や志摩子さんがはいてるのも標準より短めだったみたい。
なぜなら、周りに下校するK女の生徒がぱらぱらと見られるんだけど、大半の生徒はスカートが膝丈だから。
「で、どうするの?」
「どうするもこうするも、中に入らなきゃ始まらないでしょ」
「そりゃそうだけど、当てはあるの? 朝姫さん、だっけ? を探すとか」
「それをこれから探るんじゃない」
祐巳はそれを聞いて絶句した。
あまりに由乃さんが自信満々、事前調査万全みたいに見えたから当然現地での行動計画みたいのもあるとばかり思っていたのだけど、考えてみれば由乃さんがそんな緻密に計画するわけない。でも、そうすると、行き方とか学校のことを調べたのってもしかして令さまが?
などと考えていたら、「祐巳さん」と志摩子さんに声をかけたれた。
「由乃さん行っちゃったわよ」
「え?」
気が付くとずんずんと学校の中に入っていく由乃さんの後姿が見えた。
祐巳は志摩子さんと慌てて後を追った。
校門から入るとすぐ校舎に囲まれた小奇麗な中庭があり左手のほうに来客用のエントランスらしい入り口が見える。
祐巳たちはその反対、右側の校舎のおそらく生徒が利用しているであろう、ちょっと奥まったところにある入り口に向かった。
「ねえ、由乃さん」
「なによ?」
「なんか、すれ違う人の視線を感じるんですけど」
最初、スカートが標準より短すぎるせいかとも思ったんだけどそうでもないみたい。
確かにだいたいの子は膝丈なんだけど、短い子がいない訳でもないし。
「そうね。何故かしら」
志摩子さんも不思議そうに首を傾げてた。
下駄箱の並んだ昇降口に来て問題が発生した。
「しまった。上履きを持ってくるんだった」
今脱いだ靴を指先でつまみあげながら由乃さんが言った。
「由乃さん無計画すぎ」
「あっちに来客用のスリッパはないかしら?」
志摩子さんが向かいの校舎を見ながら言った。
「それは難しいんじゃないかな」
リリアンの制服で来たのなら来客を装うのもアリだろうけど、わざわざ着替えてここの生徒になりすましてるのに受付でスリッパを借りるのは不自然もいいところ。
「こんなところで立ち往生してると目立つわ」
そう、さっきから下校する生徒達の視線を集めてしまってるのだ。
「一旦、靴はいて外いこうよ」
そう言って祐巳が片方のつま先を靴に挿し入れた時だった。
「ちょっと、あなた」
「え?」
わりとよく通る声に振り返ると、一人の鞄を下げた生徒がこちらを見ていた。
「私?」
「そう、そこの三つ編みのあなた」
祐巳たちは顔を見合わせた。
そのあとの由乃さんの行動は早かった。
「逃げるわよ!」
「ええぇ!?」
志摩子さんが由乃さんに習って外履きを手に校舎の中へ駆け込むのを見て、祐巳も遅れてそれに従った。
「あ! こらっ、ちょっと……」
しばらく一階の廊下を走った後、あの声をかけてきた子が追ってこないのを確認して三人は立ち止まった。
もう下校ラッシュも落ち着いたらしく廊下には他に人影は無かった。
「ふう、危なかったわね」
「どうかしら」
「あのひとなんで声かけてきたんだろう?」
「判らないけど、必要の無い接触は避けるべきだわ」
「そうかな、案内を頼めたかもしれないのに」
「……」
「な、なに?」
変なこと言ったかな? 二人に注目されてしまった。
「祐巳さん、おめでたいわね」
「ごめんなさい、私もそう思ったわ」
「志摩子さんまで!?」
上履きを履かずに廊下を歩くのはなんか心もとないのだけど、それでも由乃さんを先頭に校内探検は始まっていた。
「あ、トイレ発見!」
「由乃さん、女子高生が叫ぶ台詞じゃないと思うんだけど」
「ちょっと待ってて。行って来るから」
「あ、私も」
慣れないスカートで冷えたのだ。
しかし、冬場もこんなスカートで頑張ってる子もいるけど体壊さないのかな、と思ってしまう。
志摩子さんを残して、由乃さんと一緒にトイレに駆け込んだ。
ちなみに、お掃除をする人には申し訳ないけどトイレでは手にもっていた下履きを履かせてもらった。
〜 〜 〜 〜
「あ、藤沢さん、考えてくれたのね?」
トイレに行った二人を待っていた志摩子に声をかける者がいた。
「え?」
朝姫さんの関係者らしいが、それは先日の三人とも違うK女の生徒だった。
「思い立ったが吉日よ。さあ、行きましょう」
彼女は志摩子の手を取ってずんずんと歩いていく。
「あ、あの……」
どう説明したら良いかわからず、志摩子はされるがままについて行くしかなかった。
〜 〜 〜 〜
「志摩子さーん!」
私が廊下を歩いているとなんだか見かけない三つ編みの子が私に声をかけてきた。
「あの……」
「勝手にどこか行っちゃ駄目じゃない」
この間に引き続いてまた『志摩子』なんだけど、私は困っていた。
だって、ここは学校の中で、この人うちの制服着てるのに。
「志摩子さんどこ行ってたの?」
もう一人の両側で髪を結んでる子が言った。
「どこっていうか……」
「あんまり歩き回ったら見つかっちゃうよ?」
「え? 見つかっちゃう?」
「そうそう、ここにはあなたのそっくりさんがいるんだから。間違えられてボロだしたら不味いでしょ」
ん、なんか判ってきた。
「ボロってどんな?」
「だから、私たちがリリアンだって、志摩子さん聞かれたら素直に言っちゃいそう」
やっぱり。うちの生徒にしては品の良い顔してると思ったのよね。
「はぁ」
わざわざ制服まで変えて。
ほら、こんな短いスカートまで用意して。
私は三つ編みの子のスカートに手を伸ばした。
「きゃっ! なにするの?」
「あ、ごめんなさい。つい」
白でした。
よく居るんだよね。もう女子高なのに何がしたいんだか、めくってくれと言わんばかりの短いスカートはいてくる子。
そういう子はたいていみんなの餌食になるのだ。「そんなに見せたいのなら見てやる」って。
「志摩子さんなんか変なもの食べた?」
「え?」
「なんかトイレから帰ってきてから変」
「そういえば変ね」
なんか疑いの目で注目されてしまう。
でも、このまま正体をバラすのって面白くないな。
「え、えーっと、そうだ、生徒会室いきましょ」
春子とか明美にも見せよう。こんな面白いもの一人だけで楽しんじゃもったいない。
「「えっ!?」」
「こっちだから」
「ちょっと」
「志摩子さんっ!」
「……あなた何者!?」
「え?」
生徒会室前まで来たとき、三つ編みの子が私に言った。
「あなた志摩子さんじゃないわね」
眉を吊り上げ、びしっと私を指差して。
「なんでそう思うのかな?」
「だってあなた上履きはいてるじゃない」
「上履き?」
思わず足元を見る。
「そうよ、私たち今日は上履き忘れてきて裸足なんだから!」
本当だ、この子たち二人ともソックスだけ。
「由乃さん、それ威張れることじゃないよ」
「もう、祐巳さん突っ込み入れるところじゃないでしょ」
やっぱみんな「さん」付けなんだ。
なんか新鮮。それにこの二人面白い。
「生徒会室にスリッパあるから」
「って何者よ!」
三つ編みのヨシノさんが言う。
なんか凄んでるつもりらしいんだけど、どうしても上品さが漂うのでいまいち怖くない。
っていうか可愛いんだよね。背もちょっと小さいし。
「……判ってるくせに」
「あの、朝姫さん?」
ツインテールのユミって子がそう言った。
「そっ、正解! 『ごきげんよう』、はじめまして。ユミさんとヨシノさんでいいのかしら?」
「あ、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう……」
流石、お嬢様。凄んでいても挨拶は返すあたり、躾はしっかりしてるんだ。
「ようこそ坂女生徒会へ」
「さかじょ?」
「K女じゃないんだ」
「ああ、うちの通称。学校の正式名称から取ってるんだけど関係者はみんなそう呼んでるわ」
〜 〜 〜 〜
「いまきたぞー」
「あー、朝姫おそーい」
「おせーよ。何やってたんだてめー」
「うるせーよ」
「ご苦労さん。その方たちは?」
生徒会室まで案内された祐巳たちはまず、そこでやり取りされる挨拶にまずカルチャーショックを受けた。
ここって女子高だよね? 花寺とかじゃなくて。
外見はどう見ても普通の女子高生なのにさっき交わされた言葉はいったい?
一瞬、異次元世界に足を踏み入れてしまったような錯覚を覚えた二人であった。
「あ、こちらリリアンからのお客さん」
「「え?」」
朝姫さんの紹介で、思い切り注目を浴びた。
「えーっと、リリアンの方々ようこそ。私が生徒会長の桜ですけど……」
二人がかしこまりつつ自己紹介をした後、会長と呼ばれた人は困惑気味に挨拶を返した。
「あ、いえその」
「急にお邪魔してしまって……」
ばつが悪いことこの上ない。
というか、朝姫さんと生徒会長の桜さん以外はみんな珍獣でも発見したかのような目で見てるし。
「なかなか面白い趣向ですね」
祐巳たちの服装のことだ。
「はい、なんといいますか、このことはどうかこ内密に……」
(ちょっと祐巳さん)
(なに?)
(そんな言い方しないでよ。なんか負けたみたいじゃない)
(見つかった時点で負けだと思うんだけど?)
「えっと、紅薔薇のつぼみさんと黄薔薇のつぼみさんでいいのかしら?」
「え?」
(ちょっとどういうこと? 正体ばれてるわよ?)
(しらないよ)
会長は前回のリリアン訪問のとき二人の名前を聞き及んでいて、それをしっかり記憶していたのだが、そんなのことは今の祐巳たちにわかるはずもない。
……そして数分後。
「ねね、由乃ちゃん、そのスカートどうしたの?」
「え、これは令ちゃ、いやお友達に貸してもらって……」
「可愛いーっ、由乃ちゃん人形みたい! その三つ編み自分で編むの? ねえねえ」
由乃さん大人気。
「えー、あたし祐巳ちゃんの方が『お嬢』って感じでいいなー」
「お、お嬢!?」
いや、祐巳も妙に気に入られてしまったようだ。
もちろん、祐巳はそんなこと言われたのは初めてである。
これがいわゆる『外の学校』と箱庭リリアンの温度差とでもいおうか。
なにやらここの生徒たちの視線を集めていた理由もどうやらこれらしい。
特にこの学校に由乃さんのような長い三つ編みの生徒はいないとのこと。
これは比較の問題だなんだけど、リリアン育ちの品のよさが三人も居れば注目を集めても仕方が無いそうだ。
由乃さんも志摩子さんも何気に美少女だし。
「あれ?」
そこまで考えて祐巳は思い出した。
「どうしたの?」
「志摩子さんは?」
(続きます【No:914】)