☆マリみてパラドックス 第4話☆
「祐巳さま」
「ゆーみーさーまー」
「ゆみさまっっ」
「はいっ。なななに瞳子ちゃん」
「なーに、ひとりでルンルンと」
「あーーー。やっぱりそうみえる? でも、大発見って感じで盛り上がってしまったもので」
「【No:648】でメールをいただいた二条姓で?」
「そうなのよ。謎が解けた〜って」
「で、日本史の教科書だの人名辞典だの家系図だの広げてなにやってんですか」
「話せば長いことながら」
「短くっ」
「うっく。あのね、マリみての命名規則。苗字の」
「ああ。なんか歴史的名前が多いとか、大名ばっかりとか」
「そう。それを一歩進めて、瞳子ちゃんを松平=徳川家康として、主要登場人物の姓が全部家康つながりで解ける。だから、マリみてのほんとの主人公は瞳子ちゃんだっ。という説を立てたことがあるのよ」
「えええ?」
「んで、それを某所に投稿したんだけど」
「某所って」
「某辞典」
「某ってぜんぜん伏せ字になってないんですけど。ちなみに2005年9月28日現在なんかトラブルみたいでアクセスできませんわ。これを書くのに困っているのに」
「でも、その時は決め手に欠けるというか、解ききれなかったの」
「それが、二条姓は実は珍しいってご教示のメールをもらったとたんに」
「推理力爆発。祐巳えらいっ」
「……話半分どころか三分の一ですわね。しかもまたSSとは言えなくなりそうな展開」
「なんか言った? いいのよ。ご教示メールのお礼に一本なんだから」
「はああ。いくらSSじゃなくて一発ネタでも感想でもなんでもありのがちゃSだからっていいのかしら」
「じゃあ、その某辞典ってのに投稿したところまでまず説明してくださいませ。辞典ではそんなに長文を書くわけにはいかなかったのでしょう?」
「それは瞳子ちゃんからどうぞ。仮にも松平なんだから」
「仮にもって、松平家は由緒正しき親藩の出、世が世なら小笠原家より主筋なのですわよ」
「はいはい。まあとにかく、山百合会から」
「小笠原は言うまでもなく大名家で徳川幕府の武家礼法の家元ですわね」
「でも家康の頃はちょっと微妙なのよ。裏切って追われて戻ってきて結局家康の孫娘が小笠原家に嫁いだり」
「最後は親戚になるのですわね」
「島津も言うまでもないわね」
「薩摩の島津。でも、こちらも島津義久対家康となると敵味方ぐっちゃですわ。徳川政権成立後、九州の勢力圏を鹿児島だけに押し込められて、それが明治維新につながったという話もあるくらいですから」
「支倉は?」
「同時代としては支倉常長をあげるしかないでしょう。家康との直接の関係はないのですけれど」
「伊達政宗の家臣よね」
「そうです。遣欧使節としてバチカンまで行くのですわ。今野先生もはずせなかったのでしょう」
「でもそのあとは不遇なのよね」
「政宗が常永を派遣したのは貿易の利益が欲しかったからなのでしょう。その交渉が不成立で徳川時代になって鎖国になってからはかえって邪魔になってしまったのですね」
「そう、ヨーロッパから持ってきたものは全て行方不明。一旦日本の歴史からは抹殺されるのね。そして、ヨーロッパで再発見される」
「バチカンに常永が鼻をかんだちり紙があるそうですわよ。ハンカチを使わず、あちらでは高価な紙を使うのがよほどめずらしかったらしくて」
「令さまの使ったティッシュを400年保存? 由乃さんでも絶対やらないわ」
「えーと、鳥居、水野は三河時代、あるいはもっと前からの松平家の家臣なのですわ。武将として有名な人はあんまりいませんから江戸期の鳥井耀蔵とか水野忠邦とかの官僚の方が有名かもしれませんわね」
「家康にとっては保護者ね」
「問題は聖さまで、佐藤という人はたくさんいるけどこれって大物がいない。これは祐巳さま、解いたのですわね」
「そう、もともと『春日せい子→須賀星→佐藤聖』ってネタなんだから春日なのよ」
「春日と言えば大奥で権勢をふるった春日局」
「やっぱり、先代薔薇さまは保護者系ね」
「藤堂。藤堂高虎と言えば、徳川政権確立期の家康の謀臣ですわ。築城に長けていたとか服部半蔵なんかの忍者を使ったのも高虎ってことになってるみたいですわね」
「ここで、乃梨子ちゃんが出てくるのよ。これまでの定説は二条城から取ったんじゃないかってことなのね」
「人名じゃないのに?」
「うん、状況証拠がそろっているの。まず、作ったのは家康」
「ああ、時代が合っているのですわね」
「さらに決定的なのは、今の二条城の姿は家康没後の大改修後の姿なんだけど、それをやったのが藤堂高虎なのよ」
「はああ。家康つながりに、藤堂つながり。なるほど」
「乃梨子ちゃんはここではひとまず置くわね」
「あとから出てくる人物も山百合会に入りそうな人はみんななにかしら家康関係が出てくるのですわ。細川可南子でさえ」
「まだフルネーム呼び捨てにしてるの? 瞳子ちゃん」
「いけませんか。細川は熊本の大名家で、家康と関わるのは藤孝、忠興親子ですわね。ガラシャ夫人は忠興の妻。関ヶ原の時に石田三成の軍勢が人質にと屋敷に押しかけたところ、カトリックは自刃を禁じているからと家臣に首をはねさせて館に火を放ったというあのガラシャ夫人」
「その家臣の名前が伝わっててねー。小笠原さんって言うんだけど。それは別の話」
「あらららら」
「まあとにかく家康側に豊臣方の大名を寝返らせる忠興の役割はそれだけ大きかったってことなのね」
「笙子さんも一瞬由乃さまか祐巳さまの妹になるかって思いましたけれど。内藤家も譜代なのですわ」
「有馬は全然別の家系の二つの大名家が、九州のすぐ近くの場所にいるので混乱するんだけど」
「ここは島津義久と同盟を組んだキリシタン大名としても有名な有馬晴信を取るべきでしょう」
「最後は、密貿易の疑いで家康に切腹させられるのよね」
「げ」
「どうも、黄薔薇は瞳子ちゃんと相性が悪い名前ばっかり持ってきてるわよ」
「ふーっ」
「威嚇しないの」
「三奈子さまはすごいのですわ。築山殿と言えば家康の正室で、家康の命で殺されてしまう。すぐあとに嫡男の信康にも切腹を命じているのですわね」
「武田家に通じて裏切ろうとした、というので信長が怒り、泣く泣く家康が切ったというのが表向きの歴史」
「ですけど、家康自身がじゃまだったからだとか、酒井忠次陰謀説とかいろいろあって歴史の謎なのですわね」
「どっちにしても瞳子ちゃんにぶち殺される運命なのよ」
「うそお」
「蔦子さんがよくわからないのね」
「この前の投稿の時には、三河湾の竹島か琵琶湖の竹生島(ちくぶしま)を竹島って呼ぶことがあるからそのへんの縁なのかなあって書いたのですわね」
「でも、あれから竹生島は竹武嶋って表記がもともとだってことがわかったの」
「はああ。なるほど」
「でもねえ、信長がこの島を好んで、安土城もこの島の近くにしたって話はあるんだけど家康との縁はあんまり知らないのよ」
「調査継続ですね。ちょっと説得力がないですわ」
##
「と書いた後、もはや2006年も9月なんですけどぉ」
「竹島、えーと三河湾の方、徳川家のゆかりの神社なのね。で、琵琶湖の方の竹生島から神社を勧請してるの」
「で、やっぱり竹武嶋って」
「書くのよ」
「ふーん。これは、決めてもいいかなあ」
##
「あと、田沼家、小山田家、親藩譜代が多いのよ。ただ山口真美さんと高知日出実ちゃんはわからないんだけどね」
「長州と土佐を置き換えたという説はありますわ。」
「新聞部は怨念ありげな人か官軍かあ。さすがに長宗我部はなかったかしら、ね」
「優お兄様や男性陣はどうなのですか?」
「無視」
「えええ?」
「だって主要登場人物じゃないもん」
「要するに違う命名規則になってるらしいので、全然わかんないんですね」
†
「と、ここまでがこの前までにわかっていたことね」
「よく調べましたわね」
「いいえ、辞書に書いてあった先人の努力の集大成よ。くまが独自に調べたのは春日局と竹武嶋それと二条城の藤堂つながりだけ」
「つまり私を中心にした命名になっていて、だから瞳子が主役っ。と祐巳さまは主張したいのですね」
「そうなの。すくなくとも祐巳一年生編までは確実にね」
「それで、五摂家の二条家がどうかかわるんですか?」
「それがねえ、結構浅くない縁なのよ。大名、武家に限定したのが間違いだったんだわ」
「少し家康時代より歴史をさかのぼるけどいいかしら」
「いやと言ってもやるんでしょ」
「まあ、そうなんだけど。織田信長はお飾りに足利義昭を将軍にしたけど、裏切ったので追い出しちゃった。でも、自分は将軍にならずに右大臣になったのよね」
「武家の統領じゃなくて官職をもらってどうしようとしたのかしら」
「わからないけど、義昭の裏切りからあと将軍ってつかえないって思ったんじゃないのかしら。とにかく秀吉もその線で行くのよ」
「関白になって、太閤なんて称号をいわば自分で作ってしまうのですわね」
「そこで出てくるのよ二条さん」
「は?」
「秀吉に関白の座をとられちゃったの。二条昭実さんっていうんだけど」
「小物じゃないですか」
「まあ、まだ先があるのよ」
「秀吉亡き後、二条さんは関白の座に戻るのですわね? そして徳川幕府の時代」
「家康こと瞳子ちゃんは、征夷大将軍になって幕府を開いて、ちゃんと支配権を握るのね。摂政も関白もいらないってわけ」
「あのー。祐巳さま。その『家康こと瞳子ちゃん』ってものすごっっっくいやなんですけど」
「だって主役よ主役」
「たぬきおやじじゃないですかああああ。祐巳さまの方がたぬきですぅぅぅ」
「言ってはならないことを言ったわね。成敗」
「あああああ。あの、耳に息を吹きかけるのはやめてください。ごめんなさいごめんなさい。だから先をすすめてくださぁぁい」
「はいはい。で、その関白二条昭実は、朝廷と幕府の交渉の矢面に立つの」
(このネタで萌え票取ろうと思ってもムダだと思うけどなあ)
「公家諸法度って、幕府が朝廷を抑える法律を作っちゃうわよね、瞳子ちゃんが」
「だーかーらー、たぬきおやじじゃないんですってば」
「そこで板挟みの苦しい交渉をすることになるのよ。二条さん」
「それだけですか?」
「あのね、瞳子ちゃん。征夷大将軍って誰が任命するの?」
「えっと、天皇」
「形の上では時の帝よね。でも、実際は?」
「あああ。つまり家康に征夷大将軍の位をいやいや与えたのが」
「二条さんなのよ、たぶん」
「ようやく話が見えましたわ」
「つまり、瞳子ちゃんに天下を取らせるのは乃梨子ちゃん」
「うわわ。ものっすごい飛躍。二条城の方が説得力があるような……」
「そういうわけで、これからマリみては瞳子ちゃんの天下なのよ」
「ちょーっとまったーー」
「なによ」
「一番肝心の祐巳さまはどうしたんですか祐巳さまは」
「わからないのよ」
「おーーーい」
「どうがんばっても福沢諭吉しか出てこないのよね」
「諭吉って大名家と関係あるんですか?」
「全然。咸臨丸に乗ってカリフォルニアへ行ったり、洋学を学んで慶應義塾を作ったりするまでは、ただの中津藩の下級武士よ。エピソードとして、そのカリフォルニアでね、街の人に初代大統領のジョージワシントンの子孫がどこにいるかって聞いてみるの」
「はあ」
「それで誰も知らなかったので、『初代将軍家康みたいな人の子孫がどこにいるか全然知られてない。おお民主主義』って感激したって自分で書いてるんだけど、その程度しか関連がないのよ」
「ふーん。で、祐巳さまはそれをどう解くんですか?」
「祐巳は庶民中の庶民って設定よ。たとえ設計事務所の社長令嬢でもね。大名の姓なんかつけるわけにはいかない。それじゃあ庶民を連想させる姓ってなんだろうってことになるわね」
「はいはい」
「想像なんだけど、そこで『天は人の上に人を作らず』が頭に浮かんだんじゃないかしら」
「なるほどね。それが結論ですか。なんだかものすごーーーーく、尻切れトンボなんですけど。ものすごいマリみてパラドックスその4があるかと思ったのに」
「あるのよ」
「え?」
「マリみての恐るべき真実があるの」
「ななななんなんですの?」
「第一巻の冒頭、祥子さまと私、そして蔦子さんが出てくるわね」
「はい。『タイがまがっていてよ』の『躾』の撮影シーンですわ」
「もうひとり出てるでしょ」
「ああ、あの『スターは素人のことなんか、いちいち覚えてやしないわよ』の方ですか? 苗字なんかないじゃないですか。解くもなにもないですわ」
「そこに真相があるのよ。いい、瞳子ちゃん」
「はい?」
「今の日本で、唯一、姓のない家は?」
「まさか……う・そ……」