【666】 そのとき  (まつのめ 2005-09-29 17:40:38)


がちゃSレイニーシリーズ。 番外編の番外の後始末
まつのめ作『No.662 理想すれちがう』の責任をとって続き。


 聖書の引用まで持ち出して、聖書朗読クラブ内の論戦も絶頂を迎えようとしていたそのときだった。
「みなさま現実にそぐわない理屈を言い合っている場合ですか!」
 鶴の一声、ではないが、運動部で鍛えられた腹筋で発する大声は聖書朗読クラブの活動場所に大きく鳴り響いた。
「可南子さん?」

 そう、勘違いしている輩をただす役を聖書朗読クラブに託すというアイデアは、敦子が先輩方に捕まっているのを助けた時の思い付きだったが、可南子は敦子を見送ったあと、彼女に任せて本当にクラブの人たちが動くのだろうかということがずっと気がかりだったのだ。
 そして、とうとう我慢できなくなって来て見たら案の定この惨状。
 思わず乱入して大声をあげていたというわけである。

「あら、細川可南子ちゃん?」
 敦子の姉が言った。可南子は有名人なので面識のない敦子の姉も名前を知っていた。
「聖書朗読クラブに御用かしら?」
「ええ、こちらの先輩方はよもや勘違いなどなさってらっしゃらないでしょうけど……」
「勘違いとは?」
「敦子さん、さっき何をされそうになったかちゃんとあなたのお姉さまに伝えたのですか?」
「あ、いいえ、ただ『白薔薇さまの提案なさったことは間違っています』と……」
「『既に姉妹関係があろうとも気に入った子を姉妹にして良くなった』なんて都合の良い解釈をして、実際に行動に出てしまっている人たちがたくさん居るってことをちゃんと言わなきゃ駄目でしょう?」
「それは伝えましたが」
「さっきあなたも申し込まれたってことは?」
「それは……」
 一番重要なことがやはり、伝えきれていない。
 他人事ではなかなか人は動かないものなのだ。
 彼女らを動かすには自分の妹が被害にあっているという事実が一番効くというのに。

 とはいえ、敦子のことを伝達能力で劣っていると責めることはできない。
 山百合会の周辺に居る一年生達が特別しっかりしているのであって、彼女は平均的リリアン生なのだ。
 むしろ友達の美幸と共に良くやってくれているといえる。

「それは本当なの?」
 可南子の話を聞いていた敦子の姉が言った。
「ええ、敦子さんは先ほど複数の先輩方に妹になるように説得されていました」
「なんてこと……」
 ああ、なんて世話の焼ける、と思いつつ敦子の姉に先ほど敦子に言ったようなことをもう一度説明した。
「結婚と姉妹は厳密には違います。でも、あなたの言いたいことは判りました」
 精神論を論じるつもりも無いしそういう知識もない可南子は自分の言葉で現在の状況がどう良くないのかを語ったのだが、彼女は理解し、協力を申し出てくれた。
「白薔薇さまが何を考えていらっしゃるのかは白薔薇さま自身の口から語られるのを待ちますわ。それより、現存する姉妹の関係を壊すような行いを止めなくてはなりません」

 「みなさま、お聞きになりましたか」と、聖書朗読クラブのみんなに呼びかける敦子の姉を見ながら、可南子は、これからしばらくはこうして後始末に駆け回ることになるんだろうなと考えていた。


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09/29 20:10 最終版。← 20:45 コメントのみ修正


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