【668】 RX−78猛将伝  (六月 2005-09-29 23:45:14)


次は2年生の競技「玉逃げ」だ。
去年は志摩子さんが由乃さまに追い回された忌まわしい競技。
今年、私、二条乃梨子は桜組で白色の、可南子さんは椿組で赤色、瞳子は松組だから緑色の鉢巻を締めている。
そして、やっぱりというか、可南子さんがカゴを背負って逃げ役にまわった。
ただでさえ運動神経抜群のバスケ部の期待の星、しかもあの長身でカゴを背負われてはそうそう簡単に玉が入るものではない。
だがしかし、去年は逃げ回る役だった白薔薇の意地にかけて、今年は追い回す役になると、そしてどうせ狙うなら難敵をと誓ったのだ!
「可南子さん、恨みはないが狙わせて頂きます!」
そう乃梨子は宣言したのだった。
「ふっ、一個でも玉が届けばよろしいですわね」
ふっふっふっふ、相手にとって不足なし、燃えてきた!
「まぁ、お二人が潰しあって頂ければこちらも楽できますわ」
あ、瞳子も居たっけ。
「忘れるなんてひどいですわ、瞳子もカゴを背負ってますのに」
あー、紅薔薇の威光ってやつかな?でも瞳子は小さいから狙い易くてつまんらないんだよなぁ。
「ふん、勝手になさってください」
狙うと怒るくせに、相手にされないとなると拗ねるんだから。

ピストル音が鳴り響くと同時にダッシュ!可南子さんを探す。
色とりどりのスポンジ玉が飛び交う中、軽やかなステップで身をかわす可南子さんを発見!一気に駆け寄った。
後ろに回り込み玉を投げ込もうとした刹那、カゴの重みを遠心力に変えクルリと振り向いた彼女と正面から対峙することになった。
「くっ、通常の3倍のスピードで動けるとは!」
「ほほほほほ、運動性能だけが全てではないのですよ」
長い髪の毛を振り回すと、カゴに投げ込まれようとした玉が弾かれて周りに落ちる。
「ちぃ、そんなことまで出来るのか!?だがっ!!」
舞うように逃げる可南子さんに一息で近づくと、ぴったりと動きを合わせ横へ横へと回り込む。
「なに?私の動きについてこれるとは!」
「志摩子さんに日舞を習ったのよ!あなたの動きくらい手にとるように見えるわ、一つ!」
後ろに回り込みカゴへと玉を投げ込んだ。
さすがに可南子さんも必死になって逃げようとするが、私も擦り足のままで動きを合わせ逃がさない。
「二つ!」
「えぇぇいっ!山百合会の白いやつは化け物か!?」
「三つ!」

と鬼気迫る戦いを繰り広げる私達の間に気の抜けるような声がかけられた。
「乃梨子さん、乃梨子さん」
「なに?瞳子!いま忙しいの!」
「もう、終わってますよ」
「「へ?」」
追いかけっこを止めた私達が辺りを見回すと、玉逃げに参加している2年生全員が私達を取り囲むように見つめていた。
いや、全校生徒注視の中で二人だけがバトルを繰広げていたのだ。その注目度たるや・・・。見事に校庭中にドッと笑いが巻き起こってしまった。
「「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」」
羞恥に血が昇った可南子さんと一緒にその場に気絶したのだった・・・。

気が付くとそこは志摩子さんの膝の上だった。
「あ、あ、あ、あの志摩子ひゃん!」
跳び起きようとした私をそっと押さえると「いいのよ」と。
「乃梨子は一生懸命に頑張ったんだもの、休んでいて良いの」
そう言って頭を撫でてくれた。
あぁ、そうが、私にもまだ帰れる場所があるんだ・・・。


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