【691】 ジョーカーのジャスティス  (琴吹 邑 2005-10-04 13:32:07)


このお話はがちゃSレイニーシリーズ 【No:588】「根回し次世代」の続きになります。




「私は、これ以上、姉も妹も作りませんから。ごめんなさい」
 そう言って、姉妹の申し込みをしてくる人に、丁重にお断りを入れる。
 しかし、思った以上に学園が騒ぎになっている。
 勢いでここまで来てしまったが、こういう風になってしまったのは失敗だったかもしれない。
 でも、私に取っては、最善を尽くしてきたつもりだ。たとえ、それが他の人から見たら、間違った方法でも。

 教室に着くと、朝のこの時間にしては、人がまばらだった。
 姉妹の申し込みにでも、行ってるんだろうか?
 そう思うと、気分が少し憂鬱になる。
 席に座り、ぼんやりと窓の外を眺める。
 令さまが十数人の人を引き連れて校庭を走っていくのが見えた。
 それを見ると、ため息がこぼれる。
 やはり軽率だったのではないかと、後悔の念があふれ出す。
 私は左手首をぎゅっと握り、そこには存在しないロザリオを握りしめた。

「ごきげんよう、志摩子さん。なんかすごいことになってるね」
 そう言って、桂さんは、手に持っていた、号外をひらひらと私に見せた。
「祐巳さんも複数人妹を持ったって、聞いたんだけど、本当?」
「え?」
 私が問い返すまもなく、その言葉を発した桂さんは、クラスにいる人たちに囲まれた。
「桂さん、それ本当なの?」
「さ、さあ、私も噂で聞いただけだから、よくわからなくて。だから、志摩子さんに聞いてるんだけど……」
 みんなの視線が、私に集中する。
「そんな話、聞いたこと無いわ」
「そう。じゃあ、誰が知ってるのかなあ。他の人にも聞いてみよう」
 桂さんがそうつぶやくと、幾人かが、私もそうしようとか言って、うなずいていた。


「ねえ、志摩子さん。志摩子さんは、ううん。白薔薇さま。姉妹の複数人制は山百合会としての白薔薇さまの提案なの?」
 鞄を自分の席に置いてから私の席に戻ってきた桂さんは、私にだけ聞こえる声で、そう聞いた。
 同じクラスになって、桂さんが私のことを白薔薇さまと呼ぶことは、あまりなかった。だから、それが、公人としての立場で、本当にそう言ったのかという意味だとすぐにわかった。
 私は、その言葉に小さく首を横に振った。
「そうじゃなくて、祐巳さんと瞳子ちゃんを何とかしてあげたい志摩子さんとしての行動だった?」
 今度は小さく、でも、強く首を縦に振る。
「そう、わかった。私は姉妹の複数人制には反対だから。私もできる限りがんばってみるよ。黄薔薇革命の時の想いを繰り返したらダメだよね……」
 桂さんはそう言って自分の席に戻っていった。
 私は何も言うことができずに、桂さんの背中を見守っていた。


一つ戻る   一つ進む