かごめ かごめ かごの中の鳥は いついつ出やる
夜明けの晩に 鶴と亀がすべった うしろの正面 だあれ
晩秋のとある放課後、今日も薔薇の館でみんなとお仕事。
蓉子さま、江利子さま、聖さま、三薔薇さまを筆頭に、祥子さま、令さま、志摩子さん、由乃さん、そして祐巳と久しぶりに勢揃いしていた。
静かな室内にはカリカリとペンを走らせる単調な音だけが響いている。
『うー、眠いなぁ・・・』
まだまだ新米の祐巳に割り当てられるのは、重要度の低い単純なチェック作業の繰り返し。
単調すぎてついつい睡魔に襲われてしまうようなものばかりだ。
ペンの動きが遅くなり、次第に顔が下を向き、机に突っ伏す寸前で必死に眠気に耐える。
『ぅぅぅ・・・もうだめ・・・』
「あら?祐巳ちゃんったら。随分と眠そうね」
ふと顔をあげた蓉子さまに見つかってしまった。
「ぅぅ・・・すみません、蓉子さま・・・」
「しゃきっとしなさい!みっともないまねをしないの」
祥子さまにも怒られてしまったけど、もう顔をあげる気力もない。
机に突っ伏したままで眠りについてしまいそうだ。
「待ちなさい祥子、そろそろ休憩するには良い頃合いだわ。
白薔薇さま、黄薔薇さま、ちょっと一息つかない?」
「そうね、そろそろ休まないと目が疲れたわ」
「私も、いいかげん同じ姿勢続けると腰にくるわー」
聖さま、おじさんくさいですよー、って言えないけどね。
「それじゃ、お茶入れますね。令ちゃ、お姉さま、黄薔薇さま、何になさいます?」
「そうね、紅茶がいいかな」
「由乃ちゃん、私も同じでよろしく」
あ、由乃さんがお茶をいれに立つみたいだ。
「お姉さまは何になさいます?」
「そうだね、コーヒーにしてくれるかな?志摩子」
志摩子さんもするなら私もやらなくちゃ・・・。
両手をついて立ち上がろうと思うんだけど・・・半分眠った体が言うこときかない・・・。
「ふふ、祐巳さんはそのまま休んでいて、私と由乃さんでするから」
「うん、ごめんねー志摩子さーん」
流しからかちゃかちゃというカップが触れ合う音と、志摩子さんが小さな声で歌ってるのが聞こえる。
「かごめ かごめ かごの中の鳥は いついつ出やる・・・」
あれ?なんだっけこの歌?頭がぼんやりして思い出せないなぁ。
「はい、令ちゃん、江利子さま」
「あ、ありがとう、由乃」
「由乃ちゃん、ありがとう」
令さまと江利子さまに紅茶を渡すと由乃さんがそのまま席に着く。
「お姉さま、ブラックでよろしかったですか?」
「ん、おーけーおーけー」
志摩子さんが聖さまにマグカップを渡し、自分の席に戻ったようだ。
カチャリと音がして蓉子さま、祥子さま、突っ伏した祐巳の前にも紅茶のカップが並んだ。
あれ?そういえば、誰が私のカップを?全員、席について談笑している?
と、後ろに誰かが立っている気配がして。
「・・・うしろの正面 だあれ」