「うわっ! これは退散した方がよろしいですわね」
偵察に来ているだけだったが菜々に見つかってしまった、床に異空間からの穴が開いてそこから異形の鬼が姿を現す。 隠れていた場所からひらりと躍り出た瞳子は、先に逃がしていた由乃に追いつきそのまま一気に抜き去る。
「由乃さま急いでくださいませ! 追っ手が迫ってきますわ」
「そ、そんなこと言ったって、私は…そんなに早くない……」
「あそこです! あそこの光に飛び込んでくださいませ!」
長い通路の先に階段があり、その上の辺りからたしかに光がさしていた。 しかし、通路を走っていた由乃が、床から滲み出すように現れた機械とも植物とも取れない触手に足を絡まれる。
「な、なによこれ? 取れない、取れないわ! ちょっと! あ、あれってなんなの?!」
由乃の指差す方を見ると頭が三つ、腕が8本、うねうねとした足がやはり8本生えている鬼が迫ってきていた。
「仕方ありませんわね! レーザートマホークで迎え撃ちますわ!!」
「れ、レーザートマホーク?」
瞳子は背中に括り付けていた得物を引っこ抜く。
「って、そ、それは………。 ど〜見たってただの棒っ切れに懐中電灯を括り付けただけの物じゃないのよ!!」
「おっしゃる通りですわ、でも……」
瞳子はまったく悪びれた様子も無く括りつけられた懐中電灯のスイッチを入れる。 そしてスカートのポケットをごそごそまさぐってマッチを一本取り出し、棒の柄の部分にこすり付けて火を点け、棒に結び付けられていたロウソクに火を点ける。
「私がこれを”レーザートマホーク”だと空想(イメージ)すれば、この棒はSF映画に出てくるようなスーパーウェポンに変化するのですわ」
空電のようなエネルギーの迸りを纏いながら、ただの棒切れはみるみるうちに大きな斧に変化する。
「ここは異界ですわ、人間の深層意識が支配する”夢”のような場所。 そして……わたくしは『夢を操る者』」
「え?」
ぬめぬめと足をうごめかせ鬼が近づいてくる。 瞳子は大きくレーザートマホークを振りかぶると・・・・・。
「いけーー! レーザートマホーク!!」
振りかぶったレーザートマホークを鬼に向かって投げつける。 ものすごい勢いで回転する光の円盤となって近づく鬼に吸い込まれていく。 いささか派手な爆発を起こして鬼の体が四散する。 ブーメランよろしく戻ってきた大きなレーザートマホークを、瞳子は片手で受け止め、その光っている刃を使って由乃の足に絡み付いている触手を焼き切る。
「あなた……何者なの?」
「私は、火曜星の夢使い、松平瞳子ですわ。 さあ、出口に行きましょう、お姉さまが待っていらっしゃいますわ」
レーザートマホークの柄には似つかわしくないロウソクの火をフッと吹き消すと、レーザートマホークだった物はただの棒切れと懐中電灯に戻った。
階段を登り、光の塊のような所に迷うこと無く飛び込む瞳。 一瞬躊躇した由乃だがここにいてもしょうがないと覚悟を決めて、その光の塊に飛び込んだ。
「いった〜〜い……。 えっ? ここは…」
そこはおもちゃ箱をひっくり返したような……おもちゃ屋だった……古い店舗、無造作に陳列されている昔のSFのロボット、絶滅して久しい人が乗って遊ぶ象、組み立てかけのプラモデル、ブロマイドの数々、絵本の数々……。
「童遊斎…おもちゃ店? ここでいいの?」
『お姉さまが待っている』瞳子と名乗った少女はそう言っていた。 ここがその場所なのだろうか?
「ごめんくださ〜〜い……」
店の中も足の踏み場に困るほど雑然としている。 花寺の生徒会室といい勝負かもしれない。 苦労して店の奥に行くとそこに制服姿で机に突っ伏している少女がいた。 頭には狐のお面、手には酒ビンとコップ、机の上にはビールの空き缶、空の一升瓶……。
『この人が飲んだのかな……』
「あの〜〜、もしも〜〜し起きてくださ〜〜い」
なかなか起きてくれない少女におろおろしていると、机の片隅にいて『ディスコミュニケーション』と言う漫画を読んでいた市松人形が一つため息を吐くと漫画を置いてから、机の上をトテトテトテっと歩いて来て手近にあった酒瓶を持ち上げると無造作に寝ている少女の頭に振り下ろした。
「ぃったあ〜〜〜〜ぃ!! ……あら? どちら様ですか?」
「あ、あの〜、私、松平瞳子ちゃんの紹介で来た…」
「あ〜、瞳子ちゃんから聞いていますよ。 島津由乃さん」
「はい」
「ふふふ、私は瞳子ちゃんの姉(グランスール)です」
「姉(グランスール)? じゃあ、あなたも夢使い……」
「はい! 日曜星の夢使い、福沢祐巳です! またの名を……童遊斎(わらべゆうさい)と申します!」
* * * * * * * * * * * * * * * *
「菜々ちゃん、この鬼なんかは、どうやって動かすつもりなの?」
「ワイヤー操作で問題ないと思います」
「……この『レーザートマホーク』はどうするつもりなのかしら?」
「それはCGを使えばいいんですよ」
「私……市松人形……」
「そう……じゃあ祐麒君はどう使えばいいのかしら?」
「私……市松人形……」
「それはですね、”橘一”と言う金曜星の夢使いがいましてですね、それをやってもらう予定です」
「私……市松人形……」
「ふ〜〜ん……ねえ菜々……」
「私……市松人形……」
「なんでしょう?」
「祐麒君を『ロリコン』役にするって、どういうこと・な・の・か・し・ら?」
「私……市松人形……」
「…………あ〜、祐麒さんは『シスコン』でしたね」
「私……市松人形……」
「うん、そう…いや、ちがうでしょ!!」
「私……市松人形……」
「火曜星! 遊奉(あそびたてまつる)!! 現実(うつしよ)は夢、夜の夢こそ、真実(まこと)!!」
「私……市松人形……」
「瞳子さまはお気に召したようですね」
「私……市松人形……」
「まあまあ。 じゃあ、決を採りましょうか。 ……」
「私……市松人形……」
却下=4票 採用=2票
「舞台上ではちょっとね〜、CG? ワイヤー?」
「私……市松人形……」
「猟奇殺人って言うのがちょっと……。 お酒を飲むシーンもどうなのかしら?」
「私……市松人形……」
「私は……大酒飲みなの?……」
「私……市松人形……」
「祐麒君が『ロリコン』って段階で没決定よ」
「私……市松人形……」
「乃梨子……かわいそうに……」
「しまこさ〜〜ん」
「やっぱり、金曜星は小林さんのほうが良かったんでしょうか?」