「なー、ユキチ?」
「ん?」
「確か山百合会ってさぁ、優雅にお茶なんか楽しんでるんだよな?」
「うん、そう聞いてるけど」
「ふーん」
祐麒の返事に、なにやら考え込むような小林だった。
「すまん、遅くなっちまった」
慌てて生徒会室に駆け込む祐麒。
「おう、ごくろーさん」
部屋には、薬師寺兄弟を除いたいつものメンバーが揃っていた。
生徒会長福沢祐麒を筆頭に、小林、高田、有栖川の4人。
「お茶が入ってるわよ、どうぞ」
有栖川が、受け皿に乗った湯呑みと、煎餅が乗った器を祐麒の前に置く。
「あ、ありがと」
ずずず〜っと熱いお茶をすすり、ほわっとすることしばし。
「…なんで、熱いお茶なんだ?いつもはペットボトルに紙コップなのに」
「お隣さんを見習ってみたのよ」
「リリアンのことか?」
「そうそう」
祐麒の実の姉福沢祐巳が所属するリリアン女学園高等部の生徒会は、マリア様のお心にちなんで山百合会と呼ばれている、らしい。
そこでは、朝や昼や放課後の役員活動時、それぞれ持ち寄った各種お茶やお菓子などを楽しむそうだ。
それを真似て、ここ花寺でも同じことをしてみようと言うことだった。
「アリスが持って来たのか?」
祐麒が指差す先には、急須といくつもの湯呑みがある。
「いいえ」
「じゃぁどうしたんだ?」
「あー、それな」
小林が口を挟んだ。
「発掘したんだ」
「へ?」
「だから、そのガラクタの中から探し出したんだよ」
実際のところ、物置と化している花寺生徒会室。
要るんだか要らないんだか分からないガラクタがぎっしりだった。
「…よく見つけたな」
「苦労したよ」
顔と腕が黒くなった高田が呟いた。
「そんで、そのポットは?」
「発掘したんだ」
「お茶っ葉は?」
「発掘したんだ」
「煎餅は?」
「発掘したんだ」
「………」
苦い物を噛んだような顔で、一同を見回す祐麒。
「いつのものかは知らないけど、まだ使えるかどうか分からなかったからな。悪いけどユキチに試してもらった」
「ブッ!」
祐麒は、思わず口の物を吐き出してしまった。
『汚ぇ!』
一斉に退く小林たち。
「んなもん俺に飲ますんじゃない!」
「嘘だよ」
「嘘よ」
「嘘だ」
叫ぶ祐麒に、口を揃えて応じる三人。
「そんなもん、普通使うわけないだろ?新しく準備したものだよ」
「くっ、お前等なぁ…」
「本当にからかい易いなお前って」
「表情がころころ変わるところなんて、祐巳さんソックリね」
「ユキチは、守りが弱いんだな」
好きなことを言う連中に、こめかみの辺りが引き攣る祐麒だった。
遅れてやって来た薬師寺兄弟にも同じことをする小林、高田、有栖川の三人。
誰かさんのようにお茶を噴出す兄弟を、祐麒は苦笑いしながら見ていた。
小林と高田が、酷い目に会ったのは言うまでもない。