【734】 照れくさい二人だけの宝物  (六月 2005-10-16 00:42:52)


No.730の続き・・・オチ?・・・です。

先週号のかわら版を握り締めて、お隣の部室、新聞部のドアをノックした。
「さて、真美さん、本日は良い情報をお持ちいたしましたの。先日の記事のお礼にね」
「そんなお礼なんて構いませんのに。武嶋蔦子さんと言えば、写真部のエース。山百合会の方々に次ぐ有名人ですし」
真美さんのにやにや笑いに、私のこめかみがヒクヒクと痙攣する。
報道コンビと呼ばれ、それなりに親友だと思っていたのに、この悪魔!
「私達姉妹のことを取り上げていただいたのに、せっかくですのでお礼を言わせてくださいな」
あーあ、真美さんの後ろで日出美ちゃんがわたわたしてるわね。心配しなくてもここで暴れる気は無いわ、私はね。
「すでに新聞部も噂はご存じとは思いますが、私達のまねをしている姉妹が出ているということですわね」
「えぇ、姉が愛用の品を妹に渡す、深いつながりを示す良いお話だと思いますわ。
 蔦子さんと笙子さんのカメラがつなぐ絆に皆憧れたのでしょうねぇ」
おやおや、真美さんにしては甘いわね。それで困ったことが起きているというのに。

「えぇ、色々と起こっているようで、桂さんが妹にしたい1年生にテニスラケットを渡そうとしたとか」
窓の外で祐巳さんが祥子さまを追いかけているのが見えた・・・そろそろね。
「他にも、手芸部では編み棒を渡したとか、発明部では顕微鏡をとも聞いていますわ。
 ただ、茶道部では数百万の茶器を、弦楽部ではストラディバリウスを渡そうとした方も居たみたいね。
 あまりに高価な物の授受となると、と山百合会でも問題視して会議をしているそうですわ」
だんだんだんだんっ
クラブハウスの廊下を怪獣が足音高く近づいてくる音が聞こえる。
「ということで、肝心の情報、山百合会、特に紅薔薇さまがお怒りなのよね。
 対策考えた方が良いわよ・・・遅いかもしれないけど」
バタンッ!ばこっ!
新聞部の扉が豪快に開け放たれ、勢いで蝶番が外れた。
そこには怒髪天を衝く勢いで紅薔薇さま、小笠原祥子さまが鼻息荒く仁王立ちしていた。
「部長さんはいらっしゃるかしら!?」
「は、はいっ!!」
「祐巳から聞きました!先週号のかわら版のせいで大変なことが起きているそうではないの!?」
「え?あ?蔦子さん、祐巳さんに売ったわね!?」
「聞いているの!?」
笑いを押し殺しながら新聞部の部室を抜け出す。こってりと紅薔薇さまに絞られてくださいね、真美さん。

写真部の部室に戻ると、笙子ちゃんが心配そうな顔をして私が帰ってくるのを待っていた。
「つた・・・お姉さま、大丈夫でしたか?何か大きな音も聞こえていたんですが・・・」
「大丈夫」あなたは何も心配しなくて良いの、そっと笙子ちゃんの頬に触れる。
「私達の秘密を面白おかしく書き立てた新聞部には紅薔薇さまの雷が落ちるけどね」
頬に触れていた手を肩にやり笙子ちゃんを抱き寄せると、シャラリと首元から鎖が触れ合う音が聞こえた。
「着けてるんだ」
「はい、やっぱりこれに憧れていたので」
笙子ちゃんのその首にはロザリオがかかっている。ロザリオが無くて寂しそうにしている姿に結局負けたようなものだ。
なんだろう、実の姉妹が居るとこんなに甘え上手になるものなんだろうか・・・。
「いいのよ、笙子。
 でも、本当はカメラのほかにロザリオも渡していることは、私達だけの内緒だからね」
「うん、内緒!」


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