正直私のお姉さまは、気分屋で気分が乗らないと全く何もやらない。
そのくせ、自分が面白いと思ったことは、どんな障害を排除しても、実行してしまう、そんな人だ。
今のお姉様のブームは、私や由乃をからかうことだから、最初呼びかけられたときには、一体どんな無理難題がふっかけられるか、どきどきしていたのだが………。
「令。私の気持ちを受け取って欲しいの」
真剣な顔で私の顔を見つめるお姉さまに、私の心臓は高鳴った。
「これから投げキスするから、それを全部令に受け止めて欲しいの」
何で突然そんなことをを思いつつも、お姉さまなら思い立ったらやるだろうし、お姉さまからの投げキッスはそれはやっぱり妹として、ちょっと欲しいなと思ってしまう。
少なくても、今日の夜は幸せな気持ちで過ごせるだろう。
「は、はい、喜んで」
私は、緊張でどもりながらも、お姉様に肯定の返事をした。
「わかった、しっかり身構えていてね」
お姉さまは私に笑ってそう言うと、3メートルくらい下がり後ろを向いた。
「いくわよ、令」
「はい!」
次の瞬間、お姉様の手から銀色の何かが放たれた。
「は?」
私がびっくりしていると、その銀色の何かは、次から次へと、私に向かって投げられていた。
「令、ちゃんと私の気持ち受け取りなさいよ」
「え?」
思わず避けようとしたそれを、お姉さまの言葉で、慌ててつかみに行く。
捕まえた手に、ぬちゃりとした冷たい感触が伝わってきた。
思わず放り出しそうになるのを必死に我慢して、私はお姉さまが次々と投げてくるそれを、次々と捕まえた。
幸いなことに、お姉さまは手加減してくれたらしく、私はお姉さまが投げたそれを一つ残らず捕まえることが出来た。
「さすが令ね。あれを全部キャッチしたとは。えらいえらい。それ、家に持って帰って由乃ちゃんにご馳走してあげて」
「は、はあ」
お姉さまが投げてきたモノ。――それは、銀色に輝く新鮮そうな鱚だった。
「お姉さま……」
確かにお姉さまは投げ鱚といった。だからあれは私が勝手に投げキッスと解釈したのだが、でもこれはあんまりではないだろうか。投げキスと聞いて、誰が鱚が乱れ飛ぶさまを想像するだろうか。
さすがの私もこれには半泣きになった。
「あら、もう一つあったわ。しっかりと受け取ってね」
そんな私の気持ちを知ってかしらずか、お姉さまはにこやかに私にそう言った。
お姉さまがそう言うからには仕方がない。私はこぼれ落ちそうな涙をこらえてお姉さまの方に向いた。
「じゃあいくわよー」
次の瞬間、銀色の鱚が飛んでくると信じて疑わなかった私に飛んできたのは、正真正銘お姉さまの気持ちのこもった投げキッスだった。