【78】 実はサスペンス  (くにぃ 2005-06-22 08:53:58)


ピカッ。・・・・・・ゴロゴロゴロ。
雷を伴った暗い雨雲のたれ込める、九月のとある日の放課後、祐巳は教室に忘れ物を取りに行くと、薄暗い教室の中で蔦子さんが自分の席に座り腕組みをして、ため息をついていた。

「電気も付けずにどうしたの?」
「ああ、祐巳さん。ちょうどよかった・・・・・・いや、悪かったのかな」
机の上には整理中の写真が配りかけのトランプのように雑然と並んでいた。

「あれ、これ全部私じゃない」
「そうです」
聞けば去年の学園祭で祥子様と一緒に写った特大パネルが好評だったので、今年も同様な企画を考えているとのことだ。

「で、何を悩んでいるの?」
「わからない?」
「わからない、って?」
「これとかこれとか。ここまでくるともうすごくわかりやすいでしょ」
「え?・・・あっ!?」

マリア様にお祈りするところとか、由乃さんとじゃれ合っているところとか、駅前を祥子さまと並んで歩いているところとか、バス停で志摩子さんと何かの話で盛り上がっているようなところとか。
そのどれもこれもに一人の人物の姿が隅の方に小さく写っていた。

「何か、怖い」
「教えない方がよかったのかな」
「ううん、いい。ありがとう」

祐巳は体育着を入れた巾着袋を抱えて、よろよろと教室を出た。
祥子さまに相談すべきかどうか考えていると、ふとあることに気づいた。

あのたくさんの写真全てに可南子ちゃんが写っていた。まるで自分をつけ回すように。
しかし考えてみれば、写真に写ってはいないが間違いなく全ての場面に居合わせた人が、確かにもう一人いるのだ。


そう。ストーカーは常に二人、いる。


背中に悪寒が走るのを覚えた祐巳は振り返ると、二年松組の前の暗い廊下で蔦子さんがぼんやりと立ってこちらを見ている。
「どうしたの?祐巳さん。」
口角をわずかに上げて陰鬱に言ったその刹那、窓の外で稲妻が走り蔦子さんの眼鏡が妖しく光った。




こわーーーーーーーーっ!!


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