※このSSは仮面ライダー(1号)とのコラボレーションでお送りします。
(・・・あれ? 何で体が動かないんだろう?)
朦朧とする意識の中で、二条乃梨子は自分の体に違和感を感じていた。
(ひょっとして金縛りってやつ?)
乃梨子は試しに右手を上げようとしたが、上手くいかなかった。
(これは・・・脳だけが起きているレム睡眠てやつか。それとも完全に夢の中なのかも・・・)
とりあえず、頭脳は冷静に働くようだ。乃梨子は体を動かす事を諦め、再び眠りの海に沈もうと意識を手放す。
『さあ乃梨子。改造人間のポテンシャルをフルに発揮して、世界を征服するのよ!』
(え?改造人間て何? 私の事? て言うか誰あんた)
突然脳裏に響いた声の主を突きとめようと、乃梨子は目を開こうとする。
(・・・上手く目が開かない。でも少し見えてきたな・・・・・・え〜と声の主は何処かな?)
『まずは○○党と△△総理に献金している××商事に忍び込み、闇献金の証拠をつかんで永田町の動きを牛耳るわよ!』
ヤケに生々しい日本征服の第一歩を指示するなあと思いながら、乃梨子は声の主のいる方向を探り当てる。
(女の人だな・・・しかし、永田町の金の動きを探る改造人間て・・・・・・)
『そして、日本中の公共事業に絡み、巨額のリベートで左団扇よ!』
(・・・・・・何?この金の亡者。て、あれ?あの人影は・・・)
『ほ〜っほっほっほっほっ!!』
(菫子さん?!)
チュンチュンチュン・・・チチチ・・・・・・
「・・・・・・嫌な夢見たなぁ」
さわやかな朝の光に包まれながら、さわやかでない顔で乃梨子は身を起こした。
寝覚めは最悪の部類であり、何だかヤケに体が重い。
「寝る前にネットで仮面ライダーのサイトなんか見てたからかなぁ? それにしても、菫子さんが悪の女幹部だったのは、意外と似合うと言うか何と言うか・・・」
乃梨子は何となく自分の手のひらを見る。昨日までと何ら変わらない、自分の手がそこにあった。
「何、確認してるんだか・・・本当に改造されてる訳無いじゃない」
乃梨子は苦笑しながらベッドから抜け出し、リビングへと向かった。
リビングに着くと、すでにスーツを着た菫子が座ってコーヒーを飲んでいた。テーブルにはもう朝食が並んでいる。
「おはよう、菫子さん」
「おはよう。何だか疲れた顔してるねリコ。寝不足かい?」
「いや、変な夢見ちゃってね。寝覚めが悪かったの」
「へぇ・・・」
乃梨子は椅子に座り、「いただきます」と朝食を取り始める。
しばらくは無言でサラダをつついていた乃梨子だったが、あまりにも荒唐無稽な夢だったと思い出し、苦笑しながら菫子に話しかけた。
「私が仮面ライダーになる夢でね・・・」
「ほう・・・」
菫子は興味を引かれたのか、笑いもせずに聞いている。
「菫子さんが私を改造した悪の組織の女幹部なのよ」
「私ゃ悪役かい」
「でもリアルな夢でねぇ。起きた時に思わず自分の体が改造されてないか確認しちゃったわよ」
「ライダースーツでも着てたのかい?」
「まさか。何の変哲も無い、昨日までと同じ私の手よ」
乃梨子はヒラヒラと左手を振って見せた。
「そりゃあそうだろ。『私、ライダーです!』って主張しまくってる姿だったら、私ゃあ困っちまうよ」
「そうだよね」
菫子にそう言われ、乃梨子は再び苦笑する。
「市街地での作戦活動も考慮して、外見は今までのそれと区別が付かないようにしたんだからね」
「ふ〜ん、そうなんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ え゛?」
「お陰で、あんたの改造費だけで東京都の予算がまかなえるくらいの額が掛かっているんだからね」
「・・・・・・・・・・・・」
「でもまあ、改造人間は世界制服のための貴重な戦力だから、“組織”のほうも納得して湯水の如く金を使わせてくれたよ」
「な・・・何言ってるの菫子さん」
「まあ、プロトタイプだから費用も掛かっただけで、汎用型の量産が始まれば一気にコストダウンも進むし・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?」
「・・・・・・えっと・・・もしかしてギャグ?」
涼しい顔の菫子に、乃梨子は恐る恐るそう聞いてみる。
「・・・・・・・・・乃梨子。口ん中・・・上あごの辺りを舌でなぞってみな」
菫子に言われるままに、乃梨子は舌先で口の中を探ってみた。
「・・・・・・・・・・・・・!!」
「金属のプレートがあるだろ?」
確かに何か硬い舌触りがあった。乃梨子は心拍数が上昇し、イヤな汗をかき始めた。
「左右の奥歯の上にあるプレートは舌で開閉できるようになっているよ」
まるで暗示に掛かったように、乃梨子は舌でプレートを押してみる。すると、本当にプレートがスライドし、シャッターのように開いた。
イヤな汗がその量を増した。
「舌の筋肉の動きがシャッターのロックになってるから、食べたり話したりしたくらいじゃ開かないから安心おし」
「口の中にシャッターが存在するという時点で、何をどう安心しろと言うのよ?!」
乃梨子はたまらず叫ぶ。しかし菫子は相変わらず涼しい顔で聞き流す。
「意外と肝っ玉の小さい子だね。もう改造終わっちゃってんだから、腹をくくりなさいよ」
「うわぁぁぁぁ!! やっぱり改造されてたの? 私!」
「うん。昨夜チョコチョコっと」
「何でそんな軽いノリなのよ───!!」
菫子の言葉に、乃梨子は頭を抱えて絶叫する。それもそうだろう、朝起きたら「あんたの服、洗濯しといたから」みたいな気軽さで「あんたの体、改造しといたから」と宣言されたのだから。
「だいたい何で私なのよ!」
「戦闘時の統計でね、兵士は男より女に出合った瞬間のほうが油断する確率が高いのよ。で、候補は女になった。でも、生体部品との適合検査で合格者がなかなか出なくてね。イライラしてた時に洒落であんたの髪の毛を検査に回したら、見事適合しちゃって・・・・・・」
「洒落で姪の人生弄ぶなぁぁぁぁ!!!」
乃梨子はヘラヘラ笑いながら言う菫子につかみ掛った。
「おっと」
ピッ! ギシッ!!
「?!」
菫子が手に持っていたボタンを押すと、乃梨子の動きが止まった。
「改造人間てのは兵器だからね。わるいけど緊急停止装置を組み込ませてもらったよ」
乃梨子の顔が赤く染まる。今すぐにでも菫子に飛び掛りたいのに動きが取れず、怒りに身を焦がしているのだろう。
「でも、改造人間って言っても、食事もできれば眠る事もできるようにしてあるんだ。普通の生活を送れるようにしてあるから、あんたがそう望むなら一般人としての生活もできるんだよ?」
乃梨子は紅潮した顔で震えている。
「それに、“組織”が世界制服を実行するのはもう決定事項だから、改造はあんたのためになると思うんだけどねぇ。何も知らずに支配される側に回されるよりマシだろ?」
乃梨子の額に汗が浮かび始める。確かに無駄なくらい人体に近い構造になっているようだ。
「とりあえず機能の説明するから、どうするかはそれから判断・・・・・・リコ?」
菫子が何かに気付き、話を中断した。その時、乃梨子の顔色は赤を通り越して紫になりつつあった。
菫子はしばらく考え込んでいたが、やがて何かに思い当たり、手元のボタンを操作した。
ピッ! ドタッ!!
ボタンの操作と同時に、乃梨子は崩れ落ちた。床に倒れ伏した乃梨子は、ゼェゼェと荒い息をついている。
菫子はそんな乃梨子の傍らにしゃがみ込む。
「・・・・・・・・・・・・・・もしかして、心臓まで緊急停止してた?」
「・・・・・・殺す気か!」
菫子正解! 賞品は乃梨子の殺意のこもった視線だった。
やがて乃梨子は起き上がり、菫子を問い詰めだした。
「菫子さんが悪党の一味だなんて思わなかったわ。何で悪の組織なんかに入ったのよ!」
「マッドサイエンティストってのは、そういう生き物なのよ!」
キッパリとそう宣言され、乃梨子は膝から崩れ落ちた。
そんな乃梨子に、菫子は静かに語り出した。
「リコ」
「何よ死神博士」
「良く知ってたわね、そんな名前・・・ 聞きなさいリコ。あんたに適合反応が出たと知った時、正直迷ったわ。でもね、組織が動き出せば世界の在りようを急激に変えて行くのよ。ただし、戦争なんかしたんじゃあ世界が疲弊しちゃうから、世界の裏側から魔の手を伸ばしてね」
乃梨子は菫子の話を聞きながら立ち上がる。
「そうなった時、あんたを守りきれる自信が無かった。私も所詮は雇われの身だからね。だからせめて、あんたに“力”を与えたかったのよ、あんたが敵と認めた相手と戦う力をね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・それ今思いついたでしょ?」
「うん」
「・・・やっぱシメる」
「おっと!」
菫子に駆け寄ろうとする乃梨子に、さっきのボタンを掲げて威嚇する菫子。
「卑怯な・・・」
「“狡猾”と言いな。そのほうがマッドな雰囲気が出るわ」
「うわ、殺してぇ・・・」
緊急停止ボタンを前に歯噛みする乃梨子に、菫子はニヤリと笑ってみせた。
「とにかく説明を聞きなさい、仮面『ノリ』ダー」
「おかしな名前付けんな!!」
「私は別にかまわないんだけどね。あんた、使い方も知らない機能で志摩子ちゃん傷付けても良いの?」
「う・・・」
イヤな形で志摩子の名を出され、乃梨子は戸惑った。
「 戦闘用の改造人間の力が暴発した日にゃあ、洒落じゃ済まない事態になるわよ?」
「・・・・・・・・・」
「説明聞く?」
「・・・判ったわよ」
乃梨子はしぶしぶ菫子の話を聞く事にした。
「OK。じゃあまず先程のシャッターの中に押しボタンがあるのを確認しなさい」
言われるまま舌先で探ると、確かにボタンが存在した。
「右のボタンを舌で押す」
言われたとおりにすると、乃梨子の視界に四角い半透明のホログラムが白く浮かび上がった。
「うわ?!」
「落ち着いて。視界にカーソルも見えるでしょう?」
「・・・あ、ホントだ」
「それは、あんたの意識と連動してるから、左下の『スタート』にカーソルを合わせて」
ホログラムを良く見ると、確かに左下に『スタート』と書かれた緑色のタブが存在した。乃梨子はカーソルに意識を集中してみる。
「・・・・・・・・・動いた!」
「カーソルが『スタート』に重なったら、左の奥歯の上のスイッチを舌で押して」
「ああ、スタート画面が立ち上がった・・・・・・って、何だかモノスゴク見覚えがあるんだけど?!」
「Windows XPよ」
「マイクロソフト製かよ!!」
「色んなデータにアクセスするのに便利だからね。Internet Explorerも入ってるわよ。イヤなら後でFire foxでもLinaxでも好きな物インストールしなさいよ」
「うぅ・・・ Anti Virusも入れたほうが良いのかなぁ・・・」
「そんなちゃちなセキュリティより高性能なのがインストール済みだから安心しな。ちなみにあんたの髪の毛がケーブルになるから、たいがいの電子機器に繋げるわよ?」
正直、乃梨子は改造人間と聞いて、テクノロジーの極地のような物を連想していたのだが、XPで制御されていると聞き、何だか自分が家電の仲間みたいな気分になってしまった。
だが菫子は、そんな乃梨子の落ち込みなどお構いなしに次の行動を指示する。
「『スタート』メニューの『戦闘』をクリック」
クリックに応え、ホログラムに『戦闘』ファイル内のプログラムらしき物が展開する。
「・・・・・・『ライダーキック』とか表示されてるんだけど」
「『ライダーキック』をクリックすると・・・」
半ば無意識にクリックすると、いきなり乃梨子の体が空中に飛び上がった。
「何?!」
突然の自分の行動に驚く乃梨子。そして、体は勝手に空中で身を縮めると、肩口からブースターロケットが出現。
「ちょっと!!」
ロケットに点火し、十分な推進力を得ると、一気に体を伸ばしてキックの体勢に入った。
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
乃梨子の目の前には壁。しかし『ライダーキック』は急に止まらない。
ゴガンッ!!
乃梨子の『ライダーキック』は、見事マンションの壁(7階)をブチ破り、その破壊力を見せ付けた。
「な・な・な・な・7階ぃぃぃぃぃぃ?!」
ひゅうぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・ ごしゃ!
「あ、ヤな音」
菫子はボソっと呟いた。
「生きてるかなぁ? 一応500mくらいの自由落下には耐えるように設計してあるけど。耐衝撃テストなんかしてないしなぁ・・」
のんきにそんな事を言いながら、菫子はコーヒーをすする。すると、外から激しい音が聞こえて来た。
・・・・・・・ドダダダダダダ ガチャ! バタン!
「こんな時でもきっちり階段駆け上がってドアを開閉して入ってくるなんて・・・律儀ねリコ」
「殺す気かあ!!!」
どうやら設計どおりの強度が出ているようだ。
乃梨子はとても7階から自由落下したとは思えないほど元気一杯に菫子に抗議した。
「『ライダーキック』とかの『戦闘』プログラムは、クリックと同時に起動するから・・・」
「クリックする前に言えやぁぁぁぁ!!」
「まあ無事だったんだから良いじゃない」
けろっとした調子で言う菫子に、乃梨子は返す言葉が見つからない。
「だいたい、こんな大げさな戦闘力なんて、何処で発揮するって言うのよ」
「改造人間の運用場所に想定してるのは、戦争じゃなくテロの制圧部隊みたいなもんだから・・・」
「・・・テロリストが相手かい。それにしても屋内でこんな破壊力を行使するなんて、どんな敵を想定してるのよ?」
「そうねぇ・・・今、窓の外にいるやつらみたいな感じ?」
「え?」
菫子の言葉が引鉄になったかのように、マンションの窓から全身黒尽くめの戦闘員が5名ほど飛び込んできた。
「ショッカー?!」
「リコ!『戦闘』ファイル内『変身』!」
菫子の言葉に乃梨子が反射的に『変身』をクリックすると、乃梨子の髪が爆発的に伸びる。そして、髪が全身を包み込んだ瞬間、乃梨子の髪は白く輝いた。
「うわわわわ!何コレ何コレ何コレぇ!!」
白い輝きが消えると、そこには一人のライダーが立っていた。
昆虫を思わせる有機的なフォルム。そのくせ女性らしいボディラインを保つ姿は、異世界の生物のようだ。そしてその全身は虹色の光沢を持つ白で統一されていた。
「イィィィ!!」
乃梨子の姿を見て、戦闘員達が奇声を上げながら一斉に襲い掛かる。
「うわ!ちょっと待って・・・・・・って、あれ?」
突然の襲撃に怯えた乃梨子だったが、その手足は的確に戦闘員を屠ってゆく。
「え?私、何でこんなに強いの?」
気が付くと、乃梨子は全ての戦闘員を葬っていた。
「『変身』モードに入ると、ある程度の戦闘はオートでこなすようにプログラミングされてるんだよ。この程度のザコなら楽勝さ」
菫子がそう言いながら歩み寄ってきた。
「・・・・・・XPって侮れないなぁ」
乃梨子が妙な感慨にふけっていると、菫子が真剣な表情で語り始めた。
「これからは、嫌でもコイツらと戦う事になるんだよ」
そう言って、倒れている戦闘員を指差す。
「コイツらって・・・ 何者なの?」
「さっき話した“組織”の戦闘員さ」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
乃梨子が呆然とした顔になる。
「チョッと待って!菫子さん、その“組織”に所属してたんじゃなかったの?!」
乃梨子の疑問に、菫子は悲しそうな表情で答える。
「リコ、あんたを悪の手先にしたくなかったんだよ。だから私は昨夜、あんたを改造した直後に組織の基地から、あんたを連れて逃げ出したのさ」
「菫子さん・・・」
「悪に手を染めるのは私の代で終わりにしたかったのよ。あんたには、真っ直ぐに生きて欲しくてね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当は?」
「組織の金、チョロまかしたのバレたみたい」
「あんたって人は! どうして私にとばっちりを受けさせるのよ!!」
乃梨子は今度こそきっちりシメようと、菫子に襲い掛かる。
「だから無駄だって」
ピッ! ギシッ!
「くっ!」
乃梨子はまたも動きを止められてしまう。
ピッ!
菫子は、乃梨子を自由にすると、余裕綽々で語り始めた。
「まあ聞きなリコ。あんたもどうせ組織を潰さないと、組織があんたを回収しに来るんだよ?せっかく作った改造人間なんだからね」
「う・・・それは・・・」
予想できる未来に、乃梨子は絶句する。
「だから、組織が壊滅するまで戦うしか無いんだよ。そうすりゃあんたは晴れて自由の身、私の追っ手も全滅、どうだい?利害は一致してるじゃないか」
「・・・何か納得行かない。全部菫子さんのせいな気がするのは気のせい?」
「気のせいだね」
あつさり断言する菫子に、乃梨子は明確な殺意のこもった視線を送る。
「まあ、このまま“組織”をほっとけば、いずれ志摩子ちゃんあたりにも被害が及ぶかもね」
「!! ちくしょう、やるよ!やりゃあ良いんでしょうが! こうなったら組織を壊滅させてやらぁ!!」
「良く言った!頑張るんだよ?リコ」
「人事みたいに言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
行け!仮面『ノリ』ダー!
戦え!仮面『ノリ』ダー!
菫子のチョロまかした金を踏み倒せるその日まで!
何も知らず組織に従っているだけの戦闘員を皆殺しにするその日まで!
「うぅ・・・何かナレーションが犯罪者みたいな扱いだ・・・」
「上手い事言うねリコ」
「反省しろよあんたは!!」