【792】 山百合会で一番怖い放課後  (林 茉莉 2005-11-01 03:33:57)


前書き
 このお話は黒祐巳で有名な有機化合物 ver.3.0さまのGJなWeb Comicを元ネタとさせて頂きました。
 この場をお借りしてネタ拝借をご快諾くださった有機化合物管理人 ユーキさまに心よりお礼を申し上げます。
 ありがとうございました。m(_ _)m




「どうです、乃梨子さん。なかなかの出来でしょう?」
「……瞳子、ほんとにやるの?」
「もちろんですわ。これで祐巳さまを……。フフフのフ」




 今宵はハロウィン・ナイト。
 ナイトというにはいささか早過ぎる放課後の薔薇の館で、乃梨子は何だかウキウキと楽しそうな瞳子をあきれ顔で見ていた。
 一方瞳子はといえば演劇部の備品の黒いマントを羽織って、手には大きなオレンジパンプキンをくり抜いて作ったオバケの仮面を持っていた。オバケ仮面の両側にはご丁寧にニンジンを螺旋状にかつら剥きして作った縦ロールまで付いている。
「いつもいつも祐巳さまにはいい様にあしらわれていますが、今日はこれでおどかしてさし上げますわ」

 アホかお前は。子供じゃないんだしそんなモンで驚くか。それに普通かぶるものじゃないだろ、それは。
 そう言いたくてウズウズする乃梨子だったが、この日のためにわざわざ自分で作って用意したという友が哀れでツッコめずにいた。

 そうこうする内にギシギシと階段を上がってくる音が聞こえてきた。
「瞳子」
「ええ、お顔と一緒であの落ち着きなさ気な足音は祐巳さまに間違いありませんわ。しかも上手い具合にお一人のようですわね」

 手にした仮面をガポッとかぶり、ビスケット扉の前で待ちかまえる瞳子。
 祐巳さまは扉の前に着き、今まさにノブに手を掛けたようだ。
 ガチャッ。
「ごきげんよう」
「Trick or Treatですわーーー!」
「じゃあTrick」
「……え?」
 案の定祐巳さまは少しもあわてず、想定範囲外の切り返しにあわあわしているのは瞳子の方だった。

「あの、普通こういう場合Treatでは?」
「なんだ、考えてなかったの? じゃあ私が教えてあげる。ちょっと借りるね、乃梨子ちゃん」
「ご存分に」
「ゆ、祐巳さまどちらへ?」
「いいからいらっしゃい」
 にっこり微笑むと祐巳さまは瞳子の手を引いて会議室を出ていった。向かった先は一階の今は物置に使われている部屋のようだ。




「ぷはーっ、堪能しました♪」
「ひどいです、祐巳さま。えぐっえぐっ」
 およそ三十分後、出ていった時と同じように瞳子の手を引いて、にこにこしながら祐巳さまは戻ってきた。
 出ていった時と違うのは瞳子が赤い顔をしてベソをかいているのと、祐巳さまのお顔がなんだかイイカンジにツヤツヤしていることだ。
「はーっ、頑張っちゃったからのど乾いちゃった。乃梨子ちゃん、お茶もらえるかな」
 分かりましたと答えて席を立ったが、しかし乃梨子の脳細胞はめまぐるしく回転していた。
 瞳子は一体何をされたんだ? 祐巳さまはどう頑張ったんだ?
 聞きたい、もンのすごく聞きたい。でも聞いてはいけないような気もする。
 それにしても瞳子、あんた泣いてるわりには微妙にうれしそうにも見えるんだけど。

「瞳子に何をされたんですか?」
 知的探求心(?)を抑えられず、乃梨子は思いきって尋ねてみた。すると祐巳さまは笑って言う。
「知りたい? だったら志摩子さんに教えてもらうといいよ」
 ちょうどその時、ビスケット扉の外から階段を上る微かな音が聞こえてきた。
 間違えるはずもない。あれは確かに志摩子さんだ!

 その瞬間、乃梨子が瞳子からマントとカボチャ仮面を光の早さで奪い取り、期待に胸を膨らませて扉の内側でスタンバイしたのは言うまでもない。


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