このところ、何かと(主にクラスメイト達のせいで)慌しくて乃梨子は昼休みの薔薇館でのお茶会がご無沙汰だった。
でもようやく瞳子たちの妙な行動も下火になって、いや見えないところでなにかしているのかもしれないけど、少なくとも乃梨子の目の前では大人しくしていて、今日あたりは志摩子さんとゆっくり出来るかも、なんて思っていた。
いや、薔薇の館には志摩子さん以外にも祐巳さまと由乃さまは来られるし、昼休みだと祥子さまや令さまも顔を見せるのは珍しくないんだけど、クラスメイトやら中坊たちに翻弄されるのと比べたらやっぱり『ゆっくり』なのである。
そんな乃梨子が昼休みになって乃梨子が薔薇の館へ向かおうと席かた立ち上がった時だった。
「かしらかしら?」
「友情かしら?」
乃梨子は思わず脱力しかけた。
でもここで敦子美幸のペースに巻き込まれたら負けだと思い、気力で復活した。
「ごめんなさい、今日はあなたたちに付き合ってる暇は無いの」
毅然とそう言い放ち足早に廊下に向かう。
「お待ちになって、乃梨子さん」
目の前に立ちはだかるドリルこと松平瞳子。
「待てません」
ここでひるんだらまた背後の二人ともに羽交い絞めにされてしまう。
「そんなこといわずに」
横をすり抜けようとする乃梨子に合わせて瞳子は移動する。
「させるかっ!」
しかし乃梨子は右に行くと見せかけてすばやいフットワークで反対側をすり抜けた。
その弁当箱を抱えているその様はまるでバスケットのカットイン。
だが、乃梨子はここで一つミスを犯した。
「乃梨子さん」
「はっ、可南子!」
廊下で待っていたのは両手を大きく広げ、乃梨子を止める気満々の可南子だった。
「なかなか良いフットワークです。でも私のディフェンスを破れますか?」
どうやら可南子のなにかに火をつけてしまった模様。
もちろん、部活でバスケットをやっている可南子に真っ向から挑むような愚昧な事はしない。
「悪いけど、あなたたちと遊んでいる暇は無いの」
というかバスケットじゃないんだから。
かがんで可南子の脇を抜ける。
「ああっ! トラベリングよ!」
後ろで叫ぶ声が聞こえた。
お弁当をドリブルしたかったら自分のでやりなさい。
今日は順調かもしれない。
ちょっと廊下を走ってしまったけど、可南子も瞳子もしつこく追ってこなかった。
でもここで油断するとまた何が起こるか判らない。
乃梨子が注意深く廊下から中庭に出ると……
「「乃梨子さま!」」
……居た。
「あなたたち……」
一人はいつぞやの青田「狩られ」隊の確かリーダー格の子。もう一人も見たことがある。
今日は二人だけだった。
「……あまり高等部に入り込んでると先生方に叱られるわよ?」
「それは大丈夫です。乃梨子さまが責任を取るといったら黙認してくださいました」
「黙認って……全然大丈夫じゃないじゃない!」
おっと、ここで取り乱したらまたいつものどたばたになってしまう。
「……とにかくもう中等部に帰りなさい。あなたたちと遊んでる暇なんて無いんだから」
いつぞやは放課後ずっと追い掛け回されたこともあった。
あのときは遅くなってしまって、乃梨子が中学生達を送る(バス停まで)ハメになったのだ。
「いえ、今日は乃利子さまにお伝えしなければならないことが」
「なあに?」
今日はまともそうなのでとりあえず聞く。
妙な方向に行きかけたらさっさと立ち去ればいいし。
「乃梨子さまは狙われています」
「……さよなら」
「ああっ、お待ちください!」
「ちょっと、すがりつかないで」
「本当なんです! 私たちはその陰謀を暴けっ! ってことでここまで……」
「あー、わかったわよ、わかったから、話を聞くから騒がないで!」
彼女達の話はこうだった。
なんでも乃梨子をこの際リリアン中等部・高等部交流の首謀者に祭り上げて好き勝手をやってしまおうという一派が活動しているとか。
彼女らは乃梨子信奉者なのでそんな乃梨子に迷惑をかけるようなことは反対なんだそうだ。
……あれ?
「ちょっとまって、あなたたち、先生に私が責任を取るようなこと言ってここに来たんじゃなかったっけ」
迷惑をかけないとかいって矛盾してるじゃん。
「それは……」
二人して畏まって俯いちゃった。
これじゃ乃梨子が中等部生を叱ってる構図だ。
「そう言わないと昼休みにここに来れなかったから……」
「乃梨子さまは中等部の先生方にも評判がいいんです」
どんな評判なんだかちょっと心配だけど、そういわれて悪い気はしない。
とりあえず信頼することにする。
「まあ、いいわ。とりあえす忠告ありがとうといっておくわ」
「は、はい」
聞いてくれたのがそんなに嬉しいのか。
顔を上げた二人は表情を輝かせた。
「お昼まだなんでしょ? 早く戻りなさいね」
「「はい!」」
可愛いなあ。
なるほど、青田買いに走る同級生の気持ちがわかる気がする。
そんなことを思いつつ乃梨子は中等部の方に去っていく二人を見送った。
それにしても、教室から薔薇の館に来るだけでとても疲れた気がする。
でもこんな疲れも志摩子さんの顔を見れば吹き飛ぶに決まっている。
はやる気持ちを抑えてビスケットの扉を開けた。
「あら乃梨子さん遅かったのですね」
「先にいただいてますわ」
「かしらかしら」
「お茶会かしら」
薔薇の館でくつろぐ四人のクラスメイトにがっくしと乃梨子は崩れ落ちるしかなかった。
(この体制→_| ̄|○)
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ごめん時間切れ。一応オチつけたけど消化不良。
だってこんなタイトルでるんだもん。