【822】 祐巳×由乃がボケ天誅  (柊雅史 2005-11-09 00:28:47)


「提案があります」
 桜の花が散り、並木道の緑が濃くなり始めた頃。
 すっかり黄薔薇さまとしての貫禄が板についてきたよ〜な、そうでもなさそ〜な由乃さまが、真剣な表情で手を挙げた。
 祐巳さまと二人、のんびりと窓の外を眺めていたとばかり思っていた由乃さまの、突然の真面目な表情に、薔薇の館でお喋りを楽しんでいた面々――志摩子さん、瞳子、菜々ちゃん、そして乃梨子は何事かと口をつぐむ。
「――最近、山百合会の秩序が乱れている……いえ、緩んでいると思うのよね」
 溜息混じりに言う由乃さまの隣では、祐巳さまがうんうん、と頷いていた。
 そんな二人の様子に、乃梨子は瞳子や菜々ちゃんと顔を見合わせた。二人とも、乃梨子と同様に戸惑いの表情を浮かべている。
「――お姉さま、緩んでいるとは?」
 三人のつぼみを代表して、菜々ちゃんが由乃さまに尋ねると、由乃さまはそれはもう嘆かわしげな溜息を吐いた。
「自覚がないのね、菜々。良い、一昨年の蓉子さまたちが薔薇さまだった時代、そして昨年の祥子さまたちが薔薇さまだった時代。ちょっと思い出しただけでも、明らかに今年の山百合会には威厳がないわ。緩みきってる。もう、ダメダメ」
 首を振る由乃さまに、やっぱり祐巳さまが「そうそう」と頷いていた。
「原因は何なのか――私と祐巳さんで考えた結果、一つの結論に辿りついたわ」
「それは何なのですか?」
「それはね、菜々。この山百合会には――ボケが多すぎるのよっ!!」
 ズビシッと菜々ちゃんを指差して、由乃さまが声高に言い放った。
「まず志摩子さん! ポワポワし過ぎ! 天然ボケもいい加減にするように! 乃梨子ちゃん、リリアンの常識に不適合すぎ! い〜加減慣れなさいエセ常識人! 瞳子ちゃん、問題外! 髪型がボケだし、なによりその色ボケ! 春はもう終わったのよ! 菜々、あんたは分かっててボケを追及してるでしょう!? 一番性質が悪いっ!」
 ビシッビシッビシッと順に指を突きつけつつ、由乃さまが叫ぶようにして言い放つ。
 志摩子さんはにこにこと、瞳子は顔を真っ赤にして、菜々ちゃんはにまにまと笑いながら、由乃さまの断罪を聞いていた。ちなみに乃梨子はポカーンである。
「ここまでボケが揃って、何が威厳よ! そこで私は祐巳さんと考えた! そう、ここは私たちが鬼にならなくちゃダメなんだ、と!」
 両手を広げて熱弁を奮う由乃さまの隣で、祐巳さまが厳しい表情でうんうん頷いている。
「これからは、厳しい山百合会で行くわよ! ボケ禁止! ボケたら容赦なく、私と祐巳さんが鉄拳制裁するから、覚悟しなさいっ!」
 うおおお、と拳を突き上げる由乃さまに合わせて、祐巳さまが「おーっ!」と手を突き上げる。
 しばしポカーンと二人の薔薇さま――いやもう、信じられないけど――を眺めていた乃梨子は思った。
 これは、なんだろう。
 盛大な……ボケだろうか?
「……まぁ、素敵ね」
「天誅ー!」
 ほわん、と笑みを浮かべた志摩子さまを、由乃さまが拳でごっつん、と叩く。
「その価値観が既に天然ボケなのよ志摩子さんは!」
「ご、ごめんなさい……」
 由乃さまの迫力に志摩子さんが涙目で謝る。
 乃梨子は両隣で事態を見守っている二人の肩に、手を置いた。
「……瞳子、菜々ちゃん。ボケには天誅らしいわよ」
「そうですね♪」
「わ、分かりましたわ……」
 菜々ちゃんが勢い良く、瞳子が躊躇いがちに立ち上がる。
「ジーク・山百合ー!」
「ジーク・山百合ー♪」
 妙なシュプレヒコールを挙げている由乃さまと祐巳さまに――


 天誅が、下った。


 桜の花が散り、並木道の緑が濃くなり始めた頃。
 山百合会の未来を憂いながら、涙目の志摩子さんの頭を撫でつつ乃梨子は思う。


 山百合会……ダメかもしんないなぁ……。


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