「……この家ね。」
私は水野蓉子。現在大学一年生だ。
私は今、とある家の前にいた。というのも、先日、久しぶりに聖に会ってこんなやりとりがあったからである。
「やっほー、蓉子。久しぶり〜」
「相変わらずなのね、貴方は。」
「蓉子も相変わらずね。うん、よかったよかった。」
「…何がよかったのよ」
今、私は聖の私室と化しつつある加東さんのお宅にお邪魔していた。
「こんにちは、水野蓉子さん。」
「こんにちは、加東さん。ごめんなさいね。聖が迷惑をかけて」
私が謝ると、加東さんは苦笑する。
「いいわよ。お互い様だし。」
「そうそう。遠慮なんていらないって。」
「「貴方は遠慮しなさい!」」
私と加東さんが同時に怒鳴ると、聖は肩をすくめて小声で「蓉子が二人いる……」とつぶやいている。
「それで、聖。話って何なの?」
いつまでも加東さんに迷惑をかけてはいけないので、さっさと本題に入る。
私に急かされた聖は、白バラコーヒーを一口飲んでから話始める。
「あのね、今、家庭教師探してるの。蓉子、家庭教師やってくんない?」
「は?」
いきなり結論から入られた。急かした仕返しか?
「なんで、私が家庭教師なのよ?しかも、誰を教えればいいの?まさか、貴方じゃないでしょうね?」
「もちろん、私じゃないよ。」
「じゃあ、誰よ?」
「私の知り合いに頼まれたんだけどね、断ったら、せめて家庭教師が出来る有能な人を紹介して欲しいって頼まれて。」
なるほど。聖は本来は人見知りの激しい一匹狼だから、断ってしまうのは分かる。だが……
「なんで私なのよ?」
そうなのだ。私以外にも江利子…は除外して(性格破綻者だから)、加東さんもいるはずだ。
「江利子はさぁ、あのデコだから除外。カトーさんには頼んだんだけど都合がつかないって断られた。」
「……だから私なのね?」
「そうそう♪だから、お願い、蓉子!」
聖が手を合わせ頭を下げる。そんな必死(そう)な様子から、結局聖には甘いのよね、と思いつつ
「いいわよ、聖。」
「えっ?ホント?ありがとう、蓉子!」
引き受けたのである。
「よし!」
私はいまいちど気合いを入れる。今日は初日なのだから、気を引きしめていかねば。
ピンポ〜ン
「は〜い」
中から声が聞こえる。
「家庭教師ですが。」「あ、はい。今開けますね。」
扉が開かれる。と同時に、扉を開いた人物―小林くん―は固まっていた。