【851】 悲しみにさようなら  (ROM人 2005-11-13 22:05:36)


Ver.2の最初にこれを書くのもなんですが……(w
「悲しみにさようなら」というタイトルで思わず書いてしまいました。

【No:622】「笑えない明日」から始まる、がちゃSレイニーダークルート(仮称)にまつわるお話です。
【No:728】「雨上がり妹を乃梨子に」で終わりの予定だったんですが……これで多分このシリーズで思い残すことはないと思います(^^;

※この話は琴吹 邑さんが「このセリ掲示板」のNo.10で書かれた「Resurrection」ともリンクしています。
……というよりも、あの作品を読ませてもらってこの作品を書きたくなったんですけど。


【諸注意】
※この話は、【No:622】「笑えない明日」の時点で最悪のどん底なシナリオとなっています。
暗い話で、原作登場人物の死などがあります。
なお、この話はあくまでがちゃSレイニーシリーズから妄想した三次創作のような位置づけなのでその点ご注意願います。





 暑い夏もすぎて、季節は秋と呼ばれる時期となった。
 夏の名残も、随分と少なくなっている。
「また、ここに来ていたのね」
「……はい」
 たくさんの墓標が立ち並ぶ、広大な墓地。
 その中の一つの前に二人の姿が並んでいる。
 墓石には「松平」の文字。
 まわりの墓よりも数倍の立派さと存在感を持ったその墓に、真新しい真っ赤な薔薇の花が生けられている。
「乃梨子ちゃん……妹が出来たそうです」
「そう……」
 立ち上る線香の煙に包まれながら、二人は手を合わせる。
 無言の刻がしばし流れる。

「今日、私の夢に瞳子ちゃんが出てきたんです」
 じっと手を合わせていた彼女はそう言って顔を上げた。
 彼女は私の大切な妹。

 リリアン女学園の高等部を卒業しても、彼女が私の大切な妹であることには代わりはない。
 私はリリアンを卒業した後、外国へ渡った。
 笑顔を無くした妹を残して、薄情な姉と思われるかも知れないけれどそれはどうしようもないことだった。
 小笠原の跡継ぎとしての責任が私の肩に重くのしかかっていたのだ。
 いや、違う。 私は逃げたのだ。
 笑顔を無くしてしまった妹にどう接していいのかわからずに、触れてしまったら壊れてしまいそうで恐かったのだ。
 祐巳はリリアンを卒業した後、大学へは進まずに父の経営する設計事務所で事務をやっていると聞いていた。
 昨日、一時帰国を果たした私は、何より先に祐巳と会いたいと祐巳の家へ向かった。
 そして、祐麒さんに祐巳の行き先を尋ねた先がここだった。

「瞳子ちゃん……にっこり笑ってました。 蔦子さんにもらったあの写真みたいに。 あんな瞳子ちゃんの顔……私あんまり見たことがなかったんですよね」
 祐巳の言うあの時の写真とは、学園祭の時の写真だった。
 若草物語のエイミー役の衣装を着たまま、学園の中を走り回った二人。
 あの時の二人を見た誰も、今のこんな結末を想像してもいなかっただろう。
 たくさんの障壁を乗り越えて、きっとどの姉妹よりも仲睦まじい姉妹になったと思ったはずだ。
「瞳子ちゃんと姉妹になっていたなら、あんな笑顔を沢山見ることが出来たんでしょうか?」
「そうね」
 そうなっていたら、きっと毎日がどんなにか楽しかったことだろう。
 祐巳の姉である私がヤキモチを焼くくらい、二人は仲の良いところを見せてくれたはずだ。
「ねえ、祐巳……。 私と一緒に来ない?」
 私は、祐巳にそう告げた。
 『一緒に来て欲しい』そう告げるために、私は日本に戻ってきたのだ。
 祐巳の顔に笑顔を取り戻したい。
 祐巳の顔から笑顔を消してしまったあの事件は、私のせいでもあるのだから。
 どんなに時間がかかってもいい。
 包み込んで守るのが姉というなら、私はあの時包み込むことも守ることも出来なかった。
 だから、もう一度……。


「……ありがとうございますお姉さま。 でも、私は此処(日本)でもう一度やり直してみようと思っています」
「えっ……」
「夢の中で、瞳子ちゃんに怒られたんです。 『おめでたい祐巳さまらしくありませんよ』って」
「……祐巳」
「一年、ブランクが出来ちゃいましたけど……私、リリアン女子大に進みます」
 そこで、もう一度やり直してみたいと祐巳は言った。
「お姉さまに甘えてしまったら、多分私はダメになっちゃうと思うんです……そうしたら今度こそ瞳子ちゃんに愛想つかされちゃいます」
 そして、まだどこかぎこちなさの残る笑顔。
 でもそれは、久しぶりに見た愛しい笑顔だった。
 祐巳も前を向いて歩き始めた。
 頼ってもらえない寂しさは残るけれど、それ以上に私の心は祐巳の笑顔で満たされた。

 帰ろう。
 そう、祐巳が自慢できる姉で居続けるために。
 私は静かに祐巳を抱きしめると、そう誓った。



 FIN

―――

そう言えば、祐巳sideの救いが無かったなと今さらながらに思ってました。
「いい加減、このシリーズ掘り起こすなっ!」って思ってる方も多いと思われますが、
多分、これで終わりだと思いますのでどうかご勘弁を。


【レイニーダークルート(仮) まとめリンク】

【No:622】「笑えない明日」 −ROM人
     ↓
【このセリ掲示板: No:3】「悲しみの別れ 〜笑えない明日 〜」 −琴吹 邑さま
     ↓
【No:728】「雨上がり妹を乃梨子に」−ROM人
     ↓
【このセリ掲示板: No:10 】「Resurrection」 −琴吹 邑さま
     ↓
【No.851】 「悲しみにさようなら」−ROM人


一つ戻る   一つ進む