Y.さんの書かれた【No:816】「マリア象桂さん前途多難」の続きを書いてみたりしようと思います。
リレーという事なので、最後は投げっぱなしで終わると思うので、
続けてみたい人はよろしくです。
☆
「んー。 やっぱり、人間の体はいいわぁ〜。 あの娘に返すのがもったいないなぁ」
リリアン女学園建設と同時に作られた古いマリア様の石像。
それが一般的な私のイメージだ。
でも、今は違う。
長い年月を経て、乙女達の祈りが私という人格を生み出した。
毎朝、毎夕、様々な祈りを受け止めてきた私は、ある種の霊力を持つことが出来た。
ただの石像でしかない私は少女達の願いを叶えることなど出来はしない。
ずっと見守り続けた日々だった。
必死に祈り続けていたあの娘は、突然姿を見せなくなった。
また、卒業してずいぶん経ってから教師として戻ってきた娘も居た。
一つ一つみんな違う顔を持ち、いろんな願いを持っていた。
たくさんの姉妹の契りも見届けた。
そう言えば、この娘もお姉さまがいたんだっけ。
とりあえず、その場でくるりと回ってみる。
動けるって素晴らしい。
ただ見てるだけなんて、もううんざり。
それに、一度この制服着てみたかったのよねー。
「桂? そんなところでくるくると回って何をしているのかしら」
ふと、背後から声がかけられた。
えっと、この子は……この娘のお姉さまだったわね。
「あ、ごきげんようお姉さま」
好都合よね、姉だと知っていれば名前知らなくてもぜんぜん平気なんだから。
とりあえず、お姉さまと呼んで話を合わせておけば問題ないし。
「まったく、こんな場所でくるくる回っていたらここを通る人達の邪魔になるじゃないの……」
そう言われてまわりを見てみたら、すでに運動部の生徒達が登校してくる時間になっていた。
「ほら、桂もマリア様にお祈りをすませてしまいなさい」
そう言って、桂ちゃんのお姉さまは何事もなかったように、私の代わりに据えられている象の像に手を合わせている。
つーか、誰もその光景に疑問を抱かないのか?
普通に手を合わせて、何事もなかったように去っていくよ……。
こいつら、私の代わりにスーパーマリオの像を据えて置いても完璧にスルーしそうで恐い。
とりあえず、私は私の代わりに据えてある象の像に手を合わせると姉についていった。
「あら、桂さん何処へ行かれるの?」
昇降口で姉と別れた私はとりあえず、二年生のクラスへと歩いていった。
そう言えば、私は桂ちゃんが何処のクラスだか知らなかった。
元々、存在感薄いのよね……この子。
だから、簡単に体を乗っ取れたといえばそれまでなんだけど。
「あ、志摩子さん。 ごきげんよう」
この子は印象が強いわ。
やたらと仏臭がする割に、根強いキリシタン。
お寺の娘なんだっけ?
一見、洋風の外見なのにねぇ。
前に一度、この娘に乗り移ろうとしたら酷い目にあったわ。
彼女にはかなり強力な守護霊がひっついてて……思い出すだけでも恐ろしいわ。
「なんか、今日の桂さん変よ?」
教室に入るなり、自分の席がわからなかったり、
話しかけてくる生徒の名前がわからなかったり。
いえ、私はちゃんとリリアンに通う生徒全員をちゃんと見守ってるんだってば。
ほら、例えば印象が薄い子とか、私に祈るときって別に自分の名前頭に浮かべてから祈ったりするわけじゃないじゃない。
だから、一緒にいる姉妹がお互いのことを祈ったりする時じゃないと名前ってわからないのよ。
そうすると、当然姉妹の居ないこの名前は結構わからない場合もあるのよ?
居眠りしていたり、ぼんやり他のこと考えて上の空だったりじゃないのよ? 本当よ。
この志摩子さんの場合は、ずっと自分の家のことで悩んでたみたいだし、一緒にいる妹が頭の中志摩子さんとのあんな事や、こんな事ばっかりだから印象に残りやすかったのよ。
そう言えば、この子の姉もやっかいな性格してたわねぇ。
あ、授業が始まった。
この先生、ここの卒業生ね。
あの頃はお姉さまべったりで、姉妹愛が行き過ぎてて本気で将来を心配したけど最近じゃちゃんと男性の交際相手が居るのよね。
あの頃、私に祈っていた内容生徒にばらしたら面白いことになりそうね。
しっかし、眠くなる授業よね。
いいか、眠っちゃっても。
どーせ、私が困る訳じゃないしぃ。
ちょっと寝たぐらいで桂ちゃんに体を取り戻される様なこともないでしょう。
……zZZ
「ちょっと、桂さん……桂さん……もう、お昼よ」
「ほぇ? 志摩子ひゃん」
見ると、志摩子さんが困ったような顔で私を見つめていた。
「もう……一時間目からずっと寝て居るんだもの。 先生方カンカンに怒っていたわよ」
あちゃー、気持ちよすぎて思いっきり爆睡しちゃった。
「ほら、涎」
見ると、とりあえず開いて置いたノートの上が大洪水。
水性のペンで書いた文字は見事に滲んで読めなくなってしまっていた。
まっいっか。
どーせ、マリア像にテストも勉強も関係ないしー。
「早くしないと、お弁当食べる時間無くなってしまうわよ」
志摩子さんはそう言って、お弁当の包みを手に教室を出ていった。
多分、また妹と一緒にお昼の時間を過ごすのだろう。
さて、桂ちゃんはいつもはどうしているのかなっと。
私はさりげなく、桂ちゃんの鞄の中を探ってみた。
お弁当は入っていないようだ。
ということは、パンを買って食べるのね。
私はお財布を持って、パンを買うためにミルクホールに向かった。
☆
うーん、お腹一杯。
なんだかお財布の中のお金が全部無くなっちゃったけど、まあ良いよね。
パンをあるだけ買い占めてみんな食べちゃった。
え? カロリー取りすぎ?
私、マリア像だから全然へーき。
それに、私の体じゃないしー。
おいしいって幸せよねー。
そんなこんなでお腹一杯でやっぱり午後の授業もお昼寝タイムでした。
志摩子さんは、心底呆れた顔をしてたけど。
クラスメイト達も「テスト前の大事な授業で居眠りなんて余裕たっぷりね」とか言ってた。
なんでも、テストに出る重要な所のネタばらしを教師がしたとかしないとか。
まあ、私には関係ないけどさ。
さーて、次は部活、部活っと。
やっぱり、青春といえば部活よねー。
えへへ、一回やってみたかったのよねー。 テニスってやつ。
………………………
……………
……
☆
桂です……。
どうも一週間ほど、体を乗っ取られていたようです。
期末試験が目前に迫っています。
試験範囲も、何もかもわかりません。
おまけにノートは涎の染みだらけで、全て再起不能です。
クラスメイト達の視線もなぜか冷たいです。
お財布の中にお金がありません。
貯金箱の中のお金も、通帳にあったはずのお金もすっかり消えてしまっています。
どうやら、みんなあのマリア像が下ろして食べてしまったようです。
体重計に乗ったらビックリでした。
苦労してダイエットに励んでいたはずなのに、ゲッ……ってくらい増えてました。
部活もようやくレギュラーになったのに、下ろされていました。
おまけに、お姉さまにも何をしたのかわからないけどずっと口をきいてくれません。
授業態度の悪さで親が呼び出しをくらいました。
お小遣い、当分無しだそうです……。
そうそう、その上勝手に妹が出来ていました。
松平瞳子ちゃんです。
無理矢理、首にロザリオをかけて妹にしたらしいです。
そのせいか、祐巳さんが口をきいてくれなくなりました。
それどころか、明らかに敵を見るような冷たい視線を私に向けてきます。
リリアン瓦版にも色々書かれてしまい、みんな冷たい目で私を見ています。
祐巳さんから無理矢理瞳子ちゃんを奪い取った悪者という扱いのようです。
今日も、靴箱にカミソリレターが届き、上履きの中に画鋲が仕込まれていました。
なんで、私……こんな目にあうのでしょう。
リリアンの生徒として清き正しい生活を送っていただけなのに……。
あのマリア像は「また体貸してもらうからね」と言っていました。
マリアどころか悪魔です……アレは。
確かに、祐巳さんにはこれ以上ないってくらい私のことを認識してもらえました。
最悪の形で。
地味すぎると言われた私は、薔薇の館の住人と並ぶ有名人になれました。
これも最悪の形で。
……誰か、あの悪魔を退治してください。
私にどうか平穏な日々をお返しください。
テニス部で汗を流し、お姉さまとのんびりとほんのりあたたかい時間を共有し、
ごく普通のリリアンの生徒としての幸せな時間を……。
ああ、また私の意識が暗闇に落ちていく……。
また、あいつが私の体を好き勝手に弄ぶ……。
誰か、助けてください。
――――――
ROM人の後書き。
可愛そうな桂さんを誰か救ってあげてください。
こんな話にしちゃってごめんなさい >Y.さん