「令ちゃん、お昼まだー」
「由乃ぉ〜大掃除手伝ってくれないなら自分の部屋に戻りなよ」
「えー、やだよー。暇なんだもん」
終業式も終わり、冬休みに入ったある日。年末のお掃除に勤しんでいる・・・んだけど、由乃が邪魔。
自分の部屋の掃除は小母さんに手伝って貰って済ませてるからって、忙しい時に遊びに来ないで欲しいなぁ。
「いつもなら早めに済ましてて大掃除なんてやんないのに。今年はどうしたの?」
私の机に腰掛けて足をパタパタさせてるのは可愛いけど、床の埃が舞い上がってるんだってば。
「忙しかったのよ。山百合会に優先入試の勉強に剣道部に道場にデート・・・げふんげふん、とにかく、忙しかったの」
「ふーん、谷中さんとこのお坊ちゃんと仲良くやってるんだ。
ねぇ、何これ?」
由乃はぴょこんと飛び降りると、机の引き出しを開けて中を漁り始めた。
「ちょっと、勝手にひとの机開けないでよ」
「なによ!ちょっとくらいは手伝って上げようと思ったのに。令ちゃんのばか!」
引き出しの中身を手当たり次第に投げ付けてくる。せっかく片付けたのに、やり直しになるじゃないの。
と、由乃が投げ付け床に落ちた物の中かに、丸めた布の固まりがあった。
「ん?あーっ!これそんな所にあったんだ。うわぁ、懐かしいなぁ」
拡げて見るとそれはそれは懐かしい私のお宝だった。
「なに?真っ赤な布に金の字?」
黄色い布を「金」の字に切り抜いて、ひし形の真っ赤な布地に縫い付けて、紐で首にかけられるようにした物。
所謂「金太郎さんの前掛け」というやつだ。
「私が初めて作ったものだよ。金の字の縫い目なんかガタガタでしょう?
でもね、必死で作ったんだよ。まだ小さかった由乃のために」
由乃は首を傾げてるけど、随分と昔のことだから憶えていないのかもしれないわね。
「私?なんで私が??」
「あー、覚えてないかな?由乃がね五月人形見て欲しがったの。金太郎さんの前掛け。
男の子の物をお母さんたちが作ってくれるわけも無かったから、私がこっそり作って由乃にあげたんだよね。
それがこんな所から出てくるなんてねぇ・・・」
前掛けを手にしても思い出せないみたいで、縦にしたり横にしたりしながら悩んでる。
「うーん、昔の私はそんなことやってたのか・・・さすがに恥ずかしいわ」
「ま、そのおかげで由乃が元気になったと思えば、良い思い出よ」
そう、この前掛け着けてる小さな由乃可愛かったなぁ。
本当の金太郎さんみたいに裸に前掛け一つ。
あー、もし今の由乃が着けてくれたら・・・。
『ねぇ、令ちゃん見て・・・』
もじもじと恥ずかしそうな由乃萌えー!
控えめな胸を控えめな布地で隠す姿が激しくはぁはぁですよ!
『あーん、胸しか隠れないよコレ』
って、あぁ布の下は生まれたままの姿ですか。眩しいよよしのぉん!
『あんまり見ないでぇん』
可愛がってあげるよよしのぉぉぉ!
「・・・ちゃん・・・令ちゃん!こら!支倉令!」
「あぁん、可愛いよ由乃ー!」
「うわっ!抱きつくな!」
ばしっ!と大きな音がして頭を横から殴られたような衝撃が来た。
「おぶっ!・・・はっ!由乃、私なんで竹刀で殴られてるの?」
「令ちゃんが思い出し笑いしてたから見てたら、顔真っ赤にして鼻血垂らしながら妄想してるから起してあげたのよ。
で、私がどうしたって?」
凄みのある笑みを浮かべた由乃が竹刀を床に突いて仁王立ちしている。
怖い!めちゃくちゃ怖い!
「ひっ!由乃さん、そそそそそれはですね、話せば長いことながら」
「じゃあ話さなくていい。どーせ私にその前掛け着けさせようとか考えてたんでしょ!
エロ妄想に耽るとは鍛錬が足りーーーん!天誅!」
「いやーーーーーっ!!」
目が覚めると部屋中が返り血で染まっていて、血だらけの竹刀が私の傍に転がっていた。
あぁ・・・大掃除やり直しなのね・・・トホホホ。
**********
年が明けて始業式の日。
薔薇の館でみんなでお茶会を楽しんでいるときに、つい前掛けの話を漏らしてしまった。
私がエッチな妄想に耽っていたことを暴露してしまったなんて恥ずかしいわ。なんて思っていると。
「祐巳、今から私の家に来なさい。さ、帰るわよ」
「へ?は?お、お姉さま??」
「お待ちください、祥子さま!私も一緒に参りますわ」
と、紅薔薇姉妹揃っていきなり帰って行った。んー、どうしたんだろう?祥子ったら。
「乃梨子、帰りましょう。私の家にいらっしゃい。
おかっぱ頭の乃梨子ならよく似合うと思うわ」
「え?あの、志摩子さん??」
あれ?白薔薇姉妹まで、急に?一体何事?・・・首を捻っていたら。
「・・・令ちゃん。余計な事喋ってくれたわね」
あの、由乃さん?
「祐巳さんと乃梨子ちゃんがお持ち帰りされちゃったじゃないのよ!!」
えぇーっ!もしかして祥子と志摩子、それに瞳子ちゃんが祐巳ちゃんと乃梨子ちゃんに金太郎さんの前掛けを着せようとしてるわけ?
しかも私の話を聞いて「裸前掛け」をやろうとしてるの?ってもう手遅れ?
「そう、令ちゃんが悪い!折檻ね・・・」
あの、由乃さん、その手の釘バットはどこから?そんな大上段に振りかざして・・・