【907】 二人で血が萌えて  (朝生行幸 2005-11-24 12:55:35)


 これは、【No:784】の続編みたいなものです。
 さらに、柊さんの【No:787】及び【No:788】を読んでおくことをお勧めします。
 また、ちょっと『いやん』で『あはん』な内容ですので、そーゆーのが苦手な方は読まないほうが良いと思います。



「あ痛!?」
 思わず額に手をやりながら天を仰いだのは、黄薔薇さまこと支倉令だった。
 一昨日はニ年生、昨日は一年生、そして今日は、三年生の健康診断日。
 そのために必要なポンチョがカバンに入っているのを、昨夜しつこいぐらいに確認したというのに、今入っていないのはどういうことか。
「ったく…」
 毒づく令。
 恐らくは、由乃の仕業だろう。
 昨夜の夕食後、令の部屋を訪れた、従姉妹であり制度上の妹であり黄薔薇のつぼみの肩書きを持つ島津由乃が、ポンチョを忘れた紅薔薇のつぼみ福沢祐巳と、一つのポンチョに二人で入る、所謂二人ポンチョをやっちゃったと、恥ずかしさ半分、嬉しさ半分で語っていたのだから。
 多分、令が風呂に入っている時か今朝の朝食時に、同じ恥ずかしさを体験させたいがために取り除いたに違いない。
「参ったなぁ…」
 溜息を吐きながら、辺りを見回す。
「どうしたの令さん?」
「あ、いやいや。実は、ポンチョを忘れちゃってね」
「まぁ?じゃぁどうするの」
「それを今考えてるんだけどね」
 令がいる三年菊組は、他のクラスに比べて、比較的背が低い生徒が多い。
 実際にこのクラス、身長175cmの令が、頭一つ飛び抜けている状態だ。
 こうなったら、誰かさんの思惑通り二人ポンチョをせざるを得ないのだが、釣り合うクラスメイトが居ないのだ。
「仕方がないか…」
 腹を括った令は、隣のクラスに赴いた。

「すまないねぇ祥子」
「貴女らしくない失敗ね」
 令は今、隣の松組に所属する、同僚であり親友でもある紅薔薇さまこと小笠原祥子のポンチョに入っていた。
 三年生の場合、一年生や二年生に比べ診断内容が少ないため、2クラス同時に診断が行われる。
 同時に行われる隣組が松組だったのは、令にとって幸いだった。
 祥子の身長は170cm、松組には、彼女以外にもバレー部員やバスケットボール部員等背が高い生徒はいるが、やはり裸に近い格好での接触には、親しい人に頼るのは必然だった。
「忘れたのは事実だけど、私のせいじゃないんだ」
「どういう意味?」
「昨日の祐巳ちゃんと乃梨子ちゃんの会話聞いてた?」
「ええ、由乃ちゃんと瞳子ちゃんが、それぞれ一緒にポンチョに入ったって話でしょ?」
「由乃が、私にもさせたいらしくてね」
「…なるほど。まんまと乗せられたってことね」
 祥子の髪から漂う芳香を楽しみながら、しばらくえっちら歩いているうちに令は、彼女の耳が少し赤くなっていることに気が付いた。
 言うまでもないが、令は現在、祥子の背中に抱き付くような形になっている。
 祥子の耳元に令の鼻息がかかる度に、彼女がほんの少しだけ身体を震わすのだ。
「どうしたの?耳が赤いよ」
「ば、バカね、何を言ってるの」
 令の囁きに、動揺したように答える祥子。
 耳元どころか、首筋まで真っ赤になる始末。
「ふふ…」
 万事控えめな令は、普段は祥子にイニシアチブを取られっぱなし。
 自分の性分だからそれはそれで良いのだが、しかしこんな機会をみすみす逃すほどお人よしでもない。
「ふー」
「きゃん!」
 祥子の耳に息を吹きかけた令。
 普段の凛とした態度とは裏腹に、妙に可愛い小さな悲鳴をあげた祥子。
「ちょ、ちょっと令、止めてよね」
「うん、ゴメンよ」
 まるでホストのようだ。
 更に、祥子の背中に身体を密着させ、今度は大胆にも、耳たぶに軽く噛み付く。
「あん!」
 祥子の足が止まった。
「どうしたんだい?」
「あ、貴女ねぇ。あ…」
 力を入れてぎゅっと強く抱きしめれば、切なそうな声を上げて、弱々しく振りほどこうとする。
 令が本気で抱きしめれば、祥子には振りほどくことなど不可能なので、本気ではないのだろう。
「急がないと遅れるよ?」
「…え?ええそうね」
 半ば呆然としていた祥子を促し、再び歩き出す二人。
 サラサラ流れる綺麗な髪の祥子。
 ロングヘアーが似合わないと自覚している令からすれば、実に羨ましい話だ。
 指で襟元の髪を掻き分け、露になった白い首筋にチュッと小さな音を立てて口付けすれば、
「うぅん!」
 祥子の身体がビクリと震えた。
「れ、令!いいかげんにして!」
「祥子、綺麗な肌をしているね」
「そ、そう?ありがとう…」
「張りがあってすべすべしてて、きめ細やかで白くって」
 言いながら、ポンチョで隠れた祥子の身体を、両手でまさぐりだす令。
「肌だけじゃないよ、祥子。羨ましいよ、顔も髪もスタイルも、何もかも」
「ダメ、お願い…」
「マリア様は不公平だよね。どうして祥子ばっかり贔屓にするんだか」
「やだ…」
「食べてしまいたいぐらいだよ」
「も、もうやめて…」
「うんやめる。さぁ先を急ごう」
 ガク。
 思わず膝が崩れそうになった祥子。
 その変わり身の早さはどうだ。
(わざわざポンチョに入れてやってるというのに、よくも散々からかってくれたわね。ちょっと期待していたのは内緒だけど)
「令?」
「何?」
 カチーンときていた祥子、ニッコリ笑って顔を向けると、
「エイ!」
 思いっきり、令のつま先を踵で踏みつけた。
「!?」
 不意に訪れた激痛に、声にならない叫び声を上げた令、涙目になりながらも、逃げ出すことができないので、ひたすら我慢するより他ないのだった。

「──ということがあったのよ由乃ちゃん」
「ちょっと祥子!内緒って言ったでしょ?」
「へぇ〜〜〜〜、そんなことしたんですか。そりゃ確かに令ちゃんのポンチョを抜き取ったのは私ですけど…、ふ〜ん?」
 底抜けに座った目付きで、令を睨む由乃。
「いやあのね、これには深いようで浅く、重いようで軽い理由があってね?」
「令ちゃん?声で聞きたくはないわ。身体に直接聞きたいの」
「え?いや、まさかアレを…?」
 オタオタしている令に、憐憫と蔑みの視線が集中した。
「帰るのが楽しみね、令ちゃん?」
「いや〜〜〜〜!それだけはやめて〜〜〜〜!」
 薔薇の館に、絶叫が轟いた。

 その後、令がどうなったのか、由乃しか知らない。


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