読んでいただける前に、この作品の注意点を述べさせていただきます。
注意1 言葉使いがちょっとワイルドな表記があります。
注意2 ていうかみんなワイルドです。(変態さんです)
注意3 長いです。(約20KBちょっとあります)
内容は壊れ&下品な表現が使われていますので、そういうのが苦手な方はすみませんが読まれないで下さい。
ようやく夏の残暑も去ろうかという9月の終わりごろのある日の昼休み、祐巳は由乃さんと何気ない会話を楽しんでいたりした。
「祐巳さん、昨日の「鬼軍曹」見た?」
「うん、見た見た。軍曹、ついにやっちゃった、って感じだったよね」
「まあいつかはやるかと思ってたけどねー」
祐巳と由乃さんが話しているのは、今女子高生の間でブレイクしてるTVドラマ「渡る世間は鬼軍曹」についてだった。そのストーリーを簡単に説明すると、第二次世界大戦を戦っていた通称「鬼ヒゲ軍曹」こと山田太郎軍曹率いる小隊が、落雷に巻き込まれ現代日本にタイムスリップしてはっちゃける、というまあよくありがちの恋愛ものだったりする。
「いよいよ次週で最終回かー」
「そうだね、確かタイトルは「下せ天誅!!さらば!鬼ヒゲ小隊」だったっけ?」
「そうそう、次週テロップに軍曹率いる小隊が国会に『この○▲民が!!』って叫びながら襲撃をかける姿が映ってた!」
「わあ、早く次週にならないかな!」
二人はもう秋を感じさせる心地よい風を浴びながら楽しく会話を続けた。
話題の内容は日頃どんな番組を見ているかに移り、どんなスポーツ、どんなバライティ、どんなクロマティを見ているのかと進んでいき、そして由乃さんが次にあるジャンルを上げたとき祐巳の口の動きが止まることになる。
「じゃあ、祐巳さんはどんなクイズ番組見るの?」
(うっ、クイズかぁ・・・そういえば最近みてないなぁ)
正直、祐巳はあんまりクイズ番組は見ない。いや、正しくは好きではないといった方が正しいだろう。
昔はそうでもなかったのだが、最近、家族でクイズ番組を見ているとき、祐麒が「どこの電波?」と評した答えを祐巳が口にするたびに、お父さんは「祐巳はお母さんに似たんだなあ」といった後に、目にも止まらぬ電光石火のスピードでお母さんが「何言ってるのよ、お父さん(強調)に似たのよ」と表情は笑いながらも目は全然笑ってないその顔で即座に否定するのを見せられてると悲しくなって嫌いになった。
「うーん、クイズはあまり見てないかな」
ちょっと考えた後に祐巳が正直にそう答えると、由乃さんはビックリしたように祐巳に返してきた。
「うそ。見てないの、祐巳さん。色々な臓物が出題される「臓物奇想天外」とか、クイズで答えるよりもラスト1分のパネルを力ずくで奪う方が勝ちパターンな「ファイナルアタック!25」とか、色々な国の恥部を暴き出して出題して外交問題にもなった「なるほど・ザ・アナザーワールド」とかいろいろあるでしょ!」
「う、ううん、そんなの見てない。だいたい、そんな食事中の団欒時に臓物なんか見たくないし」
「もう、祐巳さんの感性はだいぶ遅れているわね」
どっちかというと、由乃さんの感性が人とはかなり(間)違った方向にダイヴしてるのではないだろうか、と祐巳は思う。
そのダイヴしてるっぽい由乃さんは、ふう、と溜め息をひとつ着いて祐巳に話しを続けてくる。それがまたとんでもない話だった。
「いいわ、じゃあ祐巳さんにもクイズのおもしろさをおしえてあげる!」
「へっ?」
「へっ、じゃないでしょ。今日の放課後。やるわよ、祐巳さん!」
「な、何を?」
「何を、ってクイズに決まっているでしょ! 祐巳さんにクイズのおもしろさを教えてあげるわ!」
「え、あの、由乃さん?」
祐巳があまりの展開についていけないでいると、由乃さんは祐巳に最終勧告を突きつけてくる。
「じゃあちょっと山百合会のみんなにも言ってくるから、祐巳さんがクイズの真髄が知りたい、って言ってたって」
がたっ、たたたた…
「ちょっ、待って、待って、由乃さーん!! そんなの別にいいってー!!」
祐巳が叫んだが聞こえなかったのかあるいは無視したのか、由乃さんは教室を猛スピードで飛び出していった。…ああ。
そして、その日の放課後。
真っ直ぐに帰宅にしようとした祐巳のその肩に、何者かの手がポンと置かれていたりした。
あまり振り向きたくはなかったのだが、祐巳が振り向くとその先にはやっぱりというかなんというか、そこにはとってもにこやかな顔をした由乃さんが祐巳の目の前に立っていたのだ。ぬう。
「どこへいくのかなあ、祐巳さん?」
そのにこやかな由乃さんの顔は、祐巳にとっては危険のサイン以外に他ならなかったので、とっさに家に帰るための言い訳を試みることにする。
「え、えっと…今日は4時から再放送の「水戸黄悶絶Σ」があるからお家にかえりたいなあ、なんて思っていたりして」
時代劇好きな由乃さんなら、と祐巳は由乃さんに家に帰るため軽いジャブを放ってみた。だが、祐巳のけん制に由乃さんから返ってきたものはジャブどころかストレートがカウンターで祐巳のハートにブレイクすることになる。
「あ、それなら家にサードシーズンまでBOXがあるから大丈夫よ。次の日曜日にでも一緒に見ましょう、祐巳さん」(にこっ)
「ぶっ!!」
(そ、そんなBOXがあるの!? サ、サードシーズン? し、しかも、私ひょっとして全部由乃さんと一緒に見ないといけないの、それ?)
祐巳の人生でも燦然と輝くであろう「やるせない休日の過ごし方」のフラグが立ってしまったことに対して、祐巳がやりきれれない気持ちになっているところに、由乃さんが追い打ちをかけてくるように口を開く。
「だいたいさっき言ったばかりなのにもう忘れたの、祐巳さん? 今日はクイズをやる、っていってたじゃない!」
「あ、あれは、由乃さんが勝手に」
「何、せっかく親友がわざわざ祐巳さんのために骨を折ってあげているのに、親友の心使いを無にするつもり?」
由乃さんの心使いというより、由乃さんは悪魔の使いなんじゃあないだろうか、と祐巳は思わないでもなかったが、そんなことをうかつに言ったら祐巳の骨が折られかねないので、祐巳はあきらめの表情を浮かべ由乃さんに白旗を上げることにした。
「…はい、わかりました」
「うん、わかればよろしい。さあ、いくわよ」
(いったい私はどこに行くのだろう? はあ)
こうして後の祐巳にとって思い出すのもつらい精神切断ウルトラ(につらい)クイズの幕は開けたのであった。
ファ、ファイナルアンサー!!
祐巳は由乃さんに半ば無理やりという形で薔薇の館に連れて行かれると、もうすでにそこには祐巳たち以外の山百合会メンバーが皆揃っていたりした。
祐巳はおどろいた。だって、今日は山百合会でやることは何もなかったはずだから。
て、ことは、まさかみんな? 祐巳はみなが揃ってる理由にそれ以外の思い当たる節がなかったので、その嫌な答えが合っているかどうか確かめるべく由乃さんに確かめることにする。
「ちょっ、由乃さん。まさかみんなに声をかけたの!?」
「あたりまえじゃない。やっぱりこういうのはみんなでやらないとおもしろくないでしょ」
おもしろくない、ちっともおもしろくない。
冗談ではない。どうして由乃さんはこう物事を大きくしたがるのだろうか?
二人が館の入り口でひそひそ話をしていると、少し苛立った声で祥子さまが祐巳たちに声をかけてくる。
「ちゃっと、何ごちゃごちゃいっているの二人とも。だいたい祐巳、仕掛け人のあなたが遅れてどうするのよ、まったく」
「へ?」
気のせいだろうか? なにか今とても聞き捨てならないようなことを聞いたような?
「えっと、お姉さま、誰が仕掛け人なのですか?」
「何言っているのよ、あなたは。今日、由乃ちゃんが昼休みに「今日の放課後、祐巳さんが第一回3薔薇対抗クイズでポン!をやるといってますので放課後は是非薔薇の館へおこしください」と言ってきたわよ。だったら仕掛け人はあなたに決まってるじゃない、祐巳」
ぽん!
今、祐巳の頭から何かが抜けていった。とりあえず抜けていった何かは置いといて、祐巳は慌てて口を開いた。
「し、仕掛けてません、そのようなこと間違っても仕掛けてません! 陰謀です、私の隣にいる人の陰謀です!」
「隣って、あなたのとなりには誰もいなくてよ、祐巳」
「あら?」
その祥子さまの指摘に祐巳が慌てて自分の隣を見ると、さっきまでそこにいたはずの由乃さんがいなくなってた。
祐巳が慌てて仕掛け人を探してみると、いつのまにかその「必殺!仕掛け人」である由乃さんは何事もなかったかのように由乃さんのスカートをめくっていた令さまをタコってたりする。
ドカ! バキ! ボコ! ドコッ!!
ようやく令さまをタコり終わった由乃さんは、祐巳と目が合うと実にすっきりとした笑顔で祐巳に「グッ!」と親指を立ててくれた。
祐巳も嬉しくなって親指を・・・・・・って待て自分。
あぶないあぶない、ついうっかり由乃さんの笑顔に騙されそうになってしまった。
「由乃さん、そんなのはほっておいていいから。ええと、なんかいつのまにか私が発案者っぽくなってるのだけど。随分とインチキ話をみんなに伝えてない、由乃さん?」
「もう、祐巳さんったら、せっかく私が気を利かせてあげたっていうのに」
「それ全然気を利かせると違うと思うんだけど。どちらかというとスパイスが効いてるっていうか、パンチがきいてるっていうか…」
祐巳が由乃さんと押し問答をしているとき、祥子さまが割って入るように2人の会話に入ってきた。
「おだまりなさい、お二人とも。誰が、なんて問題はここまできたらもう関係ないわ。ここで大切なのはメンバー全員が3薔薇対抗クイズでポン!をやるから集まったってこと、つまりクイズをやるってのはみなの総意、これはもう山百合会の決定事項なの」
「でっ、でも、お姉さま!」
祐巳が祥子さまに抗議をしようとすると、今回の悪の元凶が入りもしないフォローを入れてきた。
「そうよ、祐巳さん。みんなを困らせないで」
祐巳としては、行動倫理の5割が人を困らせる成分でできてるっぽい(後の5割は令さまを悶絶させるくらい困らせる)由乃さんにだけはいわれたくない。
祐巳がそう思っていると、背後からゾンビのようにゆらりと立ち上がってきた何かが声をかけてくる。生きてたんだ。
「ま”あ”ま”あ”、ぜっかくみんなごうして集ま”っだのだからやっでびてもいいんじゃない、祐巳ぢゃん」
ぷっ(鼻血の音)
祐巳としては、さっきまで自分の妹のスカートをめくって鬼のようにタコられて顔面がスリル満点のテーマパークのようになっているような人からは言われたくはない。しかもとめどなく鼻血でてるし。
ここで、新たに祐巳を諭さすかのようなほんわかした声が祐巳の方にかけられる。
「祐巳さん、やってもいいんじゃなくて?」
「えっ、志摩子さんってクイズが好きなの?」
正直、それは以外だ。そもそも志摩子さんってバライティ番組なんて見そうになし。
「別に、好きってわけじゃあないけど…でも、せっかくみんなでやるっていって集まったのだから、やってもいいんじゃないかしら」
「うーん」
祐巳の抗議も空しく、どうやら大勢はやってみよう的な空気になってきてる。
(はあ、仕方がない。ちゃっちゃっとやって終わらせてよう)
仕方なく祐巳があきらめのため息を浮かべているところに、ちゃくちゃくとルールのようなものが祐巳の周りで話し合われていた。
ここで簡単にルールを説明すると、紅、黄、白の薔薇姉妹がそれぞれチームとなり、それぞれが交代でクイズを出題して出題されたほうも交代で答えるという真に簡単なものだ。
だいたいルールの方も決まったころにある提案が出されたりした。
「でも、ただクイズを答えるだけって言うのも芸がないわね。なにか罰ゲームでもいれない?」
この祐巳の心臓に優しくない言葉を言ってきたのは、あまり地球と令さまに優しくない由乃さんだったりする。
バツゲームって、由乃さん。正直それは、祐巳としては勘弁して欲しい。ただでさえクイズが苦手なこのタヌキにその提案はいじめにしかならない。
(反対! 絶対反対!!)
祐巳はそう思いながらも、下手に由乃さんに抗議をしたら逆効果になりかねないので黙っている。
しかし、このまま黙っていても事態は進展しない。誰かやんわりと反対してくれないかな、と祐巳が願っているとここで一人の方から声があがる。
「由乃さん、それなら提案があるのだけど」
「何、どんな罰なの志摩子さん」
祐巳は、その声の主が志摩子さんだったことで安心にも似た気持になる。
(良かった、志摩子さんだったら罰ゲームっていってもソフトなやつに決まってる)
よし、路線変更。罰ゲーム反対じゃ無くて、志摩子さんの罰ゲームに賛成しよう。
祐巳がそう思いながら志摩子さんの罰ゲームの内容について聞くことにする。
「罰ゲームは、正解を答えられないたびに、服を一枚ずつ脱いでいく、ってのはどうかしら?」
うんうん、やっぱり志摩子さんの罰ゲームはソフト・・・じゃない!! な、なんじゃそりゃ!!
「ちょっ、志摩子さん!?」
「あら、祐巳さんは自信がないの?」
むろん、自信はある。
そう、自慢ではないが天性の超天然であるこの祐巳が正解を答えるわけなどなく、どんな簡単な問題がこようともその天から与えられた天然ボケをいかんなく発揮する自信が・・・だめじゃん、自分。
ここで、祐巳と志摩子さんの会話を遮るような声がかかる。
「ふざけているの、志摩子?」
その声は祥子さま、って考えてみたら別に祐巳が慌てる必要などなかったのだ。普通に考えれば祥子さまがそのようなことを認めるはずが無い。
だが、その鶴の一声がかかったのにもかかわらず志摩子さんは全然表情を変えてはいない。そしてさらにとんでもないことを続けて口にしたのだ。
「ああ、もちろん祥子さま薔薇さま方がお脱ぎになる必要はありませんわ。ここは私たちの妹、つまり蕾たちがお手つきのたびに服を脱ぐというのはいかがでしょうか?」
「ぶっ!!」
「…祐巳たちが?」
「はい、答えるのは姉妹で交互でやりますが、ペナルティーはあくまでその妹である蕾が受ける、と」
「…なるほど」
「なっ、なるほど、って、おっ、お姉さま!」
「祐巳、あの子たちに生まれてきたことを後悔させてあげましよう。ふふ。
「はっ、早くも、ここに後悔しているタヌキがいます!」
(だ、だめだ。お姉さまはやる気満々だ)
いや、それ以前に志摩子さん。同じ二年生でも薔薇さまな自分だけセフティーなそのルールは酷いと思うぞ。
祐巳が志摩子さんに文句を言おうとした矢先に、どこかから大きな声があがる。
「それ、イイ!!」
どぼぅ!!
だがそんな寝言を聞き逃してもらえるわけもなく、その発言者は自分の妹から容赦ないツッコミをもらっていた。
で、今度はそのツッコミを入れた人自身が志摩子さんに向き合ってたりする。
「ちょっと、自分が薔薇だからって、その不平等なルールは酷いんじゃないの!」
おお、流石は由乃さん。祐巳の言いたいことを全て代弁してくれた。
祥子さまが急に考えるようなそぶりを見せたのでちょっと焦りはしたが、由乃さんがあの様子ならこの話はながれるだろう。
祐巳が安心しているところに今度は志摩子さんが口を開く。
「由乃さん、ちょっとお耳をお借りしていいかしら」
「な、なによ、志摩子さん。いっとくけど納得なんてしないからね」
由乃さんのその言葉を了承と受け取ったのか、志摩子さんが由乃さんに耳打ちを始める。
でもまあ、あの剣幕の由乃さんの納得させることは並大抵ではできないだろう。ふむ、志摩子さんが何を考えているのかは知らないが、あまり由乃さんを怒らせない程度にした方がいいと思うぞ。
「ええとね…祐巳さ…パン・・G・T…チャ・・ス」
「ふむふむ、なるほど! 確かにチャンスだわ!」
気のせいだろうか? 何かとても祐巳のハートを熱くさせる言葉がとびかっているような気がするのだが?
志摩子さんと由乃さんが二人同時に祐巳の方に一瞬顔を見せた後、またお互い顔を向け合いクックックッと笑っていた。
「いいわ、契約成立ね」
(た、企んでる、絶対企んでいるよこの人たちー!!)
この状況は明らかにやばい。祐巳は他に反対してくれそうな人を慌てて探すことにした。 ・・・・・・といっても、よく考えれば現時点で志摩子さん、由乃さん、ヘタレ、祥子さまが賛成もしくはそれに準じているので、あと残っているのはさっきから一言も口を開いていない乃梨子ちゃんだけだったりするのだが。
とにかく、このまま座して死を待つよりはダメ元で攻めてみよう。祐巳は一縷の望みをかけて、乃梨子ちゃんに意見を求めてみることにする。
「乃梨子ちゃんは服を脱ぐだなんて、そんなの本当にいいの?」
祐巳はそういうと、乃梨子ちゃんは祐巳の胸元をチラリと見た後、こう言ってきた。
「祐巳さま、わたし、脱いでも凄いんですよ」(にやり)
乃梨子ちゃんから返ってきた返事は「ダメ元」というより「ダメダメ」だった。
とりあえず祐巳は、乃梨子ちゃんを相手にしないことに決めた。
クイズが始まると、祐巳はもう怒涛の勢いだった。
そう、怒涛の勢いで祐巳の服は剥ぎ取られていた。
「はい、問題。池波先生著、武士道一直線(こんな作品ありません)の主人公、殺助の決め台詞は?」
「ええと、わ、わかんない・・・て、ていうか、その問題って全然一般問題じゃないんじゃあ?」
「ブブー!! じゃあ、令ちゃん。リボンとって!」
「ごめんね、祐巳ちゃん」
「ひゃあ!」
そして、お次は志摩子さん。
「じゃあ、問題。煩菩爺阿寺(ボンボヤージ)にある本堂にある本尊の作者の名前は?」
「そ、そんなのわかるわけないよ! て、ていうかそんなトンデモ寺、本当にあるの?!」
「ええ、あるわ(もちろん大ウソ) ふふ、乃梨子、やっておしまい。あ、パンツはまだよ」
「はい、わかりました。じゃあそのソックスをいただきます!・・・あ、クサ!」
「クサいっていうなー!」
こうして阿鼻叫喚な宴は進んでいき、進むたびに祐巳の身も心も寒くなってゆく。
そうこうしてるうちについに最終問題。祐巳はなんとか耐えた、最後の砦だけは守った。
祐巳はあられもない姿になっても、とりあえずほっとしている。なぜなら次は祥子さまがお答えする番だったから。
なぜ祐巳が安心できるのかというと、祥子さまはこれまで見事に全問正解してくれてたりした。
でも逆の見方をすれば、この自分の情けない姿は完全に祐巳だけのせいだったりする。正直、それはそれで情けないといえば情けないのだが。まあ、頼りになるお姉さまをもったことは幸せだということにしておこう。
ただ、これまでにちょっと祐巳には気になることがあった。気のせいか、クイズが進むにつれ祥子さまの顔が赤くなっていた。それになんだか息が荒くなってきたような気がするような気も。はて? なんでだろう?
「じゃあ、最後の問題いくよ」
おっと、しまった。祐巳は令さまの声に慌てて我に返ってクイズの方に意識を戻す。やはり大丈夫だろうといっても不安は残る。いくら祥子さまでも分からない問題はそりゃああるのだから。
祐巳は令さまから出される問題に集中する。
「・・・・・・日本では紅薔薇と呼ばれ親しまれている薔薇を、フランス語で正式になんと述べるか」
(・・・・・・へっ?)
なんだそれは? 祐巳は目を丸くした。だってそれは祐巳たちにとってはクイズにもならない当たり前の事なのだから。
まさか、何かの引っかけなのか? 祐巳は思わず出題者である令さまの表情をうかがう。
令さまと目が合うと、令さまは祐巳にウインクを返してくれた。それで祐巳は全ての疑問が氷解する。だって、令さまのそのウインクと表情がこういっていたのだから「もう、いいじゃない」って。
祐巳も感謝の意を込め、笑顔で令さまにウインクを返すことにした。
(ありがとうございます、令さま。この借りは今度、令さまが由乃さんに襲われても逃げるのをやめて生温かくそばで見守ってあげますので!) ※結局見殺し
ふう、やれやれ。一時はどうなることかと思ったけど、なんとかお嫁にいける身体は死守できそうだ。
祐巳が安心の溜め息をついているところに、その後ろから二つの悲鳴のような声があがる。
「ちょっと、令ちゃん。なんなのよ、その問題にもならない問題は!!」
「ふざけないでください、ロサフェティダ!!」
(やーい、ざまあみろ!)
その悲鳴のような声はもちろん由乃さんと志摩子さん。その二人は令さまのクイズに内容に文句をいってたりした。でも、それはもう後の祭り。今更出題が変わるなんてことはありえないし、それはこちらとしても認めるわけにはいかない。
(あ、危ないところだった。もし最後の回答者が自分だったり由乃さんや志摩子さんが出題者だったら、祐巳はお嫁にいけなくなってしまうところだったかもしれない!)
まあでも、ここまでくればもう大丈夫。後は祥子さまが分かりきった答えを口にするだけ、それですべてが終わる。
祐巳は安心して祥子さまが口を開くのを待った。
やがて、祥子さまがゆっくりと口を開き祐巳たちにとって当たり前のことを口にする。
「・・・・・・ヘチマよ」
そう、正解である「ヘチマ」・・・・・・って正解ちゃうし!! なんだよ「ヘチマ」って!!
「あ、あの祥子、もう一度いってくれないかな? な、なんか聞きなれない変な単語が聞こえたのだけど」
「あら、その年で耄碌したの、令。いいわ、もう一度いうわよ。正解はズバリ、ヘチマ。ヘチマ・キネンシスよ。どう、正解かしら?」
祐巳が「耄碌してるのはお姉さまの方です! このヘチマ頭!」と叫ぼうとしたが、その前に祐巳の周りから実に嬉しそうな声がかかる。
「あら〜 紅薔薇さま。残念ですけど、本当に残念ですけど、それは不正解ですわ〜」と由乃さん。
「ええ、紅薔薇さま。由乃さんの言う通りで惜しいですけど、本当に惜しいですけど、不正解です」と志摩子さん。
ひょっとしたらこの二人はもう祐巳の親友としては不正解なのだろうか? と祐巳がそう思っているとき、祥子さまが口を開いた。
「そう、それは残念」(あっさり)
祥子さまはちっとも残念そうでない口調でそう言った後、静かに祐巳の方に顔を向けてくる。
「ごめんなさい、祐巳。ちょっとこの出題は、私には荷が重すぎたみたいだわ」
「お、重くない、ちっとも重くない。全然フライ級です、お姉さま。む、むしろヘヴィなのは祐巳の心です!! 底がぬけそうです!!」、
だが祐巳の底が抜けたことなど知ったことがないように、祥子さまはその美しい顔を明後日という名の方向に向けて黄昏ていた。
「・・・・・・あなたの期待に応えられないなんて、私ったら姉失格ね」
「今だけは激しく同意ー!!」
祐巳の心が不条理と言う言葉の意味をかみ締めているとき、ふっふっふっ、という笑い声が後ろから聞こえてくる。
驚いて祐巳が振り向いてみると、そこには生きた不条理たちが祐巳に迫っていたりした。
「さて、それじゃ最後の一枚をいただきますか」と舌なめずりをしている由乃さん。
「そうね、かわいそうだけどルールだから」との言葉とは裏腹に手をわきわきしてやる気マンマンな志摩子さん。
そして、祐巳の前からも、
「ああ、ごめんなさい、祐巳。私のせいで・・・」と恍惚の表情を浮かべている祥子さまが祐巳に迫っていた。
じりじり。
3人がゆっくりと祐巳に対する包囲の間を狭めてくる。
祐巳が、この世界に神も仏もなく、マリアさまはこの哀れな子羊を見てらっしゃらないのか、と思っている、そのとき。
「ちょっと、やめなさいよ!」
と、その3人に鋭い声がかかる。
みなが思わず振り向いてみると、それは祐巳にとってはあまりにも意外な人からの救いの声だった。そこにはまるでいつものヘタレっぷりがウソのような令さまがいた。
祐巳にはその令さまが輝いてみえた。例えるなら、そう、大富豪で革命が起こった後の「スペードの3」みたいな。
(ああ、感謝します。やっぱりマリアさまは見ておられたのですね!)
祐巳がマリアさまに感謝を述べているとき、動きが止まった3人が口を開いた。
「何言ってるのよ、令ちゃん!」
「どうしたのですか、黄色薔薇さま?」
「なんなの、令?」
3人が口々に令さまの真意を質そうとする。ただ、その檄レアな令さまの様子に3人の動きは止まったままだった。
令さまが再び鋭く口をひらいた。
「みんな、みんなちょっと落ち着いて! 祐巳ちゃんが怯えているじゃない!」
祐巳がその言葉に令さまに感謝の視線を送っていると、先ほどの3人が口をごもらせている。
「え、あ、でも」
「・・・・・・それは」
「う、そうね。ちょっと慌てすぎたわ」
(うん、流石令さま。はりぼてみたいだとはいえ、黄色薔薇やっていることはある)
3人の対応をみて、令さまがよしよしといった感じで再度口を開く。
「だからここは、ジャンケンして勝ったものが剥ぎ取れる権利を取る、これでいきましょ」
(こ、このドはりぼて!!)
令さまの言葉を聞いた3人が、実にイイ顔をしながら同意の声をあげる。
「なるほど、それでいきましょ!」と由乃さん。
「それですわ、令さま」と志摩子さん。
「そうね、それしかないわね」と祥子さま。
そして「ちょっと待てい!」という祐巳の声は、何事もなかったかのようにスルーされた。
やはりこの世界には神も仏も無く、マリアさまもこの哀れな子羊を見てなかったのだろう。おそらく神さまと仏様は二人で釣りにでもでかけ、マリアさまはテラスで昼寝でもしているにちがいない。
祥子さまが祐巳の方に顔をむけてくる。
「祐巳、あなたもそれでいいわね」
「いえ、ちっとも」
「祐巳、私を困らせないで」
「そのお言葉、そっくりそのままお返ししていいですか、お姉さま?」
「・・・・・・わかって、祐巳。私だって辛いのよ」
おそらく、お姉さまの辛さと祐巳の辛さの方向性は天と地の開きがあるのではないだろうか?
祐巳がそう思っているとき、後ろからも悲しそうな声が聞こえてくる。
「そうよ、祐巳さん。つらいのはあなただけじゃないのよ。祐巳さんの下着を剥ぎ取れるのはたった一人なのよ!」
「ええ、祐巳さん。私たちの気持ちも察して」
何が悲しくて、自分の下着を剥ぎ取る変態さんたちの気持ちを察してあげないといけないのだろうか? だれかこのやるせない気持ちを察して欲しい。
ここで、ある意味トドメをさしてくれた方から(口調だけは)優しい言葉がかけられる。
「祐巳ちゃん、優しくしてあげるからね」
祐巳は、生まれて初めて殺意という感情が芽生えたりした。
だれでもいいから助けて、と祐巳が思っているそのとき。
『とんとん』
と薔薇の館の入り口がノックされた。
「「「「なっ!!??」」」」
・・・がちゃ
ゆっくりと薔薇の館の扉が開かれ、その突然の訪問者はゆっくりと館の中へ足を進めてくる。
しかも、シルエットは二人だった。
(ひょ、ひょっとして救いの手が!? しかも2人!! か、神さま仏様、待ってました!!)
祐巳は期待に満ちた目で入り口を見る。
やがて、シルエットの二人が明らかになってくる。その二人は祐巳がよく知ってる二人だったりした。
そこには・・・・・・最新のカメラ(動画ももちろんOKよ!)を完全装備した蔦子さんと、いつのまにか姿が見えなくなっていた乃梨子ちゃんが立っていた。
乃梨子ちゃんが、それはもう嬉しそうにニッコリ笑って口を開いた。
「みなさん、いい人をお連れしてきました」
(わー!! 神も仏もないー!! 祐巳にとっては、神は神でもトンデモ厄病神!! 仏は仏でもお陀仏でした!! マリアさま助けてー!!)
祐巳が絶望に打ちひしがれているときに、ようやく息を整えた蔦子さんが叫ぶように口をひらいた。
「ま、間に合ったー!! 祐巳さんのしっぽりサービスカットォー!!」
祐巳は蔦子さんに叫び返した。
「ええ、変態さんは間に合ってます!! さっさと帰れー!!」(絶叫)
こうして薔薇の館にそろった奇人変人さんたちの手によって、この後も祐巳は翻弄されることになった。
どう翻弄されたのかは……聞かないで、お願い……うっうっ。
おわり。
連載ものの続きがさっぱり浮かばないので、気分転換にこんな長くて馬鹿作品を載せてしまいました。このような馬鹿作品を最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。