【913】 花は幻想のままに  (ケテル・ウィスパー 2005-11-26 05:04:33)


【No:753】→【No:778】→【No:825】→【No:836】→【No:868】→ 【No:890】の続きです。

 学校が再開されてから2日がたった。 
 祐巳は暇をみては校舎内を歩き回っていた、志摩子の姿が万が一生徒の中に紛れていないか? 少しでもいい、気配は感じられないか? できれば、新たな罪を犯すその前に。


 放課後、掃除の生徒以外はすぐに帰宅するように言い渡されている。 掃除が終わった生徒も一旦職員室に行き点呼をしてから速やかに帰宅するように定められている。

 祐巳は今、薔薇の館の1階で一人、時が来るのを待っている。
 由乃にいっしょに帰ろうと言われるかと思ったが一人教室から離れることが出来た、祥子や瞳子に会わないよう注意しながら薔薇の館の中に潜りこむ。 空気がこもっていたがまさかおおっぴらに窓を開けるわけにもいかず、その中に身を置く事にした。
 昨日こっそり運び込んでおいた大きい剣(つるぎ)、自分が身に付けて持ち歩いている小さい剣(つるぎ)。 赤金色の不思議な淡い光を放っている剣(つるぎ)が暗い物置の中をやわらかく照らしだしていた。

 祐巳が結界を張ってから一週間、リリアンの中に閉じ込められているだろう志摩子の体はすでに限界のはず、新たな獲物を狩れなければ体の腐りはさらに進んでしまうだろう。

 剥き身の剣(つるぎ)を携えて祐巳はゆっくりと立ち上がる。

 薔薇の館の扉を開けるとすでに逢魔々時、死人憑きに魅入られた志摩子もそろそろ動き出す時間。 志摩子がどこに潜んでいるのか探りあてることが叶わなかったので、とにかく校内を歩き回るより仕方ない、自らがそれを誘き出すための餌として。 不思議と恐怖心は無い。

『なゃ〜〜ぅ』
「……あなたも一緒に来る?」

 扉のすぐ横に、まるで祐巳が出てくるのを待っていたようにゴロンタが現れる。 先導してやると言っているように祐巳の少し先を歩いていく。 小さな騎士(ナイト)の先導で、祐巳は校内の探索を開始する。


 銀杏並木の近く……

 マリア様の像の前……

 校庭……
 
 校舎の外回り……

 中庭……

 お御堂……

 古い温室……

 クラブハウスの外周…… 

 そして白薔薇姉妹の、祐巳にとっても、思い出の場所。 桜の木の近くまで差し掛かった時…。

「ぁぐぅ……!」

 重い物を地面に落とした時のような音がしてうめき声が耳に届いた。 音のした方に向かって迷わず祐巳は走る。 しかし、誰かがまだ校内に残っていたなんて。
 事件があってから校舎の廊下や施設の明かりは、夜になっても点けられたままになっている。

 桜の木の近く何者かの影、誰かを組み敷いて首に手を掛けているのは志摩子、そして組み敷かれているのは…。

「…?! 乃梨子ちゃん!!」


 * * * * * * * * * * * * * * * *


「カ〜〜ット! 記録OK? 一旦休憩入れます!」
「乃梨子、重くなかったかしら?」
「…いえ……むしろ…心地いい…い、いえ!!も〜〜大丈夫です! どんどん乗っちゃってください!!」
「? 乃梨子、乗るシーンはここまでなのだけれど……」
「あ……いえ……そうでした(ちっ)」
「乃梨子ちゃ〜〜ん、な〜〜に赤い顔してんのかな〜〜?」
「由乃さま……放って置いてください!」
「どうだったのかな〜〜? 志摩子さんに押し倒されるって言うのは?」
「え? そ、それはも〜〜天国にも上るような、いいフトモモで……い、いえ! な、なんでもありません!!」
「ははははは、聞いた祐巳さん?! いいフトモモだったんだって! …え? 祐巳さんどうしたの? 手なんか上げちゃって、銃でも突き付けられてるみたいだけど?」
「……みたいじゃなくて本当に突き付けられているんだけど……」
「はぁ〜? こんな所でそんなぁぁ〜〜?!」
「ホールドアップよ由乃さん。 乃梨子をバカにしたら許さないわ」
「ど、どこからそんな物を…?」
「ふふふ、バイオニック・志摩子2で使うかもしれない候補の軽機関銃なんですって。 私の身長とのマッチングとかいろいろと考えているみたいね」
「な〜〜んだ〜〜モデルガンなんだあ〜、びっくりした〜〜」
「びっくりしたわ〜〜、心臓に良く無いからやめてよね〜志摩子さん」
「改造したのだから大丈夫なんでしょ?」
「む〜〜〜!! 改造言わないで!!」
「でも、ずいぶん大きいのだね〜、何ていうの?」
「M249……でしたよね、祐麒さん?」
「そうM249軽機関銃…あと三〜四種類候補があるらしいけど? バルカン砲はビジュアル的にはいいけどあきらめたらしいよ。 三砲身とはいえ毎分3700発の反動を支えるのは無理でしょう」
「正確には ”ガトリング砲”よ、バルカン砲は商品名ですって」
「あ、祐麒。 これ、監督がここで読み上げろって」
「え? ……マジで? じゃあ……
 ”次回いよいよアクションシーンです! 祐巳は志摩子を倒し乃梨子を救うことが出来るのか? また、由乃の動向は? ひょっとしたら投稿規程に引っ掛かるんじゃないかと言う不安をはらみつつ、次回を待て”
                ………こ、こんなもん?」
「……ぜんぜん似合わないよ祐麒……」
「え〜〜っと、なんて言ったらいいのかしら?」
「た、確かに似合わないけれど、これはあれよ…あれ……そう! 監督の人選ミスよ! 祐麒君のせいじゃあないわ!」
「……なんかダメ押しされたみたいで………」
「ご、ごめんね…祐麒君……」


「ひょっとしたらって思ってはいたのですが…」
「なんですの? 菜々ちゃん」
「お姉さまの最大の弱点は祐麒さんですか?」
「う〜〜ん……、まあ、そうですけれど。 でもそうとばかりも言えませんわよ」
「なんでですか?」
「恋する乙女は言語に絶するほど強くなれますわ、だから最大の弱点かもしれませんけれど、最大のエネルギー源とも言えますわ」
「下手につつくと命取りになりかねませんね……」
「…………どう言うつつき方しようと思ってらしたの?」
「それは秘密です」

              〜〜〜〜〜〜つづく・・・・・ 


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