ここはリリアン女学園。純粋無垢な乙女の園。
だがしかし、光あるところに闇もまたあるように、天使達が集うこの学園にもここ数年の間にいろいろな『問題』が起こっていた。この事態を憂慮した学園は、ここに学園内の治安維持を目的とした組織の創設を決定した。
リリアン女学園綱紀粛正委員会。その実動部隊が、今、誕生しようとしていた。
「学園の正義と平和を守る為、我らリリアン警備隊、お呼びとあらば即参上!」
ビシッと決めポーズ。由乃さんノリノリだ。
「それ、私達もやるのかしら?」
途方にくれたように志摩子さんが言った。気持ちはわかる。祐巳も聞きたかったことだから。わかるんだけど、このタイミングでそんなことを言ったら。
「もちろんよ!」
ほら。由乃さんはこういう人だ。
「それより、具体的にどんなことすればいいのかな」
さりげなく、祐巳は話をそらしてみる。
「まあ、実際には学園内のパトロール、見まわりが主な仕事ね。そして問題が起こっていれば当然それを解決する。というわけで隊を作ってローテーションを組みましょう」
完全に何かスイッチ入っちゃってる由乃さんはどんどん話を進めていった。
ちなみに3年生達は「あなた達に任せるわ」の一言を残して退場した。……逃げたとも言う。
「一番隊組長は志摩子さんね。二番隊は祐巳さん、三番隊は不肖この私、由乃が務めさせていただきます」
「わ、私が一番なの」
志摩子さんが狼狽えた。いや、そんな救いを求めるような眼で見られても。
「何故由乃さんが三番隊なの?」
「なんとなく!」
「なんとなくなら、由乃さんが一番隊をやったほうが」
珍しく、志摩子さんの必死の抵抗。
「あえて理由を言うなら!」
もちろん由乃さんは聞いてない。志摩子さん、祐巳、由乃さん自身を順番に指差しながら。
「沖田、永倉、斎藤って感じでしょう」
「そ、そうかしら?」
志摩子さんは首をかしげているけれど、祐巳はと言えば。
「ごめん、全然わからないんだけど」
「新撰組に決まっているでしょう」
そうか、決まっているのか。
「というわけだから志摩子さんは三段突きをマスターしてね」
「さ、三段突き?」
絶対無理よ。という志摩子さんの呟きはまたも無視された。
「あと局長と副長なんだけど、令ちゃんが局長で祥子さまが副長っていうイメージだと思うんだけど、どう?」
3年生まで巻き込む気!?
「そうね、実質的に組織を動かすのは副長の方だし」
さりげにキツイぞ。志摩子さん。っていうか、それ以外は確定なんでしょうか、由乃さん。
「燃えてきた」
びゅんびゅんと素振りを始めるし。
「見まわりが仕事、なんだよね?」
「主なね」
ニヤリと笑って話を続ける。
「隊士の編成は各組長に任せるわ。各々スカウトでも何でもして適当な数を揃えるように」
「適当な数って?」
「最低でも誰かあと一人。最大十人もいればいいでしょう」
「でも、スカウトといっても……」
「リリアン瓦版で一般の生徒から募集してもいいし…」
「私は一番隊ということでいいんですよね」
これまで黙って話を聞いているだけだった乃梨子ちゃんが、ここで始めて口を挟んだ。
「……そうね」
由乃さんは一瞬、何故か虚をつかれたような顔をした。
「…そうか……」
さらに何かブツブツ呟いていたが、すぐに気を取り直したように皆に向きなおった。
「よし。というわけで、ここにリリアン女学園綱紀粛正委員会実動部隊、略してリリアン新撰組の発足を宣言します」
「略してない、それ全然略になってないよ、由乃さん!」
「強引にも程があります」
「何よ! いいじゃないそんな細かいこと」
「せめて『通称』とかにしたらどうかしら」
「さすが志摩子さん。それ採用!」
一度コホンと咳払いして、由乃さんは右手をピシッと上げた。
「ここにリリアン女学園綱紀粛正委員会実動部隊、通称『リリアン新撰組』の発足を宣言します」
それが、後に(いろんな意味で)その名を轟かせることになる『リリアン新撰組』の誕生の瞬間だった。