「だから、それは違うって言ったでしょう?」
「でも、普通は全部カタカナで読みますよ」
薔薇の館で、妙に熱の入った議論をしているのは、紅薔薇さまこと小笠原祥子と、その妹福沢祐巳だった。
「あら、そんな決まりなんてあるのかしら?中には例外もあるのではなくって?」
「ですが、過去にそんな例はありません。そもそも、お姉さまの解釈は無理矢理です」
普段は祥子の言うがまま(誇張)の祐巳も、譲れないのかやたらと反抗的だった。
「でもホラここ、どう考えてもそうでしょ」
「だから、そこはカタカナなんですよ。どうしてそこだけ無理矢理漢字に直すんですか」
「あら、乃梨子ちゃんなら賛同すること間違いなしね」
「想像世界のロボットアニメなんですよ?どうしてピンポイントにその単語が出てくるんだか」
「どうあれ、ここはコレで間違いなしなの」
「納得できませんよ」
「あなたの意見はどうあれ、私はあくまで主張するわ」
只でさえ頑固な祥子、ひたすら自説を押し通していた。
「あの〜…」
実は山百合会関係者は全員揃っているのだが、何故か名前が挙がった白薔薇のつぼみこと二条乃梨子、我慢できずに言葉を挟んだ。
「一体、なんのお話ですか?」
「“ぶつ”よ」
「違います、“いむ”です」
「はぁ?」
さっぱり要領を得ない説明をした紅薔薇姉妹。
「だから、このパッケージを見て」
それは、日本サン○イズ製の昔のアニメDVD。
「えーと。あー、重戦機…」
「“ぶつ”よね、乃梨子ちゃん?」
「違いますってば。“いむ”だよね乃梨子ちゃん?」
「………」
漸く合点が行った乃梨子、あまりのバカバカしさに、呆れを通り越して苦笑いしか浮かばない。
「すいません、聞かなかったことにします」
お手上げの乃梨子、あっさり関ることを放棄した。
「だから、“ぶつ”なのよ」
「違います。“いむ”です」
再び、無意味な論争を繰り返す祥子と祐巳を尻目に、
「結局、何だったの?」
と、乃梨子にそっと問い掛ける白薔薇さま藤堂志摩子。
「うーん、すっごいバカバカしい話なんだけど…」
困った顔で、メモ帳を取り出した乃梨子。
「つまり、紅薔薇さまが言いたいのは…」
ペンが走り、メモ帳に書き込まれた文字、それは…。
「重戦機えるがぶつ」