【937】 ダイナミック生報告  (いぬいぬ 2005-12-05 01:04:16)


※このSSは、【No:810】から続いて祐麒×可南子な設定でお贈りします。





 ダンッダンッ  キュ!

「可南子!」

 パシッ! ダンッダンッ キュキュ!

 第2クォーターの残り時間は1分を切った。得点差は58−17でリリアンリード。この点差なら無理をする必要は無いけど、今の私ならばもう1ゴール決められるはず。
 パスを受け取った私はディフェンスの動きを読み、敵をかわしながらゴール下へ切り込む。今日はヤケに周りが良く見える。振り切ったディフェンス、その向こうに見えるゴールネット。私は軽く身を沈ませ、ゴール目がけて飛んだ。
 まるでスローモーションのように見える風景。迫るリンク、私の手に運ばれるボール、そしてリンクの先にいる祐麒さん。
 ・・・・・・・って、え?!

 ガゴンッ!   テン・・・テン・・・テン・・・     ピピーッ!

 ああ、入らなかった・・・
 じゃなくて! 何でココに?! 恥ずかしいから来ないでって言ったのに・・・
 私は混乱しながらも、ハーフタイムの笛の音に従い、リリアンのベンチへと戻った。
「可南子ちゃん、今日は良い動きしてるわね! 」
「・・・ありがとうございます」
 部長の言葉に我に返った私は、何とか言葉を返した。
「それにしても、さっきのシュート、途中でバランス崩したみたいだけど、どこか痛めたの? 」
「いえ、そういう訳では・・・」
 私は思わずバランスを崩した“訳”のいた辺りに視線を送った。
 部長が何気なく私の視線を辿る。しまった! この人、敵の視線からパスコースとか読むの得意だったっけ・・・
「・・・・・・・・・・・・ふ〜ん? 」
 観客席を見て、部長は何やらニヤリと笑っている。ああ・・・ 見つかっちゃったかも。
 女子高同士の練習試合だから、男子がいると異様に目立つし・・・ って、目が合ったからって手なんか振らなくて良いから!
「・・・・・・間に立ってる私は無視ですか・・・ 可南子ちゃん? 」
「はい! 」
「ふふっ。そんなに緊張しなくても、怒ったりしないわよ。むしろ嬉しいくらい」
「はあ・・・・・・ 」
「後半はあの人にミスした姿なんて見せたくないわよね? 」
「・・・・・・はい」
 そうだ、まだ試合は前半が終わったばかり。後半戦で無様な姿を見せる訳にはいかないわ。集中力を切らないように、私は気合を入れなおした。
 見に来てしまったのなら仕方ない。こうなったら私の活躍を見てもらおう、あの人に・・・
 だから、そんなに大きく手を振らなくて良いから! 気付いてるってば!!





「今日はまさに大勝利って感じだったわね」
「そうね、あのレベルの相手に105−38なんて得点差で勝ったなんて信じられないわ」
「チームとして上手く機能したのもあるけど、やっぱり可南子ちゃんの活躍が大きいわね」
「そうね、最後なんかダンクシュートまで決めてくれたし! 本当に良く活躍してくれたわ! 」
「ありがとうございます」
 試合後の興奮に包まれたチームメイト達に囲まれ、私も少し興奮気味だった。
 それにしても、またこんな空気に触れる機会があるとは思わなかったわ。中途入部だったから最初はみんなともギクシャクしてたけど、今では同じ1年の仲間も私をチームメイトとして認めてくれているし。
 やっぱりバスケットって良いなぁ。
 ・・・・・・まあ、それはそれとして。え〜と・・・
「何をキョロキョロしてるのかな? 」
 ビクゥ!
「な、何がデスカ? 」
「またまたぁ、とぼけちゃって。探してたんでしょ? 」
「な、何ヲデスカ? 」
 内心、冷や汗をかきながら、私は部長の質問に対してしらばっくれる事にした。
「もう、素直じゃないわね・・・ どうせさっきの『さっきの男の人なら、試合終了と同時に消えちゃったわよ? 』・・・・・・あら、そうなの? 」
 副部長?! 何でこの会話に混ざってくるですか?!
「何不思議そうな顔してるのよ可南子ちゃん。ハーフタイム中の会話、まる聞こえだったわよ? 」
「あ・・・ 」
 そうか・・・ 試合中とはいえ、皆すぐそばにいたものね。
「何の話ですか? 」
「別に何でもな『いや、今日の可南子ちゃんの活躍は、彼氏が見に来てくれてたからだって話よ』・・・ ちょ! 部長! 」
 誤魔化そうとする私の言葉をさえぎって、部長が余計な事を言い出した。
『彼氏が見に来てた?! 』
 うわヤバ! 全員が注目してる!
「彼氏って本当に? 」
 いや・・・ あの・・・
「まあ、可南子さん男性とお付き合いしてたの? 」
「うわぁ素敵! 『私、あなたのために頑張るから』って感じ? 」
 いや、そんなつもりじゃ・・・
「可南子さんたら、やるわねぇ。で、お相手はどんな方なの? 」
「あ、私聞いた事ある! 確か学園祭の時に花寺の生徒会の人と・・・ 」
「まあ! 花寺の? 」
 ちょっと待って! どこからその情報仕入れてきたの!? 秘密にしてたのに・・・
「その情報、新聞部の方から? 」
「いえ、私の聞いた所によると、黄薔薇の蕾がニヤニヤしながら語ってくれたとか・・・ 」
 ・・・・・・あの暴走機関車め。
「まあ、それなら情報源は確かね」
 確かか?
「確か、学園祭の劇・・・ とりかえばや物語の出演者で・・・ 」
「もしかして、あの大きな双子の人? 」
 違う! 断じて違う!!
「ああ〜、あの大きな人か」
 誰?! 今、納得した声出したの!
「いえ、私の聞いた話では、主役を演じた・・・ 」
「主役って言えるほどの演技はできませんでしたけどね」
「また、ご謙遜なさって」
「確かお名前は・・・ 」
「あ、福沢祐麒と言います」
「ああ、これはご丁寧にどうも・・・ 」
「いえ、どういたしまして」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 祐麒さん?!
 何でココに・・・ ってゆーか何でナチュラルに会話に混ざってるの?! 
「ゆ、ゆ、ゆ、祐麒さん! ど、ど、ど、ど、ど、」
「何か聞き覚えのある道路工事だな。『どうしてここに?』って言いたいの? 」
 私は声にならず、無言でコクコクうなずいた。なんでそんなに冷静に会話を続けられるのよ!
「いや、待ち合わせは試合の後って言われたけど、可南子が試合に出てるって聞いたら、どうしても見たくなって・・・ 」
 あああああ。恥ずかしいから見に来ないでって言ったのに!
 うわ、顔が熱い。私今、真っ赤になってるんだろうな・・・
「まあ、貴方が可南子ちゃんの? 福沢って苗字、もしかして・・・ 」
「あ、はい、福沢祐巳の弟です。年子なんで学年は同じですけど」
『きゃああああ! 紅薔薇の蕾の?! 』
 うわぁぁぁ、ギャラリーが盛り上がっちゃった。だから来ないでって言ったのに・・・
「そうですか、紅薔薇の蕾の・・・ で、いつからお付き合いを? 」
 ちょっと部長・・・
「えっと、きっかけは学園祭の時で・・・ 」
 正直に答えなくて良いから!
「まあ素敵! 共演をきっかけにだなんて、芸能人みたいですわ! 」
「いや、そんなカッコイイ話じゃないんですけど・・・ 」
「またご謙遜を。でも羨ましいですわ、今日は可南子さんを見に? 」
 副部長まで・・・
「ええ、見に来るなと言われてたんですけど、どうしても試合中の可南子が見たくて・・・ 」
「ああ、愛されているのね、可南子ちゃん。で、今日はこれから? 」
「あ、駅前の映画館に・・・ 」
『きゃあああ! デートよデート! 』
 みんな、この手の話題が好きなんだなぁ・・・
 しかしヤバい。なんかもう収集付かなくなってきた・・・ このままじゃ、みんなのオモチャにされてしまう・・・
「素敵ねぇ・・・ 部活の後のデート。しかもお相手は花寺の生徒会長」
「いや、生徒会長って言ってもそんな大したものじゃ・・・ 」
 はやく祐麒さんを連れて脱出しなければ・・・
「またまたご謙遜を。・・・で、可南子さんとはドコまで? 」
「? だから駅前の映画館に・・・ 」
 何やら誘導尋問まで始まっちゃったみたいだし、このままだと素直に余計な事まで喋り出しそうな気が・・・
「いやだわ、祐麒さんたら。とぼけちゃって」
「はい? 」
 ・・・・・・誰だ今気安く“祐麒さん”て呼んだの。
「もう、祐麒さんたら意外と食えないお方なのね」
 ・・・・・・部長か。覚えておこう。
「でも信じられないわ、可南子ちゃんの唇がもう殿方に奪われてしまったなんて・・・ 」
 何? その見え見えの引っ掛け。さすがにそんなわざとらしい・・・

「奪ったなんてそんな、あれは可南子のほうから・・・ 」

「うわああぁ&%9Θ※■◎○;y=ー( ゚∀゚)・∵.☆★{|>@^@−ywrgs;ぁあああ!!! 」
 私は祐麒さんの手をつかむと、全力で走り出した。
 何言ってるの何言ってるの何言ってるの何素直に白状してるの!!
 ああああぁぁぁ。もう! 明日からどんな顔して部活に出れば良いのよ?!
 このままじゃ、この先どんな事までサラっと白状されるか解からないわ。ここは一つ、心を鬼にしてキツく言っとかないと・・・
 バスケ部のみんなが見えなくなった辺りで、私は走るのをやめ、祐麒さんに向き直った。
「祐麒さん! 」
「何? 」
「・・・・・・何でそんなに嬉しそうな笑顔なの」
「え? いや、未だに手をつなぐのが嬉しくて・・・ で、何? 」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でもない」
 
 その笑顔とセリフは卑怯だよ、祐麒。


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