【938】 エネルギー充填敦子と美幸  (朝生行幸 2005-12-05 18:45:14)


「それでは、お二人にはこれを履いていただきますわ」
 松平瞳子が差し出した、リリアン女学園高等部指定の『靴』を受け取ったのは、彼女のクラスメイトである敦子と美幸だった。
 ここは、都内からマスクされた車で2時間以上走った上にたどり着く、ある研究所の中。
 その一室にて、瞳子、敦子、美幸、それに数人の研究者及び技術者が顔を合わせていた。
「新しい機能でも付いたのかしら」
「バッテリー寿命が延びたのかしら」
 椅子に座ったままの状態で、その靴を履く二人。
「機能面での追加はないですけれど、40%の軽量化と共におよそ4倍のバッテリー寿命延長に成功しましたの。それと、10kgの運搬能力増加といったところですわ」
「素晴らしいですわね。以前は長くて20分が限度でしたのに」
「一時間以上使えるなんて、とても革命的ですわ」
 立ち上がった敦子と美幸、スイッチや調整ツマミ等が付いたワイヤレスグリップを握り締めた。
「では、ポチっとなかしら」
「ポチっとなですわ」
 スイッチをオンにした二人、そのままフワフワと、約1mほどの高さまで浮遊した。
「如何です?」
 浮いた二人を見上げながら、瞳子が問い掛けた。
「前のに比べたら、随分安定してますわね」
「移動もし易くなってますわ。思い通りに動けます」
 ツマミを調整しながら、高度を上げたり下げたりする二人。
 移動や方向転換なども、以前に比べてかなりスムーズだった。
「運搬能力の向上に伴って、バランスを大幅に見直しましたの。他に何か問題点はございませんか?」
「大丈夫じゃないかしら」
「問題無しじゃないかしら」
「そうですか。では、いつものようにレポートをお願い致しますわね?」
「分かりましたわ」
「分かりましたわ」

 こうして敦子と美幸の二人は、瞳子の後ろ盾によって、AGAS(Anti Gravity Air-floating System:松平電機工業製)、『エンジェルズ・ウィング(仮)』と呼ばれる反重力システムの実機使用を許されており、同時にテストレポートを義務付けられているのであった。
 白薔薇のつぼみすら見抜くことが出来ないその機能のほどは、皆さんすでにご存知の通り。
 しかし、完全な実用化まで持って行くには、まだまだ課題が山積みなのであった…。


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