「……なのよ。祐巳ちゃん、聞いてる?」
「はぁ」
はぁ、としか言いようがない私、福沢祐巳は今日も今日とて、薔薇の館に向かうべく図書館の脇を歩いて……いなかった。
「『はぁ』じゃないでしょ。返事は『はい』」
「は、はい! って黄薔薇様。すみません、お話がよくわからないのですが」
私は珍しく黄薔薇様にお誘いを受けて、ミルクホールに来ていた。
「全然オッケーじゃないじゃない!もう一度説明するからよく聞いてね。
まず、虫歯で空いた穴にゴハン粒が入った事が前回の敗因だったのよ。私はそれを学んだわけ。
だからね、虫歯になったらパンだけを食べる。
そうしたら虫歯の穴にゴハン粒は入らないのよ。でも、そんなの無理よね。だから、、、」
私がわからなかったのは、なぜ黄薔薇様が私に虫歯対策の話をしているか、だったんだけど。
聞きなおした所為か、黄薔薇様の虫歯対策論は更に熱が入っている。
このまま生返事をしていると、延々、話が続きそうな気がするので、ここは落ち着いて私の話を聞いてもらおう。
「、、、でね、そこでオブラートなわけ、、、何?」
「あ、話の腰を折ってしまってすみません。まず私の話を聞いて下さい」
「あぁ、たしかに祐巳ちゃんの意見も聞きたいわね。やっぱり紙粘土の方がいいと思う?」
はっきり言います。私には虫歯対策論に対する意見なんて何一つありません。そうじゃなくてですね。
「あの、何故なんですか?」
「そりゃ、オブラートに包めばゴハン粒もバラけないまま飲み込めるじゃない。でも、これが孫子の時代だったら、、、」
あぁ、私のバカ!オブラートの事聞いてどうするのよ!
「ち、違うんです!」
「え、オブラートは違うの?まぁ、味しないしね。じゃあ、こんなのはどうかしら。昔、中南米でね、、、」
違うんです。そうじゃないんです黄薔薇様。というか、何故そんなに楽しそうなんですか。
結局、私は『何故私に話すんですか』って一言がどうしても出なくて。
それから30分、黄薔薇様の虫歯対策論に付き合わされた。
「でね、ワシントンは言ったのよ。『それは僕がやりました』ってね。
だから、それを応用して虫歯に、、、って祐巳ちゃん!?なんで泣いてるの!?」
「歯医者さんに行ってください…」
それだけ言うのがやっとだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あとがき
最後のツッコミ待ちで30分以上ボケ続けた江利子様でした。
といっても江利子様なら孫子の兵法から導き出される新手の虫歯治療法を
考えてくれそうです。