【944】 いつもの3倍って言わないで宇宙船  (朝生行幸 2005-12-07 21:36:11)


※オリジナルキャラ?しか出ませんが、オリジナルキャラには見えないでしょう(笑)。

「ふわわわ〜〜」
 目覚めると同時にデッカイ欠伸をブチかましたのは、現在火星に向けて航行中の宇宙船『キネンシス号』クルー、福沢裕未だった。
 クルーと言っても、打ち上げやペイロード、生命維持などにかかるコストを、最低限まで思いっきり削っているため、搭乗員は彼女一人だけだった。
 つまり、彼女のみでキャプテンでありミッションスペシャリストでありエンジニアでありメカニックなのである。
 しかし火星到達まで約6ヶ月かかるため、帰還までの1年ちょっとの間、クルーのメンタル面をもサポートする人工知能“ギガンティア”が、もう一人のクルーとして装備されていた。
『おはよー、裕未ちゃん』
 目覚めた裕未に声をかける人工知能ギガンティア。
 言葉使いが誰かさんにそっくりだが、それはまったくの偶然である。
「おはようございます、せーさま」
 何故か裕未から“せーさま”と呼ばれているギガンティア。
 裕未がギガンティアのマニュアルに載っていた開発者の名前、“Cesammer Suger”から取ったらしい。
『朝だよー。朝食摂って、スケジュール通りに行こうねー』
「はーい」
 ベッドから起き出し、歯を磨き顔を洗い、宇宙服に着替えると、人工重力区画を後にした。
 コックピットに移動し、シートに着く。
 食事は基本的にコクピットで行われる。
 睡眠中はともかく、クルーが起きている場合は、できるだけ何かをさせておく方が良いので、船内からの外部チェック、計器チェックを行いながら食事をさせる決まりなのだ。
「今日の朝食は何ですか?」
『今日はねー、裕未ちゃんの大好きなカレーだよー』
「わお♪」
 実は裕未は双子だった。
 地球にいるもう一人は、裕未とは全く逆で、甘いものが大好きで、辛いものが苦手。
 裕未の方は、辛いものが大好きで、甘いものが大の苦手なのだ。
 故に、朝っぱらからのカレーライスも、平気で食べられる。
『しかも、辛さ3倍だよー』
「むーん、おっけー!」
 辛ければ辛いほど、挑戦されているようで我慢が出来なくなる裕未。
 どーんと来いってんだ。
『それだけじゃないよー』
「まだ何かあるんですか?」
『おーよ。なんと、量までいつもの3倍だ!』
「なんですとー!?」
 一食の量が全体的に少ない裕未、健康管理の観点から、一ヶ月に摂取するべき量が決まっているため、大体一週間に一回ぐらいの割合で、不足分を補う量の摂取を強要される。
「どうして朝ご飯の時に3倍なんですか?」
 不満で裕未は、口を尖らした。
『あははー、だって最初に言ってたら面白くないでしょ?だから、サプラーイズ』
「まぁサボってた私も悪いんですけど」
『ゴメンね、でも、決まりだから』
「はーい」
 しぶしぶスプーンを口に運びながら、各所をチェックする裕未。
 食事のあとは、船外活動、その後は動力チェックなど、目が回るような忙しさだ。
 そんな毎日が何ヶ月と続くが、裕未はギガンティアのサポートのもと、確実に前進していた。

 火星到達まで、あと二ヶ月ちょっとだった。


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