【954】 ドリルストームヘアメイクフォーリンラブ  (朝生行幸 2005-12-10 15:47:34)


「あ、由乃さん」
「あ、祐巳さん」
 二年松組の教室で、いつものように顔を合わせた紅薔薇のつぼみと黄薔薇のつぼみ。
 福沢祐巳と島津由乃は、お互いを指差して、驚いた顔をしていた。
 驚くのも無理はない。
 二人は、それぞれのチャームポイントとも言うべきいつもの髪型を下ろして、生のままに流していたのだから。
 ツインテールではない髪型の祐巳は、普段の悪く言えば子供っぽい雰囲気とは裏腹に、随分大人しく、それでいて大人っぽいイメージ。
 三つ編みお下げではない髪型の由乃は、普段の儚げでかつ弱々しい雰囲気とは裏腹に、随分大人っぽく、それでいて躍動的なイメージ。
 つぼみが二人して違う髪型をしている今日の松組は、いつになく大騒ぎだった。

 放課後の薔薇の館。
 いつものように、山百合会関係者が一堂に会し、生徒会活動に勤しんでいた。
 一段落が付き、お茶を用意して寛いでいたところ、音も気配もなく、突然ビスケット扉が開いた。
「ごきげんよう皆さま」
「ごきげ…んよ?」
 絶句する一同。
 音がなかったことから、きっと瞳子が来たのだろうと皆が思っていたのに、現れたのは、ついぞ見たことがない生徒。
 ちょっと強気で勝気な目付きに、白薔薇さまを髣髴とさせるフワっとした巻き毛。
「えっと…」
「わぁ、瞳子ちゃん!」
『え!?』
 どちらさま?と聞こうとした黄薔薇さまのセリフを遮って、祐巳が挟んだ言葉に、一斉に驚愕した。
 そう、よくよく見れば彼女は、紛うことなき松平瞳子。
 瞳子の代名詞とも言うべきド…縦ロールが無かったため、祐巳を除いて誰も認識できなかったのだ。
「え!?って何ですか、え!?って!?」
「いやだって…」
「ねぇ…?」
 困った顔で互いを見渡す山百合会の面々。
「はっきり仰ってください」
 詰め寄る瞳子。
「つまりねぇ、ドリルが無いから皆分からなかったんだよ」
 皆の考えを代弁して、祐巳が説明した。
「ドリルって何ですかドリルって!?」
「まぁドリルでもスプリングでもハリケーンでもスパイラルでもタイフーンでもバネでもツイスターでもコロネでもリップルレーザーでも竜巻でも螺旋でもグルグルでもいいじゃない」
「よくありません!よくもそこまで論うことが出来ますわね!?」
 涙目で祐巳に迫る瞳子。
 今にも泣き出しそうな勢いだ。
「だって…」
「だって何ですか!?」
「だって、相手が瞳子ちゃんだからだよ」

 その一言に、瞳子が照れて俯いてしまったのは言うまでもない。


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