「あ、由乃さん」
「あ、祐巳さん」
二年松組の教室で、いつものように顔を合わせた紅薔薇のつぼみと黄薔薇のつぼみ。
福沢祐巳と島津由乃は、お互いを指差して、驚いた顔をしていた。
驚くのも無理はない。
二人は、それぞれのチャームポイントとも言うべきいつもの髪型を下ろして、生のままに流していたのだから。
ツインテールではない髪型の祐巳は、普段の悪く言えば子供っぽい雰囲気とは裏腹に、随分大人しく、それでいて大人っぽいイメージ。
三つ編みお下げではない髪型の由乃は、普段の儚げでかつ弱々しい雰囲気とは裏腹に、随分大人っぽく、それでいて躍動的なイメージ。
つぼみが二人して違う髪型をしている今日の松組は、いつになく大騒ぎだった。
放課後の薔薇の館。
いつものように、山百合会関係者が一堂に会し、生徒会活動に勤しんでいた。
一段落が付き、お茶を用意して寛いでいたところ、音も気配もなく、突然ビスケット扉が開いた。
「ごきげんよう皆さま」
「ごきげ…んよ?」
絶句する一同。
音がなかったことから、きっと瞳子が来たのだろうと皆が思っていたのに、現れたのは、ついぞ見たことがない生徒。
ちょっと強気で勝気な目付きに、白薔薇さまを髣髴とさせるフワっとした巻き毛。
「えっと…」
「わぁ、瞳子ちゃん!」
『え!?』
どちらさま?と聞こうとした黄薔薇さまのセリフを遮って、祐巳が挟んだ言葉に、一斉に驚愕した。
そう、よくよく見れば彼女は、紛うことなき松平瞳子。
瞳子の代名詞とも言うべきド…縦ロールが無かったため、祐巳を除いて誰も認識できなかったのだ。
「え!?って何ですか、え!?って!?」
「いやだって…」
「ねぇ…?」
困った顔で互いを見渡す山百合会の面々。
「はっきり仰ってください」
詰め寄る瞳子。
「つまりねぇ、ドリルが無いから皆分からなかったんだよ」
皆の考えを代弁して、祐巳が説明した。
「ドリルって何ですかドリルって!?」
「まぁドリルでもスプリングでもハリケーンでもスパイラルでもタイフーンでもバネでもツイスターでもコロネでもリップルレーザーでも竜巻でも螺旋でもグルグルでもいいじゃない」
「よくありません!よくもそこまで論うことが出来ますわね!?」
涙目で祐巳に迫る瞳子。
今にも泣き出しそうな勢いだ。
「だって…」
「だって何ですか!?」
「だって、相手が瞳子ちゃんだからだよ」
その一言に、瞳子が照れて俯いてしまったのは言うまでもない。