「わ、瞳子ちゃん!久しぶり〜!」
「・・・なんでこの時間にこの場所にいるんですか」
「あははっ!山百合会のお仕事で――――っていうには遅いよね。この時間」
「何時だと思ってるんですか、もう」
太陽が沈みかけて、まばらに星も見えかける、この時間。
さすがに薔薇さま達も、夏休み中までこんな時間まで残らないだろう。
「演劇部さ、今日の延長練習の許可書、提出してたでしょ?
一緒に帰りたいなーなんて」
「・・・今までどこにいたんですか」
図書館もこの時間は開いていない。
薔薇の館だって入れないだろう。
「ん?あそこ」
指差すそこだけ、桃色
―――否、桜色だった。
「・・・桜?」
「うん、綺麗でしょ?志摩子さん、ここで乃梨子ちゃんと出遭ったんだってね」
みーんみーん・・・
カナカナカナカナカナカナ・・・
何故、こんな季節に、という疑問を、瞳子はあえて口にしなかった。
その何故があってこそ、不思議なのだ。
「瞳子ちゃんだけにね、見せたかったの」
舞い上がった桜の花びらが、紺色の夏空を一気に桜色に変えた。