「祐巳さま〜!」
「瞳子ちゃ〜ん!」
目にキラキラと星を飛ばしながら、遠くから呼び合う紅薔薇のつぼみ福沢祐巳と、演劇部所属松平瞳子。
「祐巳さま〜!」
「瞳子ちゃ〜ん!」
再び名を呼び合いながら、両手を広げて駆け寄る。
「私を〜」
「私の〜」
「い…あら」
「い…あれ」
伸ばした指先が、今まさに触れようとした瞬間、何も無いのにつまづいた二人。
そのまま、見事に正面衝突した。
『げふっ』
・・・・
・・・
・・
・
『──はっ!?』
涎を垂らしながら、全く同時に身を起こした二人。
薔薇の館のテーブルに向かい合った状態で、虚ろな目付きで見詰め合うことしばし。
「あー、おはよう瞳子ちゃん…」
「おはようございます祐巳さま…」
意識がはっきりしてくるにつれ、先ほどまで見ていた夢を思い出し、なんとなく恥ずかしくなって、見詰め合ったまま赤面する祐巳と瞳子。
放課後のいつものお勤めのため、二人連れ立って来たのだが…。
「あ、あの、結局誰も来なかったね。そろそろ帰ろうか」
「え?あ、あの、そうですね。そうしましょう」
慌てて立ち上がり、鞄を取って館を出る。
夕焼け空の下、二人してしばらく無言で歩き続けた。
「…瞳子ちゃんは」
前を見たまま、瞳子に問いかける祐巳。
「…なんです?」
「どんな夢見てたの?」
「(!)べ、別に夢なんて見てませんわ。そ、そう仰る祐巳さまこそ」
「私…」
祐巳の言葉に、何故かドキドキする瞳子。
次に出る言葉が気になって仕方がない。
「私はね…」
更に動悸が激しくなる。
早く仰って下さいませ!
「瞳子ちゃん…」
クルリと振り向いた祐巳、瞳子の目を覗きこむ。
「が見てないなら、私も見てないよ」
悪戯っぽい目で微笑んだ祐巳は、そう言いながら、瞳子の手を取って走り出した。
「あ、ちょっと祐巳さま!?」
結局は、素直にならない限り祐巳に振り回されっぱなしだと分かっている瞳子なのだが、それも悪くないかなとも思ってしまうのだった。
何故か力強く手を握る祐巳、瞳子は、負けじと強く握り返した。