【960】 ダンバイン語る  (朝生行幸 2005-12-11 22:21:14)


「オーラロードが…」
「ショウの…」
「そう言えばチャムが…」
 何やらどこかで聞いたような単語が飛び交うここ、薔薇の館。
 紅薔薇のつぼみ福沢祐巳、黄薔薇のつぼみ島津由乃、白薔薇さま藤堂志摩子の三人が雑談していた。
「この頃かしら、後半から変形するパターンって」
「現代に出現なんて、ちょっとご都合だけど」
「リメイクもパッとしなかったような気がするな」
 随分深い批評が続いていた。

「ごきげんよう、何の話?」
 ビスケット扉を開けて姿を現したのは、紅薔薇さま小笠原祥子。
「ごきげんよう祥子さま」
「ごきげんよう祥子さま」
「ごきげんようお姉さま。いま、ダンバインの話をしていたんですよ」
 挨拶の後、祥子に説明した祐巳。
「まぁそうなの?祐巳がそんなもの読んでるなんて」
「はい?」
 訝しげに眉を顰める祐巳。
「ファイロ・ヴァンスシリーズの作者ね。エラリー・クイーンやディクスン・カー等に多大な影響を与えた、世界で最も人気のあったミステリ作家よ。英米作家のみならず、日本の作家にも良く知られてたみたいね」
『………』
 どう答えて良いのか分からない。
 志摩子はピンと来ているようだが、何故か口を挟もうとはしなかった。
「ベンスン殺人事件、カナリヤ殺人事件、グリーン家殺人事件、僧正殺人事件が彼の代表作ね。あなた達は、どのお話が好きなの?」
「…ええと祥子さま、一体何のお話してるんですか?」
 耐えられなくなって、由乃が訊ねた。
「お話してたんでしょ?」
「ええ」
「だから」
「何のです?」
「だから、ヴァン・ダイン」
『は!?』
「S・S・ヴァン・ダインのお話をしていたんでしょう?アメリカの推理小説家」
「初めて聞きますお姉さま…」
 すまなさそうに、答えた祐巳。
「何?知らなかったの?じゃぁ教えてあげるわ。みんなお座りなさい。そもそもヴァン・ダインとはね…」

 その後、黄薔薇さまや白薔薇のつぼみをも巻き込んだ、祥子のヴァン・ダイン講座は、お仕事そっちのけで門限ギリギリまで続いたのだった。
 志摩子は、口を挟まなかったことを心底後悔した。


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