がちゃSレイニーシリーズ。
【No:703】『続いていく暴れ馬三奈子』の第2号外が事態を悪化させた場合。
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「紅薔薇さまは、横暴です」 そうよそうよと回りから声が沸く。
「私たちは山百合会の玩具ではありません。」 その通り。 もっと言ってヤレーと囃し立てる声がする。
しまった。 見込みを間違ったかしらね。 一度あそこまで暴走した手前、この娘たちも引っ込みがつかないのだろう。
祥子は内心臍を噛んだが、表面上はむしろ微笑んで見せた。 ここで怯んでいるわけには行かないのだ。 可愛い妹と、もうすぐ生まれるだろう孫のためにも。
祥子の微笑には力がある。 まして祐巳の事を思うとき、その力は何倍にもなるだろう。 しかし。
「威嚇しても無駄よ! 」 そうそう。
「白薔薇が提案したものを、紅薔薇が否定したら、はいさようなら? ばかなこと! 」 そのとおり。
群衆の中、孤立無援の紅薔薇さまはそれでも毅然と立ち尽くす。
「山百合会が右といえば右なの? 白といえば黒いものでも白になるの? 山百合会の幹部は私たちの代表だけど、私たちの絶対君主なんかじゃないわ。 」 信用できない! ざわざわとした中から、泡粒のように不信の波が湧き上がってくる。
リコールすべきじゃないのかしら。 そうよね。 最近の騒動って、いつも薔薇の館発じゃない。
新聞部も問題よ。 最近太鼓持ちな記事しか書いてないじゃない。 馴れ合っちゃってさ。
学園側もおかしいわよ。 問題起こしても薔薇の館の住人ならいつも無罪放免じゃない。 癒着してるのよ。
不信の連鎖が始まる。 輝かしい太陽も、やがていつかは沈むのだ。 夜が、来る。
群衆から離れたところで、三奈子は一人途方にくれていた。
「なぜ、いつものようにいかないの? わたし、何か間違った? 」
「わかりました。 皆さんの言う事ももっともです。 私自身は多姉多妹制度に対して、肯定しえませんが。 だからと言ってあなた方の意見を蔑ろにするつもりもありません。 」 最悪の事態に至る前に、少しだけ譲歩をしておくのは政治と言うものだ。 なにより蕾たちに波及させてはいけない。 自分のところで留めなければ。
「じゃあどうするのよ」 言い逃れるつもりなのよ。
「投票なり何なり致しましょう。 姉妹制度のありようについて。 」
「それで、貴女が仕切って、新聞部が報道して、世論操作して終わりにするの? 」 悪意の声が突き刺さる。
「それは… 」
流石にここまで言われて困惑する祥子。 実務をこなせるものは多くない。 山百合会幹部が関与しないというなら、はたしてだれが取り仕切れるのか。 学園側の直接介入は避けたい。
「じゃあ、私が承ろうかな? 」 群集の背後から、頭ひとつ抜けだす美少年の声。
「黄薔薇さま 」 まあ、相変わらず凛々しくてすてきねえ。 彼方此方からため息がわいて来る。
「でも、黄薔薇さまは紅薔薇・白薔薇とご友誼がおありでしょう。 公正とは… 」
その言葉に、哀しげに応える令。
「私は、そんなに公と私を混同するように思われているのかい? 残念だ。 」
「いいえ。」「いいえ、そんなことは」「ありませんわ」 そこかしこから悲鳴のように上がる黄薔薇さまへのエール。
「黄薔薇さまの公平無私。 公私混同をされない様は皆ようく知っております。 」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ。」
これは一体なんなの。 祥子は自分と令の評価のあまりの落差に、こみ上げる咆哮を必死でこらえていた。 時折令が目でなだめてくるのだ。 ここは何か考えがあるのだろう。 自重すべきだ。 とはいえ、本当に腹が立つこと。
「じゃあ、今回の投票の件は、私が仕切ろう。 ただ、蕾たちは使わない。 もちろん、当事者の紅・白の力も借りない。 」
「でも、お大変では有りませんか? 」
「そうだね。 だから、今回は実務能力のある委員会の娘たち何人かに手伝ってもらう。 あとは、さっき新聞部も信頼できないって話もあったし。 今回は外れてもらう。 かわりに、放送に噛んでもらう事にするよ。 そうすれば皆も、公正中立な運営を信じてくれるでしょ? 」
「まあ、さすが黄薔薇さまですわ。 なんて才気走ってらっしゃるのかしら。 」
「「「「「賛成です。」」」」」
では、皆も。 そろそろ解散してくれるかな。 シスターの怖ーい雷が落ちる前にね。
はい。 という返事が唱和して、怒れる羊の群れは、一時静まって千路に分かれていく。
だが、これからが正念場なのは、祥子にも良く解っていた。 令は執行猶予を勝ち取っただけなのだから。