【965】 舞い込む確信犯選挙管理委員会  (春霞 2005-12-13 16:53:19)


がちゃSレイニーシリーズ。『火の七日間』編 始まり(勝手に命名してみる 

◆ 七日目(火曜日) 一時間目〜休み時間
├┐
┣┿ 『黒い太陽大いなる犠牲 【No:962】』 (祥子)
│┣ 『救われてほしいから全力でサポート 【No:704】』 (由乃)
│┣ 『出来る事としたい事 【No:709】』 (由乃)
┣┿ 『水先案内スタートライン 【No:963】』 (祥子)
の続きです。
 あ、選挙管理委員姉妹は、オリキャラです。 
 が、ある素敵な作家さんのSSから拝借してきたようなものなので、春霞オリジナルではありません。 
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 さて、選挙管理委員会が既に活動を始めている時期だったのは、不幸中の幸いだったな。 
「今回は、余分な仕事に巻き込んでしまって申し訳ない。 委員長。 」 
 童顔で小柄な選挙管理委員長は、そういえば初めて見た頃の祐巳ちゃんに似ているかもしれない。 あの頃の、ちょっと不安げで、自信なさげで、でも祥子の為にやる気だけはいっぱいに詰め込んでいた少女。 同じ年次で、1年前の祐巳ちゃんと印象が重なるのは少し心配だが。 (そう、選挙管理委員は3年生は関わらない。 新しい世代のための委員会だから。) 
 だが、令の不埒な印象を嗅ぎ取ったかのように、隣からグルグルと唸り声を上げて威嚇して来そうな委員長の妹の姿を見ると、これはこれで割れ鍋に閉じ蓋と言うところか。 まあ、期待できそうだ、とセットでの印象を上方に修正する。 

「いいえ、姉妹制度はリリアンの根幹。 その行方を左右する投票に関われる事は、とても光栄な事だと思っています。 」 幼い声ながら、随分としっかりした発言にちょっと驚く。 
 となりから、ふふん、お姉さまの事を馬鹿にしてるから驚くのよ、とでも解釈するしかない皮肉な視線が突き刺さってくる辺り、妹の方は随分と勝気なようだ。 

「委員長はこう申しておりますが、実際のところ年が明ければ選挙が来ると言うこの時期に、このような唐突な話を持ち込まれても困ります。 私たちは24人しか居ないのです。 けして少なくはありませんが、選挙をもう一つやるようなものならば、人手と時間が足りなさすぎます!」 妹の発言はもっともなことだが、予想の範囲内ではある。 むしろ姉の方がよほど驚いたようだ。 

「ちょっと、美ーちゃん! 」 「トキちゃんは黙っていて! 言うべき事は言うべきなの! 」 小声で嗜める委員長に逆に噛み付いている妹。 この仲のよさは、もしかすると幼馴染同士かな? うーん、何所かで見たようなやり取りに、思わず苦笑が漏れる。 

 その笑みを嘲笑と受け取ったか、妹の方がギンッと睨みつけて、さらに何か言い募って来ようとする所を、令は片手を上げて止めた。 
「もっともな話だね。 貴方たちの作業量は極力減らしたいと思っている。 そもそも今回の件は先例にしたくないんだ。 だから、マニュアルが残るような事も、公式な議事録が残るような事もしたくない。 これを機に、年一回制度審議投票会でも始まってしまったら、先輩方に申し訳が立たないよ。 」 
「ご配慮に感謝します 」 委員長は、まだグルグルと唸っている妹の手を、机の下で握ってやって宥めながら質問した。 「ですが、そうなると。 黄薔薇さまは私たちに何をさせようと言うのですか? 」 
「それなんだけど… 」 


                  ◆◆◆

1つには、 これからちょっと賑やかになる、と言う事を学園側に話を通しておく必要がある。 
       これはもちろん薔薇の役目。 

2つには、 ポスターとか記録に残ってしまいそうなものは使わない。 
       物証を伴わない記憶と言うのは、やがて美化されていくからね。 

3つには、 放送演説も、講堂を使った立会演説会もやらない。 
       放送だと、一方的な押し付けになってしまうからね。 
       聞きたくない人も居るかもしれないし、
       係わり合いになりたくない人も居るかもしれない。 


                  ◆◆◆ 

 そこで堪らず声を上げる委員長。 
「それでは、私たちは一体なにをしたらよいのですか?」 
「というか、それで一体投票行動に繋がるのですか?」 
「うん、それはこれから話すよ。 幸い、明日から暫らくは関東の冬晴れが続きそうだし。 」 
「「???」」 


                  ◆◆◆ 


4つには、 投票自体は一週間後に行うとして、投開票事務は選挙管理委員会にやってもらう。 
       「「はい」」 ようやくの出番にほっとする2人。 

 あとは、ある程度コントロールできる範囲内で盛り上がりを作りたいから、立会演説会はやる。 使用許可申請で記録が残らないように、中庭でね。 演説台も持ってこないし、目立つ事は一切無し。 開催の案内だけは放送委員に頼む。 あと、応援演説みたいな集団化も無し。 当人の心の中のありようだけで、それぞれの主張をしてもらう。 ただ。 

(ふと、椅子に座っていても、低い位置にある委員長のおかっぱ頭を見下ろしてから、令は続けた。 ) 

 ただ、背の低い演説者が居るかもしれないから、みかん箱くらいは用意する。 それに乗って話してもらおう。 

(案の定、自分を見つめながらの『背の低い』発言に、委員長の頬がぷっくり膨れた。 逆に今まで強気だった妹の方が、慌てて隣から宥める姿がまた微笑ましい。 いい姉妹だ。 ) 

 あとは、マイクが必要かな。 演劇部でも、合唱部でもない普通の生徒では、なかなか声が通らないだろうし。 これも、放送委員会に協力してもらうつもりだ。 
 選挙管理委員長には、演説者にマイクを渡す役をやってもらおう。 腕章かリボンをつけて、貴女の立場がハッキリ判るようにして貰って。 

「なるほど、権威付けですか」 
「そう、公平中立な機関の長がマイクを渡す事で、演説者への敬意を持ってもらう。 」 
「演説会は、では土曜日ですか? 何人演説者が出るか解りませんが。 」 
「いや、明日やる」 
「え、準備が間に合いませんよ。 演説する側が特に。 」 

 聡い妹と、令の間でポンポンと交わされるやり取りに着いて行けずに、半ば頭を抱え込んでいる委員長に、令は丁寧に説明した。 

 今回の件は、一回の演説会でワッと盛り上げて、その勢いで投票する形にはしたくないこと。 全ての生徒に、じっくりと考える時間を持って欲しい事。 そのために、まず明日。 志摩子に自分の思うところを語ってもらう事。 翌日は祥子に主張してもらう事。 
 志摩子は最初に提案した段階で、充分に考えているはずだし。 祥子は本番に強い。(お姉さまが関係しなければ、ね) 

「では、金・土・月 は蕾さまがたですか? 」 妹がもっともな事を聞く。 
「いや、金・土は夫々の立場の一般生徒から誰かに演説してもらう。 」 
 今回の件が決して、薔薇の内紛の問題ではなく、一般生徒にも意見を言う機会があるという事をハッキリ示すために。 
「ですが、恐らく全校生徒の注目の中で、演説をしようという人が出てきますか? 」 
「うん、それもあって、日にちをかけて演説会を開くんだ。 いま、これだけ盛り上がっているという事は、みな何か、心の中に一家言持っているんだよ。 きっと。 そして、志摩子の演説や祥子の演説を聞いて、自分の思う所を述べたいという子も出てくれると思ってる。 」 
「なるほど。 では月曜日は?」 
「中立の子を探したい。」 
「それは、もっと難しいのでは? 中立は聞こえは良いですが、どっち付かずとも取られかねませんし、一番割に合わない立場ですよ。 それに、このリリアンに 一姉一妹にも、多姉多妹にも組しない人が居ますか? 」 あ、若しかしてお姉さまを担ぎ出すつもりではないでしょうね。 役職上公正公平をモットーにしていますが、私たちはバリバリの一姉一妹制度原理主義者ですよ? 私のお姉さまは、トキちゃん以外にありえませんし、トキちゃんの妹も、私以外許しませんからね。 

「許しませんって、美ーちゃんってば。」 頭痛をこらえるような委員長と、肩で息をする妹に苦笑しながら令は宥めた。 
「いや、心当たりは有るから。 多分本気で中立な人の。 演説してくれるかは微妙だけど、どこを押せば良いか見当もついてるし、まあ、何とか引っ張り出す。 」 ぐっと、こぶしを握り締める令に、2人が頷いた。 

「っと、そう言えばまだ正式に訊いていなかった。 選挙管理委員会は今回の件に協力してくれますか? 」 
「いまさら訊きますか? この件の噂を聞いた段階で、委員会を臨時招集し、すでに全会一致で協力する事を決しています。 」 
「早っ、じゃあさっきの貴女の 忙しい云々は?」 
「もちろん、いやみです。 」 

 しばらくぽかんとしていた令は、あっはっはと笑いながら立ち上がった。 
「じゃあ、よろしく頼みます。 私はこれから放送委員会の協力を貰って、学園に話を通しに行くから」 
 からからと部屋の扉を空けて、令はふと振り向いた。 
「委員長は良い妹を持っているね、うらやましい。 」 
 とんでもない、妹が失礼なことを。 と、あわあわと赤面して頭を下げる委員長。 
 当然よ。 と、けっこう豊かな胸を張る妹。 本当にいいコンビだ。 

「さて、次ぎ、行って見ようか 」 剣道の大会を前にしているようなハリを感じながら、令は委員会室から歩み去っていった。 


                 ◆◆◆ 


 年明けの選挙を前に、既に選挙管理委員会室として機能し始めている小部屋に、少女が2人のこされた。 

「あ、投票用紙どうしよう 」 
「うを、それがあったか 」 
「選挙用のは使わないほうが良いよね。 」 
「まあ、あっちは、委員会公印と、通し番号印が打ってあるから。 公式な記録云々を考えると使わないほうが良いね。 」 
「でも 」 
「うん、偽造用紙が入り込む余地が有ると、あとあと難癖を付けて来る人が居るかもしれない。 この投票には、そう言う隙を残しちゃいけないと思う。 」 
「じゃあ、やっぱり通し印くらいは打たないと。 」 
「うわ、またあれをやるのかー」 

「ごめんね。迷惑ばかりかけて。 」 きゅっと妹の袖口を握る委員長。 
「迷惑じゃないよ。 トキちゃんの為なら、それはどんな事だろうと私の歓びなの。 大体今まで十何年面倒見てきて、この先一生面倒を見てあげるんだから、こんな事でいちいち謝らないの。 それにこういう時に言って欲しい言葉は1つなんだから…」 
「え?」 と、妹の顔を覗き込もうとするのを、がしっと、頭を掴んで強引に自分の方にもたせ掛けて回避する。 
 背の低い委員長の頭は、丁度妹の肩にすっぽりとおさまった。 

 じんわりとした暖かい時間が過ぎる。 と、委員長はおかっぱの頭を妹の方に、スリリ、として呟いた。 
「ありがとう。 美ーちゃん、大好きだよ」 



 がらりっ。 「ごめん忘れてた、投票用紙は どury(Å♪x%(>_<)///popn 」 どがしゃ。 開いた瞬間閉めるという、光速への限界に挑戦した行為に、扉は何とか耐え切った。 
 向こう側から上ずった声で 「あわわわ、ご、ごめん。 見る積りじゃなくて、投票用紙が、えっとおお」 

 真っ赤になった妹がほえる。 「用紙はこちらで手配しますから。 黄薔薇さまは次に行っちゃってください。 時間がないのでしょうう! 」 

「あ、あ。 よろしくね 」 ぱたぱたと遠ざかる気配。 

 せっかく良いところだったのに。 気を取り直して続きをしようと、姉の肩に手も回すが空を切る。 
「そうよね。 あしたから演説会だし。 投票が一週間後だし。 時間ないね 」 皆を呼んで取り掛かろう。 と立ち上がっている委員長。 

「………… は〜〜〜い。 お姉さま 」 ガックシと項垂れたまま応える妹は、内心、絶対絶対呪ってやる。 せっかく久しぶりに甘々になれたのに! 黄薔薇様のばかー! 蕾といい雰囲気になったときに、かえるが1ダースくらい降って来ればいいんだ。 と、吠えていたとか居なかったとか。 

「ほら」 先ほどの名残に、耳の端を薄紅色に染めた委員長が手を差し出す。 
 時間がないのは本当だし、委員を集める必要があるのも本当だ。 苦笑をしながらその手を取った妹が、気持ちを切り替えて先に立つ。 

 あ、あ、あ。 まって、美ーちゃん。 早いよう。 

 廊下に響く声と、人気のなくなった委員会室。 

 マリアさまの園は、どんな騒動の時でも見守られているのです。 


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