「お盆と言えばナスとキュウリだよね」
「は?」
夏休み前、薔薇の館で仕事の合間に紅茶で一服していると、突然祐巳がそんなことを言い出した。
「ちょっと祐巳さん、いきなりそんな事言われても訳分からないわよ」
「あら、由乃ちゃんの家ではナス牛とキュウリ馬は作らないのかしら?」
「ナス牛にキュウリ馬?」
「ほら由乃、お盆の時に麻幹を刺したナスとキュウリがあるでしょ?」
「あぁ、あれのことね。でも何でナス牛とキュウリ馬な訳?」
「それは……」
「それはですね、昔は馬や牛が最高の乗り物とされていたのでそれでご先祖様をお迎えしようということらしいです。ナスとキュウリなのは夏野菜の代表だからだそうですね」
自分が説明しようとしたところを乃梨子の取られて機嫌が悪くなる祥子。慌てて祐巳が機嫌を取ろうとした。
「あの、お姉さまの家では清子小母さまが?」
「えぇそうよ。祐巳の家でもやっているの?」
「はい。母が高校の時に先輩に教えて貰ってから毎年やっているそうで」
「へぇ、そうなの」
「毎年『さーこさまがね』とか話ながら楽しそうに……お姉さま、どうしました?」
「祐巳、それ本当?」
「えっ? はい、本当ですけど」
急に表情の変わった祥子に、何か変なこと言ってしまったかななどと祐巳が百面相をしていると……
「いつだったか忘れたけど、お盆の時に母が昔話をしてくれて、その時に自分を『さーこさま』と呼んで慕っていた後輩に教えたことがあるって。名字が珍しいから覚えていて、確か……」
「祝部みき、ですか?」
「そう……って、じゃあやっぱり」
「私の母の旧姓です」
「………………」
あまりの偶然に無言で顔を見合わせる2人。いや、今ここにいる山百合会のメンバー全員があまりの偶然に固まっていた。
そして、きっかり3秒後に
「えぇぇぇぇぇぇぇぇーっ」
学園中に響くような大絶叫が薔薇の館から響き渡ったのだった。