【998】 瞳子の逆襲交錯模様  (林 茉莉 2005-12-27 12:00:47)


このお話は最新刊
  マリア様がみてる ――未来の白地図――
のネタバレを含みます。
最新刊を未読の方はご注意下さい。


  ☆ ☆ ☆


「ただいまぁ」
「お帰り。山百合会のクリスマスパーティは楽しかったかい」
「っていうより疲れちゃった。色々あってね」
「色々ねぇ。でもまぁリリアンのクリスマスイブは昔から色々あるもんだよ」
「大昔から、でしょ」
「おや、プレゼントはいらないようだね」
「あっ、ごめんなさい。菫子さん愛してる♪」
「いいから早く着替えておいで」

 薔薇の館でのクリスマスパーティを終えて帰宅した乃梨子は、菫子さんに沈みがちな気持ちを悟られないようにいつもの軽口を叩いた後、自分の部屋へ戻って私服に着替えながら今日の色々を思い出していた。
 途中でパーティを退席した瞳子。そしてそれを追うように出て行った祐巳さま。さらにその後に続いた紅薔薇さま。その後しばらくしてから聞こえてきたあれは、聞き間違いでなければ祐巳さまの泣き声だ。
 部屋に戻ってきた紅薔薇さまはご自分と祐巳さまの鞄やコートを持つと「悪いけど私と祐巳はお先に失礼するわ。みんな、良いお年をね」と言って退席され、それで結局パーティもお開きとなったのだった。
 きっと瞳子と祐巳さまの間で何かあったのだろう。でもあの様子では二人には素敵なクリスマスプレゼントは届かなかったに違いない。

 どうして上手くいかないんだろう。
 意地っ張りの友も、祐巳さまと同じように泣いていたのだろうか。
 由乃さまはなるようになるとおっしゃっていたけれど、本当にそうなのだろうか。
 祐巳さまに反抗的な態度を取ってしまった悔悟から、上手くいかないのはまるで自分のせいであるかのようで、乃梨子は胸を締め付けられていた。

 RRRRRR……、RRRRRR……。
 沈んだ心を抱えたままうつむき加減に部屋を出ると、廊下にある電話の呼び出し音が聞こえた。
「リコー、出ておくれ」
「はーい」
 キッチンでお茶をいれている菫子さんの声に努めて明るく返事をした乃梨子は、そんな態度に自嘲しながら受話器を取る。

「はい、二条です」
『乃梨子さんですか?』
「瞳子……」
 瞳子から電話をかけてくるとは予想外だったのでちょっとビックリしたが、それにしても一体どんな言葉を掛ければいいのだろう。そんな戸惑いが自然、声の調子に現れていたようだ。それを聞き逃すような瞳子ではなかった。
『どうしました? 何だか暗いですわね』
「ううん。それより今日はごめん。なんか余計なことしちゃったみたいで」
『はっ? 何のことですの?』
「無理矢理パーティに引っ張って来ちゃって」
『そのことでお電話したんですが、今日はお誘いいただきありがとうございました』
「えっ? 嫌じゃなかったの? それにあんた達を誘ったのは志摩子さんと祐巳さまでしょ」
『乃梨子さんが発案者だったんじゃないんですか?』
「発案者は祐巳さま。っていうかさらにその黒幕は由乃さま。私は反対したんだけど」
『由乃さまが? ああ、あの中等部の子を呼ぶために瞳子と可南子さんをサクラにしようってことですのね。全くあの方にも困ったものですわ』
 いや、さすがの由乃さまもあんたに言われたくはないと思うよ。一番困ったちゃんは多分あんただから。
『でも乃梨子さんったら友だちだと思ってましたのに、呼んでくれないなんて非道いですわ』
 そう言って瞳子はわざとらしくグスン、と嘆いてみせる。
 ――ここまで来て、乃梨子はふと気づいた。何だろう、瞳子のテンションが妙に高いような。
「だってあんた祐巳さまのこと避けてたんじゃ」
『……』
「もしもし?」
『……クククッ』
「ん? もしもーし」
『遂に、遂に瞳子はやりましたわっ! 今まで祐巳さまの天然っぷりにはさんざん泣かされてきましたが、遂にゲットしましたわーーーっ! これも偏にパーティに誘ってくださった乃梨子さんのおかげですわっ!』
「いや、だから私じゃないって」
『聞いてください乃梨子さん』
「あんたこそ聞けよ」
『茶話会以後、敢えてお会いしないようにしたり、試験休み中に寒い思いをして祐巳さまのお宅へ伺ったりして関心を向けさせ、クリスマスパーティでは可哀相なお姫様を印象づけ、ダメ押しに将来に対する不安をほのめかしたらっ! ものの見事に釣れましたわっ!』
 はっ? 何を言っているんだ、こいつは。祐巳さまのお宅だと? 聞いてないぞ、そんなこと。
「ちょっと待て。それじゃあもしかして茶話会から今日までぶーたれてたのは全部演技で、私や可南子さんも騙してたってこと?」
 難詰する乃梨子に、瞳子はしれっとして応える。
『敵を欺くには先ず味方から、ですわ』
 あんた演技上手すぎだよ! っていうか祐巳さま敵かよ!

 それにしても演技だったとは。ここしばらく瞳子を思ってずっと抱え込んでいた苛立ちや焦燥、無力感は一体何だったんだ。懊悩に苛まれた私の時間を返せ。受話器を握りしめた手がプルプルと震え、心の中で何かが爆発しそうになるのを深呼吸してそれでもどうにか抑えると、乃梨子はゆっくり言った。
「ま、まあ取り敢えずおめでとう、なのかな?」
『ありがとうございます。これで気持ちよく新年を迎えられますわ』
「ふーん、まあ良かったね。それで、どんなの頂いたの?」
『えっ?』
「ロザリオ」
『……突っ返してしまいました』
「はぁ? だってさっきゲットしたって」
『それは祐巳さまの可愛らしい泣き顔を隠し撮りで……』
「アホかあんたは! ロザリオもらわず祐巳さま泣かせてどうする! それでこの先ロザリオもらえるの!?」
『ど、どうしましょう、乃梨子さん』


「 知 る か ーーーーー っ !! 」


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