【101】 夕子が起源のお姉さまの迫力  (西武 2005-06-25 12:29:51)


「いいかげんになさい!(CV:伊藤美紀)」


「お姉さまは本当に迫力がありますね」
「そうかしら。でも、昔は全然そんなことなかったのよ」
「そうなんですか?」
「子供の頃からお嬢様として育てられてきたから、なかなか自分をだせなかったのよ」(江利子「そうだったかしら」)
「お姉さまに誘われて山百合会に入ってからも、一人浮いている気がしてたわ」(蓉子「そうだったかしら」)
「そんなある日、街で同い年くらいの女の子をみかけたのよ。年上の男性と二人でいたけど、いきなり大声で叱りつけて平手打ちしたの」
「それでも、男性はうれしそうで。女の子の方も5分後にはにこにこしてたわね。それを見てて思ったのよ。お互いの心が通い合っていれば、ぶつかりあっても大丈夫なんだって」
「いいお話です。お姉さま」
「それから、ああいうダメそうな大人は叱らなきゃだめなんだって」
「…」
「そのときは、自分に結び付けて考えたわけじゃなかったのだけど。翌日、薔薇の館に来たら」

「いたのよ、ダメ人間が(ちら)」
「ああ、なるほど(ちら)」(蓉子&江利子『なるほど(ちら)』)


「お姉さまがご自分をだせるよう、わたしもがんばります」
『『がんばらなくても、そのままで十分よ』』


【102】 考える乃梨子  (素晴 2005-06-25 22:53:28)


「わたしは信じます。唯一の神、全能の父、天と地、見えるもの、
見えないもの、すべてのものの造り主を。」

乃梨子は礼拝の時間が退屈でたまらなかった。

リリアン生といっても、皆が皆クリスチャンというわけではない。
世間の平均よりは多いのは確かだが、それでも求道者を含めて半数に満たないだろう。
マリア様の像の前でお祈りをする生徒は多いけれど、敦子さんや美幸さんはともかく、
瞳子や可南子さんからその手の話を聞いたことはないし、
山百合会のメンバーにしても志摩子さんを除けば熱心な信者は見受けられない。
彼女たちは自分自身の内でどのように折り合いをつけているのだろう。

「主は、わたしたち人類のため、わたしたちの救いのために天からくだり、
聖霊によって、おとめマリアよりからだを受け、人となられました。」

マリア様は私たちをよりキリストに近づける存在だという。人でありながら神の子を宿し、
それでも人であり、しかしながら信仰、希望、愛の徳を実践した使徒の規範。
ならば、乃梨子にとっては志摩子さんこそが仲介者だ。
リリアン女学園という小さな世界に乃梨子を結び付けてくれた、大切な志摩子さん。

「苦しみを受け、葬られ、聖書にあるとおり三日目に復活し、天に昇り、
父の右の座に着いておられます。」

志摩子さんの隣にずっといられるなら。
乃梨子は天にだって上れるし、死にそうな目に遭ったって必ず帰ってくる。
この気持ちは、変わらない。

「アーメン。」

アーメン。

乃梨子は礼拝の時間が少し好きになった。


【103】 図書館で  (琴吹 邑 2005-06-25 23:42:51)


 私は図書室の窓から外を眺めていた。
 最後にあの人とお話をしたのはいつのことだったろう?
 窓の外を見ながら、ぼんやりとあの方のことを考える。
 最後に話したのは、祥子さまが行方不明になったとき。そう、あれが確か最後だった。
 それからすぐ茶話会の話が出て、私はあの方を避けるようになった。
 避けるというか、隠れるというか、逃げるというか……。
 いやいや、その表現は私の中で不適切だ。
 あの方の妹の話題に、さらによけいな情報を提供しないように、あえて転進していたのだ。
 そう、転進。逃げたわけでは、決してない。
 あの方が行きそうな所には極力近づかない。
 あの方を見かけると、あの方に見つからないうちに、転進。
 危険は避けるモノである。
 かれこれ一月以上、そんな状態が続いている。
 茶話会が終わって、少しは下世話な流言も落ち着いたが、私とあの方の関係は何一つ変わっていない。
 薔薇の館の住人と、薔薇の館の仕事を手伝いを行った人。
 そう、その関係は全然変わっていないのに、なんでこんなに憂鬱なのか。

「ずいぶんと憂鬱そうね」
「ええ」
「原因は何かしら?」
「そんなの決まってます。祐巳さま……」
 ってそこまで口に出してから、あわてて、声のした方を見た。
 そこ座っていたのは、白薔薇さまだった。
 「白薔薇さま!」
 ぼんやりとしているところを、話しかけられて、うっかりと、答えてしまった自分に歯がみをしながら、ぷいっと先ほどと同じように、窓の外を向く。
「祐巳さんが原因なの?」
「別にそんなこと言ってませんわ」
「そう? それなら、別にかまわないの」
 そう言って、白薔薇さまが、にっこりと微笑んだ。
 横目でその笑みを見ながら、乃梨子さんが、マリアさまのようなという表現が一番似合うのは白薔薇さまだと力説したことを思い出した。
 それからしばらくの間、二人の間に沈黙が訪れた。
 その沈黙を先に破ったのは白薔薇さまだった。
「ずいぶんと憂鬱そうね」
「別にそんなことありませんわ」
「そんな風には見えなかったけど。原因は何かしら?」
「白薔薇さまには関係ありませんわ」
「祐巳さんが原因なの?」
「誰もそんなこと言ってませんわ」
「ええ、確かにあなたは言っていないわ。ただ、私がそう思っただけ」
 吹き出しそうになる感情を、相手が上級生かつ白薔薇さまという理由でかろうじて、制御する。
 その時の私の表情は、きっとかなりむっとした顔になっていただろう。
 そんな私を顔も見ながらも、白薔薇さまは知らん顔をして話を続ける。
「私は祐巳さんの妹が誰になろうが、あなたの姉が誰になろうが、かまわないと思っているのわ。でも、あなたの姉が祐巳さんになったのなら薔薇の館は賑やかになりそうね」
 私の姉が祐巳さまになったら、その言葉は祐巳さまの妹が私になったら、という言葉と完全に同義なはずなのに、なぜか私の心に波紋を広げなかった。
「確かにそうかも知れませんね」
 だから、私は素直にその言葉に同意することが出来た。
「祐巳さまの妹が瞳子だったら」といわれていたら、絶対に否定的なリアクションを返してしまうはずなのに。
 そしてまた、二人の間に沈黙が訪れる。
 沈黙を先に破ったのは、先ほどと同じように白薔薇さまだった。

「乃梨子が心配していたわ。あなたにちゃんと口をきいてもらえないって」
「それは……」
「乃梨子泣いていたわ。あなたのこと好きなのにって」
「乃梨子さんが?」
「乃梨子には内緒にしておいてね。こんな事瞳子ちゃんに言ったなんて知られたら怒られちゃうから」
「はあ」
 いつも素っ気ない態度で私のことを扱う乃梨子さんにそんなことがあるのだろうか?
 正直信じられなかった。しかし、信仰の篤い白薔薇さまが嘘をつくとはとても思えなかった。

 「さて、そろそろ、薔薇の館に戻らなくちゃ」
 白薔薇さまは、図書館にある掛け時計を見てそう言った。
 「そうそう、今度薔薇の館に遊びに来て。祐巳さんはなんて言うか知らないけれど。私は大歓迎よ」
「そこは祐巳さまではなく由乃さまではないのですか? 祐巳さまはいつ誰が来ても諸手をあげて歓迎なさる方ですわ」
「そうね。でも、祐巳さんはあなたが来たら諸手をあげてじゃなくて、じゃれつく子犬のように歓迎すると思うわ。最近あなたに会えなくてちょっと寂しそうだから」
「え?」
「それじゃあね」
「あ、はい」
『最近あなたに会えなくてちょっと寂しそうだから』と白薔薇様は言った。
 あの方も、わたしに逢えなくて寂しいと思ってくれるのだろうか?
 明後日ぐらいにも、薔薇の館に遊びに行こう。私はそう決心した。
 それは決して、子犬のように歓迎してくれるであろう祐巳さまに会いに行くのではなくて、白薔薇さまが遊びにいらっしゃいと誘ってくれたから。
 上級生の誘いを断るのは、良い下級生ではないだろう。
 そう決めると、今までの憂鬱とした気分が少し軽くなったような気がした。


【104】 ユミトーとは違うのだよ  (冬馬美好 2005-06-26 03:13:44)


 その日、薔薇の館は暇であった。その中でも特に暇を持て余し、だるーんとテーブルに突っ伏していた由乃さんは、その弛緩した状況の打破を狙ってか、突如身を起こすと「とお!」とか叫びつつ、背面跳びの要領で令の腕の中に飛び込んだのであった。いわゆる『お姫さまだっこ』である。

「・・・ちょっと。いきなり何するのよ、由乃」
「うん。いきなりだけど、ちゃんと受け止めてくれる令ちゃんってば素敵。黄薔薇最高」

 何もかもがいきなりである。弛緩した雰囲気から突如らぶらぶもーどに突入した由乃を、一同は半ばフリーズして見やっていたが、いち早く再起動に成功した乃梨子は「むむ」と唸った後、「然らば、やあ!」とか叫びながら、隣席の志摩子に倒れこんだのであった。いわゆる『膝枕』である。

「・・・いきなり、どうしたの? 乃梨子」
「うん。いきなりだったけど、優しく頭を撫でてくれる志摩子さんってば素敵。白薔薇最高」

 いきなり返しである。「お主やるな」という表情の由乃以外の面々は、一層唖然とした表情で状況に流されまくっていたが、「はっ! 次は私の番」と時代の流れを読み切った瞳子は、「むむむ」と唸ると、隣の席の祐巳をちらりと見やり・・・・・・キラキラと期待に満ちた瞳で自分を見つめる祐巳の姿を認めると、

「・・・と、とう!」

 と、光の速さで方向を修正し、更にその隣の席に居た祥子に抱きついたのであった。

「あら、瞳子ちゃん。抱きつくのは私になの?」
「とととと当然ですわ。べべべ紅薔薇最高」
「・・・ひどい、瞳子ちゃん。私だけのけ者にして」
「な、ならば祐巳さまも抱きつけばよろしいではありませんか」
「そっか。それなら、ぎゅ!」
「!! わ、私にではなく、祥子さまに抱きついてくださいませ!」

 何もかもいきなりであったが、オチはものすごくやっぱりであった。あまり最高とは連想できない状態で連なっている紅薔薇’sを臨んだ黄と白の薔薇たちは、「ふふふふ」とほぼ同時にほくそ笑みながら、「勝った!」と意味も無く拳を握りしめたのであった。

 要はそれぐらい暇だったのである。


【105】 アルバムを見せたらいつでもカメラ目線  (柊雅史 2005-06-26 04:27:00)


「ダメよダメよダメよダメよ! こんなんじゃダメなのよっ!」

写真部に遊びにきた笙子の耳に、そんな悲痛な叫び声が聞こえてきた。
本来ならここで「何事!?」と驚くのが正しい反応なのだろうけど、笙子は別段驚くわけでもなく、むしろ「あ、今日も蔦子さまは絶好調ですね♪」と楽しくなった。
そっとドアを開けてみれば、やっぱり先ほどの叫びの主は蔦子さまらしく。蔦子さまは散乱した写真の海の中で、「うえっぐえっぐ」とすすり泣いていた。

「ごきげんよう、蔦子さま」
「あ、笙子ちゃん。ごきげんよう」

笙子が声を掛けると、先ほどの醜態が嘘のようにクールな表情で、蔦子さまが笙子を迎えてくれる。

「どうかしたんですか? これ」
「ああ……ちょっとね」

笙子が床に散らばった写真を拾いながら問うと、蔦子さまは渋面になった。

「どうも、満足な写真が撮れなくてね」
「そうなんですか? ――白薔薇さまですね」
「うん。最近、志摩子さんってイイ表情するようになったからね、集中的に狙ってるんだけど」

そこで蔦子さまははぁ、と溜息を吐く。
笙子は拾った写真を一枚一枚見てみたけれど、どれも中々の出来に見えた。けれど蔦子さまは納得していないらしい。

「何が不満なんですか? こんなによく撮れているのに」

笙子が写真を渡しながら聞くと、蔦子さまは代わりに一冊のアルバムを渡してきた。
アルバムをめくると、そこにはずらりと白薔薇さまの写真が並んでいて。乃梨子さんなんかが見たら発狂するんじゃないか、と思ってしまうくらいに、白薔薇さま一色だった。

「……気付かない?」

蔦子さまがくい、と眼鏡を押し上げて言う。
その声音は悔しそうであり、そしてどこか、恐れているようでもあった。

「気付く……?」
「そうよ。私のこれまでの祐巳さんコレクションや由乃さんコレクション、瞳子さんコレクションに乃梨子さんコレクション、そして笙子ちゃんコレクション……」
「――あの、私のコレクションがあるなんて、初耳……」
「それらとっ! 決定的に違うことに、気付かない、笙子ちゃん!?」
「え……? えっと……」

急に声のトーンを上げた蔦子さまに、笙子は気圧されるようにしてアルバムに視線を落とす。
けれど蔦子さまの言う『笙子ちゃんコレクション』とやらの存在が気になって、笙子には蔦子さまの言わんとすることが分からなかった。

「すいません、何が蔦子さまは不満なのですか?」
「――カメラ目線」
「――カメラ目線?」
「そうなのよ! 全部カメラ目線なのよ! 茂みの中から写した一枚も、超望遠レンズで写した一枚も、探偵御用達のペン型ミニカメラで写した一枚も、全部が全部、カメラ目線なのよ!」
「――!!!???」

言われて気がついた。
アルバムの中に収められている、何百枚という白薔薇さまは……全てが、カメラ目線でにっこり微笑んでいたのだっ!

「こ、こわっ! めっちゃこわっ!」

マリア様の微笑みのように見えた白薔薇さまの笑顔が、突如悪魔の笑みに思えてしまい、笙子はアルバムを机に投げ捨てた。



白薔薇さまこと、藤堂志摩子さま。
もしかしたら、蔦子さまを越える超人なのかもしれない……。


【106】 流れ星  (joker 2005-06-26 10:46:41)


 流れ星に願う事は幾千幾通り。みんなそれぞれが、自分の願いを流れ星に託す。


「もっと素直になれますように。」
「由乃さまのロザリオを貰えますように。」
「もっと楽しい事が起きますように。」
「親友がまともになりますように。」
「志摩子さんともっと長く一緒にいられますように♪」
「乃梨子ともっと長く一緒にいられますように。」
「お姉さまや瞳子ちゃんとデートしたいなぁ。」
「願いねぇ。今は祐麒君や菜々がいるし、特になぁー。しいて言うなら、京都に行って新撰組になりたい。」
「由乃がもっと、私にかまってくれますように……うう、よしのぉ。」
「私は、ヒステリーなところや我が侭を直したいわ。」
「私は祐巳ちゃんに抱きつければそれでオッケーだよ〜ん。」


 苦悩への願い、平凡でほのぼのした願い、特に理由なき願い、悲痛な願い、変化への願望。
 皆それぞれの願いが流れ星に託される。
 ただ、共通している願いは、


 願いよ、かなえ。


【107】 壁に耳あり適材適所  (ますだのぶあつ 2005-06-26 11:37:00)


 演劇部の部室に近づくと不意に自分の名前が聞こえた。
「それでね。瞳子さんが……」
 思わず扉の前で足を止めてしまう。部室と言っても普通の教室だ。体育館のステージは使用許可が必要だから、普段の稽古や本読みとかには教室を使っている。

 それにしても間の悪い。
 いつもの足音を立てない歩き方が災いしたようだ。本当にうんざりする。
 このまま立ち去ろうとも思ったが、なにか悪意ある台詞が飛び出したところで入っていく方が効果的だろうとそのまま耳をすました。これは、これまで上流階級で口さがない人たちを相手にしてきた瞳子にとって、自分を守るために身につけた手管だ。

「瞳子さんが祐巳さんを好きなのは間違いないと思うわけなのよ」

 やっぱりその話題ですか……。茶話会の話が出て以来、もう毎日のように耳にする話題だ。
 純粋な憧れから来る悪意のない、それでいてプライバシーにずかずかと踏み込む興味。誰にでもおめでたい笑顔をふりまく祐巳さまに対する憧憬。アイドルと生意気な後輩が姉妹になることに対する憤懣。そんなとこだろう。
「そうですわね。文化祭前の暴走も丸く収めてくれたのは祐巳さんだそうですし」
「もうっ。あのことなら、私も悪かったと思ってるわよ」
 エイミー役を妬んで瞳子に突っかかってきたあの先輩の声だ。
 あら、思っていたより殊勝なことで。でもそういうことは瞳子の前で言って頂かなくては意味ありませんことよ。

「そうね。あれは未朱さんが悪いわね。でも瞳子さんも悪かった」

 この声は部長だ。どうやら私以外のほとんどの部員が集まっているらしい。
 部長がこういう話に加わるとは意外だ。彼女のリーダーシップや公平さ、演劇に対する姿勢などは瞳子も一目置いている。瞳子のエイミー役を強く押してくれたのも彼女だ。誰に対しても公平な態度を取る、その部長が噂話に加わっているということは、どういうことなのか?
 陰口とは考えにくい。先ほどの言葉からも部長としての配慮が見える。瞳子のやったことは他の部員の手前認めるわけにはいかないけども、未朱さまの非も指摘している。

「でもその償いは二人とも、学園祭の舞台でしてくれたと思うんだけど。みんなはどう思う?」

 部長の優しい声に、何人もの人が、そうね、そうよ、と頷いてる気配が伝わってくる。未朱さまもあの時以来、瞳子をちゃんと立ててくれたし、自分の役柄はもちろん、いろいろな準備を手伝ったりと頑張っていた。
 それにしても、こういうところが部長の凄いところだ。部員全員を公平にちゃんと評価し、みんなの気持ちをまとめてくれる。ひょっとするとこの結論をみんなから引き出すために部長が率先してこの話を始めたのかもしれない。

「そう思ってくれるのは嬉しい。でも、瞳子さんに対してはまだ何も償いができてないから……」

 素直に自分の力不足を認められず、つい瞳子を責めずいられなかった未朱さま。それだけに今は激しく後悔している声だった。
 ちょっとだけ自分と似てるかもしれないなと苦笑いを浮かべる。
「それで、祐巳さんと瞳子さんを応援しようというわけ?」
 未朱さまの言葉を引き継いで、先輩の一人が確認する。
「うん。それで協力してもらおうとみんなに声をかけたのよ」

 そういうことか。先ほどの推理はハズレだったらしい。この話の首謀者は未朱さまだ。
 まったく……。悪い人じゃないのは判ったけど、それこそ、余計なお節介だと判らないのか。
 思わずため息をつく。
 そこを助けてくれたのはやっぱり部長だった。

「未朱さんの気持ちは判るけど、それじゃ瞳子さんは喜ばないでしょうね。私にさえ、『瞳子さんのこと何か聞いてない?』とか『祐巳さんが覗きに来たりはしないの?』とか聞いてくる人がいるんだから、当の本人は煩わしい話だと思ってるんじゃない?」
「煩わしいって、紅薔薇のつぼみの妹にという話ですよ? 光栄に思いこそすれ……」
 1年の部員が遠慮がちに言う。確かあのこは祥子さまの信奉者だったわね。

「そうね。でもみんなだって、どんなに慕ってる先輩とのことだとしても、……いやだからこそ、かな……毎日のように赤の他人から妹にならないのかとか聞かれたり、影でこそこそ噂されたりしたら嫌でしょう?」
 一瞬、教室の中を静寂が走った。みんなが思案し、戸惑いながらも頷いてるようだ。
「そ、そっか」

「だとしたら私たちにできることは?」
「えっと……ここにいるときぐらいは、演劇に没頭して、そんなこと忘れさせてあげること、ですか?」
 部長の妹にして脚本家である律子さんが姉の意図を察し冷静に答えた。

「そうだよね。それじゃ、そんな感じで、みんな協力してくれないかな?」

 未朱さまが頭を下げたらしい。もちろんよ、とか言う声があちこちから聞こえた。そんな未朱さまとみんなの気持ちに胸がきゅうっと熱くなる。

 みんなの返事が一段落すると、部長がみんなの意見をまとめるように口を開いた。

「未朱さんも瞳子さんもここにいる皆も、大切な仲間なんだから当たり前でしょ。それに誰と姉妹になっても関係ない。その人は変わらず私たちの仲間なんだから」

 部長の言葉が、既に高まっている瞳子の胸の鼓動をまた一段と跳ね上げた。


 不覚にも火照ってしまった顔を冷やし、瞳子が部室の扉をくぐったのは、集合時間をだいぶ過ぎてからだった。
 そんな瞳子を部長はいつものようにお説教してくれた。


【108】 白薔薇の蕾までも  (春霞 2005-06-26 12:19:17)


【No:105】 柊雅史さま作 『アルバムを見せたらいつでもカメラ目線』 から繋いでみました。 


                     ◆◆◆ 


 ぼとり。
 気を取り直して、愛しい蔦子さまの写真整理のお手伝いに再度挑戦した笙子は、今度は手に持っていた写真の束を取り落とした。
 白薔薇さまは怖いので、その他の面々の写真の事前仕分けに手を出してみたのだが…。

「っっつしゃこしゃみゃあ?」  咽に引っ掛って、巧く言葉に出来ない。囁き程にしかならない呼び掛けでは、再び写真の吟味に没入している蔦子の注意を引く事は出来なかった。  笙子はコクリとつばを飲み込んで咽を湿らせると悲鳴のような声を上げた。「蔦子さまぁ!!」

「うん?」  ようやく反応してくれた蔦子さまの口元がだらしなく緩み、ちょっぴり濡れたように光っているのは見なかった事にしよう。 大事なのは、笙子の表情に気がついた蔦子さまが血相を変えて心配してくれていると言う事実ですもの。 と、かろうじて稼動中の『蔦子さまラブ回路』が心の片隅でメモリを蓄えているのとは裏腹に、主演算装置はネズミ車のようにカラカラと空回りして手元がおぼつかない。

「これ」  震える指が示す先には、今まで整理していた写真の束が広がっている。  笙子が頼まれたのは、ピンが甘いのや、背景の写りこみが雑然としているもの。ハレーを起こしているものなど、所謂ミスカットをはじく作業である。いかな写真部のエースと言えども100枚撮って100枚がベストショットとは行かない。むしろ、100枚とってベストショットが1枚残れば上等。60枚は失敗作であり、39枚は少女たちの心をくすぐっても感動はさせない。そんな物である。 曲がりなりにもモデルをやっていた事のある笙子には、結局写真と言うのは体力と数、という真理を充分理解していた。 
 そうして「蔦子さまにお願いされちゃった♪」と楽しく整理していたのは。

「ああ、乃梨子ちゃん。白薔薇のつぼみだね。この子がどうかした?」
 笙子の体調が悪いのでも、黒い羽の悪魔が出たわけでもないのを悟った蔦子が、やや緊張を緩めて問う。
「あの」  もちろん笙子とて白薔薇のつぼみの事は知っていた。 極北のクールビューティとか、白薔薇さま近衛騎士とか、最凶不敗の造型師とか、多くの二つ名ををもつ同じ学年の少女である。 クラスメイトの中にも、同学年にもかかわらず大人びた感じの彼女のことを、隠れてお姉さま付けで呼ぶ一派が存在する事も知っている。


「どれどれ」 
 蔦子が依頼したのは、ここ数ヶ月の未整理の分である。入学当初に目を付けた鉄壁の無表情。時々見せるやや家さぐれた拗ねた表情。白薔薇さまと出会った後に見せるようになったほんのりと暖かい笑み。写真を繰るごとに季節が下がってゆく。
「うん? これは」 
 ふと手を止めた蔦子がまじまじと1枚に見入る。次の1枚。次の1枚。ある1点だけを確認しながら次々に繰る手はやがて止まった。
「この写真など、とてもあからさまでしょう。」  ようやく言語機能が再起動を果たした笙子は、言葉すくなに指で押さえた。

 白薔薇のつぼみの下校風景。  …秋の夕暮れ。 金色に染まる銀杏並木の中を、やや半身振り返って歩くすがた。 左手の指先に絡められた巻き毛。 隣はおそらく白薔薇さま。 愛しい人へ向ける飾らない好意の微笑み。これだけなら勇んでパネルにもするが。

「目線が来てる。」
 その視線だけが、氷点下の鋭さでカメラレンズの中心を貫いていた。これは疑いようも無く、判って観ている。
「うぬ。さすがに白薔薇の近衛騎士と称される娘。姉も姉なら、妹も。 …白薔薇恐るべし。」

「蔦子さま〜。」  とうとう半泣きになってしまった笙子をやさしく抱き寄せ頭をなでて慰める。
「まあ、世の中には一筋縄では行かない相手も居るという事ね。」 ことさら明るく茶化して言うが。  そう言えば先代さまも殆んど撮らせてくれなかったなぁ。 対写真技術というのは、白薔薇一族の継承技(スキル)なのかしらん。 口の中だけでポソリと呟くと、今は頭を切り替えて、怯えてしまった愛しい笙子を慰める事に専念する蔦子だった。

                   ・
                   ・
                   ・

「まあ、でも。この位で敗北宣言するつもりも無いわよ。 何しろ私はエースだし。」 


【109】 祐巳さんの女心と秋の空  (柊雅史 2005-06-26 22:38:33)


「う〜〜ん……」
祐巳さんは悩んでいた。
こんな時、祐巳さんの百面相はとても便利で、書類仕事を前にして一向にペンを進めようとしない祐巳さんを見ても、誰一人として文句を言おうとはしなかった。
それはそうだろう。あんな風に「私、悩んでます!」って顔をされてしまったら、少なくとも山百合会の人間は、何も言えなくなってしまう。
平々凡々を絵に描いたような祐巳さんだけど、困っているなら手助けしてあげたくなっちゃうし、悩んでいるなら話を聞いてあげたくなってしまう、稀有な雰囲気の持ち主。
実のところ山百合会の進行方向を舵取りしているのは、祐巳さんなのかもしれない。
「――ね、由乃さん」
「え、なに!?」
うんうん悩んでいた祐巳さんに呼ばれて、由乃は素早く反応した。視界の隅で祥子さまが「え、なんでそこで由乃ちゃんなの!?」みたいな表情を浮かべてがっくり来てたみたいだけど、気にしないことにする。祥子さまには悪いけど、祐巳さんの親友ナンバー1の座は、目下由乃の指定席で、譲る気はないのだ。
「あのね、ちょっと聞きたいんだけど……」
祐巳さんが体を寄せて、こそこそっと耳打ちしてくる。本人は内緒話のつもりなんだろうけれど、耳がすっかりダンボになっている一同には、きっちり聞こえているだろう。
祥子さまも志摩子さんも、乃梨子ちゃんや令ちゃんまで、意識をこっちに向けて適当に書類をめくっている。仕事になってない。
「瞳子ちゃんのことなんだけど」
「瞳子ちゃん。ふむ……瞳子ちゃんがどうかしたの?」
瞳子ちゃんの名前に、祥子さまと乃梨子ちゃんがピクッと肩を震わせる。この手の話題は特にこの二人の興味を引く話題だろう。
「なんだかねぇ、最近瞳子ちゃんの態度がよそよそしい、と言うか。変なんだよね」
「そうなの?」
「うん。今日も一緒にお昼でも、って誘ったのに、用事があるんですって断るし……」
はぁ、と溜息を吐く祐巳さん。聞いていた由乃は「え、それだけ?」って拍子抜けした思いだった。
だって瞳子ちゃんだって人の子だ。しかも部活動に所属していて、別に山百合会の人間でもない。そりゃ、忙しい日だってあるんじゃないだろうか。由乃だって令ちゃんの誘いを断ることはしょっちゅうだし、祐巳さんからの誘いを涙を飲んで断ることがある。
「最近、ってことは、ここのところずっとそうなの?」
「昨日は一緒したんだけど……もしかして私、昨日何かしたかなぁ?」
う〜んと首を捻る祐巳さんに、由乃は苦笑した。やっぱり、大したことはなかったようだ。
「大丈夫でしょ。たまたま今日は忙しかっただけなんじゃないの?」
「そうかなぁ?」
「そうよ。明日また誘ってみればいいじゃない」
「う、うーん……そうだね。うん、そうしてみる」
由乃のアドバイスに祐巳さんが頷いた。



「ルンルンルン、ランラン♪」
祐巳さんは浮かれていた。
こんな時、祐巳さんの百面相はとても便利で、書類仕事を前にして一向にペンを進めようとしない祐巳さんを見ても、誰一人として文句を言おうとはしなかった。
それはそうだろう。あんな風に「私、嬉しいんです!」って顔をされてしまったら、少なくとも山百合会の人間は、何も言えなくなってしまう。
平々凡々を絵に描いたような祐巳さんだけど、喜んでいるなら一緒に喜んであげたくなっちゃうし、楽しいことがあったなら是非とも話を聞いてあげたくなってしまう、稀有な雰囲気の持ち主。
実のところ山百合会の進行方向を舵取りしているのは、祐巳さんなのかもしれない。
「ねぇねぇ、由乃さん」
「ん、な〜に?」
くいくい、と袖を引っ張ってくる祐巳さんに、由乃は満面の笑みで振り返った。視界の隅で祥子さまが「え、なんでそこで由乃ちゃんなの!?」みたいな表情を浮かべてがっくり来てたみたいだけど、気にしないことにする。祥子さまには悪いけど、やっぱり祐巳さんの親友ナンバー1の座は、目下由乃の指定席で、譲る気はぜ〜ったいにないのだ。



浮き沈み激しい祐巳さんの気分。
それに振り回される、リリアン女学園最高権力機関、山百合会。
明日のテンションは果たしてどっちか――?

それはきっと、明日の天気を予想するより難しい。


【110】 祐巳によるローキックで一撃有効利用  (柊雅史 2005-06-27 02:04:40)


「瞳子ちゃん、ドリル触っていい?」
こくん、と可愛く首を傾げる祐巳さまに、瞳子は「何を急に言い出すんだこの人は」という感情を隠すことなく、冷ややかな視線を向けた。
「ダメです。いいはずないでしょう。そもそもドリルってなんですか。全く、なんのつもりですか。ふざけるのもいい加減にしてください」
ズビズバズビシッと叱る瞳子に、祐巳さまがあう〜と不満げな顔になる。
「そう言われると、余計に触りたくなる……んだよねっ!」
「なんのっ!」
とあっ、と不意を衝いて(全然衝けてないですけど……)手を伸ばしてくる祐巳さまに対して、瞳子は両手をクロスさせて自慢の縦ロールをガードした。
「甘い、甘いです。祐巳さまの攻撃など簡単に読め」
「えいっ」
 ――ぺち。
ひょい、と祐巳さまが伸ばした足が瞳子の太ももを叩き、瞳子はびっくりして足元を見た。
そりゃそうだろう。リリアン女学園に通う生徒で、先輩からローキックを食らうなんてことを予想している人がいるものか。いたら是非、会ってみたい。会ってあなたの人生観はどこか狂っていますと、小一時間説教したい。
「捕獲ー」
瞳子が反射的に下を向いたところで、祐巳さまの両手がガッシと瞳子のドリルを――もとい、縦ロールを鷲掴みにした。
「うふふ〜、昨日由乃さんに聞いたんだけど、頭へのガードを下げる基本はローキックから、なんだって」
「……へぇ、そうなのですか」
瞳子は祐巳さまに縦ロールを確保されたまま、ゆっくりと頭を上げる。
「うん。ボクシングでもボディを攻めることでガードが下がって……」
得意げに解説を始めた祐巳さまが、瞳子の視線に気付いて口をつぐむ。
「――ガードが下がって? それから、どうするのです?」
「え、いや、その……あの……お、怒ってる?」
「いいえ、そんなことありませんわ」
にっこりと微笑んで、瞳子は答えた。
「ただ、祐巳さまへの反撃の参考までに、お聞きしているだけです。――それで、ボディを打ってから、わたくしはどうすれば良いのでしょう?」
「ぼ……暴力反対っ!」
祐巳さま、それは今更だと思いますわよ?


【111】 図書館ビフォーアフター  (ますだのぶあつ 2005-06-27 12:53:59)


 祐巳は丁寧に蒸らしたお茶を入れ、瞳子ちゃんの前にカップを置いた。
「昨日はありがとうね。結局、見つかるまで付き合わせちゃって」
 学園祭が一段落して、あまり薔薇の館を訪ねることのなくなった瞳子ちゃんを招いてのおもてなし。二人だけの薔薇の館はすごく静かで、瞳子ちゃんもなんとなくそわそわしている。
 昨日、図書館で眠ってしまわれた祥子さまを探してくれた人のほとんどは、昨日のうちにお礼を言った。でも瞳子ちゃんだけは、気が付くといなくなっていた。わざわざ戻ってきてまで探すのを手伝ってくれたのに、お礼の言葉も言えなかったのはすごく残念だったから、こうして薔薇の館に招いたのだ。
 お礼を兼ねてるわけだから、瞳子ちゃんの好みに合わせて、丁寧に入れたお茶を出す。
「いえ、祥子さまが心配でしたから」
「うん、私も心配だったから、瞳子ちゃんも一緒に探してくれて心強かったよ」
 瞳子ちゃんの両手をぎゅっと掴む。瞳子ちゃんは一瞬びっくりしたように祐巳を見たが、すぐ視線をそらすと、そうですかと抑揚のない声で呟いた。
 そうだよね。祐巳が勝手に心強く思ったからって、祥子さまが心配で探した瞳子ちゃんにとってはそう言われたって困るだけだろう。でもそれとお礼したいという気持ちは関係ない。瞳子ちゃんが一緒に探してくれて嬉しかったことは変わりないのだから。
「ええと、祐巳さま。……このままではお茶が飲めません」
「わ。ごめん。つい無意識に」
 ぱっと握った手を離すと、強く握りすぎてたのか、瞳子ちゃんは祐巳に握られた手の甲を胸元でさすった。
「本当は私が出向くべきだったんだけど、乃梨子ちゃんが瞳子ちゃんを薔薇の館に呼んでお礼を言うように強く勧めてね」
 あの後、瞳子ちゃんにお礼を言えず残念そうにしてたら、明日の放課後、絶対に瞳子を薔薇の館に行かせますと、なぜか乃梨子ちゃんが強硬に主張したのだ。
 きっと、その方がお礼がゆっくり言えるし気持ちが伝わると考えてくれたのだろう。いずれにせよ、乃梨子ちゃんの言うことだから、その方が良いに違いない。
「祐巳さまじゃじゃなくて、乃梨子さんの発案ですか……」
 あ、あれ? なんか少し元気がなくなった感じ。縦ロールも心なしか少ししんなりしている。な、何か拙いこと言ったかな……。
 祐巳が不安でどきどきしてると、瞳子ちゃんはそんな祐巳に気付いたのか、わざとらしく意地悪な笑みを祐巳に向けた。
「でも、今度は要件をお忘れにならなかったようで、安心しましたわ」
「むー、昨日のことは悪かったって謝ったのに」
 瞳子ちゃんが、もうそのことは怒ってないって何となく判ったから、祐巳も笑顔で謝った。

 と、そこにビスケット扉をノックする音が聞こえた。
 山百合会のメンバーならそのまま入ってくるので、どうやらお客さんらしい。誰だろうと疑問に思う間もなく、聞き慣れた声がかけられる。
「祐巳さん。いる?」
「あれ、その声は蔦子さん。どうぞ入って」
「それじゃ遠慮無く」
 新たなお客さんを招く。蔦子さんは中の様子をひょいと見て苦笑を浮かべた。
「あら、お邪魔だったかな」
「邪魔なんて、そんなことあるわけないよ」
 蔦子さんは祐巳の了解を得ると、瞳子ちゃんの方にも目を向けた。瞳子ちゃんがぶっきらぼうに、そんなことありませんわと応えると、蔦子さんは制服のポケットから数枚の写真を取りだした。
「それがね、いい写真が撮れてね。現像できたから、持ってきたんだ」
「わあ。昨日、三奈子さまと一緒に祥子さまを探してたときの写真だ」
 歩きながらどこにいるのか考えていたり、三奈子さまと相談したりと、捜索の様子がよく判る組み合わせになっている。
 それにしても、この写真を撮った時には撮影に夢中で声をかけられず、次に現れた時には、真美さんを伴って閲覧室に登場というのは、ある意味とても蔦子さんらしい。
「あ、そうそう。その直後の瞳子ちゃんの写真もあるわよ」
「え?」
 興味ありませんとばかり黙々とお茶を飲んでいた瞳子ちゃんが顔を上げた。
 蔦子さんが取りだした写真には、縦ロールを揺らし廊下を全力疾走してる瞳子ちゃんが写っていた。祥子さまを探して東奔西走してる感じが良く出ている。
 瞳子ちゃんがその写真を見て硬直する。すると蔦子さんがにやっと笑って呟いた。
「誰のためか知らないけど、必死だよね」
「つ、蔦子さま!!」
 あれ、蔦子さんは祥子さまのためって知ってるのに、どういう意味? それにそう言われて、瞳子ちゃん焦ってるみたいだし。
「それじゃ、私は用があるからこれで失礼!」
 蔦子さんはさっと逃げるように、薔薇の館から出て行った。そんな蔦子さんを、握った拳をぷるぷる震わせ顔を耳まで真っ赤にして見送る瞳子ちゃん。
 そんなにこの写真が恥ずかしいのかなあ?
 スカートのプリーツとかばっさばっさしてるからちょっと恥ずかしいのは判るけど、祥子さまのために一生懸命で凄く可愛いと思うんだけどな。それに、さすがは蔦子さん、気持ちが伝わってくるほどよく撮れてるし。
「って、何見てるんです。人の写真をじろじろ見るなんて、失礼ですわ!」
 瞳子ちゃんは首を傾げる祐巳の手から写真を奪い取ってしまった。

 結局、そのあと斜めになってしまった瞳子ちゃんのご機嫌を祐巳が宥めるのに、かなりの時間を要したのは言うまでもない。


【112】 理想妄想結婚式  (OZ 2005-06-27 21:07:41)


(お姉さま、起きて下さい、 ユサユサ。)
まだ眠いわ、祐巳、
(お姉さまったら、ねえ、起きて下さいよ〜 ユサユサユサ。)
お願い、もうちょっと寝かせて、
(せっかくの朝食が冷めてしまいますよ〜 ユサユサユササ。)

「ああ〜〜!!うるさい!!」
 あまりにも、祐巳が体を揺するものだから、寝起きの機嫌悪さも相成ってついつい声を荒げてしまった。
 私は、重く感じる体を起こし、周りを見渡してみる。

「あ、あら、ここは。」
 
 見覚えがあるとゆうか、なんというか、小笠原グループのホテルの中で私が一番好きなホテルのスイートルーム。

 はて?

 私、小笠原祥子は大学を卒業し3年、今やお父様の片腕的存在、そして祐巳は、私の第一秘書となり働いている。
最初は色々ミスもしたが、今ではなくてはならない、実に頼りになるパートナーに成長していた。

「お、おはようございます!お、おねえ、いやいや、祥子様の方がいいですよね・・・」テレテレ
 顔を真っ赤にして、ものすごく照れながら挨拶をしてくる祐巳、朝からとても可愛いくてよ、でも、なぜ今2人でホテルなんかにいるのかしら?
昨日、仕事が終わった後、私は祐巳をデートに誘ったのよね、一大決心を胸に、うんうん・ん・・・・・決心って!!
 お、思い出したわ!!そうよ、私は昨日、前々から用意していた指輪をバックに潜め、祐巳をデートに誘ったのよ、人生最大の告白をするため、そう、祐巳にプロポーズするため。
緊張を和らげるため、私はバーでいつも以上にワインを飲んだような気がするし『飲みすぎですよ』と祐巳に注意されたのをかすかに覚えている、しかし、その後、今、ホテルに至るまでの経緯がまったく思い出せない、ど、どうしましょう、私は祐巳にプロポーズをしたのかしら?しなかったのかしら?プロポーズしたとしたら、成功したの?しなかったの?ああ、私としたことがなんて大失態をしたのかしら!!
 一人で自問自答しつつ部屋の中をいったりきたり。そのとき背後から、

 「あ、あの祥子様、ほ、本当に本当に、私なんかでよろしいのでしょうか?」と、祐巳が私の顔と自分の手を交互に見て聞いてきた。

 照れている祐巳、『本当に私なんかでよろしいのでしょうか?』と聞いてくる祐巳、私の用意したエンゲージリングを指にはめている祐巳、すべて理解した、私はプロポーズに成功したのだと(覚えてないけど)だんだん胸の奥が熱くなってくるのが分かる。心の中でオッシャー!!とガッツポーズをしつつ、(これからは飲みすぎないようにいたします、マリア様)と深く懺悔した。

 私はそっと、緊張している祐巳の頬に手を伸ばし「お馬鹿なこと聞かないの、あなたでなくてはダメに決まっているでしょう。」
 祐巳は「祥子様、うれしい!!」と、目をウルウルさせながら私の胸に飛び込んできた、もう、なんて愛おしいのかしら。
 私は少し、祐巳の頭をなでた後、あごに手をやり、上を向かせ、そっと涙をぬぐいながら言った・・「世界で一番、祐巳を愛しているわ」と。

 「私も、世界で一番祥子様を愛しています。」私たちの唇は当然のように重なっていった。



 「う〜ん ゆみ〜〜 愛してるわ〜〜 なんて可愛いのかしら〜〜〜 」むにゃむにゃ

 ここは、薔薇の館の2階、学園祭などもろもろの行事が終わり、山百合会の仕事も一段落したとゆうこともあり、皆の労をねぎらうのも込めて、コンビニで色々とジュース等を買ってきて打上をしていた。

 「ゆみ〜〜 もう離さないんだから〜〜 」と祐巳にがっちり抱きついて離さないのは、紅薔薇様こと、小笠原祥子様。

 「ちょっと!!誰よ、祥子にお酒なんて飲ませたのは!!」声を荒げるのは、黄薔薇様こと、支倉令様
 「す、すみません、令様、適当に商品を入れてたら缶チュウハイが混ざっていたみたいで・・・」本当に申し訳なさそうな乃利子ちゃん。
 「まあ、いいじゃない令ちゃん、なんだかんだで、二人とも幸せそうだし、ね? 志摩子さんもそう思うでしょ?」
 「ええ、本当に幸せそう、だから、そんなにしょげなくてもいいのよ、ね、乃利子。」
 「し、志摩子さ〜〜ん。」
 「そうは言っても、ねえ、あれだよ、あれ・・・はあ。」

 令様が目を向けた先には、恥ずかしさもあいまって、顔を真っ赤にして固まっている祐巳ちゃんと、酔った挙句、完全に寝ぼけている祥子、祥子は祐巳ちゃんに抱きつき、好き〜〜とか、食べちゃいたいわ〜〜とか、時折、祐巳ちゃんのほっぺにキスまでしている。
 部屋の隅では、「は、離しなさい!!細川可南子!!」血の涙を流しながら祥子に飛び掛らんとしている瞳子ちゃんと、「瞳子さん、落ち着きなさい!!」それを必死に押さえている可南子ちゃん。

 「ゆみ〜〜 なんてきれいなのかしら〜 」むにゃむにゃ

 「すごく良い夢を見てるのは分かるけど、はあ、」
  ・・・ねえ祥子、ファンが見たら絶対泣くよ・・・

 その頃、夢の中の祥子は天使と腕を組み、一緒にバージンロードを歩いていた、祐巳という名の愛しい天使と。


 世界で一番、祐巳を愛しているわ
 私も、世界で一番祥子様を愛しています


【113】 (記事削除)  (削除済 2005-06-27 21:08:43)


※この記事は削除されました。


【114】 陰謀渦巻く  (joker 2005-06-27 21:31:30)


「ごきげ―――」
「貴方、一体どういうつもりなの?」
 放課後、薔薇の館。祐巳の挨拶は、由乃の地獄の底から響くような声により瞬殺された。
「貴方がどう言い逃れしようと、私が標的だという事は分かっているわよ!」
 …なんなんだろう、この光景。由乃さんがいつにも増して恐ろしい形相で名も知らぬ一年生をシメている。部屋の隅では令さまがヘタレ…もとい、怯えている。志摩子さんはいつも通りに、にこやかにその光景を眺めている。お姉さまや乃梨子ちゃんはまた来てないらしい。っていうか、志摩子さん、悪鬼由乃さんをなだめようよ。
「祐巳さん、それは無理というものよ。『あの』由乃さんよ?」
「…また私、百面相してた?」
「祐巳さん、察しが良くなったわね。」
 流石、赤薔薇の蕾ねって、デジャヴですか?志摩子さん。  しかし、この状況はどうしたものだろうか。由乃さんの推理ショウ(?)は佳境に入りつつある。
「江利子さまのメッセージは、〇△□。これは、丸めこまれた者が参画して、刺客になるという意味よ。そして、先月にこの手紙が来た同じ日に、特に理由も無く来た貴方が刺客よ!江利子さまの指図とは言え、私を狙うとはいい度胸ね。」
 由乃さんの口調はますきつくなっていく。名も知らぬ一年生は、もう泣きじゃくっている。そこに由乃さんのトドメの一撃。
「…今度こんな事をしてみなさい。江利子さま共々斬り捨てるわよ!」
「ご、ごめんなさぁい。」
 名も知らぬ一年生は、その場に泣き崩れた。可哀想に。
「よ、由乃さん、一体何があったの?」
 泣き崩れた一年生を撫でながら、由乃さんに聞いてみる。
「あら、ごきげんよう、祐巳さん。来てたのね。」
 由乃さんはさっきの事なんか気にもせず、余裕な態度で紅茶を飲んでいる。
「来てたのね、じゃないわよ。この子、どうしたの?」
「ああ、その娘ね。その娘は江利子さまが私と菜々の絆を確かめる為に送り込んだ刺客。しらばっくれたから推理ショウしてたの。」
 ……あれがショウですか、もはや、糾弾なのでは?
「だけど、このままやられっぱなしじゃ悔しいわね。」
 等とぶつぶつ言い始めた。
 ……まずい、この状態は、何か良くない事を考えている時だ。大抵被害を受けるのは私か祐麒。
「祐巳さん、祐麒君借りるわよ。やっぱり、男手があった方が有利だしね。」

 ああ、祐麒よ。お前はとんでもない人を選んだのよ。と心の中だけで同情した。


【115】 願い星  (ケテル・ウィスパー 2005-06-27 22:56:01)


「じゃあ、またね。 おやすみなさい、祐麒君」
『おやすみ。 由乃さん』

 手の中にある、電話の子機の通話ボタンをOFFにする。 楽しい時間は、過ぎて行くのが早い。 楽しかっただけに、一人で部屋にいるんだと認識させられて、物悲しく感じてしまう。 令ちゃんは、受験勉強中らしい。 まだ灯りが点いているけれど、まさかこんな時間に呼び出すわけにも行かない、まして、こっちから行っても、勉強の邪魔だろう。 余裕なんて言ってたって、ちゃんと受かってもらいたいもん。

「……寝ちゃおうかな………」

 パジャマに着替えて、灯りを消し。 ベッドに上がって膝を抱えて座る。 窓越しにビロードに宝石を散りばめたような夜空を眺める。
 志摩子さんの家の辺りほどではないけれど、住宅街と言うこともあって星と細い三日月が見える。

 星と星を、指で結んで……あの人の横顔……。  

 星の海を渡っていく三日月の船……。     

 時のロープを解いて、二人で漕ぎ出していく……。

 あ〜、私らしくないかしらね。 まぁ、いいじゃない、たまに乙女チックしたって。
同じ夢が見られるように、名も知らない星に祈ってみる。 自分でやってて恥ずかしくなってしまったので、カーテンを閉めて、布団にもぐりこむ。 

 夢の中でそよぐ風を子守唄に、眠りにつく
 夜明けまでの夢。 

 SHINING STAR〜〜わたしだけの翔星〜〜。   


【116】 突撃せよプリティあるある探検隊  (冬馬美好 2005-06-27 23:19:33)


 それは、祐巳が「瞳子ちゃん居る〜?」と、一年椿組を訪れた事から始まった。

「キャー! 祐巳さまですわ、祐巳さまですわ!」
「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンですわ!」
「・・・あ、え〜と」
『ごきげんよう、祐巳さま!』
「敦子です!」
「美幸です!」
「・・・うん、敦子ちゃんと美幸ちゃんね。悪いんだけど、瞳子ちゃん呼んで・・・」
「祐巳さまとこんな間近でお話を、お話を・・・く゜ぅぅぅぅぅ」
「はっ! 敦子さんが気絶なされたわ! これはあるあるさまの探検隊をお呼びしなくては!」
「・・・え?」

『はいっ! はいっ! はいはいはいっ!(わぉ!) あるある探検隊! あるある探検隊っ!』

「・・・あの・・・だから、瞳子ちゃんを・・・」
「行きますわよ、敦子さん。もう少し詰めてくださらない」
「これぐらいですか? 頼みますわよ、美幸さん。良くある事ですからね」
「分かりましてよ、良くある事ですわね? 行きますわよ」
「・・・呼んで欲しいんだけど・・・」

「祐巳の『祐』の字を間違える」

『はいっ! はいっ! はいはいはいっ!(わぉ!)』
「・・・だからさぁ」

 その後、途方に暮れる祐巳を見るに見かねて間に入った可南子に対し、「可南子を『加奈子』と間違える」とかましてしまい、怒りくるった可南子にぼっこぼっこにされるまで、敦子と美幸の探検は続いたのであった。


【117】 夢の中で抱きしめる  (くにぃ 2005-06-27 23:45:52)


夕暮れの古い温室の中。ロサ・キネンシスの咲く傍らで、微かに肩をふるわせて声を出さずに少女が一人泣いている。
胸の奥に痛みを抱えて誰にも気づかれず、ただ一人泣いている。


ああ、またいつもの夢だ。
半ば醒めかけた眠りの中で少女は泣いている自分の姿を見ていた。
これは夢。今までに何度も見てきた情景。日常ではどんなにうまく演じられても、心の奥底では演じきれない本当の自分の姿。


そこへ現れる一人の上級生。


「どうしたの。泣いてるの?」
温室の入り口から少女の背中にそっと語りかける。しかし少女は相変わらず、背中を向けてだた泣いている。
(私は泣いてなどいません)

「今までずっと一人でがんばってきて、でも本当は辛かったんだね」
本心を言い当てられ、少女の肩はピクッと震えた。
(私は一人が当たり前でした。それが辛いなんて思ったことはありません)

「こんなにも辛かったのに、分かってあげられなくて。ごめんね」
(別に分かって欲しいなんて思いません。他人の本当の気持ちを理解するなんてあり得ないのだから)

「もう一人でがんばらなくてもいいの。これからは私が側にいるから。いつでも側にいて、あなたを守るから」
少女の後ろから腕を回し、肩を抱きしめる上級生。
(同情なんて欲しくはありません)

「私、分かったの。気がつくといつだってあなたの姿を捜している。姿が見えなくてもいつだって気に掛けている。あなたが寂しがっていないか。どこかで一人泣いていないかって・・・」
少女は肩から回された腕に頬ずりし、上級生の制服の袖を濡らした。
(私は、私は決してそのようなこと・・・)

「私はいつもそばであなたの元気な姿を見ていたいの。分かるでしょ。こっちを向いて、私を見て」
上級生が後ろから回した腕をほどくと、少女はうつむいていた顔を上げ、少し躊躇してから振り向く。それは少女が初めて人に見せた泣き顔だった。そして上級生の名を呼び、胸に飛び込んでいった。
(・・・・・・・・・)

「やっと本当の顔を見せてくれたね。」
泣きじゃくる少女を抱きしめる上級生はあやすように、少女の背中をポンポンッと優しく叩いて、言った。
「これを受け取って。そしていつでも私のそばにいて。」



いつものように、そこで完全に覚醒した。いつものように、頬を濡らして。

これは余りにも自分に都合のいい夢を見たことに対する、悔悟と自虐の涙だ。
こんなことがあろうはずもない。そんなの、いやというほど分かっている。

暗い気持ちを振り払うように勢いよくカーテンを開けた窓からは、あふれるほどの明るい朝の光が飛び込んできた。

自縄自縛に陥って動けずにいる自分の背中を押してくれる人がいる。勇気を持って素直になれと言ってくれる人がいる。
そう、自分から動かなければ埒があかないのだ。それで想いが届くかどうかは分からないが。

どうしたらいいのか、今はまだ分からない。でもいつか気持ちが固まったそのときには、真っ直ぐに気持ちを伝えられるよう、そんな勇気をお与えください。朝日に包まれ、少女は心の中のマリア様に強く願うのだった。


【118】 衛星  (joker 2005-06-28 00:12:24)


「ごめんね。すっかり遅くなっちゃって。」
「いえ、かまいませんわ。」
 私達二人は、山百合会の仕事が予想以上に長引いてしまい、帰るのが遅くなってしまった。さすがに11月だけに、辺りは既に闇に染まっている。
 ふと、祐巳さまの方を見ると、祐巳さまは空を見上げて何かを見ていらっしゃる。つられる様に見上げると輝く月が写しだされる。
「綺麗だね、瞳子ちゃん。」
「そうですわね。」
満月ではなかったが、欠けてもなお、光輝く月は本当に綺麗だった。
「私はね……」
ふと、祐巳さまが私に話かける。
「私はね、瞳子ちゃんとは地球と月みたいな関係になりたい、って思ってるの。」
「それは、聖さまと白薔薇様の様な?」私がそう問いかけると、祐巳さまは少し考えて、「ちょっと、違うかな?」とおっしゃった。
「どのように違うのですか?」
「う〜んとね、月はいつも地球と近すぎず遠すぎ、絶えず一緒にいるでしょう?私も瞳子ちゃんとはそんな関係になりたいの。」
 なんとなくだけれど、祐巳さまの言わんとする事が分かったような気がした。
「では、さしずめ月は私ですか?」
「違うよ。月は私かな?」
「えっ?」
 以外な祐巳さまの言葉に私は思わず、驚いてしまう。
「私が月だったらね、ずっと瞳子ちゃんの事を見ててあげれるからね。だから、瞳子ちゃんも、嬉しい事や悲しい事、困った事があったらいつでも、月を見るといいよ。私がいつも見てるから。」
「祐巳さま……。」
祐巳さまが月にも負けないぐらいの穏やかな笑みを私に向ける。
「それにね、月はいつも地球を見ているけど、地球は太陽に目を奪われたり、新月の時はちゃんと居るのに見えなかったりするでしょう?だから、やっぱり私が月だよ。」
「もう、祐巳さまったら、酷いですわ。」
 少し拗ねたように見せて、早く歩き始める。後ろから「ごめ〜ん、瞳子ちゃん。」と言いつつ、祐巳さまが追いかけてくる。



私だって、いつも貴方を見ています。

 月が微笑む光の下で

 私は

 そう呟いた。


【119】 地雷を踏んだロサ……?  (柊雅史 2005-06-28 03:25:01)


薔薇の館を陰鬱とした空気が支配していた。
どのくらい陰鬱としているかといえば、どよ〜んというおどろおどろしい文字が、そこらじゅうに浮いているんじゃなかろうか、と思えるくらいに陰鬱としていた。
原因は明らかだ。
「…………」
黙々と書類にせっせと何かを書き込んでいる祐巳さん。
彼女こそがこの空気の発生源である。
別に祐巳さんが一生懸命仕事をしているのが悪いわけじゃない。問題はその表情。むすっとした表情で、お怒りオーラを発散させているその様は、普段が普段だけに一際薔薇の館を沈んだ空気に変貌させる。
「――え、えっと……」
堪えきれなくなったように、令ちゃんが立ち上がった。
「の、飲み物でも淹れようか?」
「私、手伝う!」
素早く立ち上がる由乃に、腰を浮かしかけた乃梨子ちゃんが無念そうな顔になった。
誰だってちょっとこの空気からは逃げ出したいと願うのだろう。由乃は令ちゃんの後に続いて給湯室に逃げ込み、はふぅと溜息を吐いた。
「参った……」
令ちゃんががっくりとしゃがみこんで頭を抱える。
「まさか、祐巳ちゃんがあんな風になるなんて――」
「私も予想外。祐巳さんって怒ると怖いのね……」
普段好い人が怒ると本当に怖い。祥子さまも志摩子さんも、みんながみんな現状を打破できずにいる。
「せめて、祐巳ちゃんが怒っている理由が分かれば――」
令ちゃんの呟きに、由乃はほんの5分前、祐巳さんが薔薇の館に来る直前のことを思い浮かべた。


「――最近、祐巳と瞳子ちゃんの仲はどうなのかしら?」
ふと思い出したように言い出したのは、祥子さま。優雅にカップを受け皿に戻しつつ視線を向けた先は、やはり乃梨子ちゃんで。
「どう、と言われましても。特に進展はないようです」
「そうなの。――あの子ったら、何をぐずぐずしているのかしら」
祥子さまがもどかしげに爪を噛む。
「祥子、そういうことは言わないの」
「大体、あの子は肝心なところでいつもそうなのよ。鈍感というか、変なところで遠慮しすぎだわ。どうしてあんな性格なのかしら?」
嗜める令ちゃんに対して、祥子さまはここぞとばかりに文句を垂れる。祐巳さんがいないと祥子さまは強気だ。
「そ、そういえば、祐巳ちゃんといえば。最近少し丸くなった感じするわよね?」
祥子さまがぐちぐち言い始めたので、令ちゃんが話題の転換を図る。
「言われてみれば。最近、祐巳さん食欲旺盛みたいだからね」
にやにやと笑いつつ応じる由乃。
「まぁ、注意する気は全然ないけど」
「そこは注意して差し上げた方が……」
乃梨子ちゃんが苦笑する。
「祐巳さん、甘いものも好きですものね。この間もぺろりとケーキを二つも食べてたわ。大丈夫かな、とは思ったのだけど……」
志摩子さんが笑いながら言う。なんだ、志摩子さんも由乃と同罪ではないか。
限度を越えるとアレだけど、友人がちょっとくらい太るのは、なんとなく嬉しいものだ。なんていうか……安心する、みたいな?
なんとも複雑な乙女心だと思う。
「祐巳ちゃん、麦茶にも砂糖入れるって言ってたもんね」
令ちゃんが笑いながら首を振る。
「あれはちょっと、私もどうかと思うのよ。紅茶とかならともかく、麦茶っていうのは」
「あ、でも、瞳子ちゃんも麦茶に砂糖を少し入れる、って言ってたわよ」
令ちゃんの意見に由乃は思い出す。
「この間、ちょっとミルクホールで一緒になったのよ。そこでそんなこと言ってた」
「一体どういう経緯でそんな話になったのよ?」
「ん? ミルクホールって夏場は麦茶置いてるじゃない。そんな話から発展して」
言いながら、確かになんて話をしていたんだろう、と由乃は苦笑する。でもまぁ、由乃が瞳子ちゃんと話をするとなれば、どうしてもそういう無難な世間話をするしかない。互いに大して相手に興味もないので、あまり話題がないのだ。
「……そういえば、私のいとこもそんな風にして飲んでました」
「あら、そうなの?」
「はい。――まだ5歳の子ですけど」
乃梨子ちゃんの答えに、一瞬一同が黙りこみ。
「……それって、祐巳の味覚が5歳児並ってことかしら?」
祥子さまの呟きに、薔薇の館は笑い声に包まれた。


そしてその直後に扉が開き。
むっつり顔の祐巳さんが、それはもうお怒りモード全開の声音で「ごきげんよう」と挨拶したのだった。



「容疑者は絞られるわね」
「そう?」
令ちゃんが紅茶を淹れる傍らで、由乃は推理する。

紅薔薇さまこと祥子さま――祐巳さんへの愚痴+5歳児並発言
黄薔薇さまこと令ちゃん――祐巳さん太った宣言+砂糖入り麦茶否定発言
白薔薇さまこと志摩子さん――祐巳さんケーキ二つ食い現場放置
白薔薇のつぼみこと乃梨子ちゃん――祐巳さん5歳児疑惑発端

間違いない、この中のどれかの発言が祐巳さんを怒らせてしまったのだ。
「犯人は山百合会の中にいる――!」
「そりゃそうでしょうよ」
令ちゃんが呆れたようにつっこみを入れた。
「で、由乃の推理はどうなったわけ?」
「そうね……やっぱり、この中で一番酷い発言をした人物と言えば……」





              リリアン女学園・祐巳さん激怒事件簿解決編へ続…かない


【120】 あまのじゃくそんなところも好き  (ますだのぶあつ 2005-06-28 13:21:57)


 学園祭の準備もそろそろ慌ただしさを増し、お昼休みにやることが多すぎて、みんながなかなか集まれなくなってくる。劇の練習はまだ始まってないから、凄く忙しいというわけではないけど、それでもお昼休みに全員集まれることは少ない。
 今日は祐巳も出し物にステージを使う部の部長に捕まり、少し遅れて薔薇の館に到着した。
 そして換気のためにわずかに開けられたビスケット扉から中に入ろうと思い、ドアノブにかけた手を祐巳はぴたりと止めてしまった。
「瞳子ちゃん、ひとりで何してるんだろう……」
 声に出さずに呟くと中の様子をそっと窺った。
 瞳子ちゃんはお弁当箱の包みも解かずにテーブルに突っ伏している。おでこを額にテーブルにつけたかと思えば、ころんと頬をテーブルに付け、悔しそうな切なそうな顔で眉を寄せる。
 そうしてぎゅっと目を瞑って、えいと気合いを入れるため小さくガッツポーズする。強気な表情が戻ったかと思えば、小さくはあとため息をついてしゅんとなる。お弁当の包みを人差し指でつついて物憂げな表情を浮かべる。
 なんだか今の瞳子ちゃん、すごく守ってあげたくなるような小動物のような感じがする。
「祐巳さん、どうかしたの?」
 急に後ろから声をかけられて、心臓が飛び上がった。叫ばなかった自分を褒めてあげたいぐらいだ。
「し、志摩子さんか……脅かさないでよ」
「ごめんなさい。何かに没頭してるみたいだから、なるべく静かに声をかけたんだけど、やっぱり脅かしてしまったみたいね」
 祐巳が小声で言ったので、志摩子さんも小声ですまなそうに謝る。どうやら瞳子ちゃんには気付かれてないらしい。
「あ、ごめん。そう言うことじゃなくて。祥子さまだと思ったものだから」
「そうね。祥子さまはあまり覗きとか歓迎しないと思うわ。でも、そんなに一生懸命何を見ていたの?」
 祐巳は志摩子さんに場所を譲った。志摩子さんは覗き込むなり、あぁと、納得したような顔で呟いた。そして祐巳を振り返り尋ねる。
「祐巳さん、ひょっとして今日、瞳子ちゃんに会わなかったかしら?」
「う、うん。2時間目の休み時間に、昨日やった書類のミスを指摘されてすっごく叱られた。でも、それがどうかしたの?」
 志摩子さんって何でもお見通しってぐらいにいろいろ判っちゃうから凄い。でも、なんで急にそんな話をしたんだろう。志摩子さんは部屋の中の瞳子ちゃんに視線を戻す。
「あれはね。乃梨子が言っていた、瞳子ちゃんの自己嫌悪の儀式ね」
「儀式?」
「なんでも、瞳子ちゃんは落ち込むと、いつもああいう仕草や表情を見せるんですって。もちろん他の人のいるところではしないそうだけど」
「そうか。瞳子ちゃん、落ち込んでるんだ……」
「祐巳さん、力になりたいと思ってるのね」
「よく判るね、志摩子さん」
「もちろんよ。でもそうね……お姉さまみたいに、抱きついたりしてはどうかしら」
「え、お姉さまって、聖さまみたいに? え、でも、瞳子ちゃん嫌がると思うよ」
「そんなことはないと思うけど。どちらにしても元気になってくれるんじゃないかしら?」
 そうだった。聖さまは私が祥子さまのことで落ち込んでたりすると、決まって抱きついては、いつのまにか元気を貰っていたんだった。
「そうだね。聖さまのように上手くやれるか判らないけどやってみる!」
 聖さまへの恩返しと可愛い後輩のために。

 ばたん。わざと足音を立てて、扉を大きく開く。
「遅くなっちゃった。ごきげんよう、瞳子ちゃん。もう昼食は食べた?」
「ごきげんよう、祐巳さま、志摩子さま。私もさっき来たところですからまだです。今お茶をお入れしますね」
 お願いと言うと瞳子ちゃんはそそくさと給湯室に向かった。
 それにしても瞳子ちゃんの演技は完璧だ。先ほどまでの表情など嘘のようにそっけない。でも今日の祐巳には、その仮面を取る切り札を持っているんだから。
 祐巳はそっと瞳子ちゃんの背後に回り込むとぎゅっと抱きつく。
「きゃ……」
 瞳子ちゃんは可愛い悲鳴をあげた。しかし瞳子ちゃんは、そのまま抵抗どころか顔さえも上げず、そのまま抱きしめられたままになっている。
 思っていたよりも小さな反応に祐巳は残念そうな声を出した。
「あ、あれ? それだけ?」
「……何を企んでるのかは存じませんが、ここで暴れても祐巳さまを喜ばせるだけなのでしょう?」
「うう、可愛くないなあ。あ、でも瞳子ちゃんには抵抗する気が無いわけね。それじゃ、ずっと抱きしめてよう」
「え……。そ、そういう意味じゃありません」
 急にもがきだす。必死に抵抗する瞳子ちゃんを、同じ体格の祐巳が押さえておけるわけもなくあっさりと振りほどかされてしまった。なんだか凄く名残惜しい。
「罰として祐巳さまの分のお茶は入れません!」
 暴れたせいか顔を少し上気させ、自分の分と志摩子さんの分だけお茶を入れて、瞳子ちゃんはさっとテーブルに戻ってしまった。
「ええ〜。そんなぁ」
 祐巳が情けない声で不満の声を漏らす。でも、とりあえずいつもの瞳子ちゃんだなと判って、ほっと安心した。
 聖さまのように上手くいかなかったけれど、これはこれでいいよね。
 志摩子さんが柔らかく微笑んでくれてることがきっと成功の証だろう。祐巳は志摩子さんに笑い返すと、自分の分のお茶を入れるためポットを手に取った。

 お茶を入れ終わって席に戻ると、瞳子ちゃんはお弁当に手をつけずに待っていてくれた。そして祐巳と一緒にいただきますを言ってくれた。


【121】 結構自覚している悩み  (篠原 2005-06-28 19:55:43)


 由乃はちょっとばかり追い込まれていた。
 山百合会の仕事で人手がいることになって、2年生3人がそれぞれ手伝ってくれる人を探すことになったのだ。
「各々スカウトでも何でもして適当な数を揃えるように」
 そう言ったのは由乃自身。
「リリアン瓦版で一般の生徒から募集してもいいし……」
 その時由乃はそう思ったのだが、そこであることに気が付いてしまった。
 志摩子さんには乃梨子ちゃんがいるし、祐巳さんにもなんだかんだいって瞳子ちゃんと可南子ちゃんがいる。でも由乃には……。
 もちろん、知り合い程度ならクラスメイトを含め多々いるけれど、個人的に頼みごとができるような相手というとそれこそ薔薇の館の関係者くらいしか思い付かなかった。ぶっちゃけ、友達が少ないのだ。
 別に仕事だからと割り切ってしまえばそれはそれで構わない話だ。だからこれは、由乃の小さな見栄だった。最終的には何人か募集するにしても、せめて一人くらいは個人的なツテで確保したい。
 最悪、剣道部の一年を山百合会権限で引っ張ってくるか……もちろん令ちゃんにも内緒で。あまり解決になっていないようなことまで考えて、そこで由乃はふと思った。
 ……そうか、別に妹じゃないんだから1年に限る必要はないのか。

「なんで私が?」
 田沼ちさとは怪訝そうに言った。
「なんでって……」
 ふてくされたように言いよどむ由乃さんを、ちさとは呆れたように見やった。仮にも黄薔薇のつぼみ。声をかければ、寄ってくる1年生などいくらでもいるだろうに。
「私、剣道部なんだけど」
「知ってるわよ。私だって剣道部なんだから。だから時間のある時だけでって、……もういいわよ!」
 プイッとそっぽを向いた由乃さんはひどく子供っぽく見えて、ちさとはつい苦笑する。
 そもそも、ちさとが由乃さんの頼みを聞いてあげる義理は無い。令さまをめぐるライバルなのだし、助けてやる義理なんかこれっぽっちもないのだが………。
「……時間のある時だけだからね」
「えっ?」
 きょとんとした由乃さんの顔は、意外と幼く見えた。
「時間のある時だけでいいって、自分で言ったんでしょうが!」
 だからというわけではないが、ちさとはわざと怒ったように言った。
「あ、うん。うん!」
 嬉しそうにニパッと笑いながら頷いた由乃さんは、すぐにハッとしたようにそっぽをむいた。
「別に、無理しなくてもいいのよ。部活大変だろうし」
「だから時間のある時だけって言ってるでしょうが。それより由乃さん、早く着替えないと」
 先に着替えを終えたちさとは由乃に背を向けた。「部活に遅れるわよ」の言葉に慌てて着替えを再開した由乃さんは、こちらに背を向けたままの状態で言った。
「ありがとう。他に頼めそうな人、いなかったのよ」
「……どういたしまして」
 そっぽを向いたままお礼を言う由乃さんの背中を見て、ちさとは令さまの気持ちが少しだけわかったような気がした。


【122】 白い流星乃梨子、護身術  (西武 2005-06-29 01:43:27)


○月×日
1年生の皆さん、ごくろうさまです。
最近、学園の周辺に不審者が男女問わず出没しているという情報があります。
そこで、山百合会としては皆さんに簡単な護身術を身に付けていただく必要を感じ、わたしが担当させていただくことになりました。

さて、皆さんには今お配りしているアイテムを常時携帯していただきます。
はい、皆さんが良くご存知のかたの写真です。不審者が現れたらそれをばらまいて逃げ出してください。補充はいくらでもありますので、決してためらわないように。

質問はありますか。では、皆さんの安全をお祈りして(合掌)、ごきげんよう。


○月△日
皆さん、ごくろうさまです。
先日お配りしたアイテムについて、不審者を増加させるとの指摘がありました。そこで、改良した護身具を配布します。
はい、服装も全く同じですが良く似た別の方の写真です。以後はこちらの使用をお願いします。
何か質問は?では、お気をつけて、ごきげんよう。


【123】 間違いだらけのマナー&テクニック  (柊雅史 2005-06-29 02:27:42)


「それでは不肖、二条乃梨子。瞳子と上手に付き合う講座を始めさせて頂きます」
「おおー」
ぱちぱちぱち、と拍手をして下さるのは、言わずと知れた紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳さま。
ちょっと寂しい反応だけど、急遽開かれた『瞳子と上手に付き合う講座』とやらの受講者は、その祐巳さま一人なのだから仕方ない。
事の発端は、今日も今日とて瞳子にちょっかいを出そうとして失敗した祐巳さまが、一応瞳子と親友やってる乃梨子に白羽の矢を立てておっしゃったことにある。
「ねぇ、乃梨子ちゃん。どうやったら瞳子ちゃんとうまく付き合えるかな?」――と。
かくして薔薇の館は講師・乃梨子が祐巳さまに、瞳子とうまく付き合う方法を教えると言う、即席講座の場と化した。
「まず最初に把握しておく必要があるポイントとして、瞳子はツンデレ属性だということです」
きゅっきゅっとペンを鳴らして、乃梨子はホワイトボードに『ツンデレ』と書いて丸で囲んだ。ホワイトボードがなんであるんだろう、なんて考えたら負けだと思ってる。
「つんでれ?」
「そうです、普段はツンツンしている瞳子ですが、うまくやればデレデレします」
「なるほど」
祐巳さまが真剣に頷く。
「それで、その方法は?」
「瞳子はアレで意外と常識派です」
きゅっきゅっと『じょーしき派』と書く。
「そして意外と逆境に弱い。そこを衝く方法の一つが『バックアタック』と呼ばれる手法です」
「ばっくあたっく?」
「背後から強襲――というのが本来の意味ですが、要は不意を衝くということですね。無関係の話題から、瞳子が苦手とする話題へ急に変更すると、結構おろおろします」
「なるほどー」
「他にも横入り攻撃『サイドアタック』や肩透かし攻撃『フェイント』などのテクニックがあります」
「ふむふむ」
「これらのテクニックを駆使すれば、瞳子などイチコロでございます!」
「お、おおー!」
ぱちぱちぱち、と祐巳さまがスタンディングオベーションしてくれる。
「凄いよ、乃梨子ちゃん! 私、今度頑張ってみる!」
「はい。何事も実践あるのみです!」

かくしてその日の『瞳子と上手に付き合う講座』は盛況の内に幕を閉じた。
――そして、数日。



「乃梨子ちゃん……」
「はい、なんですか?」
「ダメだったよ。背後から襲い掛かったら、瞳子ちゃんにこっぴどく叱られたよ……」
しゅん、となる祐巳さまに、乃梨子は慈愛の微笑を浮かべると、そっと肩に手を乗せた。
「祐巳さま、それでいいのです」
「――え?」
「そうやって怒った姿を堪能するのもまた、ツンデレを味わう上でのマナーですから」
「――な、なるほど……さすが、乃梨子ちゃん」
かくして『瞳子と上手に付き合う講座』は、めでたく第二回を迎えるのだった。



ちなみにこの講座は、決して「間違いだらけ」ではないと、個人的には思っている。


【124】 食べつくし♪  (OZ 2005-06-29 03:42:21)


 体育祭の昼休み、祥子は、祐巳のご両親との初対面が、すごくほのぼのと終わり、安心と嬉しさでいっぱいだった。 その後、祐巳と一緒に温室に入り、二人でお弁当を食べた。

陽気のせいでけっこう暑かったが、人気がないというメリットは捨てがたい。しかも二人っきり。

午前の競技のことを思いだし、とても楽しそうに話す祐巳、祥子の学ラン姿がものすごく凛々しかったと話す祐巳、とても可愛かった。お弁当を食べた後、雑談の中で、「よかったわね、祐巳、」と祥子は頬を撫でてあげると、祐巳は頬を赤らめ、「えへへ」っと祥子の腕に絡みつき、上目遣いに、「嬉しいです、お姉さま」っと、言ってくれる。可愛いにもほどが在る!!!
 
 ああ、なんて可愛いのかしら、もうたまらないわ!! (頭をなでなで、頬をなでなで)  世界で一番あなたを愛していてよ、祐巳。どうして欲しいの、ねえ、祐巳? 祐巳さん? 祐巳ちゃんったら?

『プツン!!』 マリア様・・・すみません、私にはもう無理です・・・

祥子の中で何かが切れた。なんというか、そう!理性の糸が切れた!!

「ねえ?祐巳 ! 」 
「はい、何でしょう?」
「祐巳、私、食後のデザートが欲しくなったわ。」
「は?デ、デザートですか?・・・すみません、あいにく今日は用意してないのですが・・・」

「そう?私は用意していたのだけれど、ねえ、祐巳?頂いても、いいかしら?」
「へ? は、はい、それは構いませんけど って・・むぐ!?」

 祥子はいきなり祐巳の唇を奪った!!「お、おねえさま、な、何を!ん、んむ!!」

「あら?私はデザートを頂いてもいい? って聞いたわ、そして、あなたは、構いませんといった、何処に問題があるのかしら?」
「へ 、へ 、でも・・・そ、そんな・・・い、いきなり・・・キ、キスッ、って」もう、顔から全身も真っ赤。

「お馬鹿ね」未だ、わけの判らなく混乱している祐巳に、祥子はもう一度キスを落とし、その後耳元でつぶやいた。


 世界であなたが一番甘いデザートよ って


【125】 スーパーオキテ破りの大ヒット  (西武 2005-06-29 19:50:13)


M駅前のスーパーの店長、鳥居利江(仮名)は追い込まれていた。
売り上げの落込みが半端なく、本気で首が危うい。何か考えねばならないのである。


「私、筆箱を買いましたの。愛らしいでしょう」
「すばらしいですわ。私はノートを」
「みなさん、甘いですね」
「可南子さん」
「きのう、コンプリートしてきました。こちらがつぼみちゃんTシャツ、これがつぼみちゃん牛乳、それから、」

「令、つぼみちゃんって、何かしら」
さきほど聞いた会話を思い出し、ふときいてみる。
「ああ、駅前のスーパーが作ったアライグマのキャラクターよ。たしかチラシがどこかに…………はい、これよ」
「! これ、ゆ…」
「あ、ほんと、ちょっと似ているわね」
ちょっと?とうとう目までヘタレたのかしら。あの子そのものじゃないの。
不特定多数の人間にこれを売ってるなんて。肖像権の侵害よ、許せないわ。だけどああいう輩に抗議したところで意味がないのは明らかなのよね…。


数日後。
M駅前に某大手スーパーが突如進出し、件のスーパーの閉店が決定した。
鳥居利江(仮名)がどうなったかは定かでない。某グループに引抜かれたといわれているが、京都の元花札屋でネズミの絵を描いているといううわさも有力である。


【126】 ふたりの祐巳と瞳子へ  (くま一号 2005-06-29 22:03:47)


【No:73】の続き
「祐巳さま、わたくしたち、今日はレオタードじゃなくてリリアンの制服姿なんですけど、間違いなく怪盗紅薔薇シリーズなんですよね?」
「そうよ瞳子ちゃん。日没までに怪盗ロサ・フェティダこと江利子様にさらわれた菜々ちゃんを見つけなければいけないのですもの。まさかレオタードで学園内を探し回るわけにはいかないじゃない。」
「由乃さまはどうしていらっしゃるのですか?」
「それもわかんないのよ。由乃さん、欠席してるの。」

「瞳子ちゃん、とうとう作者の元編集者という相方にこの掲示板が見つかって読まれてしまったらしいわ。」
「大変じゃないですか。」
「そうなの。20秒間の冷凍光線を浴びせられた後、『おもしろすぎるからブックマークしておくわ』と言い放って数日後にね。」
「どうしたんですか?」
「ジト目で『キャラクターの特徴がでてない。リリアン言葉にすればいいってもんじゃないのよ。』って。」
「ずいぶん基本的な指摘がきましたわね。」
「でも、自覚してたからねー。一番キャラが違ってるのがわたし。」
「は?」
「わ・た・し、つまり怪盗紅薔薇シリーズの祐巳。」
「はあシリーズなんですかやっぱり。確かにはっきり言ってどう見ても原作の祐巳さまとは別人ですねえ。」
「でもね、それは理由があるのよ。いままでのシリーズネタを言ってみて。」
「えーと、最初がNo.37 で柊さまやみなさんがサンクリで留守の間に票数稼いじゃえ、と言う話。
二つめがNo.59 でその票数が『わたくしたちには萌えがたりない』って暴走する話。
三つ目はNo.73で、柊さまが、がちゃSをcgiにして配布してくださらないかしらとかよけいなことを言ってご迷惑をかけた話ですわ。」
「そうなの。柊さま。あらためてごめんなさい。」
「ごめんなさい。」

「それでね、これって掲示板や絵板とか『がちゃS』そのものにツッコミをいれるシリーズでしょ?」
「そうですわね。」
「現実世界につっこむ、いわばプチ・メタフィクションなのよ、瞳子ちゃん。」
「なんだかよくわかりませんけど。」
「マリみてをネタにした二次創作というより、がちゃSをネタにした三次創作って言ったらいいかしら。」
「そう言われるとそうですわ。内輪ウケとも言いますけど。」
「いいのよ、内輪ウケで。そうするとね、原作の祐巳って本を読む方かしら?」
「うーん、読書シーンはたくさん出てきますけどどっちかというと苦手ですわね。」
「プログラミングは?そこまでいかなくても、ホームページ作ったりする?」
「ぜっっったいしないと思いますわ。乃梨子さんならともかく。」
「小説、SSなんて書くと思う?コミケに行けなかったらリリアンやめます、とか言う?」
「言いませんっ。」
「そうでしょ。最初っからキャラが違うのよ。怪盗紅薔薇の祐巳だけは原作の祐巳ちゃんにならないの。だから、これはここの祐巳、でいいの。」
「ものすごい開き直りですね。それじゃあわたくしはどうなるんですか?」
「ツッコミ役としてはレディGOあたりからの瞳子ちゃんそのまんま、の設定なんだけどねえ、いまいちかわいくないわね。」
「そ、そんな、祐巳さまこそかわいくありませんわ。瞳子授業に戻りますわよ。」
「ごめんごめん、冗談だってば。瞳子ちゃ〜ん。」
「だだだ、だから抱きついてもだめですっ。」

「そうそう、この前コメントで書かれていた続きものの時は前のNo.書きましょうって話。」
「ぶーー。」
「あー、ふくれてるふくれてる、ほっぺつんつん。」
「どうせ、瞳子、かわいくないですっ。」
「後ろからはぐされて、顔、真っ赤にしながら拗ねても効き目ないわよ。で、続きが分かるのはとってもいいと思うわ。なので今後は書こうと思うのよ。」
(そのまんまの体勢で、説明的セリフをしゃべりますか、祐巳さま。)
「本文中にNo.を書けるのって、この三次創作もどきシリーズくらいなのよね。普通はコメントで書いた方がしらけないと思うわ。」
「篠原さまはうまく効果を上げてますよ。」
「あれは、やっぱりがちゃSデフォ設定シリーズだからよ。わたしたちももぐりこんだ、名付けて『1/1マリア観音がフィギュアに・乃梨子は仏師くずれの造形師・聖さまが送りつけた祐巳ちゃん人形は今どこに・シリーズ』」
「長いですっ。ネーミングセンスだけ原作の祐巳さまに似ないでくださいっ!それじゃ2時間ドラマのサブタイトルですよ。」
「『略して1/フ大作戦』」
「どうやって読むんですか。」

「話を戻して菜々ちゃんなのよ。」
「あの、話を戻すなら離していただけませんの?」
「離れて欲しい?」
「だ、だから、瞳子は祐巳さまに抱きつかれたって別になんとも思わな、思わ、ですから離れてくださいっ。」
「やだ。」
「祐巳さまぁ」
「で、江利子さまが、『分かっているわね?これはあなたたちの絆も問われているのよ』とまで言うからには、黄薔薇関連ポイントが要チェックなのよ。」
「そうおっしゃいますが、白薔薇の『講堂裏の桜の木』とか紅薔薇の『古い温室のロサキネンシスの木の前』みたいな劇的ポイントはありませんわよ。」
「そういえば、瞳子ちゃん、あなたは古い温室イベントはないわねえ。」
「これからあるんですっ。あさっての新刊でだってあるかも知れないじゃないですか。」
「そんな泣きそうな顔しなくても大丈夫よ瞳子ちゃん。」
「えぐえぐうるうる。」
「黄薔薇の劇的ポイント、あるじゃない。」
「令さまが由乃さまにロザリオ渡したのは、由乃さまのベッドですよ。」
「そのあとよ。」
「黄薔薇革命は、マリア様の前。」
「惜しい。あのとき由乃さんは心臓手術したのよね。」
「皮膚切って、心臓いじって、」
「核融合エンジン入れた。」
「ちがーう。」
「そんなようなものよ。その時、令さまはじめ他の山百合会全員、どころか主要登場人物全部はどこにいた?」
「あ・・・・剣道の交流試合」
「そう。菜々ちゃんが由乃さまと出会って、そこに江利子さまが立ち会ったのはどこ?」
「翌年の交流試合ですわ。しかも先代から次代、報道陣、桂さん以外の主要登場人物が全員そろってました。まるでオペラのフィナーレみたいに。」
「じゃあ、わたしたちがこれから行く場所は決まったわ。」
「市立体育館!!」
「由乃さんも当然そこにいるわよ。」
「行きましょう!祐巳さま。ずりずりずりっていいかげん離してくださいっ。」
「わーい、瞳子ちゃん真っ赤。」


「つづく。」
「祐巳さま、まだ、引っ張るんですかあ?」
「だって新刊が出るじゃない。ちょっとカンニングしたくなったのよ。」
「祐巳さま、わたくしたち、どうなってしまうんでしょうか。」
「瞳子ちゃん、たとえ新刊でどういう運命が待っていようとも、」
「はい。祐巳さま。」
「わたしたちは、一味の仲間だからね。」
「せめてお友達って言ってくださいー。」


【127】 めぐる三賢者  (joker 2005-06-29 23:01:13)


 私は賢者蓉子。三賢者(通称Magi)のうちの一人、赤の賢者(マギ・キネンシス)である。私達は旅費が尽きてしまった為、バイトをすることになった(No.89)のだが……。

「何で私がこの仕事なのよ!」
 その仕事の内容は実に納得出来ないものだった。
「そりゃあ、ねぇ?」
「確かに。あんな真面目な履歴書を書いたら、そうなるわね。」
 この国でのバイトは、自分で選ぶ事が出来ず、各々の能力にあったものが斡旋される。
「貴方達二人は実に『らしい』格好をしてるわね。」
「そう?私は本当は『怪盗ロッサフェティダ』がやりたかったんだけどね。」
 いつもの格好をした江利子が、ガッカリしたように言う。ちなみに、江利子は占い師になったのでいつもの服装だ。
「私は暗行御使がよかったなぁ〜。…可愛い山道を伴って……」
 もはやダメダメの聖がロクでもない事を言っている。こんな奴がアメンオサなら、国は救われないだろう。ちなみに、聖はこの国の一時軍師に採用された。真白な軍服が様になっている。
 「貴方達、どんな事を履歴書に書いたら、そんな『らしい』仕事になるわけ?」
 日頃の言動からは、とてもそうなるとは思えない。
「別に大した事は書いて無いわよ」と江利子。
「私もよ。なんなら見てみる?」と聖。
 二人が見せてくれた履歴書には……

名前:賢者江利子
我は予言者。ありとあらゆる真実を見通し、汝らに光の道を差し示さん。


名前:賢者聖
我は軍神。四面楚歌であろうとも、機知と力で勝利をもたらさん。

 二人の履歴書には、これ「だけ」しか書いていない。他の欄は全て無視されている。
 ……なるほど。これなら、あの仕事先も理解できる。どうせ、江利子は面白いから、聖はめんどくさいからあんな事を書いたのだろう。しかし、二人があれで、真面目に書いた私がこの仕事なんて、あまりにも報われない。
「蓉子、諦めなさい。軍の仕事が終わったらそっちに行ってあげるから。」
 と聖がニヤニヤしながら言ってくる。
「それにしても、蓉子が料理店のメイドとはねぇ。…今から楽しみだなぁ、蓉子のメイド姿。」
「おまえは来るなー!」
 軽く聖をぶん殴ってから、自分の履歴書を改めて見てみる。

名前:賢者蓉子
特技:家事全般
趣味:料理
資格:称号二つと、料理検定1級
Like:静かな一時。
DisLike:暴走する聖や江利子。

 …生まれて始めて、真面目な性格を呪った。

また続く


【128】 絢爛たる由乃×祐巳  (柊雅史 2005-06-29 23:40:17)


『コ』の字型に配置された校舎の中に、最近『リリアンナンバー1絶景ポイント』に認定された教室がある。
雑然と物が配置された科学準備室。ホルマリン漬けのカエルさんや煤汚れた人体模型さんがお出迎えしてくれるこの部屋は、かつては『リリアンワーストポイント』に選定されたこともある、由緒正しき場所である。
それが、ここ最近はお昼休みともなると、人の出入りが絶えることがないほどの盛況ぶりである。
科学準備室の主、よれよれの白衣姿が見ようによってはかっこいいシスター・真由美は、きゃいきゃいと黄色い声を上げながら集まってくる生徒たちを、目を細めて眺めていた。
「あぁ……なんと嬉しいことでしょう。彼女たちもついに科学の素晴らしさに目覚めてくださったのですね。マリア様、感謝いたします」
科学好きでありながら、人一倍信仰の厚いシスター・真由美は、接してみると中々に面白い人物だった。それもこの場所がここまで盛況している一因だろう。
シスター・真由美は今日も今日とて、遊びにきた生徒たちに――その大半は一年生で、シスター・真由美は「若いのに偉いわ〜」なんて思いながら――ビーカーで淹れた紅茶を振舞っていた。皆、一様に複雑な表情で紅茶を受け取ったけれど、シスター・真由美はその微妙な表情を解さなかった。
「みんなとても熱心なのね、とても嬉しいわ。――それじゃあ、私はちょっと用事で席を外すから。濃硫酸の薬棚には近寄っちゃダメよ。ただれちゃうわよ(はぁと)」
もの凄い微妙なことを朗らかに言い残し、シスター・真由美は上機嫌で部屋を出て行った。その背中を見送って、集まった一年生たちは一斉に溜息を吐く。
「わたくし……さすがに少し、罪悪感を覚えてしまいますわ」
「そうですわね。それに……紅茶を淹れてくださったビーカー、わたくしの記憶が確かならあれは以前、カエルさんの解剖時に使っていた」
「琴音さん、それは禁句ですわ! お紅茶を頂けなくなってしまいます!」
慌てて制止され、琴音さんはそれもそうだと口をつぐんだ。まさかシスター・真由美が手ずから淹れて下さった紅茶を、流しに捨てるわけにもいかない。一同は琴音さんのトリビアを故意に無視して、ぐっと紅茶を飲み干した。
「――ふぅ。これで心置きなく専念できますわね」
「そうですわね。これがなければ、もっと人気のスポットになりますのに」
「でも、これのお陰で私たち一年生でもこの場所を使えるのですわ。そうでなければ、順番待ちですもの」
「そうですわね。――では皆さん、始めましょう」
一同はカップを隅にまとめると、がたがたと机や椅子や本の山を移動させ始めた。目指すは物置と化している一角の向こう、カーテンの引かれた小窓である。
相当慣れているのか、ほんの数分で小窓への抜け道を確保した一同は、そろりそろりとカーテンを開けた。その小窓は中庭に面していて、対面には『コ』の字型をした校舎の向こう側が見える。
「あ、いましたわ!」
一人の生徒が目聡く見つけ、指をさしたその教室。
その教室の窓際の席では、紅薔薇のつぼみと黄薔薇のつぼみが、今正に仲良く食事を摂り終え、談笑を始めたところだった。
「あぁ……なんて素敵な光景でしょう。わたくしたちのアイドルである紅薔薇のつぼみと、可憐なる黄薔薇のつぼみのツーショット……溜息が出ますわ」
「これで白薔薇さまもいらしたら完璧ですのに。今日はいらっしゃらないようですわ」
「残念ですわ。――でも、お二人ですと黄薔薇のつぼみは少し大胆になられるから」
「そうですわよね。この間もお二人はとても楽しそうにお喋りしていらしたわ」
「あ、皆さん、ご覧になって! 黄薔薇のつぼみが席を立ちましたわ!」
「まぁ! 紅薔薇のつぼみの隣にお座りになっていますわ!」
「ど、どうしたのでしょう? あ、そんな、黄薔薇のつぼみ、そんなに紅薔薇のつぼみに近づいてはダメですぅ!」
「きゃあ☆ ろろろ、黄薔薇のつぼみの手がっ! 手がっ!」
「紅薔薇のつぼみの手を握ってますわぁ〜!」
「え、嘘? どこどこどこ!?」
「ほら、あそこですわ! ああぁ、なんて美しい光景なのでしょう! 今年のつぼみのお二人は、本当に仲が良くていらっしゃいますわ」
「あっ! 黄薔薇のつぼみが、紅薔薇のつぼみの頬へ……」
「「「「「手! 手を触れましたわっ!!!」」」」」
一同が身を乗り出して固唾を飲むその視線の先では、黄薔薇のつぼみこと島津由乃さまが、紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳さまの頬に手を伸ばして撫でるという、とてつもない光景が展開されていた。
「はぁ〜……紅薔薇のつぼみの頬っぺ。さぞかしつるつるなのでしょうね……」
「わたくしにはお二人が輝いて見えますわ……」
「大丈夫、わたくしも一緒ですもの。お二人は輝いていらっしゃいます!」
「わたくし、絶対に黄薔薇のつぼみは紅薔薇のつぼみのことを好きなのだと思いますわ! だって、何かあるとすぐにスキンシップをしていらっしゃいますもの」
「でも紅薔薇のつぼみだって、ほら! 黄薔薇のつぼみの頬を撫でていらっしゃいますわっ!」
「きゃあああ! どうしてですの!? 一体あのお二人は何をしていらっしゃるの!?」
「お、落ち着いてくださいませっ!」
真っ赤な顔できゃあきゃあ騒ぐ一年生たち。
これこそが科学準備室が『リリアンナンバー1絶景ポイント』に選ばれた理由なのである。
そう――この場所からは、紅と黄色のつぼみがお昼休みに談笑し、戯れている姿をつぶさに眺めることが出来るのだ。
「あぁ……お昼を抜いて駆けつけた甲斐がございました」
「本当に。今日もお二人はとても仲睦まじげで良かったですわ」
「お二人も薔薇さまになって、白薔薇さまと3人で山百合会をまとめる来年が、とても楽しみですわ」
「ええ、そうですわね。――でも、大丈夫かしら?」
「なにがですの?」
「だって、黄薔薇のつぼみも白薔薇さまも紅薔薇のつぼみのことをあんなにお好きですのに。喧嘩にならないでしょうか?」
「あら、それは大丈夫ですわよ。だって紅薔薇のつぼみは、きっとお二人とも同じくらいにお好きですもの」
「そうですわね……愚問でしたわね」
仲良く頬を触りっこしているつぼみを眺めつつ、一年生たちはほんわかしただらしない笑みを浮かべる。
彼女たちは知らない。
今二人のつぼみは互いの頬を触りつつ、「うわ祐巳さん、丸くなったねー」「由乃さんこそぷよぷよだよ!」と醜い牽制をし合っているだけ、なんてことは……。



――そして自分の城がすっかり観光地化していることに気付かない、とてもお気楽な人物が一人。
「あ、そうだわ。今度はみんなにお茶菓子も出してあげようかしら♪」


どちらも知らないってことは、幸せなことである。


【129】 破滅の罠  (くま一号 2005-06-30 00:13:27)


SUBJECT:※未承諾広告※ 必殺仕置人・悩み事解決!
DATE:Web, 29 JUN 2005 16:07
FROM:<トラブル解決人>buddasculptor@ rosa.gigantea .net
TO:touko_matsudaira@ liliane. ac.jp

◆あなたに代って怨みはらします◆
――――
[祐巳さまに]   騙された・裏切られた・遊ばれた・逃げられた・捨てられた・
[祐巳さまに]   誠意が無い・
[祐巳さまの]   不倫疑惑解明・人間関係・
[祐巳さまの昼食の]金銭トラブル等々…★
「細川可南子の]  別離工作・トラブル対策・スト―カ―対策・
[祐巳さまの]   ボディガ―ド・情報収集・
[祐巳さまが]   突然抱きつく、くすぐるなどの卑劣行為撲滅等々…★
真剣にお悩みの方、安心してご相談下さい。解決へ導きます★

http://www.rosa. gigantea .net/
―――――――

特殊データ調査【極秘】

各種データ調査全般取扱・問合せ下さい★



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「乃梨子さんが助けになりたいって、これのことだったの」
瞳子は顔は笑っているけど本当は笑っていなかったのかも。


【130】 替え歌乱れ撃ち  (joker 2005-06-30 01:20:01)


ドリュンドリュン(グリーングリーン)

 ある日祐巳と二人で語りあったわ。
 ドリルをからかう喜び、そして、無視の悲しみ。
 ドリュン♪ドリュン♪
 青空にラララ、ドリルが響き
 ドリュン♪ドリュン♪
 青空には、ドリルが唸る



瞳子(天馬)

縦のドリルをなびかせて
春の並木を駆けて行く瞳子
祐巳の腕すり抜けて、真北に向かう
ご覧、ドリルの、駆けて行く(駆けて行く)
白銀の道を〜
リコさえ退けぞる 静まり帰る
縦のドリルをなびかせて
薔薇の館を駆けて行く瞳子



今夜ドリに見える髪に(今夜月の見える丘に)

たとえば どうにかして 君のドリルつけてみて
その鏡から私をのぞいたら いろんなことちょっとは変わるかも

ドリすれば ドリするほど 瞳のなか 迷いこんで
ドリルをつけたら 行ってみよう
跳ねるような髪をそのままに
迎えにゆくから そこにいてよ
バネだけでもいい
君の髪を知るまで 今夜僕は寝ないよ



「この中のどれかを来年の文化祭の出し物にしようと思ってるんだけど……」
「却下」
「ええー」
「却下です。だいたい、何ですか?この替え歌。三番目に至っては合唱曲ですらないじゃないですか!」
「ウケると思うんだけど……」
「恥かくのは私だけじゃないですか!!」


薔薇の館は今日も平和である。


【131】 黒由乃危険な一日戦争  (鯵 2005-06-30 01:34:35)


由乃「ケッ・・・喧嘩は両成敗!!私を殺ればあなたも死ぬのよ!!」
乃梨子「ふっ、心置きなく死んでください」
―乃梨子、仏像で由乃を撲殺しようとする―
由乃「きゃーっ!」

バギュイン!!!
―乃梨子、仏像をふっとばされそうになる―
乃梨子「ん!!」
志摩子「はーはー。なんて娘なの。銀杏で仏像が射たれても手放さないなんて」
乃梨子「志摩子さん・・・瞳子・・・」
由乃「藤堂志摩子!!」
桂「志摩子さんあんまり無理をすると」
志摩子「・・・・・・・・う・・ごふ。ごほごほ」
桂「志摩子さん!」
志摩子「ふーーばかな娘ね。姉よりも先に死ぬ妹があるの・・乃梨子」
乃梨子「し・・・志摩子さん・・・」
―見つめ合う乃梨子と志摩子―
志摩子「銀杏を・・・」
桂「・・・」
―銀杏を由乃にむける志摩子―
由乃「ひ!!」
志摩子「どうしても殺るといならこの志摩子が由乃さんを射つわ!死ぬのならこの役立たずで十分よ!!」
―目を見開き志摩子を見つめる乃梨子―
志摩子「私はかつて理科の時間、先生から習ったわ。月は日の光を受けて初めて光り輝けると。乃梨子・・・あなたはその日の光だったわ。私というひ弱な月を照らさないで・・・」
―虚空を見つめ昔を思いやる志摩子―
志摩子「いつもあなたは勇気を与えてくれた。そんなあなたが不幸な道を歩むのをみてはいられない」
由乃「あ・・うああ・・・」
志摩子「由乃覚悟!!」
ドバン!!
―銀杏が由乃に向かう―
バキッ!!
「ほげ!!」
―乃梨子のこぶしが銀杏の前に由乃の顔にあたり、銀杏が由乃をかすめていくー
志摩子「の・・・乃梨子」
桂「の・・・乃梨子ちゃん」
―空を見上げる乃梨子―
乃梨子「志摩子さん・・・月はいいなぁ。月がなければ私なんかとうに闇夜に迷い果ててました・・・」
―月を見上げる志摩子―
志摩子「乃梨子・・・」
瞳子「・・・・・・」
―月をを見上げ続ける乃梨子と志摩子―
瞳子「涙がこぼれるのを辛抱してるのですわね・・・お月さまなんかながめて」




由乃「なんなの!なんなのよ!!これは!!(怒)」
乃梨子「あっ。何するのですか由乃さま!ひとのノートなんて漁って」
由乃「け、剣道部お休みになったからお姉さまと薔薇の館のお掃除していたら乃梨子ちゃんのかばんが落ちて中身が出たのよ!!」
乃梨子「だからってひとのノートを見るなんて・・」
令「ごめん乃梨子ちゃん。・・・止められなかった(泣)」
由乃「れ〜い〜ちゃ〜ん!!(裏切り者)み、見えちゃったものはしょうがないじゃない!そんなことはどうでもいいのよ!!花の慶次のぱくりで、あまつさえ乃梨子ちゃんが慶次役というのはまあ乃梨子ちゃんが書いたのだからまあいいわ。でも、私が四井主馬・・・こんなひどい役なのよ!!・・・まだ、モブの桂さんのほうがましだわ」
令「花の慶次・・・由乃も持っていて貸してくれたのよね。・・・主馬って慶次を付け狙うんだけど結局、殴られたり、馬に蹴られたり、腕を切られたり、ふんどし一丁で逆さ吊りにされたりするんだったよね?」
由乃「(ギロッ!!)」
令「ご、ごめんよぅ(泣)」
由乃「乃梨子ちゃん、なんで私が主馬役なのよ!なんか、恨みでもあるの!?」
乃梨子「(ないこともないけど・・)ぴったりあう人がいないので由乃さまを使ってしまいました・・・」
由乃「だ・か・ら、なんで私なの・・」
令「乃梨子ちゃん!!」
乃梨子「は、はい。黄薔薇さま」
令「・・・このお話、由乃もそうだけどどのキャラも無理があるよね?」
由乃「令ちゃん・・・」
乃梨子「・・・はい」
令「・・・・・・だが、それがいい」
由乃「いいわけあるかぁ!!ふざけるなぁぁ!!!」
令「あああっ、掃除したばっかりなのに暴れてないでぇ。由乃ぉぉぉ(泣)」
乃梨子「は〜。(こうして黄薔薇忍軍は内紛によって滅びたのだった)」


【132】 筋書きのない人生の変わり目  (くま一号 2005-06-30 23:20:06)


 由乃さまは菜々ちゃんしか眼中にないらしい。
「それでわたしはますます追い込まれました、か」
剣道部の交流試合から数日後、薔薇の館でため息をつく祐巳さまの姿があった。

「そんな暗い顔してたら一年生が寄りつきませんよ。一服してください。」
「きついこと言うねえ、乃梨子ちゃん。」
 薔薇の館には祐巳さまと乃梨子の二人。祐巳さまの好みに合わせて砂糖増量のダージリンのミルクティーを入れて、二人で飲みながら、休憩することにした。すったもんだの茶話会も終わって、山百合会は暇な季節。
 外は12月の霧のような雨があたりをけむらせている。すぐ前にあるはずの校舎も見えなくなって、窓の外は在りし日の武蔵野の森のように白く霞んだ景色になっていた。

「なんだか学園祭の頃が懐かしいな。にぎやかで楽しくて。」
ことり、と祐巳さまはティーカップを置く。
「可南子ちゃんも瞳子ちゃんもなんだか遠くへ行ってしまったみたい。瞳子ちゃんも茶話会以来話そうとすると逃げちゃうんだな。」
 瞳子は、と、のどまで出かかった言葉を乃梨子は飲み込む。まだ、祐巳さまにはなにも言えない。そう、瞳子が自分の意志で動き出すまでは。

 突然ばたん、とビスケット扉が開く。その瞳子が立っていた。
「ごきげんよう。祐巳さま、乃梨子さん。」
「瞳子!」あいかわらず足音をさせないやつだ。
「ごきげんよう、瞳子ちゃん。ひさしぶり。」
ちょっと怒ったように見える瞳子は、正面から祐巳さまを見据えている。
「祐巳さま、お話がありますの。」
「あら、なにかしら。わたし、また瞳子ちゃんに怒られるようなことした?」
乃梨子は立ち上がる。
「私ははずしましょうか。」
「いいえ、乃梨子さんもいてくださいまし。」瞳子が言う。
「瞳子がそう言うなら。」
瞳子のためにもう一杯紅茶を入れることにする。

「さて、あらたまってなあに。」
「祐巳さま…あの…。」
話しづらそうな瞳子、ってついに素直になる気になったか。
「祐巳さまは瞳子のことを好き、ですか。」
「うん、大好きだよ。」
「妹にしてもいいくらいに好き、ですか。」
顔を真っ赤にして、ついに言った。がんばれ。

「え…。本気、なの?」
「本気です。本気と書いてマジと読むんです。」
そこでボケるな。
「瞳子ちゃん、わたしはお姉さまみたいな美しくて完璧な人じゃないんだよ。」
「そんなことはかまわないんです。」
いつになく静かに話す瞳子。
「祐巳さまはご自分がどんなに素敵な方かおわかりになっていないんですわ。」
「えっ!?」
目を見開いて絶句する祐巳さま。

「…それって…出会った頃に可南子ちゃんが言っていたのと同じセリフだよ。」
祐巳さまが絞り出すように言う。この展開は、まずい。
「可南子ちゃんはね、わたしに夕子さんの幻を重ね合わせていたわ。瞳子ちゃん、あなた…わたしにお姉さまを…」
「祐巳さまっ。それはあんまりです。」
真っ青になる瞳子。
「わたくしは夏休みに、西園寺さまの別荘でマリアさまのこころを歌う祐巳さまを見ていましたわ。西園寺の曾お祖母様が祐巳さまだけに心を開いて、あの時からわたくしは祥子お姉さまではなくて祐巳さまを見ていたんです。」
「あの時だって祥子さまのピアノがあったからあんなことができたんだよ。私にはないものを見ているんだよ、瞳子ちゃん。」

「それじゃあ、祐巳さまに励まされて薔薇の館に通っていた学園祭までの間、ずっとわたくしは紅薔薇さまの幻をみていたとおっしゃるのですか。うれしかったんですよ。うちにおいでとまで言っていただいて、ほんとにうれしかったんですから。」
涙声になる瞳子。いつも通るはずの声がかすれてる、これは演技じゃない。
「でも、来なかったじゃない、瞳子ちゃん。私に頼らなくたって瞳子ちゃんはやっていけるんだよ。」
「祐巳さま!」
「私は祥子お姉さまにはなれないよ。」
「どうして…どうしてわかって…」
突然くるりと振り返りビスケット扉を飛び出す瞳子。
一瞬固まる祐巳と乃梨子。
その間に、瞳子はもう薔薇の館を走り出て去っていく。
「瞳子ちゃんっ。」
「瞳子!」
祐巳さまが追いかけて外に出た時にはもう瞳子の姿は校舎の影に隠れるところ。もう追いつけない。霧が瞳子の背中を隠す。

 雨が降る。枯れ葉を濡らして霧雨が降る。茫然と立ちつくす祐巳。

 まだそんな勘違いをしてるのか祐巳さま。いえ、可南子と同じ言葉を偶然使ったのが不運。最悪のストーリーじゃないか。口をはさむ隙もなかった、いや私が口を出せることじゃない。

「祐巳さま。」
傘をさしかける。とにかく頭を冷やさなきゃ。志摩子さん、まだ来てくれないの?
「とにかく館に入りましょう。」
聞こえていないように祐巳さまがつぶやく。
「なんだかお姉さまと行った避暑地の朝の林みたいだわ。」
違うのはしん、と冷え込む寒さ。
「瞳子ちゃんと一緒に、いえお姉さまと三人であの景色を見るのがわたしの望みなのかしら。」
冷たい霧雨が降り続く。
「わからない。」

「祐巳さま。とにかく中へ。」
抱きかかえるように祐巳さまを連れて館へもどる。あたりはもう暗い。





「『つづく』と祐巳はつぶやいた。」
「もうっ、なんでシリアスなのにいきなり怪盗紅薔薇モードで乱入するかなあ。要するにあとがきが書きたいんですね。」
「そうよ、瞳子ちゃん。」
「わたくしが雨の中へ飛び出たところでつづくってレイニーブルーじゃありませんか。」
「うんっ。一度やってみたかったのよ。伝説のレイニー止めっての。」
「でも、でも、明日は新刊がでるんですよ。どうなっちゃうんですか。」
「それが『筋書きのない人生の変わり目』じゃない。がちゃS掲示板でしかありえない、出たとこ勝負のなりゆきまかせ企画よ。」
「まさか……。」
「名付けて、『レイニーブルーで止めておいて新刊が出てから後半を書いて感動させよう大作戦』」
「やっぱり……。それで収拾がつくとでも思ってるんですか。」
「思ってないわ(どきっぱり)。収拾がつかなかったら後半で笑いを取るのよ瞳子ちゃん。」
「ちょーおめでたいですっ。ネーミングセンスもおめでたいっ。」
「『略してレイ感大作戦(仮)』」
「あああああ」
「たとえ明日どんな運命が待ち受けていようとも、わたしたちは一味の仲間だからね。」
「マリア様、わたくしはこの方のプティスールになってもよいのでしょうか。」
「つづく」



[2006.3.7 加筆]
[2006.3.26 修正]

「と、いうことで始まってしまったこの企画、なんだかずいぶん昔の話みたいだわ。薔薇のミルフィーユの発売前日だったのよ」
「そうですわね、祐巳さま。結局、翌日に発売された新刊で、私たちの関係はな〜んにも進展なしでしたのよ。それどころか、瞳子出番なし!!」
「困り果てた私たちが逃走したところへ、琴吹さまが救いに入って続きを書いてしまわれたのね」

「そこからいきなりリレー連作になって、つながるつながる、えーと、80話越えたかな? 瞳子ちゃん?」
「投稿者も10人越えたあたりで数えるのをあきらめましたわ。それも分岐するわループするわ、投稿順に読んでもわからなくなってきましたのね」

「通称『がちゃSレイニーシリーズ』、もはやがちゃSの看板とも言える……」
「看板、なんでしょうか。まだやってたの? という話もちらほらと……」

「いいのよ、瞳子ちゃん。で、完結したの?」
「……まだです。途中で、私が祐巳さまのロザリオをいただいてしまった分岐もあるのですけど、全然終わりそうにないのですわ」
「うーん。ネバーエンディングパラレルストーリーになっちゃうかしら?」
「それもいいんじゃないかしら?」

物語のチャートは、まとめページ
http://homepage1.nifty.com/m-oka/rainyall.html
をごらんください。


【133】 宣伝華麗にスルー  (joker 2005-07-01 00:53:40)


「ごきげんよう、ニュースの時間です。今回は最新刊の宣伝でお送りします。お送りするのは私、二条乃梨子と」
「ゲストの島津由乃でお送りします♪」
「……何でまた、由乃さまなのですか。」
「志摩子さんはまた急用が出来たから『由乃さんと一緒によろしくお願いね。』だって。」
「…そうですか(うぅ、志摩子さん……)。」
「で、今回は今日発売の新刊の宣伝なのよね?」
「ええ、そうです。」
「全く、どうなるのかしら、祐巳さんと瞳子ちゃん。」
「巧みに引っ張るかもしれませんよ?」
「あー、その可能性もあるわね。でも、そんな事になったら下のSS、成り立たなくなるわよ?」
「自業自得です。」
「……さすがに言いすぎよ、乃梨子ちゃん。」

「でも、由乃さまじゃあないですけど、一体全体どうなるんでしょうね、あの二人。」
「可能性は二つよ!」 「二つですか?」
「そうよ。まず一つ目は順当にあの二人がスールになる。」
「ありきたりですね。」
「そうね。これは誰でも思うわね。問題はもう一つの方よ。」
「もう一つ……可奈子さんですか?」
「違うわ。」 「では、一体…?」
「祐巳さんがスールを作らない。」
「ええーっ」
「落ち着いて、乃梨子ちゃん。あくまで推理よ!」
「でも、さすがにぶっ飛びすぎです。」
「だけど、可能性も無くは無いわ。」
「そうですか。では、残りも少なくなってきたので、そろそろ宣伝にいきたいと思います。由乃さま、どうぞ。」
「では、
童子切りに寄生され殺戮を繰り返す山崎太一郎。それに立ち向かう片倉優樹。そして彼女の下す決断は……ついにクライマッ――」
「それはダブ○ブリッドです!真面目にやって下さい!」
「分かったわよ。では、
ついに起こる最後の、戦後日本四大悲劇、『双子連続消去』事件。迷走する探偵達、集うS探偵、深まる事件、二人目の九十九十九、『九十九二十』。今ここに最大最高の『流水大説』が降臨す――」
「全然違うじゃないですか!いい加減、真面目にやれよ!」
「私、知らないわよ。」
「はい?」
「だから、知らないの。新刊のあらすじ。」
「……だったら、最初から、言えー!」
「『乃梨子、よろしくお願いね』」
「ぐっ……(このアマ…)」
「さて、乃梨子ちゃんも落ち着いた所で、今日はここまで。皆様、ごっきげんよう♪」
「由乃さま、言い忘れれていました。発売日、3日になった所もあるのでネタばれは3日以降になります。」
「言うのが遅い!」


【134】 リリアン流格闘術  (琴吹 邑 2005-07-01 13:19:37)


格闘術というのはいろいろな流派がある。
その中でも、部活動の中で体得する部活格闘術――某きらめき高校が多数の部活格闘術奥義獲得者を排出している――そんな部活格闘術がこのリリアン女学園にも存在する。

リリアン格闘術。それは、山百合会に伝わる伝説の格闘術である。
そして、その奥義は山百合会幹部ののみに伝えられるという。


現山百合会と前山百合会は、その奥義を身につけたものが多数所属していることで有名である。
記者は取材を試みたが、その技を実演してもらうことはできなかった。
しかし、その技の名前を入手することができたので、その名前だけでも紹介しよう。


先代白薔薇様 闇からの抱擁

先代黄薔薇様 閃光の一撃

現紅薔薇様 高貴なる一喝 

現白薔薇様 微笑みの封殺

現紅薔薇のつぼみ 太陽の笑顔

現白薔薇のつぼみ パペットマスター

現黄薔薇のつぼみ ミスターマスター

先代紅薔薇様が抜けているのは、
先代紅薔薇様が奥義を未収得だったわけではない。
先代紅薔薇様の奥義は、門外不出なのか、その技は何故か名称すらも語られることはなかったのだ。
記者は先代紅薔薇様の奥義を聞いたときに現山百合会幹部が浮かべたのはすべからく恐怖の表情だったと言うことを明記しておこう。

リリアンかわら版4/1号より抜粋


【135】 三奈子ちゃん覆水盆に返らず  (篠原 2005-07-01 18:39:23)


「がふうっ」
 突然妙な叫び声をあげて机に突っ伏した築山三奈子に、真美はまたかと思いつつ妹としての義務感から一応声をかけた。
「どうしたんですか? お姉さま」
「あああああああああ」
「お姉さま?」
 あまりの変さ加減に、さすがに少しだけ心配になってそばに寄る。
「間違えてリロード押しちゃった」
「は?」
 真美はお姉さまの前のディスプレイをのぞきこんだ。
「がちゃがちゃSS掲示板……って部室に来て何やってるんですかっ!」
「ちょっとした息抜きよー」
「息抜きで絶望しないでください」
「だって、これ同じタイトルなんて2度と出ないのよー!」
 再起不能に陥ったらしい姉を見て、真美はつくづく思う。心底ダメ人間だこの人は。どうしてこの情熱の5%でも受験勉強にまわせないのかと。


  ※この物語はフィクションです。ええ、フィクションですとも……。


【136】 七夕は織姫と彦星  (くにぃ 2005-07-01 22:42:51)


「あれ、誰だよ。生徒会室に笹なんか持ってきたのは。ただでさえ散らかってるのにこれ以上もの増やすなよ」
「あ。何すんだよユキチ。もうすぐ七夕だからわざわざ持ってきたのに」
「小林だったのか。でも男子校で七夕っていってもな」
「何言ってんだ。普段出会いのない男子校だからこそ、素敵な出会いを求めて織姫と彦星に願いを託すんじゃないか」
「だからってわざわざ学校に持ってこなくても家でやればいいだろ。」
「バカだな。男子高生が家で一人で短冊に願い事を書いてたらそれこそ不気味じゃないか。こういうことはみんなでワイワイやるから楽しいんだよ。それともユキチは家で祐巳ちゃんといっしょに願い事を書いたりするのか?」
「バ、バカ。そんなわけないだろ。」
「ハハハ、あわてちゃって怪しいな。まあいい。とにかくユキチもこれに何か書いて笹につけろよ。もうみんな書いて後はユキチだけだ」

「急に言われても何書けばいいんだよ。それにみんな書いてるって?どれどれ。
『サプリメントに頼らない体作り』?高田か。これは願い事ってより目標だよな。それにあいつの場合『ママに頼らない人生』って方が先だろ。
こっちは『フィールズ賞』?お前大きく出たな。しっかし相変わらず汚い字だよな。これじゃお前は内容以前に論文を読んでもらえず落ちる口だな。
おっ、これも小林か。『祐巳ちゃんとおつき合いできますように』だと?ふざけるな。お前に祐巳はやらん。(ブチッ)
『素敵な彦星様と巡り会えますように』?織姫様の間違いじゃないのか。ほんとにそれでいいのかアリス。
なんだこのでかい短冊は。『もっと大きくなれますように』『もっと大きくなれますように』?わざわざこんなでかいの二つ並べて、書いてあるのは同じことかよ。第一日光月光、それ以上大きくなってどうするつもりだよ。
『やらないか』って誰と!何を!卒業してからも頻繁に来て何をしてるかと思えばろくなもんじゃないな、あの人も。
全くこれが生徒会幹部の願い事かと思うと嘆かわしいよ」

「さっきから人の願い事にケチばっかつけて、自分はどうなんだよ」
「俺か。そうだな、例えば『世界人類が平和でありますように』とか、『この世から貧困がなくなりますように』とか・・・」
「多分そんなつまらないことだと思ったよ。そこで!ジャン!みんなでユキチの分を書いておいたんだ。ほらよ」
「また余計なことを。なになに。
『由乃さんとデートしたい』
『由乃さんとつき合いたい』
『由乃さんと手を繋ぎたい』
『由乃さんとチューしたい』
『由乃さんと色々したい』
『由乃さんと・・・』
『由乃さんと・・・』
『由乃さんと・・・』
何だよこれ!」
「うれしい?」
「わけないだろ!却下だ却下!」
「なんだよ。せっかくみんなで心を込めて書いたのに破り捨てることないだろ。でも安心しろ。こんなこともあろうかと昨日の内に一度飾り付けして、記念写真を撮って山百合会に送っておいたんだ。今頃届いてお前の織姫さまもきっと見てるぜ」
「あほかーーーーーーーっ!!」


その日の帰宅後、祐麒は祐巳に白い目で見られた上、口を聞いてもらえなかったことは言うまでもない。


【137】 登場したい黒志摩子  (春霞 2005-07-02 00:54:47)


ここのSS掲示板には、私の出番がちっとも無いのね。
ちょっと位、真白の上に何か色が乗っているからと言って、『黒い』だなんて。ねえ。どう思われますか、お姉さま?

「そ、そ、そ、それは、もちろん志摩子に対する侮辱だよ。」
「あくまで清楚に清貧に、しかして全てを掌握するダイナスティ(覇権)。微笑みの裏側からにじみ出る恐怖。全ては貴女様のために。」
「この奥深い様式美を理解できないのは、物事の表層しか見れない紅一族や、感情で暴走する黄一族の悪影響だね。いや、本当に。」
(加藤さ〜ん。助けて。)
「世界は、黒き志摩子の元にあるべきだよ。うん。」

そう、では乃梨子。

「イエス、マム!」

この板の周りをうろうろしている下賎な輩どもを、ちょっと教育して差し上げて?

「サー!イエッサー!」

ふふ、これでこの板も、美しく黒く染まってゆくわね。  ちょっと楽しみね。


【138】 叫び続ける白薔薇のつぼみ  (joker 2005-07-02 01:17:59)


『絶・対・リリ・アン!』
 時は平成。マリア様の庭に集う乙女達の鬨の声が響き渡る。
 突如、オーロラビジョンに仏像の煙草をくわえ、白マント、白帽子を身に纏う二条乃梨子の姿が写し出される。
『蕾様だ!』『白薔薇の蕾のお出ましだ!』
『絶・対・リリ・アン!』
 乃梨子の登場により、鬨の声が更に大きくなる。
「聞け、栄光なる我がリリアンの戦友たちよ!
長らく続いたガチャSとの戦いも遂にここまで我々はやってきた。
昨晩は創作をタップリ楽しんだか?」
『妄想なんてもう飽き飽きです。本物の話を読ませてください。』
 神妙に頷く乃梨子。
「知っての通り、今日は最新刊の発売日である。(地方により差有り)
諸君の中には既に新刊を手にいれた者…一刻も早くネタばらししたい者もいるだろう…
隠忍自重の精神こそが――己のSSを、リリアンの高峰まで、高めてくれるのだ。
諸君、ここまで共に戦ってくれたことを感謝する。この一読が終わればリリアンに平和がもたらされるだろう。
諸君、夢忘るるなかれ。散華したSSが見守っていること。
そして――諸君!!
諸君らは単なる生徒ではない!諸君ひとりひとりが―――
“絶対リリアン”の薔薇様なのだ!!」

『絶対リリアン!絶対リリアン!』

 乙女達の意気が極限まで高められる。そして、乃梨子は薔薇ミルフィーユに手をかける。

「突撃ぃ!!」

今、戦い(読者)が始まる。


【139】 作者取材のため  (くま一号 2005-07-02 03:02:23)


(ねえねえ、ねえ、瞳子ちゃん)
(何ですか、祐巳さま。作者取材のためって。)
(逃げるわよ。)
(やっぱり。読み終わったんですね。)
(そうよ。)
(で、なんでわたくしもついていくんですの?)
(わたしたちは一味の仲間よ。)
(だーかーらー。)

(そうそう、これを書いておかないと、あとで意味不明になるわ。)
(はい。今、2005年7月2日、もうすぐ午前3時。薔薇のミルフィーユ発売日の夜です。)
(そしてNo.132をネタにした自虐ギャグ)
(あくまでNo.132の続きとは言わないんですね。)
(だから、取材旅行よ。)
(つづ…くのかなあ?)


【140】 いつでもカメラ目線アクシデント  (素晴 2005-07-02 03:02:54)


「あれ? 志摩子さん、どうしたの? さっきから窓の外を見て……」
「いいえ、ただ小鳥たちが可愛くさえずっているなぁ、って思っただけよ」
だが、祐巳が外に向けた目には、一匹の小鳥も映ることはなかった。

そういえば、この間も……
お祈りを終えた志摩子さんが、マリア様の像をじっと、いやその視線はもっと
遠くに注がれていた。
「志摩子さん、マリア様の向こうになにかあるの?」
「いえ、ちょっと、ちょうちょがね……」
しかしやはり祐巳の目には青々とした茂みが映るばかり。
思い返せば、幾度となくそういうことはあった。これは……。
やがて祐巳は一つの結論に達したのだった。

「志摩子さん、実は視える人?」
志摩子さんは少しの間怪訝な顔をしていたが、すぐにああ、とうなずいた。
「見える、というわけではないのだけれどね、なんとなくわかってしまうのよ。
 どうしてかしら?」
ああ、やっぱり志摩子さんはそうなのね。それにしても、そんな力があるのなら、
怖い目にもずいぶんあったに違いないのに。祐巳は自分の推測が正しかったことを
確認しながらも、そうやって淡々と話す志摩子さんの微笑みが少し怖かった。


【141】 お泊り会赤ちゃん入札  (春霞 2005-07-02 10:43:48)


「うわー、可愛い」
「ごきげんよう、みなさま。」
 由乃さんの挨拶抜きの第一声に、怯む事無く冷静に返す乃梨子。
 一同うち揃ってのお出迎えに、軽く会釈をする。

「ど、ど、ど、ど、どうしたの。これ。乃梨子ちゃんが生んだの?」
おいおい、そんな訳有るかい。と言う内心の速攻突っ込みはおくびにも出さず…。
「祐巳さん、"コレ"は無いんじゃない。"コレ"は。」
「祐巳ったら。また、顔が賑やかに成っているわよ。もう少し落ち着きなさい。」
「あ、はい。お姉さま。」
おくびにも出さず、切り返し…。

「あら、そう言えば、なんとなく乃梨子に似ているような。」
「だよね、だよね。似てるよね〜。」
いやだから。

「と、言う事は、白薔薇のつぼみにはすでに、そういう関係の相手がいると?」(スクーーープ)
「うーん。いい構図だ。」 バシャバシャ。
だから、お願い。しゃべらせて。

「ほらほら」 パンパン。手を打ち鳴らして みなの注目を集めると、事態の収拾を図る黄薔薇さま。
「みんな玄関で、何時までもワイワイやらないの。 乃梨子ちゃん、立たせっ放しじゃ辛いでしょう。」
乃梨子の肩から、さっと、道具の入ったスポーツバックを取り去る。 かなり重かったはずなのに、小揺るぎもせずにすたすた奥へ歩いていく。 それに釣られて、他の面々も一、二歩下がり、ようやく上りかまちに足を置くスペースが出来る。
さすが黄薔薇さま。由乃さまが絡んでいないときには、クールだ。
「続きは、奥でね。」 と、捨て台詞なのか、本気の予告なのかをかけて由乃さまが歩き出すと、全員が移動をはじめる。

「はい、乃梨子。 どうぞ」
一人残った志摩子さんが、まるでどこぞの旅館の女将のように、するりと膝を着いてスリッパを用意してくれる。
既に、パーティは始まって居たらしく、淡い色合いの浴衣のうなじや、簪一本でゆるく纏め上げた髪からは、仄かに石鹸の匂いがする。

「有難う。」 御礼を言って、スリッパを使い、振り向いたときにはもう乃梨子のスニーカは始末されていた。
「あ、有難う。」 もう一度御礼を言う。
「いいのよ。 そんなに大きなものを胸元に抱えていると、屈むのも大変でしょう。あいては生きているから、気を使うでしょうし。」
「それでも、志摩子さんが気遣ってくれるのが嬉しくて。」
「まあ。」

「おーい、そこの二人。ラブラブするのも良いけど、寒いでしょー。早くきなさいよー。」
黄薔薇さまに連れて行かれたはずの由乃さまが、廊下の角からひょっこり顔を出して呼んでいる。 その下でひょこひょこ揺れている影は、祐巳さまの髪だろう。
    『由乃さん。 お行儀悪いよ』
    『なによ。玄関は寒いんだから、突然乃梨子ちゃんが倒れた時のために、レスキュー要員が待機しているべきなのよ』
     『由乃さ〜ん』
と、言ったところかな。 定番のやり取りが、容易に想像できる辺り熟年カップルと言え無くも無い。

「行きましょう、乃梨子。 由乃さんが暴走し始めたら大変。」
志摩子さんが、するりと手を繋いで、すたすた歩き出す。 もちろん異論は無いが、なんとなく心の準備をする時間が欲しかったと、思わないでもなかった。 たぶん、何がしかの騒ぎは起こるのだろうと言う予感があったから。

「くぷぷ。」 それまでの喧騒の中、ずっと静かだったのに、胸元から初めて寝言らしきものが漏れた。
「おまえにも予感があるの?」と、呟きながら。 それにしてもよく寝る赤ん坊だ。大物だな。と頭の片隅で思う乃梨子だった。

                    ・
                    ・
                    ・

いや、予感は有ったんだけど、まさかこんな騒ぎになるとは。
祐巳さま、もっと自分の影響力を自覚して、不用意な発言は避けて下さいよ。 はあ。

「可愛いな〜。私も赤ちゃん欲しいな。」
この一言から全ては始まった。
「え、祐巳さん。だれか意中の人がいるの? 祐麒君はダメよ。私のだから。」
「由乃おおおお。」 号泣。
「え、居ない居ない。相手が祥子様なら別だけど。 でも、祐麒だなんて。何所が良いの?」
「女同士じゃ無理でしょう。祐巳も可笑しなことを言わないの。」 顔が真赤です。
「祐麒君は良いよ。 何より祐巳さんにそっくりな所が良いわね。」
「由乃おおおおおお。」 由乃さまに足で邪険にされて、嬉しそうにも見え…。

ここで、あんな事を言うんじゃなかった。
山百合会合宿。パジャマパーティ。お泊り会。 呼び方はいろいろ有るが、結局みな何時になくハイテンションなのは同じ。
私も、外面はクールに保っていたが、内心はかなり茹だっていたらしい。 …だって、志摩子さんが あんなことやこんなことや、ああ、そんな事までっ、 するんだもの。
「同性間で子供を作る事は、不可能では有りませんよ。 男性同士ではかなり難しいですが。女性同士の場合はもう少し楽です。 お互いに卵子を持っていますから。 ただ、4倍体になるので、生まれてくる子供は100%女の子になってしまいますが。」
酔っていたんです。お酒こそ飲んでいなかったけど。雰囲気に酔っていたんです。そういう事にして置いてください。

その瞬間、なにやら空気が張り詰めた。
いままで私を玩んでいた志摩子さんの両手が、片手になり。触れていないほうの手を頬に添えてなにやら考え込んでいる。
他の面々も、さして変わらない。 祐巳さまだけは相変わらずで。
「ふーん。そうなんだ。科学の進歩?ってすごいね。」などとのたもうて、赤ん坊をぷにぷにしているけど。
なにやら、座敷の中が突然、食事時のサバンナにでもなったような。

「麺食のラーメン券 20枚。」 と、おもむろに切り出したのは志摩子さん。
「紅茶セット 5箱。」 切り替えしたのは祥子さま。
「フルーツゼリー詰め合わせ 12箱」 と、由乃さま。

いったい何が。
「あら、乃梨子は参加しないのね。 祐巳さんと子供を作る権利の入札。」
耳元でささやく、志摩子さんの目が怖い。
「私は、志摩子さん一筋だから。」
「そう、それなら良いわ。 所で、あなたのマタニティ姿は可愛いでしょうね。」
必殺、天使の微笑のせいなのか、自分のお腹の中に志摩子さんの子供がいることを想像してしまったせいなのか。 意識がとんだ。

気絶して正解だったらしい。

あの後、祐巳さまは興奮した一同に、イロイロと、そう、色々とされて大変だったとか。
わたし? いや、私も大分志摩子さんにされたらしいけど。(妊娠してなくって良かった。ほっ)


【142】 感謝状ツンデレ研究所  (西武 2005-07-02 12:21:34)


「はい、乃梨子ちゃん」
「何ですか、これは?」
「わたくしたちの気持ちですわ」
「乃梨子ちゃんのTJT講座がためになったから。ほら、瞳子もこんなに素直に」
「そうですわ」
いや、勝手に略すなって。かなり怪しいし。
「ほら、こんなことまでしちゃったり」「あぁ、祐巳さま」
な、なにぃ。
「ほらほら」「はぁ」
違う!それはツンデレの正しい楽しみ方じゃありません!
「それで、感謝状を用意したんだ」
「途中なんてひどいです。…乃梨子さん、ありがとうございましたわ」
いや、瞳子、目を覚ませ。お前はそんなキャラじゃない、こともない気もするけどとにかく目を覚ますんだ、瞳子ー。

「はっ」
「どうしたの、乃梨子」
ゆ、夢………だ。
「乃梨子?」
「し、志摩子さんーーー」
「乃梨子は、瞳子ちゃんのことがほんとうに好きなのね」


【143】 笙子がいつでもカメラ目線  (素晴 2005-07-02 14:14:28)


「うーん、最近不調なのかしら」
隣の蔦子さまは、カメラのレンズを磨いていたクロスで、自分のめがねのレンズも
磨きながらぼやいた。
「このところ、笙子ちゃんのいい写真が、なかなか撮れないのよね。
 この間の相互撮影会の時も、笙子ちゃんに関しては他の部員に惨敗だったし」

相互撮影会。写真部内でのちょっとしたお遊び。
校内を歩き回って互いに他の部員を撮影し、得点を競うのだ。
写真技術も一応点数には加味されるのだけれど、それはほとんど誤差の範囲。
重要なのは、相手の自然な表情を写すこと。
だから、後姿は得点が低いし、表情が良くわかるほど高得点となる。
写真につけられた点数を撮影者ごとに合計した「撮影ポイント」、
被写体ごとに合計した「獲物ポイント」で集計し、撮影ポイントの最低点2人、
獲物ポイントの最高点2人が備品の買出しの際の荷物運びなどの雑務に
駆り出されることになる。それぞれ2人なのは両者が重なることも多いため。

しかし、ここに相互撮影会ならではのルール、「カメラ目線は0点」があるのだ。
まだまだ駆け出しの笙子だから撮影ポイントは多くを望めないが、獲物ポイントは
このルールによって、全部員で3番目に低い得点に抑えたのだった。ちなみに、
2番目が蔦子さまで1位が部長。特に部長は「カメラ目線は0点」ルールなしでも
断然の1位だったという。その隠形の術は透明人間なみだという話もあるから
さもありなん。

「すみません、私がついカメラを意識してしまうせいで」
「いいのよ、単に私の隠れ方が下手なだけだし、それに笙子ちゃんこのごろ
 カメラを意識してるときでも大分いい表情するようになってきてるじゃない。
 そっちのほうが、私はうれしい」
「そんな、―――」
だから、笙子は言えなかった。笙子が意識してしまうのはカメラではなくて、
蔦子さまなのだということを。

―――それとも、気付いているのかしら?


【144】 祐巳の天然系  (黒うさ 2005-07-02 15:17:25)


放課後、久し振りに薔薇の館に来た瞳子。
「あらら。まだどなたも来られていませんのね。
 仕方ありませんわね。掃除でもして待ちますか」

祐巳さまの事を考えながらお掃除をしていると、つい、こんな鼻歌が出てしまう。

♪天然系〜 天然系〜 キネンシス
 天然系〜 天然系〜 キネンシス
 そんな百面相〜 し〜なくても〜
 天然系〜 天然系〜 キネンシス

「瞳子ちゃん、楽しそうだねぇ」
振り向くと、そこには祐巳さまが。
「ゆ、ゆ、祐巳さまぁああ!」


【145】 ペット生活  (犬好きな匿名 2005-07-02 22:18:08)


『お座りなさい、祐巳』
扉の向こう側から祥子の声が聞こえてきた
今日は結構はやくHRが終わったから一番のりだと思っていたのに・・・・
『いいコね あなたは・・・・少しブラシを掛けた方がいいみたいね』
・・・・祥子ったら今日は随分祐巳ちゃんを甘やかしているみたいだ
ここは姉妹水入らずだし邪魔しちゃ悪いかな・・・・
とりあえず外にでも・・・
「入らないの?令ちゃん」
「よ、由乃」
「何慌ててるの?」
「いや、中で祥子達がなんかいい雰囲気だから邪魔しちゃ悪いかと思って・・・」
「祐巳さんたちが?」
由乃はそういうと扉にぴったりと耳をつけた
まったく由乃はしょうがないな
『新しいリボンを貰ったの。これは似合うかしら?・・・・これはちょっとイマイチね やっぱりいつものがいいわ』
「令ちゃん・・・なんか今日の祥子様、雰囲気が違うね?物凄く甘い、昨日令ちゃんが作ったケーキより」
「そうだね」
由乃につられて思わず声のトーンが下がってしまう
そろそろ志摩子たちも来るだろうからいい加減盗み聞きはやめないといけないのだけど・・・
『それじゃあそろそろ散歩をしようかしら・・・首輪をつけないと・・・』
散歩?首輪?
「令ちゃん」
由乃の目が祥子を止めようと訴えていた
このまま二人がアブノーマルな世界に行ってしまうのを友人として止めなくては・・・
「開けるよ、由乃」
意を決してドアノブに手を掛け由乃を見ると由乃は大きく頷いた

「祥子!ちょっと祐巳ちゃんに何をしようとしてるの」
部屋に勢い良く乱入する
「どうしたの?令 そんな血相を変えて」
「どうしたもこうしたも祐巳ちゃんに何をしようと・・・・あれ?祐巳ちゃんは」
祥子の傍に祐巳ちゃんの姿どころか、部屋のどこにも彼女はいない
「祐巳ならまだ来てないわよ」
「でもさっきまで祐巳ちゃんの名前呼んでたし・・・」
そう聞くと祥子は笑いを堪えながら四角いものを見せた・・・・アレって
「あっ、もしかしてアレですか?○inten○ogs」
「えぇ、そうよ」
「だから散歩で首輪なわけか」
由乃は一人ウンウン頷いているが私にはなんの事だかさっぱりわからない
「もしかして私が祐巳に首輪をして散歩に連れ出すとでも思ったのかしら?」
祥子は私達が乱入した理由を確認して少し睨んだ
「でも祐巳さんの名前をつけるのはどうかと・・・」
「そうかしら?でも好きな人の名前を付けるとその分愛情が増すわよ・・・令はまだわかっていないみたいね」
祥子がそう言うから思わず頷く
「二人にも紹介するわ」
そういいながら祥子は立ち上がると四角いものを私達に見せた
それにはディスプレイが二つあり、そのうちのひとつの画面の中に白くて小さなチワワがリボンと首につけて尻尾を振っていた

「瞳子ちゃん、瞳子ちゃん」
祐巳さまが嬉しそうに手招きをする
こんな顔をしている時、この方はやたらとしつこく絡んでくる
無視を決め込む訳にもいかず、仕方なく祐巳さまに近づいた
「良いもの見せてあげる」
そう言って鞄の中から取り出したのは最近祥子お姉さまがはまっている四角いゲーム機だった
「ジャーン」
自慢げに見せた画面には、犬が一匹寝転がっている
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
垂れた耳が実に愛らしい
「名前を呼ぶとこっちに来るんだよ」
そう言って祐巳さまは画面に向かって名前を呼ぶ
「トウコ、トウコ」
「何で私の名前を付けてるんですか」
「トウコは良い子だね」
無視して画面の犬の頭を撫でている
「お手、トウコは本当に賢いね」
画面の犬が頭を撫でられて気持ちよさそうに目を瞑っている
ふと祐巳さまをみるとじっと私の顔を見ている
「瞳子ちゃん、お手」
「あっ」
反射的に祐巳さまの出す手の平に手を乗せてしまう
「い、今のはなしですわ〜」


【146】 あなたの知らない三姉妹おむすびころりん  (春霞 2005-07-03 01:52:13)


◆◆◆ 注意 ◆◆◆ このSSは読みようによっては、微妙にネタばれを含みます。気を付けてね。 (山百合会からのお願いでした)


ある日、お爺さんとお婆さんは連れ立って、山へ柴刈りに行きました。

「何故私がおばあさん…。」  なにやらお婆さんは気になる事があるようです。 顔色がさえません。
「何か言って? お婆さんや。」  にっこり。
お爺さんとはとても思えないような、美しく白々とした微笑です。
(何故か、世界の闇が少し深くなったような気がするのは、きっとナレータの気のせいですよね。うん。)
「ナレータさんも何か?」  にっこり。 (いいいい、いえっ。何でも有りません。 どうぞお続け下さい。)
「よいお天気だこと。 今の時期なら、きっと美味しい独活の芽やタラの芽も採れるわね。 そう思わなくて? お婆さんや。」  さらに にっこり。 ああ、まぶしすぎます。
「そうですね。」  どうやら深く考えるのを止めたお婆さんが、そのクールな表情を緩めます。
「ですが、当初の目的も忘れないようにしないと。 柴を刈って帰らないと、今夜は紅茶が入れられません。」
「そうね。では、先ずはたくさん柴を刈りましょう。」
                     ・
                     ・
                     ・
そうして、ひと抱えもある柴の束が、三つ四つと出来る頃には、お天道様はすっかり真上に来ていました。
「お爺さん。 そろそろお昼にしませんか?」  いそいそと取り出す籐編みのランチボックス。 何人分入っているのか、かなり大きい。
「まあ、今日のおかずは何かしら。 うふふふふ。」 
「えっとね。」 おもむろに片手を突っ込み、ぐいと引っ張り出すお婆さん。

「え?」
「え?」
どりる? そんなものを食べる気だったんですか? お二方。 …お腹壊しますよ。
ぽとり。 精神的な衝撃のせいか、ドリルを取り落とすお婆さん。 折悪しく、斜面は随分と急で、ドリルはコロコロころころ転がってゆきます。
「あ、あ、待って。」  お婆さんは随分と慌てて真剣に追いかけます。 お爺さんは、なんだか楽しそうに後を追います。 ちゃんとランチボックスを持っていく辺り侮れません。 そうこうする内に。 すってんころりん。
「うわっ。」  なんとドリルは人の頭の大きさほどの穴に、すってんてんと転がり込んでしまいました。 中を覗き込んで見ますが、奥が深いのか、真っ暗でよく見えません。
「ああ、ドリルが。」  お婆さんは諦められないのか、なおも穴を覗き込んでいます。 と、その時。

すってんころりん、すってんてん。ドリル転がり すってんてん ♪

なにやら楽しげな歌が聞こえてきます。
「まあ。」
「これは。」
歌詞は素朴ですが、伸びやかで艶やかな声に二人は聞き惚れてしまいます。

「もっと歌って下さいまし。」 ランチボックスから取り出したものを、お爺さんは楽しそうに穴に転がします。

すってんころりん、すってんてん。 なべだ鍋だよすってんてん。 狸汁だよすってんてん。 ♪

「あの、あんまり転がすと、私たちのお昼がなくなっちゃうよ。 お爺さん。」
「まあ、それは残念ね。もう少し聞きたいわ。」
って、それよりお二方。 そんなに身を乗り出していると自分達が、転がり…。  言わんこっちゃ無いですね。 あ〜あ。二人仲良く落ちて行っちゃった。  うん、ここはナレータも付き合うしかないか。 ダンジョンみたいで、楽しそうだし。 えい。
(さっきは 先に転がり落ちかけたお爺さんが、お婆さんの手をつかんで巻き込んでいたように見えたなあ。 でも、きっと気のせいだよね。)
                        ・
                        ・
                        ・
お二人が穴の一番奥まで転がり落ちると、なんと、そこでは黒鼠さんたちが土木工事をしてらっしゃいました。
「コレは一体?」  呆然としている二人に、責任者らしい黒鼠が声をかけます。
「ごきげんよう。 差し入れを有難う。 ちょうど秋の大祭に向けてホールの増設工事を始めた所だったのだけれど。 ごらんの通り、人手も、道具も足りなくって困っていたのよ。」  さっと現場を指し示す。
そこでは落としたドリルが有効に活用されていた。
「狸汁も美味しく頂いたわよ。」  え、頂いちゃったんですか。うわ〜.
「さあ、お礼の宴をひらきましょう。」
リーダさんが良くとおるお声で、そう宣言すると、そこかしこから わらわらと子分鼠が集まって盛大な宴会が始まりました。   メインイベントはリーダさんの独唱でしたが、これが皆の胸を打つ素晴らしいもので、やんややんやの大喝采。 時間はあっという間に過ぎていきました。

「さて、そろそろ帰りませんと。 山の日暮れは早いですから。」  冷静なお婆さんの一言でお開きです。 そして恒例のお土産選びです。
「大きな葛篭と小さな葛篭と、どっちが良いかしら。」  リーダ鼠さんが悪戯っぽく問い掛けます。
大きなほうは人の背丈ほどもあり、背負子まで完備しています。 小さいほうは両手に乗るくらいの手文庫サイズです。
「では、お約束どおり。 小さいものを頂いてゆきます。」  クールに決めるお婆さんにメガネをかけた子分鼠がお土産を手渡してくれます。
「クオリティは保証するわ。 なんたってエース入魂の一品よ。」
何の事か良くわかりませんが、二人は家路に着きました。
なお、家に帰って葛篭を開けると、入っていたのは『エース入魂の萌え萌え光画10枚組 × 2セット』だったそうです。 二人は夫々にとって大事な一枚を残して あとは好事家に売ってしまい、巨大な資産を形成したそうです。

                      ◆

さてさて、その話を聞きつけた 隣の欲張り爺さん。
いびつなおにぎりを一生懸命つくり、穴にころころ転がして、巧い事黒鼠の宴に入り込みます。
「ここからが本番よ。」  イケイケな欲張り爺さんが、おもむろに三つ編みをほどくと髪の間から ピンっと立ち上がったふさふさの耳! くわっと開いた眼の虹彩は縦に裂けている!
「にゅーおぅ。」  く、く、く、鼠なんてひと鳴きで雲散霧消ね。 あとはお宝を独り占め。
って、内心の声を口に出してますよ。 おじいさん。
「いいの。勝利は目前。雌伏のときは過ぎたのよ。」  さらに好調そうな欲張り爺さん。 だけど?

「ふ、猫ごときに怯む黒鼠一族では有りません。 みなさん。 やっておしまいっ!!」
『おおー』
一斉に襲い掛かる黒鼠子分たち。 迎え撃つ爺さんの手には、いつのまにか二刀が。
「悪・即・斬」 しゅきーん。
「フラッシュバックアターック。」 ばしゅばしゅ。
「ペンは剣より強し攻撃。」 しゅしゅしゅ。

「ほら、ナレータ。 あなたも手伝うのよ。」  え、え、良いんですか。 ダンジョンズあんどドラゴンズっぽくて、参加したいのは山々なんですけど。
ナレーションのお仕事は?
「なに、ごちゃごちゃいってるの。 私と仕事とどっちが大事なの?」  えーとそれじゃあ。 参戦 (ルン

  【【【【【 ナレータが職場放棄をしたため、現在映像・音声ともに入りません。 暫らくこのままのチャンネルでお待ちください。 】】】】】

……。えー。お待たせしました。ナレータ復帰です。
ただ今歴史的な握手が行われております。 猫と鼠。 決して相容れないはずの両者が、いまお互いを認め熱い握手で称え合っております。
「おお、なんと言う労りと友愛の心じゃ。 Ωが心を開いておるぅぅ。」  て、貴女どなたですか? いきなり何所から出てくるんですか。これ以上作者を混乱させたらダメです。 ぐいぐい。
「ああん。折角面白センサーに引っ掛ったのに。 曾祖母ちゃんを邪険にしちゃダメよぅ。」  いやもう。お願いですからこれ以上混乱させないで下さい。 ぐいぐいぐい。
「仕方ないわねえ。 曾孫に免じて今回だけよ。」  おお、やっと退場してくれた。

さて、現場に目を戻しましょう。
いつのまにか、さらに意気投合した模様です。 肩を組んで蛮歌を放吟しています。

これにて 山百合会的おむすびころりん。 一巻の御終いです。
どっとはらい。


【147】 笑う怪人百面相  (素晴 2005-07-03 15:35:58)


「ハハハハハハ、私だよ、怪盗ロッサ・フェティダ、私が怪人百面相だ」
「……って祐巳さまなんの練習ですかそれは。自分で自分を笑いものにしてどうするのです?それにこれは『怪盗』紅薔薇シリーズ(【No:126】の続き)であって、怪人ではありませんことよ」
「違うよ瞳子ちゃん、笑いものになるんじゃなくて、笑いをとるの。それにがちゃがちゃで出たお題なんだから、細かいことをごちゃごちゃいわないの」
「う"ー。それでも今の笑い方には注文をつけさせていただきますわ」
「笑い方?そんなに変だった?」
「ええ。同じ笑うのでも、状況によっていろいろあるのですわ。たとえば――そうですわね、声を出さずに笑う場合でも、白薔薇さまが微笑むのと、黄薔薇のつぼみがニヤリとするのと、祐巳さまがへらへら笑うのとでは全然違いますよね」
「うわぁ、傷つくなぁその言い方。でも確かにわかるような気もする。志摩子さんがニヤリと笑った日には身の危険を感じるもの」
「まあそういうことです。そして声を出して笑う場合でも同じなのです。いいえ、台詞にある分、表現は簡単なのですわ」
「こうやって会話だけで進めていく場合は特にそうだね」
「ええ。でも先ほどの祐巳さまの台詞には感情表現が足りないのです」
「感情表現?」
「はい。祐巳さまには実際に体験していただいたほうが早いかも知れませんね。――えいっ」
「ちょ、ちょっと瞳子ちゃ――ヘ、はは、ふひゃひゃひゃ、あひゃひゃほへ、や、やめ、はひょふひゃ、やめ瞳、はは、――ふぅ。突然くすぐるなんてひどいよ、瞳子ちゃん。祐巳、泣いちゃうからぁ」
「祐巳さまこそ突然キャラ変わらないでください。それより、判っていただけまして?それが、感情がこもっているというのです」
「そうなの?じゃあ―――
 ヘ、はは、ふひゃひゃひゃ、あひゃひゃほへ、私だよ、怪盗ロッサ・フェティダ」
「ああもう、台詞部分をコピ&ペーストしてしかも平坦に読まないでくださいっ。私が言いたいのは、台詞が最初にあるのではなくて、まずくすぐったいという感情があって、その感情の発露として台詞があるのだということですわ」
「それならそうと初めから言ってくれればいいのに(ぷちぷち)」
「そこで最初に戻りますが、悪役笑いというのはあくまでも気障でなければならないのです。相手がどんなにがんばっても自分には敵わないのだという絶対の自信をもって笑い飛ばすのです。何の裏付けもない、薄っぺらな自信ではいけないのですわ」
「おーほっほっほ。あなたではミーには敵わないザンス」
「ぺらっぺらじゃありませんかっ」
「フォッフォッフォ……」
「そうそう……ってバルタン星人?!」
「あれ?瞳子ちゃんもバルタンさんとお友達なの?」
「も、って……? とにかくそれも違いますっ!」
「ねーねー、お手本見せてよ」
「仕方ありませんわね。それでは(すぅ)
 ハハハハハハ、ウワッハッハッハッハ。私だよ、怪盗ロッサ・フェティダ、
 ――いかがです?最初の『ハハハハハハ』はもう少しさわやかに、柏木の優お兄さまのように笑ってもいいと思います。後半はもっと豪快に笑ったほうがよいのですが、私もまだまだですわ」
「そんなことないよ、瞳子ちゃんはすごいよ。あ、でも」
「なんですの?」
「市立体育館に着いたよ」



「つづく」
「結局ストーリーをまったく進めないままですのね」
「うん、今は何を書いてもネタバレになるかもって思っちゃうから」
「でも新刊では祐巳さまがバルタン星人とお友達に」
「うわぁそれ言っちゃだめ」


【148】 エクセレントの三賢者  (joker 2005-07-03 20:10:37)


 私は賢者蓉子。三賢者(通称Magi)のうちの一人、赤の賢者(マギ・キネンシス)…のはずなんだけど……。
「ご注文は何にいたしますか?」
「私はコーヒーとサンドイッチのセットを。」
「俺はキャベツ・キム・カツ・カムを一つ。」
「かしこまりました。ご注文を確認いたします。コーヒーとサンドイッチセットを一つ、キャベツ・キム・カツ・カムを一つ。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「あ、追加でウォッカも。」
「かしこまりました。それでは、少々お待ち下さい。」

 今、私は料理店でウェイトレスという名のメイドをやっている。(詳しくはNo.127)
 メイドというだけあって、給仕だけでなく、店の掃除やしこみの手伝いなど、とても忙しい。だが、店に来る客は、軍人が多いが、皆、紳士的で礼儀正しく、セクハラなどは一切起きていない。例外を除いて。
「ごっきげんよう、蓉子。仕事してる?」
 その例外がちょうどやって来た。
「いやぁ、さすがにいいねぇ。蓉子のメイド姿。何度見ても飽きない。」
「…お客様、ご注文はいかがいたしますか?」
 ところが聖は、何も言わず、じっと私を見続ける。
「な、何よ。」
「私は、蓉子が欲しい。」
 一瞬、店の空気がこわばる。
「…お客様。冷やかしならお引き取り下さい。」
 そう言って私は聖の耳をひっ掴み、そのまま店の外に出そうとする。
「イタタタッ!ごめん!蓉子。もうしないから。ホント!」
 聖の懇願に一応許してやった。
「じゃあ、私はマスタードタラモサンドのセットね。」
「…かしこまりました。少々お待ち下さい。」
 注文をとって聖から離れようとする。この時、私は完全に油断していた。さっき怒ったばかりだったので、もうしないだろうと思っていた。
「そーれ、スカートめくり〜。」

 さて、ここで博識。下着というものは、まだこの時代に出来ておらず、したがって……

一気に重くなる店内の空気。
スカートを押さえて座り込む蓉子。
その状況に何かを察した客達が逃げ始める。聖も逃げようとするが、足を掴まれてしまう。
「よ、蓉子?」
「何で……」
蓉子の顔がゆっくりと上がる。
「何で、こんな事ばかりするの?私をそんなに困らせたい?」
蓉子が目に涙をうかべ、聖に問う。いつのまにか、手も離されている。
「ねぇ、聖。どうなの?」
「うわー、ごめんなさ〜い。」
涙上目で迫られた聖は一目散に逃げ出した。

 聖は意外と押しに弱かった。


【149】 逆襲の逆襲いつでもカメラ目線  (西武 2005-07-03 21:09:43)


「毎度どうも、蔦子さんに笙子ちゃん。どうかしたかしら?蔦子さん」
「いや、なんでもないわよ」
「何度もいってるけど、無闇に記事にしたりはいないわよ。蔦子さんくらいには信じてほしいんだけど。それとも妹の笙子ちゃんに聞こうかしら」
「いえ、私まだ妹じゃ」
「あら、大変ね。いつでも日出実が話をきくわよ」
「そこまでいうなら。白薔薇姉妹の写真なのよ。ほら、みんなカメラ目線でしょ」
「ふむふむ、なるほど」
「いろいろ策も講じてみたのよ。超望遠とか数人がかりで同時とかね」
「私が乃梨子さんに話しかけて隙を作ろうともしてみたんです」
「某雷鳥なみのプロテクトね…」
「もう、誰か自然な写真をとれる人がいたら教えを請いたい気分だわ、是非」
「…例えば、こんな写真?」
「って、何でこんなあっさり。どうやったのよ、一体」
「いや、自然な笑顔ってお願いしただけだけど」


「…やらせかよ」
「だって、かわら版用に撮っただけだし」


【150】 桜舞う  (春霞 2005-07-03 23:01:53)


◆◆◆ 注意 ◆◆◆ このSSは微妙にネタばれを含みます。気を付けてね。 (山百合会からのお願いでした)



桜舞う、爛漫の春に、私はあの人と出会いました。
驟雨の中、梅雨の終わりに、私はあの貴女(ひと)に気がつきました。

                       ◆

ガチャリ。
扉を開いた乃梨子は、室内に真美一人しか居ない事に戸惑った。
「ごきげんよう。白薔薇のつぼみ。 本日はご足労いただき感謝します。」
真美は編集机の向かいの椅子を示すと、傍らのコーヒーサーバから大きなマグカップにだぶだぶと注ぎすとんと置く。
「あ、あの」
尋ねあぐねている乃梨子の姿を誤解したのか、真美は苦笑して続けた。
「ああ、この椅子?  随分立派でしょう。  私のお姉さまが編集長をしていた時期にね  『編集長は偉いのよ。 だから偉い椅子に座って仕事をするの』とか言い出してね。 で、部費を散財して豪華なやつを1つだけ買ったのよ。 でもね、一人だけちがう椅子なのが居心地悪かったのかしらね。 すぐに使わなくなっちゃって、今は応接椅子と化しているの。
だから遠慮なく使って頂戴。」
「では。」
真美は、ちょこんと座った乃梨子に嬉しそうに微笑みかけた。
「どう? 良い座り心地でしょう。 多分このインタビューは長くなるでしょうから、リラックスしてね。 足を組んでも構わないわ。 ここにはシスターも見回りにこないし。 コーヒもねたっぷり作っておいたから、好きなように飲んで。 自分の部屋の積もりでくつろいでちょうだい。」
乃梨子は、出されたマグカップに口をつけて、小首をかしげた。 ブラックだが少し薄めに作ってあってそのままでもいける。  コーヒをを確認すると、今度はぐるりと部室を見回して、問いかけた。
「何故、お一人なのですか?」 机の上を確認する。
「レコーダのたぐいも無いようですし。」 祐巳さまから聞いていたのとは随分とちがう。
「ああ、その事。」 真美の顔が微笑とも苦笑ともつかないものに変わる。
「今回、乃梨子さんはインタビューに応じてくれたけど、多分記事にはさせてくれないでしょう?  内容が内容だし、関与する人間は少ないほうがいいと思ったのよ。」
「私は構いません。 ただ、この件を記事にする場合、白薔薇さまの許可を取って頂きたいとは思いますが。」
「うーん。そう来るだろうと思っていたのよ。 だから記事に出来ない方向で対応しているんだけどね。 何か普通に白薔薇さまの許可を取ろうと言うだけでも、蔦子さんと祐巳さんの強力な援護が要るし。 ましてこの件ではね。」

「…黒の御方、ですか?」 部屋に入って初めて乃梨子が微笑んだ。 裏の無い、本当に愛しい人の面影への笑みだった。
「今すぐには無理でしょうが、卒業するまでには許可も下りると思いますよ。」
「そう。そこなのよ。  気付いている私たちにとっては、あの黒い人は恐怖そのものよ。 私でさえ、報道の自由を守る。この気持ちがなければ対抗できないし。 あの蔦子さんでさえ一目も二目も置いている。 各部、各委員会の7割方はもう掌握されてしまった。 祐巳さんは天然だから気が付いては居ないけど。 そんな状況でも乃梨子さん、あなたは白薔薇さまを思い出すときに微笑みが浮かぶ。 その辺りをね、全部聞かせて欲しいの。」
「はい。」 乃梨子は切なそうに笑った。

                       ◆

桜舞う、爛漫の春に、私はあの人と出会いました。
驟雨の中、梅雨の終わりに、私はあの貴女(ひと)に気がつきました。

初めて出会ったとき、その人をマリア様だと思いました。
でも、笑って泣いて。慌てたりぼんやりしたり。 ああ、この人はこんなに奇麗だけど人間なんだ。嬉しいなー、と。 そう思って傍にいました。
実はとても臆病で、実はとても欲張りなところが愛しくて、ロザリオを受け取りました。

「臆病? でも最近の志摩子さんを見ていると、大胆とは言え、とても臆病とは…」

ええ、周りから見るとそうかも知れません。
私は知りませんが、もしかすると幼少期に何か切っ掛けが有るのかも知れません。
ご実家はああですし、お父さまもお兄さまも随分と個性的なようですし。 色即是空をご家庭でも実践してらっしゃるのなら、幼い時分には色々有った事でしょう。

「それは幼少期のトラウマ、と言う事?」

わかりません。 ただ、志摩子さんは随分と欲張りです。 それなのに、欲しい物を手に入れる事を拒否していました。

「それは、信心深いからではないの? 禁欲的というか。」

いいえ。
ご存知の通り、私の趣味は、この世代の少女のものとしてはちょっと変わっています。 今まで全国の多くの有名な仏を鑑賞して巡りました。 その折には、真に信仰の発露として各地を巡礼されている方達とも交流しました。

志摩子さんは、そういう人たちとは違います。

真美様は、ちっちゃな子供の頃。 空に浮かぶあの月が欲しいと駄々をこねて、親を困らせた事は有りませんか?

「え? …月はないけど。タンカーをねだったことは有ったらしいわ。 いまだに親戚中からからかわれるもの。」

ふふ。随分可愛いかったのでしょうね。皆さん覚えているなんて。  私も月をねだった事は有りませんが、様々な物を欲しい欲しいといって泣いた記憶はあります。 子供ってそう言うものでしょう? そうしている内に、やがて自分の欲望と折り合いを付ける術を覚えていくんです。  欲しいけど、絶対にって訳じゃないから我慢しよう、とか。

これは、推測でしか有りませんが。
仏教では欲望、即ち貪欲は三毒に数えられるほど。 志摩子さんが幼い頃ならば、お父上も若かったでしょうし、若しかすると、幼い志摩子さんの可愛いおねだりを、頭ごなしに厳しく叱責したかもしれません。

少なくとも、志摩子さんの中では。  欲望=罪悪 の図式が確固として存在していました。
折り合いを付ける前の段階で、欲しいと思う事=悪い子だ=悪い子は嫌われる という、強迫観念が出来てしまったら?

志摩子さんのマリア様に対する信仰の強さは、そのまま人間としての欲望のすり替えだったんです。
怒る事、泣く事、喜ぶ事。 その多くは、突き詰めれば何かに対する執着、欲望が根底にあります。 それら全てに箍をはめる為に、志摩子さんは欲という欲をすべてマリア様に向けたんだと思います。

「さっきから過去形を使っているのね。 すると今は、手に入れる事を躊躇しないのかしら。」

はい。
切っ掛けは、祐巳さまでした。
噂に疎く、天然の祐巳さまは、当時既に近寄りがたい雰囲気だった志摩子さんと、ほよほよした、普通の女学生の友情を築いて下さいました。
切っ掛けは、由乃さまでした。
直裁に、友を思って真正面から切り込んでくる率直さは、当時既に遠巻きにされがちだった志摩子さんには、とても貴重なものだったでしょう。
そして、わたし。
唯の普通の少女としての志摩子さんを見つめる私、です。

「つまり、マリア様に預ける事のできない欲望に気が付いた、と?」

私、ロザリオを受け取るときに、志摩子さんに言ってしまいました。
                 『手放したくない物を、捨てる必要は無い』 と。

「ええと、それは。 欲しいものは手に入れていいんだよ、と言う事かしら。」

イコールとでは有りませんが。 イコールと曲解する事も出来ますね。
初めにも申し上げましたが、志摩子さんは臆病で、そして欲が深い。 さらに、自分の欲望を御した事が無い。
出来上がるのは何でしょう。 強欲で無邪気で、その分残忍な、無垢な子供です。

「なるほど。  それが黒い人、というわけ。」

はい。 あの人はこの学園を宝石箱のように大切に思っています。 祐巳さまや、由乃さま。 蔦子さまや、もちろん真美さまも。 綺羅綺羅しい宝石のように愛しく思っている人たちが詰まった宝石箱。  なのに、もしその愛しい人から嫌われたら と恐れ、

「ならばいっそ、覇権を握り、宝石箱そのものを完全に自分のものとして支配してしまえ、と。」

それが、黒い御方の真の姿です。

「そう。 これで一番聞きたかった、黒い人の正体は聞けた訳だけれども。
 では最後に一つだけ。  …あなたは、この先どうするの?」

昔は、仏師に成りたいと言ってた時期もありました。 でも、仏師というのは、技術だけではダメなんです。 一刀、一刀に仏への尊崇を込めて彫るからこそ、魂の宿る仏像になるんです。
私は無神論者だから。 無理ですね。
ああ、でも。志摩子さんへの愛を込めて塑像を彫ると言うのは出来るかもしれません。  彫刻家になるというのも選択肢ですね。

「そういう意味では無かったのだけれど、言いたくない事まで聞こうとは思わないから。  今日はどうもありがとう。」

                       ◆

「どういたしまして。」 乃梨子は、何か吹っ切れたような、さわやかな笑顔で立ち上がった。
「もうお腹がタポタポです。 コーヒ飲み過ぎました。」
「ご免なさいね。長々と。 では、ごきげんよう」
「はい。 ごきげんよう」 乃梨子は扉のほうに一歩踏み出して、首をかしげた。

「そう言えば」 振り返って真美の目を見つめる。
「なぜ、このインタビューを受けようと思ったか。 お話していませんでした。」
「そう言えば、聞いていなかったわね。 どうして?」

「そのままで居て欲しいからです。」
「え?」
「真美さまと、蔦子さまにはそのままで居て欲しいからです。  私は…。

 私は、志摩子さんの完全なる味方である事を選びました。 それは、あの人を攻撃してはいけないと言う事を意味します。
まだ幼い心の黒の御方が誤解するような事は出来ないのです。 幼い心が壊れてしまうから。
いさめる事は出来るでしょう。 掣肘することも出来るでしょう。 でも決定的に対立する事は、もう出来ないんです。
人は何かとぶつかったり、転んだり、汚れたりしながら成長します。
私は、支えたり、引き起こしたり、寄り添ったりする事は出来ますが、もう真実ぶつかる事は出来ません。
…将来はわかりませんが。

だからです。
志摩子さんは、あなた方のことが好きです。 対立している、或いは意のままにならない貴女方を愛しているんです。 それは希望です。
幼いあの人の心が成長する重要なファクターです。
だからこそ全てをお話しました。
全てわかった上で、それでも。
これからも、これまで同様、決然としてあの黒い御方の前に屹立して欲しいから。」

 …言いたい事を全て言い終えた満足感だろうか、頬を上気させて去っていく乃梨子さん。

                       ◆

「あなた方、だって。」 ふと、何所からとも無く蔦子が現れた。
「やっぱり気付かれていたなあ。 珍しく目線の来て無い写真を撮らせてくれたのは、報酬の前渡しのつもりかな?
 白の絶対防衛圏は、臆病さゆえ。 あの子の場合は、多分雛を守る母鳥の緊張感ゆえ、か。」
「それにしても、これは瓦版には出来ないわね。 あまりにプライベートすぎて。」
「でも、書きたいんじゃないの?」
「そりゃあそうよ。 こんなに素晴らしい素材。 是非とも紙の上に活字で残したいものよ。」
「乃梨子ちゃんの言葉を信ずれば、そう遠く無いうちに、きっと書ける時期がくるのでしょう。
 そうしたら、志摩子さん本人の分。乃梨子ちゃんの分。私の分。真美さんの分。 それと他何部か。 極少数に配ればいいじゃない。
 私の写真とはまた別の意味で、きっと、少女という時代の 良い思い出として残るわ。」
「詩人ね。 どうしたの?蔦子さん。 笙子ちゃんと言うものが有りながら、乃梨子ちゃんに浮気?」
「そっちこそ。 日出美ちゃんには内緒にするんでしょ?」
「まあね。 うちの日出美は まだ練れてないから。 こういうのはちょっと早いかな。」


「なんかハイテンションですねえ、私たち。」
「うん。柄にも無く我を忘れてるかな。」
「乃梨子ちゃんが可愛いからいけないんですけどね。」
「同感。」

「帰りましょうか。」
「そうしましょう。現像は明日、気持ちを落ち着けてからにする。」


では、ごきげんよう。
   …そうして、誰も居なくなった。


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