がちゃS・ぷち

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No.2398
作者:杏鴉
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2007-10-24 16:13:18
萌えた:2
笑った:5
感動だ:0

『この方は何者?』

『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズその2

これは『ひぐらしのなく頃に 綿流し編』とのクロスオーバーとなっております。
本家ひぐらしのような惨劇は起こりません。しかし無駄にネタバレしております。
そしてある人物の設定が、かなりおかしなことになっています。
諸々ご注意くださいませ。

【No:2386】【No:2394】→これ。






お昼休みに薔薇の館へ行くと、志摩子さんが一人で流しに立っていた。

「ごきげんよう」
「ごきげんよう祐巳さん」

お弁当を置いて志摩子さんの隣りに行った。志摩子さんもさっき来たところらしく、今からお湯を沸かすそうだ。
二人でお茶の支度をしながら話すのは、やっぱり昨日のイベントのこと。

「志摩子さんったら、全然勝負してないんだもんなぁ」
「うふふ。ごめんなさい。うちはああいったオモチャはほとんどない家だったから、つい楽しくてはしゃいでしまったの」
「あ、そうだったんだ」

普通にしてても綺麗な志摩子さんが魚釣りゲームにはしゃいでたりしたら、そりゃあ男の子は舞い上がっちゃうよね。
……まぁ、男の子じゃなくても舞い上がる人はいるだろうけどね。乃梨子ちゃんとか。

「そういえば、乃梨子ちゃんに指紋あげたの?」
「まだよ。今日の放課後に約束しているの」
「……軽い冗談のつもりで聞いたんだけど、ホントに欲しがってるんだね。乃梨子ちゃん」

また少し乃梨子ちゃんを遠くに感じた。

「乃梨子はちょっと変わった物を集めるのが好きなの」
「変わった物って?」
「私の古くなった衣類とか、私が使ったストローとかよ」
「……」

遥か遠い存在になってしまった乃梨子ちゃんと私の心の距離は、すでに天体望遠鏡レベルになってしまっている。
聞くんじゃなかった……。

「工作にでも使うのかしらね?」

茶葉を選びながらおっとりと言う志摩子さんに、私は真実を告げるべきか否か悩んだ。
けっきょく私は、以前に先代薔薇さまがおっしゃっていた『他藩のことに口は出さない』という言葉を曲解して「ソウカモシレナイネ」と日和っておいた。
――あれ?これって、いつ言われたんだっけ?

「――た方が飲みやすいかしらね?」
「えっ?」

ぼんやりしていて志摩子さんの話を聞いていなかった。
慌てる私に志摩子さんは気を悪くした風でもなく、ふわりと微笑んでくれた。

「もうずいぶん暑いからアイスティーにした方が飲みやすいかしら?」
「あ、うん。そうだね。もう真夏並みの気温だもんね」

さっきから私の手は止まったままで、志摩子さん一人にお茶の用意をさせている。
いかんいかん。こんなんじゃあ、またお姉さまにお叱りを受けちゃうよ。
さぁ、気を取り直してお茶の準備だー!
と意気込んではみたけれど、とっくに沸いていたお湯はすでに志摩子さんの手によりティーポットに注がれていて、ゆらゆらと茶葉を舞わせていた。
うぅ……。ごめんね志摩子さん。せめてグラスの用意はするからね。

――ガチャ。

「ごきげんよう」
「ごきげんようお姉さま!」

今日初めて会うお姉さまは、いつもと変わらずお美しかった。





「祐巳ちゃん。ちょっといい?」
「なに?お母さん」
「あのね。お母さんちょっと頭が痛いから、悪いんだけど夕飯はお父さんと一緒に外で食べてきてくれる?」
「えっ?大丈夫なの?病院に行った方がいいんじゃない?」
「そんなに大したことはないのよ。寝ていれば治るわ。ただ食事の支度をするのはちょっとね……」
「でもそれじゃ、お母さんのご飯は?」
「私一人なら何とでもなるから」
「――分かった。あ、祐麒はどうするの?」

祐麒は小林君のお家に遊びに行っているらしく、私が帰ってきた時はすでにいなかった。そしてまだ帰ってきていない。

「あぁ、祐麒ならさっき電話があって、夕飯は小林君のお宅でいただいてくるそうだから、お父さんと二人で行ってらっしゃい」
「そっか。じゃあ、お土産買ってくるからゆっくり寝ていてね」
「祐巳ちゃん。行くぞー」
「はーい」

お父さんの手に車のカギがあるのを見て、ちょっと驚いた。
てっきり近所のお店に行くんだと思っていたのに。

「ねぇ、お父さん。どこのお店に行くの?」
「お父さんのオススメのお店だ。さぁ、早く行こうっ!」
「う、うん……」

なんだか妙に張り切っているお父さんに急かされ、私は車に乗り込んだ。
ほんの少し引っかかるものがあったけど、車内に冷房が効いてくる頃にはどんなお店に連れて行ってくれるのかというワクワク感しかなかった。
お父さんに連れて行かれたそのお店の看板には『ファミリーレストラン・エンジェルモート』と書かれていた。




私は、ただただ無言でハンバーグを噛みしめていた。
――うん。味は普通だ。もの凄く美味しいということもなければ、不味くもない。いたって普通のファミレスの味だと思う。
それはいい。それはいいんだけど……。

「どうだい祐巳ちゃん?この店、なかなかいいだろう?」
「……普通の味だと思うよ」
「味なんてどうでもいいんだよっ!周りを見てごらん祐巳ちゃんっ!」

私はわざとハンバーグのみに注いでいた視線を、ぎこちなく店内に向けた。
そこには謎の衣装を身にまとった、これまた謎のお姉さんたちがウロウロしていた。
いや、本当はお姉さんたちは謎の存在じゃない。彼女たちはこのお店のウェイトレスさんだ。じゃあ、なんであんな言い方をしたかというと……、
ここはファミレスで、お姉さんたちはみんな同じ服装で、そしてお客さんのいるテーブルで注文を聞いたり配膳をしたりしている。
――これ程完璧なウェイトレスっぷりを見ても、そう思えないのだ。
なぜなら……

「いいだろう〜。あの制服ぅ☆」
「テメェの血は何色だぁああぁっ!!」

――バゴーーーンっ!!

「ふべらっ!?な、何をするんだ祐巳ちゃん!親父にもぶたれたことないのにーっ!」
「私は娘だーーっ!!」

そう。お姉さんがウェイトレスさんに見えない理由。それは彼女たちが身にまとっている制服のせいだった。
アレはいったい何て言えばいいんだろう……。バニーガールにミニスカートをはかせたあげく、ゴスロリ服の切れ端を装着した感じ?
胸元や太ももがこれでもかというほど露出しまくっていて、さらには身体のラインが非常に分かりやすいデザインになっている。
露出の割合ならバニーガールの方が上だ。でも私はバニーガールの方がまだいいと思う。だって一目見てバニーガールだって分かるから。
このお店の制服は、きっとどれだけ見ようとも何なのか分からないままだと思う。
何も分からない私でも、たった一つだけ言えることがある。アレはけしてウェイトレスさんの制服ではない。
制服というか……、服であると認めてしまってもいいのかすら迷ってしまう。

「いいかい祐巳ちゃん。何もお父さんは邪な気持ちでこの店に来ているんじゃないんだよ!
お父さんの仕事は設計だ。でもこの厳しい世の中、ありきたりの設計をしているだけではダメなんだよ!これからは家の設計だってアーティスティックにいかないと!
その為には、あの制服から受けるインプレッションが必要不可欠なんだよぉおおぉっ!」
「お父さん。早く食べないと冷めちゃうよ」
「あ、うん……」

目の前の人と血が繋がっているという事実に押し潰されそうだ。
せめて顔以外は、何ひとつ似ていないことを信じて生きていくしかない。
祐麒。あんたが将来こんな大人にならないように、お姉ちゃんは祈っておくよ。
――ん?

「ちょっとお父さん。こういうお店に来るなら私じゃなくて、息子の祐麒を連れてくればいいじゃない」
「あぁ、祐麒は前に一度連れてきたんだが、その時に『父さんとはもう二度と外食しない』って怒りだしてなぁ。どうしてかなぁ?」
「祐麒……」

何があってもお姉ちゃん、祐麒のことだけは信じるよ。

「ちょっとお父さんはトイレに行ってくるよ」
「いってらっしゃい……どこへでも」
「デザートを食べたらもう帰らないといけないから、ゆっくり観賞しておくんだよ〜〜」

手に持った水のグラスが妙な音を立てたような気がしたが……、きっと気のせいだろう。
店の奥へと歩いていく父の背中を突き刺すような視線で見送った後、私はふと冷静になった。

今、私はボックス席にひとりきり。
急に恥ずかしくなってきた。
違うんです。私がここにいるのは私の意思じゃないんです。……そう叫べたら楽になれるのだろうか。
ファンタジスタな制服を着たウェイトレスさんが行ったり来たりしている中、私はうつむきながらデザートが来るのを待った。

デザートのケーキもセットの内だったから、そろそろ持ってきてくれるはずだけど、……遅いなぁ。
そわそわしながら特に意味もなくメニューを眺めていると、誰かが傍に立つ気配がした。
お父さんかと思って顔を上げた途端に、ドキドキ衣装が目に入ってきて慌てて視線を逸らした。

そのウェイトレスさんはデザートを持ってきてくれたみたいなのに、なかなかテーブルに置こうとしない。
どうしたんだろうと思いながらも、まともに見れないのでチラチラと横目で窺うと、おぼんを持つ手が震えていた。新人さんなのかな?

「あ、あの……」
「ほら、『大変お待たせいたしました』って。――じゃあ、頑張ってね」

震えているお姉さんの後ろから、先輩らしいウェイトレスさんが助言して去っていった。
どうもかなりの新人さんみたいだ。ひょっとしたら今日が初日なのかもしれない。

「た、大変お待たせいたしました。……デザートでございます」

新人ウェイトレスさんの緊張が伝染してしまった私は無言でコクコクとうなずいた後、お水を飲んだり調味料を見たりして落ち着きなく視線をウロウロさせていた。
うつむきがちの視界に、ケーキを置く震える手が入ってきた。
綺麗な手だった。白くて、スラリと長くて。祥子さまの手に似ている気がした。
ひょっとすると、この人もピアノを弾くのかもしれない。
それにさっき聞いた声。もの凄くうわずっていたけれど、普通にしゃべったらきっと素敵な声だと思う。……それこそ祥子さまみたいな。
……って、私ってばいつもお姉さまのこと考えてるなぁ。これじゃあ、乃梨子ちゃんのこと言えないや。
苦笑した私は、ふとこの新人ウェイトレスさんの顔を見たいという衝動に駆られた。

「どうぞ、ごゆっくり……」

かるく頭を下げたウェイトレスさんと、顔を上げた私の視線がバッチリ合った。
至近距離で固まっているウェイトレスさんは、それはそれはお綺麗な人で。まるでお姉さまのような……いや、むしろお姉さまそのもので……って、あれ?……お姉さま?

「……お姉さまですよね?」
「ゆ、祐巳……っ!どうしてあなたがこんな所にいるの」

やっぱりこの人はお姉さまだ。なんでお姉さまがこんな所でこんな格好を……?
混乱する思考とは裏腹に、私の視線はまっすぐ下がっていき、剥きだしになっている細い肩ときわどい胸元にロックされた。
憧れることすらおこがましく思える、白くきめ細やかな肌。朝の光を浴びた新雪のようなその肌が、見る見るうちに朱に染まっていく。
……ふわぁ。綺麗だなぁ。

「そっ……そんなにジッと見ないでちょうだい……っ!」
「あっ!すいません……」

祥子さまは恥ずかしそうに両手でおぼんを抱きしめて、胸元を隠してしまった。
頬を染めてもじもじしてるお姉さまなんて初めて見た。……はぅ。可愛すぎるっ!
こ、これはもしやマリア様からの贈り物っ!?……そうだよ。きっとそうに違いないっ!では遠慮なくいただきますよマリア様っ!!

「はぅ〜!お〜持ちかえりぃ〜〜☆」
「ダ、ダメよっ!結納を済ませてからでないとっ!」

――ハッ!

わ、私は何を口走っていたんだ!?
危なかった……。お姉さまのアクロバティックな返しがなかったら、私も乃梨子ちゃんと同じ世界の住人になるところだった。
落ち着け!落ち着くのよ私っ!
冷静にっ!冷静に……考えてみれば、ここの制服を着てデザートを持ってきてくれたということは、このお店でアルバイトをしているってことだよね……?
でもリリアンはアルバイト禁止だし……、そもそもお姉さまはアルバイトなんてする必要ないはずじゃあ……。

――ハッ!

ま、まさか小笠原家が破産したとか……!?
そんなまさか。天下の小笠原グループがそんなことになるはずが……。いや、でも今の世の中は一流企業といえど安心できないっていうし……。
じゃあ、お姉さまがこんなファンタジスタな制服を着て働いているのは、生活費を稼ぐ為……?
うっ……うわぁあぁっ!頑張れお姉さまぁあぁあぁ!!

「……どうしてあなたは涙目になっているの?」
「誰にも!誰にも言いませんからっ!!」
「え?えぇ。まぁ、そうしてくれた方がいいのだけれど……」

――ハッ!

私ったら何を他人事みたいに……っ!

「あのね。ちょっと落ち着いて話を聞いてもらえる?」

お姉さまと私は姉妹と書いて、スール!
スールといえば、血よりも濃ゆい絆で結ばれた乙女なりっ!

「あの……。私の話を――」

姉のピンチも救えずに何が妹かっ!?不肖ながらこの福沢、お姉さまの為ならファンタジスタの一つや二つ!!

「お姉さまっ!私もこのお店で働きますっ!」
「はっ?どうしてそんな話になるの……?」
「お姉さま。何もおっしゃらずとも結構です。わけなんて聞かなくても、私はいつだってお姉さまの味方ですからっ!」
「……あの、……違うの」
「この間も言いましたけど、私はお姉さまの為なら、たとえ火の中水の中ですからっ!」
「だから違うの!」
「……違うって、何がですか?」
「私、あなたのお姉さまじゃないの!」
「――へ?何を言っているんですかお姉さま?」
「だ、だから、私は祥子じゃないの……」
「えっと……?」

よく分からないことを言われ、私は口を開けっぱなしで首を傾げた。
対する祥子さまは、困ったような恥ずかしそうな様子でおろおろしている。……可愛いなぁ。
――おっと、いけない。また乃梨子ちゃんに歩み寄るところだった。今は祥子さまの発言の真意を聞かないと。

「あの、祥子さまじゃないってどういうことですか?」
「私はその……小笠原祥子じゃないのよ」
「でも、祥子さまにしか見えないですよ?」
「私、祥子の双子の妹なんですっ」
「へっ!?」

無茶言いますね、お姉さま。私はどうリアクションをとればいいのでしょう……?

「さっき、私のこと『祐巳』って呼んだじゃないですか。それに初対面とは思えない反応でしたよ?」
「そ、それは……姉さんがそう呼んでいたから、つい。それに姉さんがいつもあなたのことを話してくれるから、知り合いみたいな気分になってしまって……」
「お姉さまは一人っ子だと聞いていましたが……?」
「それはその……私は隠し子だから、世間には公表していないの」
「なんで隠す必要があるんですか?」
「……私が愛人の子だからよ」
「――っ!?」

小笠原家の男の人は外に何人も愛人がいるって聞いてはいたけれど、まさか子供までいたなんてっ!
……ん?あれ?……おかしい。おかしいよ、この話。

「さっき祥子さまと双子だっておっしゃってませんでしたっけ?」

双子なんだから、当然同じ両親から生まれているはずだ。
百歩譲って双子だというのを聞かなかったこと≠ノしても、この話はおかしい。
外に何人も愛人がいると噂の小父さまなら、そういうこともあるかもしれないと(失礼ながら)納得もできる。
でも祥子さまは、清子小母さまと間違いなく親子だと分かるくらいそっくりだった。
だから今、目の前にいる祥子さま風≠フ女性が隠し子だった場合でも、清子小母さまがお母さんなはず。
ということは、浮気したのは清子小母さまということになってしまう。

――それは無理がありすぎますよ、お姉さま。

あまりにも支離滅裂な言い訳に、自分自身が絶望したような顔で祥子さまは黙り込んでしまった。
しょんぼりしている祥子さまの姿を見ているうちに、私の中でじわじわと罪悪感が芽生えてきた。

私ったら、何でお姉さまを追いつめるようなこと言っちゃったんだろう……。
お姉さまがどういう理由でこのお店にいるのかは分からないけれど、たぶん私に見られたのが恥ずかしかったから、とっさにあんな言い訳をしちゃったんだろう。
それなのに、無神経に突っ込んで……。
うぅ……。ごめんなさいお姉さま。

どうしていいのか分からずに、私はそっと祥子さまを見上げた。
すると祥子さまは迷子になった幼い子供のように私をじぃっと見つめていた。
困ったような、心細いようなその姿からは信じてほしい≠ニいう思いが痛々しいくらい伝わってくる。

――どうすればいいのかなんて、分かりきってるじゃない。

「すいません。私、お姉さ――祥子さまと勘違いしてしまって、失礼なことを……」
「い、いえ。分かっていただければ、それでいいんです……」

祥子さまは心底ほっとした顔で、ほんの少しだけど微笑んでくれた。
その姿と表情にドキドキしてしまった私は、照れ隠しに「えへへ」と笑った。

「実は、今日が……いえ、祐巳さんが初めてのお客さまなんです。だから少し緊張してしまって……」
「そうだったんですか」

なんて受け応えをしながら、私は内心自分でもよく分からない、ざわざわした気持ちを持て余していた。
祥子さまの見慣れぬ姿を見てしまったからだろうか。それとも『祐巳さん』と呼ばれたのが新鮮だったからなのだろうか。
ただそれは不快な気持ちではなかった。

「あの、お姉さ――じゃなくて、えっと……」

何て呼びかけたらいいんだろう?
まさか祥子さまの妹さん≠ニ言うわけにもいかないし……。

「――カナコ」
「え?」
「私の名前。カナコっていうんです」

さっきはおかしな設定を口走っていた祥子さまだけど、落ち着いてさえいれば頭の回転の速いお方だから名前くらいさらっと出てくるようだ。
何を話せばいいのか分からないけど、このまま一緒にいたいような気もして考えをめぐらせていると、さっきの先輩ウェイトレスさんがこちらに手を振っているのが目に入った。

「細川さ〜ん、R入っちゃっていいですよ〜!」

先輩ウェイトレスさんは明らかに祥子さ――じゃなくて、カナコさんに言っているようなのだけど……、カナコさんはノーリアクションだった。
細川=c…?小笠原≠カゃなくて?
不思議に思った私がカナコさんの名札を見てみると、そこには細川という文字が書かれていた。
分からないことだらけだけど、とりあえずこの方は小笠原カナコさん≠カゃなくて細川カナコさん≠轤オい。

「細川さ〜ん!」
「あの、お呼びのようですよ?」
「え?……あっ。すぐ行きます」

やっぱりノーリアクションだったので教えてあげると、カナコさんは慌てて返事をした。
その慌てぶりはまるで、
――今の自分が、細川カナコだったことを思い出した。
私の目にはそんな風に映った。

「それじゃあ、私はこれで……」
「あ、はい。……あの、大変だと思いますけど、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。……祐巳さんと話せて楽しかったです」

別れ際に、はにかんだような笑顔を向けられて一気にのぼせてしまった。
うぅ……。その顔は反則ですよ、お姉さま――じゃなかった、カナコさん。

ケーキでも食べて心を落ち着かせよう。
私がケーキ(二皿目)を食べていると、肩をポンと叩かれた。

「祐巳ちゃん。それはお父さんのケーキじゃあ……?」
「おかえりなさい、お父さん。遅いから食べちゃった」
「……そろそろ帰ろうか」
「うん」

会計をする時、ナチュラルにポイントカードを出したお父さんの横顔に少しイラっとした。
――かなりポイントが溜まっている。間違いなく常連だ。
帰ったらお母さんに報告しよう。

「さっきのウェイトレスさんは祐巳ちゃんの知り合いかい?」
「見てたんだ……」

ずいぶん長いトイレだと思ったら、物陰から見ていたのか。まぁ、さっきの状況を考えると結果的にはありがたかったけどね。

「学校の子?」
「……先輩の妹さん。リリアンじゃないと思うよ。学校で会ったことないから」
「そうか。まぁ、リリアンだったらアルバイトはできないもんなぁ」

お父さんは私の適当な話をあっさり信じてくれた。
まぁ、こっそりアルバイトをやってみたかったとしても、このお店を選ぶリリアン生はまずいないだろう。
……こうやって考えてみると、あれは本当に祥子さまの妹さんのカナコさんだったんじゃないかという気になってくる。
もちろん、そんなことはありえないと分かってはいるけれど。

明日、祥子さまにあったら何て言おう?
『お姉さま。昨日お姉さまの妹さんにお会いしましたよ』――こんな感じかな?
でも、やっぱり何も言わないでいよう。きっと祥子さまもその方がいいだろう。

私は、祥子さまと二人だけの秘密ができたことに胸を躍らせていた。


絶対誰にも言わない。これはお姉さまと――いや違う。
細川カナコさん≠ニ私だけの秘密なのだから。







(コメント)
杏鴉 >というわけで、注意書きにあったある人物≠ニは可南子ちゃんの事でした。……まだ本人出てませんけど。(No.15856 2007-10-24 16:26:17)
篠原 >そういえばコミック版の祥子さまは可南子そっくりだとか(笑)(No.15858 2007-10-27 05:43:24)
杏鴉 >髪形のせいですかねぇ?私はコミック版を見ると、祥子さまの分け目にばかり注目してしまいます(笑)(No.15863 2007-10-29 00:35:31)
C.TOE >乃梨子ちゃん・・・そんなに遠くへ・・・もうすぐ光学望遠鏡では見えなくなってしまう・・・たしかに燃えてるのは光学式で見えるけど萌えてるのは見えませんからね。・・・サーモグラフィー?(No.15864 2007-10-29 00:43:51)
杏鴉 >そうですね。萌えてるのは見えませんよね(笑)←うっすらツボでした。 まぁ、志摩子さんがからんでいる時以外は目視できますから、大丈夫(?)じゃないでしょうか……きっと……いや、たぶん。(No.15866 2007-10-29 06:45:50)
杏鴉 >さりげなく修正。(No.18595 2010-05-22 16:33:38)

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