がちゃS・ぷち

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No.3755
作者:ケテル
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2013-08-21 21:12:34
萌えた:2
笑った:6
感動だ:7

『獲物を射るような目で』

【No:3726】【No:3730】【No:3744】【No:3755】

CONTENTS - 4



 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 


S・ リリアン学園艦、山百合会第二執務室


「なんだか…子供が描いた戦車の絵のような戦車ね」
「でも、列記としたイギリスの戦車です。 フランスの戦車は…戦車道ではイマイチと判断しました」

 単純な長方形の箱の上にそれより小さめな長方形の砲塔を載せ、前方に砲をセットする……A15クルセーダー巡航戦車を造った同じ会社の設計とは思えないほど単純な構成のクロムウェル。
 お姉さまには、まだクルセーダーとかカヴェナンターの方がうけは良いだろうと私も思ったけど、まあ、クルセーダーも微妙といえば微妙なんだけど……、それよりエンジン周りに深刻な問題を抱えているクルセーダーなんか願い下げだし、訓練用戦車のカヴェナンターなんか論外でしょ?
 試験的にミーティアエンジンに換装したクルセーダーってのもあったらしく、それが80km/hで走ったって話しもあるけど、装甲の薄さはどうにもできない。
 …偵察用で使うのも面白そうだけど、……いやちょっと大きいかな。

「フランスの戦車ではダメなの?」
「イマイチです。 砲塔に車長と装填手の二人乗りで、車長が砲手を兼任しなければなりません。 指揮に専念できませんから、機動戦がメインの戦車道には向いてません」
「そう……? ……?」

 あ、わかってませんねお姉さま。 戦車道は授業の一環ですから中間テストも期末テストもありますよ。
 山百合会の面々には基本的な事を先行して教えなきゃとは思ってるけど、そんな時間はあるんだろうか?

「まあ、私達の中では一番詳しい祐巳ちゃんが選んだんだからいいけど、やっぱりこのヴィレル・ボカージュが気になっちゃうかな…」
「解ります。 でも読んで頂ければ分かると思いますが、世間で喧伝されているような事でもありませんし」
「なによ、ビレロ・ポタージュって?」

 お腹空いてるのかな由乃さん。

「”ヴィレル・ボカージュ”よ。 え〜とね……」

 休憩中だったイギリス軍を”ボカージュ”という、ノルマンディー独特の地形を巧みに使いつつ攻撃したティーガーT1両対イギリス軍第7機甲師団の戦い……ということになっている。
 ミハエル・ヴィットマン指揮のティーガーTに撃破されたのは、27両の戦闘車両。
 戦車12両(クロムウェル5両、スチュアート3両、シャーマン(ファイアフライ含)4両)、ハーフトラック10両、カーデン・ロイド・キャリア4両、スカウトカー1両。
 さんざん暴れまわったヴィットマンのティーガーは、クロムウェルと6ポンド対戦車砲が共同で撃破。 脱出したヴィットマンは、徒歩で7Km離れたドイツ軍陣地に帰還した。 その後報告を受けたドイツ軍が侵攻したものの、翌日にイギリス空軍が、ヴィレル・ボカージュ付近を爆撃してドイツ軍は撤退し決着を見た。

 連合軍のノルマンディー上陸以後、劣勢が続くドイツ軍は、士気を高めるための英雄が必要だと、ヴィットマンの戦果を単独で新型戦車30両以上撃破と誇大に発表した。
 ……のだが…。
 よく調べないでティーガー1両でヴィレル・ボカージュすべての戦いが終わったと思っている人も多いように思える。 日本人はどうにもドイツ戦車贔屓が多いらしいけど、イギリス軍第7機甲師団が、もし仮にティーガーTを装備していても結果は同じだったって説もあるんですよね〜。



 選択した戦車に関して聞かれたので、スペックなど必要項目をプリントアウトして説明してきたんだけど、発注する前に気にして欲しかったですね……今、私が考えているのは、砲の換装はどうしようかと言う事。
 ティーガーTの正面装甲を貫く方法は、あるんだけど……。







 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 ・ 〜 〜 




 S・二年生2号車Bチーム


『あいたた…スズちゃん大丈夫?』
『ヘッドホンしてても、結構くるわね〜…あれ? エンジン止まってる?』
「撃破判定が出ると、エンジン止まっちゃうみたいね、環さんどう?」
『スターター回らないわよ、たぶん格納庫にある解除キー差し込まないと動かないんじゃないかな』

 車体のカーボン殻コーティングとともに、戦車道用に装備されている判定機は、撃破判定を下すとともに通信機以外の全動力をカットしてしまう。 重たい戦車を回収する為に専用の戦車回収車があり、格納庫まで引っ張ってきてから解除コードの書き込まれているICカードを使って再起動させなければならない。

「じゃあ、脱出……は、まだ無理か。 周りの状況ってどうなってるんだろ? え?」
『ちょ?! 4号車が!』



 S・一年生4号車Dチーム


「2号車が行動不能……」

 今まで2台に分散していた1号車Aチームからの攻撃が、1台に集中してくる。 幸いな事に1号車の砲手はそれほど上手くないらしいが、ラッキーショットはあるからうかうかしていられない。
 可南子は何か打つ手はないかとペリスコープで外を確認しようとした時、砲手のレンゲの様子を見たアイが、さらに悪い状態を報告してきた。

『あれ…え〜とね、砲手レンゲちゃんHP切れのため行動不能〜』
「…はぁ?!」

 アイが、照準器の額当てパットに突っ伏していたレンゲの肩に手を掛けると、屍のように可南子の膝に頭を預けるレンゲ。 砲手の損失は、攻撃と指揮に重大な支障を抱え込む事を意味している。

「よくそんなんで戦車道を取ろうと思ったわね…」
『…レンゲ…よくもった方かな……。 あっ?! い、1号車がまた動き出したわ!』
「こんな時に…」



 S・二年生1号車Aチーム


「10時の方向へ前進、停車後砲撃でお願い」
『『『了解』』』

 滑らかに旋回して方向を修正した桂はクロムウェルを前進させる。 4号車の砲塔が動いていないのに祐巳は気がついた、もう10メートルも進めば射線から完全に外れるのに。

「何かトラブルなのかな? 今のうちに…」

 装填の指示を出す。 頬をなで髪を乱す走行風も気にせず4号車の動向を観察する。

『装填完了!』
「停車! は…はっしゃようい……」
『ちょっと何よ、その言い方』
「ははは……」

 発射用意に一瞬躊躇したが(「当るといいなぁ〜…」)と思いつつ……撃破できる…かもしれない機会があるのならその機会を逃す手は無い。
 桂は4号車を12時に見て11時の方向、所謂”昼飯の角度”に傾けて停車させた。 停車前から砲塔を動かして4号車を指向していた由乃は、取り合えず左右を慎重にあわせることにする。

『照準よし!』
「撃て!!」



 S・一年生4号車Dチーム


「アイさん、レンゲさんを通信手席へ運んで、砲手には私が着くわ! サクヤさん全速後退1号車と距離を取って」
『了解!』

 全方位ツッコミ対応幼馴染だが、ちょっと戦闘に消極的なサクヤは、逃げられるならと急いで後進にギアチェンジしてクラッチをつなぐ。

『……後ろ…2号車……』
『あ〜いたね』
『…こうか…は…ばつぐんだ〜…』
『って?! なにのよ?!』



  ドッカーーン!!
       ドガキッバチキーーン!!!



 S・二年生1号車Aチーム


 後進した4号車は、2号車に追突して停車した。 動かなければ左側の機銃通信手席の前に当っていただろう由乃が発射した砲弾は、右側の履帯に当り断ち切った、撃破したわけではないが4号車は身動きが取れない状態になった。

「うん、履帯に命中! 桂さん4号車にぶつけるつもりで全速前進!」
『了解! 行くよ〜!!』

 全速前進の指示に、桂はクロムウェルを一気に路外最大速度まで加速させる。

 今回のルールは『すべての戦車を動けなくする』というバトルロワイヤル、4号車は移動はできなくなっているが、戦線離脱の自己申告が無い限り砲撃によって撃破しなければならない。
 逆に、まだ砲塔は動かせるのだ、移動できなくなった戦車が、移動できる戦車を撃破することも十分可能ということになる。
 内部の状況はわからないが、迅速に行動してなるべく早く撃破する必要はあるのだ。

『距離……402m…なんか私、通信手ってより測量技師みたいなんだけど』
「今回はしかたないし、すごく助かってるから蔦子さん。 今、写真撮ってないよね? ちょっと私は恥ずかしいかな?」
『大丈夫よ、そのアングルは、もう撮ったから』
「え〜〜っ?!」

 パンツァージャケットは、まだデザインしている最中でまだ無い。 授業で使う体操服を着ているが、索敵のためキューポラから身を乗り出せるようプラットホームに立っている祐巳が、膝をもぞもぞさせる。 後で絶対検閲すると心に誓った祐巳は、この後どう動くか指示を出す。

「4号車の横へ着けて零距離射撃をします。 由乃さん砲は、まだ動かさないように12時に固定」
『え? りょ、了解』
「志摩子さん、次の射撃まで一分くらい間があるから、それまでに慌てないで装填して」
『了解!』
「桂さん、回避は指示するから、それまではこのまま直進して!」
『了解!』



 S・一年生4号車Dチーム


「うぅっ…さ、サクヤさん、アイさん、状況は?」
『み、右履帯が切断されちゃったわ、後ろの2号車に追突しちゃって身動き取れないわよ! あと、1号車が突っ込んで来てるわ』
『わたしは大丈夫だけど、レンゲちゃんは今の二重ショックで完全に沈黙』

 砲手席に移った可南子は、ペリスコープで1号車を確認した。

「アイさん戻って装填して! ……このままやられませんよ…」

 狭い車内で通信手席へレンゲを押し込んだアイは、途中で砲弾を抱えて戻り装填にかかる。 



 S・二年生1号車Aチーム


 4号車の砲塔が動き、砲口が濃いダークグレーから黒く変り再びダークグレーに変わる。

「(1、2…)桂さん右!」

 桂がスティックを操作して右へ回避運動させると同時に4号車が発砲した。



 S・一年生4号車Dチーム


「外れた?! 次装填!」
「はい」

 しっかり照準を合わせたはずだ、予想した進路上に合わせて発射したはずなのだ。
 なのに外れた。 可南子は、もう必中距離であるのにと首をかしげる。

「避けた? そんなバカな……」

 今した一連の手順を思い出してみる。 こちらが発射した瞬間に、いや、激発レバーを引いた瞬間に1号車は回避行動をしたように見えたのだが。

「……偶然よね…」
『装填完了!』

 改めて照準器を覗きこんだ可南子は息をのんだ。

「(…ゆ、祐巳さま…笑ってる?)」

 照準器を通してのまだ遠目にではあるが、祐巳が微笑んでいるように見えた。 まるで獲物を追い詰めるのを楽しんでいるようにも見える。

「(…くっ! 何で試合中にキューポラから身を乗り出して平気なのよ?!)」

 少し怖くなった可南子だが、震える手で慎重に照準を合わせ、激発レバーを引いた。


 S・二年生1号車Aチーム


「(1,2…) 左!!」

 キューポラに掛けていた手にグッと力を入れて、体が横に振られるのを抑える。 右側地面に着弾した衝撃で車体の後ろが少し振られる、速度を少し落として軽く進路修正して再度突き進む1号車。

『すごい……また避けた…』
「(おばあちゃんに教えてもらった事を試したんだけど、案外使えるかな? 複数台だと大変かもしれないけど……) あとおよそ200m、桂さん4号車の右側面5m以内に正面を着けて。 あ、ぶつかっても可よ」
『いや、ぶつけたくはないでしょ、修理大変だし』

 キューポラの前に設えられている直接照準器で凡その距離を見繕った祐巳の『ぶつけてもいい』発言に桂は苦笑いする。
 リリアンには、修理を任せられるような超絶技術を持っている部活動は存在しない、損傷や修正等は出来る限り自分達で修理調整をすることになる。
 成績にも関わるので、練習で動かすのでも手を抜く訳にはいかないが、必然的にどこか修理調整個所は発生してしまう。
 外部の業者に出すという手もあるが、試しに学園艦内の自動車修理工場に見積もりを出してもらったが、専門外の事で時間が掛かってしまう上、高く付いてしまうことが分かった。
 まあ、自分達で修理調整を行なえばその分の単位がもらえるのだが、今はマニュアルを首っ引きしながらの作業のため時間が掛かってしかたがない。
 無理がきく修理請負先はどうしたらいいのか……これも懸案事項である。

「そのくらいの気持ちで、やってもらいたいんだけど……」
『閉鎖よし、装填完了』
「由乃さん、正面を4号車に向けるから照準は微調整でお願い』
『了解』
『いっくわよ〜〜!!』

 4号車の正面へ向けて突撃していた1号車は左へ進路を急転換、急カーブを切るように4号車の右側面に接近………するはずだった。

『?! ごめん! ミスッた!!』
「え?!」

 急カーブを切った後、直進してブレーキするはずだったのだが、ブレーキを掛けるタイミングとスピードが早すぎ、車体後部がドリフトするように横滑りしてしまった。
 約27tのドリフトするにはいささか重過ぎる車体が盛大に砂埃を立てて滑り、2号車の真横にガツッと当って止まる、沈み込んでいたクリスティーサスペンションの長めのサスペンションアームが戻ると、間はわずか5cm程しかなかった。

『…………しょ、照準よし……う、撃っちゃって……いいの?』
「………うん……」

 この距離で外れたら”何とかの見えざる手”を本気で考えた方がいいだろうか? それとも誰かさんの呪いとか…、っと思った祐巳だったが、それは杞憂に終わった。





 S・一年生3号車Cチーム


『4号車Dチーム、行動不能!』

 3号車Cチームにその通信が入ったとき、演習エリア中央の橋付近の地形と道のチェックを継続していた。

「やっぱりAチームか…」
『順当なのではありませんか?』
「順当なんだけど、ずいぶん時間かかったなって思って」
『それだけBチームとDチームががんばってくれたんでしょ』
『は〜、でも負けたらタマちゃん先輩に何されるんだろ…』
『あ〜、タマちゃん先輩ね……』
『ぅぅ、タマちゃん先輩……』
「まあ、あの三白眼に睨まれるのはイヤよね〜美人さんなんだけど……。 ってか”タマちゃん先輩”で定着しちゃってるわね…」









 〜〜 戦車道の練習試合が行なわれている頃、学園長へのインタビューを終えた真美が学園長室から退室してきた。
 ”戦車道を始めるにあたって”と言う事で教員にインタビューして回って、最後に学園長の所へコメントを取ろうとやって来ていたのだ。

「…ふむ……これは…調べてみる必要があるわね……」








                      〜〜〜CONTENTS - 4 了 〜〜





(コメント)
ディンブラ >デザインだけならフランス戦車の方がいいよね。今更だけど紅茶はWW2当時ならともかく現代なら電気ポットとバッテリーがあればどの戦車でも問題ないのでは。(No.20884 2013-08-24 02:04:52)
ケテル >確かにデザインはいいと思います、車長が指揮に専念できないのは機動戦ではちょっと・・・。 スペースがあれば電気ポットとバッテリーもいいですが、お湯をぶちまける可能性がありますからね〜、歩兵戦車より高速で走る巡航戦車ですし。(No.20890 2013-08-28 12:05:11)
ケテル >今更ながら、授業中だったんだね……真美は何をやってるんだ?(No.20918 2013-09-19 19:18:30)
ケテル >Win8が使いにくすぎて泣きそうです。 XpPCからうまく移行できるかな?(No.20919 2013-09-19 22:31:58)

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