がちゃS・ぷち
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No.3751
作者:杏鴉
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2013-08-04 23:47:59
萌えた:3
笑った:1
感動だ:5
『サプライズに動揺を隠しきれない』
※百合的表現がございますので、苦手な方はご注意ください。
これは以前掲載したお話を別視点から描いたものです。
先にこちら↓をお読みいただかないと、理解しづらい迷惑な代物です。
『祐巳side』
【No:2557】→【No:2605】→【No:2616】→【No:2818】→【No:2947】→【No:2966】→【No:3130】→【No:3138】→【No:3149】→【No:3172】(了)
『祥子side』別名:濃い口Ver.
【No:3475】→【No:3483】→【No:3486】→【No:3540】→【No:3604】→【No:3657】→【No:3660】→【No:3722】→【No:3727】→これ。
「お姉さま、お風呂の準備ができましたよ」
最近の祐巳は穏やかな表情でいることが多い。
もともと私のように険のある顔なんてしない子だったけれど、以前はよく見られたくるくると変わる表情はすっかり鳴りをひそめていた。
サチコを――いや、私を不安にさせないよう、そうしてくれているのだろう。
優しい子だから。
けれど、にこにことこちらにやってきた祐巳は次の瞬間、久しぶりに百面相を披露してくれた。
原因はサチコのこの言葉。
「いっしょにはいりましょう」
私の顔でなんて恥知らずなことを言ってくれるのだサチコ。
「えぇっ!? いいい一緒にですか!?」
……祐巳も頬を染めておろおろするんじゃないの。
そんな可愛い顔をしたらサチコが付け上がるでしょう。
「ビシッと言っておやりなさい。一緒になんて入れるわけがないと」
困っている祐巳に届きはしないアドバイスを送る。
と、そこで気が付いた。
祐巳はサチコを私だと思っている。
つまり……、
祐巳がサチコの申し出を断る = 私と一緒にお風呂に入るのが嫌
ということになってしまう。
……なぜ私が落ち込まなければならないのだ。
また少しサチコへの怒りが増した。
外側では祐巳がまだおろおろしている。
「祐巳……。嫌ならはっきりと断ってくれて構わないのよ。私なら平気だから」
自分でもまったく平気そうには聞こえない声だったけれど、強がりくらいは言わせてほしかった。
誰にも聞かれることはない強がりだけど。
それに早く断ってほしい気持ちも本当にあった。
祐巳がはっきりしないと――
「……イヤなの?」
「いいえ! けして嫌というわけではないんです! でも、えぇとその……」
「だって、おフロおおきいから、ひとりだとたいへんなんだもの……」
やっぱり、そうくると思ったわサチコ。
腹の立つことにサチコは祐巳の性格をよく分かっている。
「祐巳。騙されてはダメよ」
さっきまでの百面相が嘘のように、祐巳は真面目な顔になっていた。
いけない。完全にサチコの言葉を真に受けている。
追い討ちをかけるようにサチコがぽつりとつぶやく。
「……ごめんなさい。ひとりではいってくる」
「いいえ。一緒に入らせてくださいお姉さま。今まで気が付かずにすみませんでした」
しゅんとした声を出して背を向けたサチコの頭上から、祐巳の謝罪が聞こえてきた。
後ろからサチコを抱きしめているのだろう。
無意識のうちに私の手が何かを探して動く。
……残念ながらここにハンカチはないようだ。
「ホントにいいの?」
「はい」
「……かみのけ、あらってくれる?」
「もちろんです」
「からだも?」
「お姉さまが嫌じゃなければ」
「ほかのひとだったらイヤだけど、ゆみならいいの」
「サァァチィィコォォォッ!!」
なんて恥ずかしいことを……って、祐巳!? あなたも照れ笑いとかするんじゃないの!
あぁ、もう! なんなのこのやり場のない気持ちはっ!
私がひとり苦悩している間に2人の話はまとまり、さぁお風呂へとなってしまった。
うん? ちょっと待って。
2人が一緒にお風呂に入るということは――
見ない見ない。
私は絶対に見ないわよ。
そんな卑怯なまね絶対にしないわ。
かごめかごめをしているみたいな格好で私は外の様子に背を向け目を塞いでいる。
身体を洗うくしゅくしゅという音や、反響のせいでいつもと少し違って聞こえる祐巳の声に耳をくすぐられながら。
何の拷問よ、これは……。
甘えた声で「くすぐったい」などとほざいているサチコに苛立ちがつのる。
祐巳の人のよさに付け込んで一緒に入ってもらっているだけのくせに。
おのれ……サチコ。
――いえ、ちょっと待って。
実際に今祐巳とお風呂に入っているのはサチコだけれど、祐巳は私と入っているつもりなのよね?
ということは……。
祐巳は私に見られても構わないと思ったから一緒にお風呂に入っているわけで……
つまり今私が祐巳のことを見つめたところで何も問題はない、ということになってしまわないかしら?
「……」
目を覆っていた両手が、すっと外れた。
あとはほんの少し振り返るだけで、振り返るだけで……
いえ、やっぱりダメよ祥子(自分)。
正直に言えば見たい。
それはもう見たくて見たくて仕方がない。
だって大好きな人なんだから。
でも大好きだからこそ、見てはいけないと思った。
私がこの牢獄から抜け出せる日がくるかどうかは分からない。
考えたくはないが、もしかすると一生このまま囚われの日々がつづくのかもしれない。
けれど、もしも元に戻れたとしたら。
姉としてまた祐巳の前に立つことができたとしたら。
私は彼女をまっすぐに見つめたい。
祐巳の澄んだ瞳から目を逸らすことなく、まっすぐに見つめたい。
だから私は今、祐巳を見てはいけないと思った。
私にとって長い長い時間が過ぎ、やっと2人は脱衣所に移動してくれた。
もうすぐこの苦行が終わる。
まぁ、私の鋼鉄の意志をもってすればこのくらいなんてことはない。
実際にはひしゃげる寸前だったけれど、完遂さえできればそれは大した問題ではないだろう。
「すぐにドライヤーで髪を乾かしましょう。風邪をひいてしまったら大変ですからね」
そんなことしなくてもいいのに、祐巳はサチコの身体を拭いてやるだけでなく、服まで着せてやったようだ。
サチコめ……昨日まで普通にひとりでできていたくせに。
面白くない気持ちを振り払うように、私は立ち上がり久しぶりに外の世界に目を向けた――瞬間、固まった。
これはけして言い訳ではなく、私が外を見たのは闇ばかり見つめているのにうんざりしたからだし、それにもう大丈夫だと思ったからだ。
だって、さっきの祐巳の言葉は今にも脱衣所を出そうなものだったじゃないか。
そう。私は忘れていた。
祐巳がとても優しい子だということを。
祐巳はお風呂から上がると自分のことはそっちのけでサチコの面倒を見てあげていたのだ。
サチコが、いや私が湯冷めをしないようにと。
さすがに生まれたままの姿というわけではなかったけれど、
湯上りの濡れた髪と身体にバスタオルを巻いただけという格好は、私の思考を停止させるのに十分だった。
どうすればいいかなんて分かっている。
今すぐ目を逸らせばいい。
祐巳を汚すこの邪な視線をはがせばいいのだ。
けれど私はそうしなかった。
できなかった。
まばたきすらも。
微動だにできない私の中で、激しさを増していく心臓だけが私が生きていることを証明していた。
「お部屋で待っていていただけますか。私もすぐに行きますから」
サチコを部屋にやった後で祐巳は身支度を整える気でいるらしい。
それもそうだ。
もうサチコは脱衣所ですべきことは終えているのだから。
ホッとしたような、残念なような……。
「イヤ。ここでゆみをまつの」
「サァチコォォォッ!?」
――ごすっ!
サチコの発言に思わず身を乗り出した結果、私は透明な壁に頭突きをしてしまった。
額の痛みとそれ以上の精神的ダメージでふらつき、きつく目を閉じる。
「えっ? でも、あの……」
「だってユミといっしょにいたいんですもの」
戸惑う祐巳の声とサチコの白々しいセリフが聞こえる。
私は壁に手をつき、気合で目を開けた。
「うっ……」
目の前には恥ずかしそうにもじもじしている祐巳がいた。
祐巳。その格好にその表情は反則ではなくて? 私ちょっと目が離せそうにないんだけれど……。
サチコに立ち去る様子がないことを悟ると、祐巳は少しだけ横を向いてバスタオルに手をかけた――
「うわぁあぁぁ! ごめんなさいっ!!」
見ない見ない。
見てない見てない。
はしたない叫び声を上げた私は再びかごめかごめ状態に戻ったのだった。
一瞬。
ほんの一瞬だけとはいえ、
「ありがとうサチコ」などと思ってしまった自分を私は当分赦せそうにない。
サチコがピアノを弾いている。
はっきり言って技巧的には大したことはない。
けれど悪くない音色だった。
それはたぶん、祐巳の為に弾いているからなのだろう。
病院で検査を受けてきたサチコと母を祐巳が出迎えてからというもの、2人はずっと一緒にいる。
今日は日曜日だから夕方まで祐巳の帰宅を待っている必要はなかった。
サチコは思う存分祐巳に甘え、祐巳はそれを楽しそうに、幸せそうに受け入れている。
不思議と憎しみの感情はわかない。
腹立たしさや苛立ちは今も感じているのだけれど。
どうしてだろう。
こんな目に遭わされているというのに。
私への仕打ちはともかく、祐巳に向ける好意に嘘はないと知ってしまったからだろうか……?
「お姉さま?」
気付けば祐巳がこちらを覗き込んでいた。
どうやらサチコがうとうとしているらしい。
「ベッドで横になりますか?」
むずかるような声を出してイヤイヤと首を振るサチコ。
せっかくの祐巳との時間を眠っている間に消費してしまうのが嫌なのだろう。
……いつから私はサチコの考えが理解できるようになったのだ。
理解できるのは同類だからか、あるいは――
ふと浮かんだ考えを私は首を振って頭から追い出す。
「馬鹿馬鹿しい。そんなこと、あるわけがないわ」
けっきょくサチコは祐巳にもたれかかって寝てしまった。
祐巳は面倒がる様子もなく、サチコをそっとベッドに寝かしつけた。
この時の祐巳の表情を私はずっと憶えていたいと思った。
たとえばサチコがいなくて、これまで通りの日々がつづいていたのだとしたら――。
祐巳は今みたいな表情を私に向けてくれただろうか。
そんな日が、いつか私たちの間にも訪れたのだろうか。
私の視線をさらりとかわすように、祐巳は音もなく部屋を後にした。
ひとり取り残された私のもとへ珍客が現れた。
内心かなり驚いていたのだけれど、それを覚られるのは癪だった。
だから片眉をわずかに上げただけのシニカルな表情で私は彼女を出迎えた。
「あら、お久しぶりね。もう二度と会えないかと思っていたわ」
澄ました顔でやってきたのは、ついさっき外側の世界で寝入ってしまったはずのサチコだった。
(コメント)
ななし >祥子が葛藤する姿がカワイイ(No.20869 2013-08-06 21:19:17)
杏鴉 >コメントありがとうございます。ななしさま。祥子さまは根が真面目だし、祐巳さんのことを好きすぎて見たくても見れないんだろうなぁと思いながら書きました。これが聖さまだったら、たぶんガン見してる気がします。(No.20870 2013-08-06 23:24:15)
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