がちゃS・ぷち
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No.3271
作者:ex
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2010-08-30 18:51:45
萌えた:2
笑った:0
感動だ:40
『暴走少女憧れで見てるカタルシス』
「マホ☆ユミ」シリーズ 「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)
第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:これ】【No:3273】
第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】
第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】
第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】
※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。
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☆
午後3時をすぎ、パーティもお開きになろうかという頃になって、大人たちの間でも、祥子の天才ぶりが話題に上った。
「祥子さんの魔法は、とても高度なものだと聞いていますよ」
「さすが当代きっての魔法使い、清子様の一人娘、といったところですね」
「それは是非見てみたいものですな」
「祥子さんの魔法をうちの娘に見せてくださいませんこと?娘の向学心に火がつくかもしれませんし」
どうやら、パーティに参加した大人たちの興味も、祥子の魔法の才を確認することに移ったようである。
清子はあまり気が進まなかったが、ホステス側として客のリクエストには答えたい。
それに、華やかなパーティでお酒も入った状況であれば、断るような無粋な真似はできなかった。
融も自慢の娘を披露したいのか、清子に
「ちょっと余興が欲しかったところさ。祥子には、派手な魔法をするように頼むよ」
など、能天気な言葉をかける。
清子は、祥子に準備するように言い、二人で中庭の中央に進む。
小笠原家の中庭は100人程度の人数であればガーデニングパーティが出来るほど広い。
清子と祥子が20歩ほどの距離を置いて対峙する。
そのまま二人してゲストのほうに向かい、たおやかにお辞儀をした。
「これから、祥子の攻撃魔法をご覧に入れます。
わたくしがそれを防ぎますが、そちらに魔力の欠片が飛ぶかもしれませんので、ご注意してくださいね。
とくに、子供たち」
と、子供たちに向かい、「あまり前に出すぎないでくださいね」と、注意を与える。
「清子さんの防御魔法か」
「清子様なら、万が一にもこちらに影響があるようなことはないですわね」
「清子さんに、そんな注意をされるほど、祥子さんの魔法はすごいのかい?」
など、大人たちから口々に感想が述べられる。
「では、始め!」融の掛け声で清子と祥子の魔術ショーが開演した。
☆
祥子が清子に向かって杖を振り上げる。
(まず、炎を生み出す、それを矢の形に圧縮、魔法陣の中心から高速射出)
イメージをつかみ、脳内で高速演算。魔方陣を生み出して放たれるその魔法。
「ファイヤー・アロー!」
祥子の呪文と共に、真っ赤に輝く炎の矢が一直線に清子に向かい・・・
「フレイムワール!」
清子の杖から生み出された炎の壁に衝突した瞬間、花火のようにはじけて消えた。
「わぁっ!」
「すごい、祥子さま!」
子供たちから声が上がる。
大人たちも、「ほぅ」といった顔をしているが、「ファイヤー・アロー」は基本的な攻撃魔法である。
ここに集まっている魔法使いであれば全員が使える魔法である。
ただし、この魔法を操ったのが中学一年生である、という事実だけが大人たちの関心を引いただけだった。
再度、祥子が杖を振り上げ、
「ファイアー・レイン!」
今度は、祥子の周囲に、縦5つ、横5つ、計25個の魔法陣が一斉に発生。
25本の矢が清子に向かって飛ぶ。
しかし、清子のフレイムワールの前に、再度花火となった。
「なんと・・・・」
今度は、大人たちが驚愕する。
「魔方陣の同時25個発生・・・とは!」
「なるほど、炎の発生から高速射出までをザブルーチン化し脳内でマクロを組んで25回の連続詠唱を一回で終わらせたのか!」
「そんな演算、中学生に出来るのか・・・」
「やはり天才・・。」
「しかし、それを簡単に防ぐ清子さん、さすがだな」
「すごい!すごい!おねえさま!!おかあさま!!」
ひときわ大きく祐巳が声援を送る。
祐巳は、今の一瞬で祥子がどれだけすごい演算をこなしたのかわかったのだ。
清子と祥子は祐巳のほうを向いてにこやかに笑い手を振った。
しかしその一方で、
(なによ、清子様を、おかあさまって!!)
(まるで、本当の娘のような振る舞いじゃないか)
むくむくとわきあがる、嫉妬の嵐。
大人たちはさすがに無言だが、子供たちはそうは行かない。
「ずうずうしいですわ」
「養ってもらっている分際で・・・」
「どうせなにもできない庶民の娘でしょ、そばにいるだけでも汚らわしいのに」
「もう見限られているのに、同情だけで住まわせていただいているんですわ。祥子さまお優しいですもの」
わざと、祐巳にだけは聞こえるように呟かれる悪意の刃。
急激に祐巳の顔から血の気が引いていく。
(おかあさまとお姉さまは本当の娘のように接してくれる!)
(わたしは愛されている!)
しかし、
(ほんとうなの?私にはこの1年間、呪文を教えてくれていない・・)
(今の魔法だって、見たことがない・・・)
(私は・・・私がお姉さまより出来が悪いから、もう私なんて要らないの?)
祐巳は不安に押しつぶされそうになった。
嫌な感情が後から後からあふれ出す・・・・
☆
「では、最後の魔法です」と、祥子が告げ、再々度杖を振り上げる。
「お!」っと、周囲の視線が清子と祥子に集中する。
祥子の雰囲気が一瞬変わる。
それは周囲を圧倒するほどの集中。
祥子は心の中で魔導式を組み上げていく。
(出よ炎熱、ほとばしれ稲妻、炎は燃え盛り、稲妻は雷雲を貫け・・・・)
祥子の組立てている魔導式は、炎熱と雷撃の同時二重詠唱。
さらに、人外の力としか思えないほどの演算スピードで魔方陣を構築。
祥子の周囲に真紅の魔方陣と翠青の魔法陣が同時に出現し融合。
「ファイヤー・ボルト!」
巨大な一つの魔方陣に収縮したそれから、炎と雷を纏った一本の竜のような熱線が清子に襲い掛かった。
「セーフティ・ワールド!」
バリン!!とものすごい轟音。一瞬眼をそらさなければならないほどの閃光。
一流の魔法使いでなければ生み出されえない高位の合体呪文を祥子が放ち、それを清子の絶対防御呪文が防いだのだ。
融の、「派手に」のリクエストに答え、祥子は現在の自分の最高の魔法を放ったのだ。
もちろん、母親の清子には絶対防御呪文があるため、傷つける心配はしていなかった。
一瞬の静寂に包まれた中庭に、神々しいまでの”気”を纏った清子と、やり遂げた顔の祥子の姿があった。
一斉に拍手と歓声が湧き上がる。
しかし、その歓声に祐巳の声が無かった。
祐巳は、西園寺ゆかり、京極貴恵子、綾小路菊代の3人に取り囲まれていた。
「祐巳さんもおできになるのかしら?」
「清子おばさまの教えを受けているのなら当然おできになりますわよね?」
「見せていただきたいですわ」
3人は衆人環視の下に祐巳を引きずりだし、「出来ません」と泣く姿が見たかったのだ。
しかし、幸か不幸か祐巳は祥子のファイヤー・ボルトを見てしまった。
祐巳の天賦の才は、高位の合体呪文さえ「見ただけ」で構築・演算・展開まで理解させてしまった。
(おかあさま、おねえさま、わたしを見て!)
(わたし、がんばるから!わたしを捨てないで!)
祐巳は、心の不安を暴走させていた。
焼け付くように胸が痛い。
喉がカラカラになり、呼吸さえ苦しい。
祐巳は思わず、清子と祥子のもとに駆け寄り、
「おかあさま、わたしも魔法を使います。受けてください!!」と叫んだ。
「えっ。祐巳ちゃん!!!ちょっと待って!!」
しかし、その言葉は祐巳の耳に届かない。
パタパタ、と清子から距離をとり、杖をかざし、今見たばかりの呪文を唱える。
「ファイヤー・ボルト!」
祐巳の杖先に、真紅の魔方陣と翠青の魔法陣が同時に出現し融合していた。
☆
祐巳が清子に向けファイヤー・ボルトを放った瞬間、清子はセーフティー・ワールドを全力で展開した。
祐巳は、自分の魔法がすべて祥子に劣っていると確信している。
祥子の魔法を防げる清子であれば、自分の魔法など簡単に防げると安心していた。
ただただ、自分を認めてもらいたい、その気持ちだけが先走り、魔法を放ってしまった。
祥子との魔術ショーで準備運動が出来ていたため、その絶対防御魔法は完璧に作動した。
しかし、清子はセーフティ・ワールドが突破されることを予感していた。
今日は、祐巳に和装をさせている。
そのため、いつもツインテールに纏めているリボンを祐巳はしていなかった。
祐巳の魔力を自動的に4分の1まで引き下げていたリボンがない。
祐巳の放ったファイヤー・ボルト。
それは、清子にとって絶望的な魔力の奔流だった。
バリン!!バキバキ!!ゴォォォォ・・・・・!!!
完全防御であるはずのセーフティ・ワールドが崩壊する。
絶対防御のシールドを突き破ったファイヤー・ボルトが、清子の下半身を襲う。
下半身を炎熱に包まれた清子はその場に崩れ落ち、悲鳴が小笠原家の中庭に響き渡った。
「おかあさま!!おかあさま!!」祥子が悲鳴を上げて清子に取りすがる。
「清子さん!!ええぇいぃ!ディアラハン!!!」来客の中から松平医師が飛び出し、回復呪文を唱える。
祐巳は・・・・・
自分の魔法で清子が倒れたのが見えた瞬間・・・・・
立ったまま気を失い、その場にくず折れた。
☆
その場に高名な魔術医師がいたこと、祐巳自身が魔法を放つ際、無意識に体の中心ではなく、足元に狙いをずらしていたこともあり、清子は一命を取り留めていた。
しかし、退院まで3ヶ月以上を要する大怪我を負ったことに変わりはない。
しかも、高温度の複合呪文で体の組織を吹き飛ばされた下半身がそのままですむはずは無かった。
右足は、くるぶしから先の再生はついにかなわなかった。
左足はひざから下の自由が利かなくなり、車椅子での生活を余儀なくされることになった。
一方、祐巳はベッドで寝たきりの生活を送っていた。
一日中、うつろな瞳で天井の一点を見ている。
ときたま、悲鳴を上げて起き上がるが、その悲鳴は細く、かすかなもの。
真冬だというのに、大量の汗をかき、体はやせ衰え、まるで幽鬼のようになっていた。
肌につやはなく、すでに死相さえ見て取れた。
祐巳の精神の中で、繰り返し、繰り返し炎に焼け爛れる清子の姿があった。
それをしているのは祐巳自身。
祐巳は、幻覚の中の自分自身を殴り飛ばし、叩きつけ、壊し続けた。
そのたび、悲鳴を上げながらベッドの中で暴れ続けるため、拘束着を着せられ、ベッドにくくりつけられていた。
祥子も憔悴しきっていた。
最愛の母親が焼け爛れている。
しかも、その加害者はこれまで可愛がり続けていた祐巳である。
怒りの矛先をどこに向けることも出来ないまま、つらく厳しい看護を続けていた。
☆
祥子の下に、見舞い客が訪れた。
従兄である柏木優と、松平医師の孫娘である松平瞳子。
二人とも、事故の現場と、その原因を知っていた。
祐巳に対する、子供たちの悪意ある言葉に、この二人は嫌悪感を持っていた。
松平瞳子は祥子を慕っており、祥子を「おねえさま」と呼ぶ祐巳に嫉妬をしていたが、西園寺ゆかり、京極貴恵子、綾小路菊代の3人から、自分自身もネチネチとした中傷を受けたこともあり、祐巳に同情の気持ちを抱いていた。
祥子は、優と瞳子から事情を聞き、祐巳の心の闇を知ることとなった。
(かわいそうな祐巳・・・。あなたのしたことは許せないことだけど、わたしもあなたのことをこの一年間ないがしろにしてきたわ。あなたも寂しかったのね・・・)
(でも、どうして私のことを信頼してくれなかったの?お母様のことを信頼してくれなかったの?
あなたを愛する気持ちは、どんなことがあっても絶対に揺るぎの無いものなのにっ!)
目覚めない祐巳に祥子の言葉は届かない。
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