がちゃS・ぷち

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No.3315
作者:ex
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2010-10-08 21:30:14
萌えた:3
笑った:0
感動だ:79

『運命の意図』

「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:これ】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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〜第4部スタート〜


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 けがれをしらない心身を包むのは深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
 私立リリアン女学園。
 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統ある魔法・魔術学園である。

 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ日本中で、いや世界各地で活躍する魔法使いや魔術騎士が巣立っていく貴重な学園である

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〜 9月30日(土) I公園 暗黒ピラミッド南入口 〜

「ルーモス・サーチ」 祥子の杖先に光が浮かぶ。
 そのまま杖を前方に振りぬき、光の玉をピラミッドの入り口から内部に送り込む。
 暗黒のピラミッドの中は魔界の瘴気に溢れていた。

「お姉さま・・・。 このまま進むのは危ない・・・。 わたくしたちも魔界の瘴気にあてられてしまいます」
「え? じゃ一歩もピラミッドの中には入れないの?」
「そうですね・・・。 瘴気を防いで進む方法・・・。 ちょっと待ってください」

 ピラミッドに踏み込もうとした蓉子を祥子が引き止める。

「・・・結界を纏ってはいるか・・・。 空間をそのまま保存して・・・。宇宙服のようにして入るか・・・」
 祥子が入り口付近でぶつぶつ呟きながら考えている。

「清めの呪文『スコージファイ』・・・。 妨害呪文『インペディメンタ』・・・。 水流障壁『インパービアス』・・・」

「どう? いい手は見つかって?」
 蓉子が心配そうに祥子を振り返る。

「はい。 決まりました。 7つの魔法を同時に詠唱しながら進みます。
 ただし、戦闘になればさすがにこの呪文は唱えることが出来ませんので数分で瘴気の中に飲み込まれます。
 すぐには瘴気の影響は出ないでしょうが、もし戦闘になったら短時間で終わらせる必要があります」

「え・・・・。 あなた今なんて言った?」

「え? 数分しか持たないと・・・」
「いや、同時に7つの呪文を唱えるの?」
「はい、それしか手はないので・・・」

 祥子以外の8人は信じられないものを見るように祥子に注目する。
「同時に7呪文・・・。 あなた・・・。わかっていたけど、とんでもない天才よ」

 小笠原祥子。 魔法の天分に恵まれたその能力は年々驚きの成長を見せていた。

「では、行きます。
 『スコージファイ』  (瘴気を祓いこの場を清めよ!)
 『インペディメンタ』 (瘴気の蔓延を妨害せよ!)
 『インパービアス』 (水流により守護結界を張れ!)
 『カーベ・イニミカム』 (周囲の敵を警戒せよ!)
 『サルビオ・ヘクシア』 (不意打ちの呪、瘴気の呪を避けよ!)
 『ポイント・ミー』 (行く手を示し方角を記せ!)
 『ルーモス・クロス』 (光満ち不浄なる者を浮かび上がらせよ!)」

 祥子が7つの呪文を唱える。 祥子は7つの呪文の構成式を同時に行い、演算を開始。
 それぞれの魔法の発動時間をずらせることで、最後の瞬間に同時に7つの呪文の融合する魔方陣をその場に形成。
 祥子の周囲に虹のような7色の魔法陣が浮かび上がり、9人を包み込む結界と光、そして方角をあらわす矢印が同時出現した。

「ちょ・・・。 ほんとに7つ唱えたよ・・・。 さすが・・・」
「祥子がいなかったらと思うと・・・。ぞっとするわ」
「では、ここに定点ポイントbPを設置してください。 入り口に極力近くなければ危険です」
「わかりました」

 ピラミッドの入り口を入ってすぐの位置に『妖精の翼』で帰ってくることの出来る定点ポイントを設置。
 いよいよ、ピラミッド内部への進入がはじまる。

(保科先生、子供たちを守って。 マリア様、全員を無事にお戻しください。)
(令ちゃん、絶対死なないで・・・。無事に帰ってきて!)
(お姉さま・・・。同時7呪文詠唱・・・。見せていただきました。 きっと大丈夫! みなさまに『幸運』を・・・)
(みなさま、ご無事で・・・)

 ピラミッドを囲む結界のすぐ外で、シスター上村、由乃、祐巳、志摩子が祈るように見送っていた。

 進入隊の一行がピラミッドの入り口に消える瞬間、祥子と祐巳の視線が絡み合う。

「お姉さま! おねえさまーー!!」
 思わず大声で叫ぶ祐巳。 結界でわずかにゆがんだ祥子の姿を目に焼き付けながら祐巳は叫び続けていた。



 暗黒ピラミッドの中は、どこか湿り気を帯びているようであった。
 この世のものではないと判別された物質で出来たピラミッドであるが、石造りの建物である以上、湿気のようのものが存在しているのだろう。
 ピラミッドに進入した蓉子たちはそんなことを思い巡らせていた。

 現在の陣形は、3×3×3の守備的陣営を組んでいる。

 前衛3名(支倉令   水野蓉子   佐藤聖)
 後衛3名(鳥居江利子 保科栄子 小笠原祥子)
 リザーブ3名(騎士団員、記録担当、騎士団員)

 パーティの前方には祥子の生み出した『ルーモス・クロス』の十字の灯りが空中を浮かびながら照らしている。
 その下に、方向を示す矢印。
 騎士団員の一人は、マップアナライジングシステムを起動し、このダンジョンの記録をつけながら進む。
 このシステムの画像は地上に送られ騎士団のデータバンクに保存される。

 祥子は 『ノーブル・レッド』 を顕現し、常時7つの呪文を呟きながらこのパーティを瘴気から守っている。

 『ルーモス・クロス』 の照らす範囲はおよそ直径10mほど。
 薄暗いピラミッドの中で、たったこれだけしか明かりがないことは騎士団員たちにとって不安をあおるものであった。

「大丈夫ですよ」 不安げな気配を察して蓉子が言う。

「祥子の魔法は、不意打ちを防止します。それにおそらくこのピラミッドにC級以下の魔物は居ないと思われます」

「ちょっと・・・。それって、このピラミッドにはソロモン72柱の魔王たちしか居ない、って言ってるみたいじゃない」
「あら、そういったつもりだけど」
「じゃ、いきなり魔王と戦闘なのか・・・」
「どこで出てくるか、が問題だけどね」

 チャキッ、と各自がそれぞれの得物に手をやる。
「気合っ! 入れていきますか〜」
「ま、熱くならないで。 じっくりいきましょう」
 この状況でも、あくまで蓉子は冷静であった。



 暗黒の中を進むこと約120m。 目の前に巨大な扉が現れた。
「これが探査ロボットに撮影された扉ですね。 映像ではこの扉を開けた瞬間に何かが襲い掛かってきたようでした。
 開けるには十分注意が必要です」
 騎士団員から蓉子に声が掛かる。

「ええ・・。何も考えずに開けるのは危険ね。」
「で、どうするの? ぶち壊す?」
「それもいいわね」
「ちょっと、本気?」
「まず、何でもやってみましょう。 江利子、祥子、お願い」

「了解。 刹那五月雨撃っ!」「ジオダイン!」
 江利子の矢が奔流のように扉に殺到する。 追いかけるように祥子の雷撃呪文。
 グワァァァ−−ン!!  すさまじい音量の爆音が響き、扉がガラガラと崩れる。

「む・・・無茶苦茶な・・・」 聖があきれた顔で見る。
 後ろでは祥子が、「『スコージファイ』・・・『ルーモス・クロス』」と、7呪文同時詠唱を開始。

「ダメね・・・」 蓉子が渋い顔をする。
「この方法だと祥子の負担が大きすぎる。 祥子の魔力は魔王と戦うときに絶対必要だからこんなとこで無駄遣い出来ないわ」
「いや、あんたがやらせたんでしょうが・・・」

「そんなこと気にしない! ほら、来るわよ!」

 崩れた扉の先、そこは一つの灯りさえなかった回廊とは違い、明々と松明が炊かれ、不気味なまでに明るい空間になっていた。
 そして・・・部屋の奥の玉座に座っていた魔王が蓉子たちを睨みつける。
 ゆっくりと立ち上がるその姿。

「あら、フラロウスじゃないの。 ベリアルかと思ってたわ」

 そこに居たのは、左目をつぶされ、額に大きな傷を負った真紅の豹公。
 祥子の姿を認識したフラロウスは、憎々しげに祥子に向かい雄たけびを上げる。

「さすがにピラミッドの中では自由にさせているのね・・・」
 蓉子が少し残念そうに呟く。

「まぁいいわ。 みんな行くわよ!」

 暗黒ピラミッドの中、ついにリリアンの薔薇と魔王の戦いが始まる。



「祥子は下がってなさい! 雷撃・伍絶切羽!」
 電撃を纏った江利子の矢が、フラロウスの右肩、左肩、右足、左足を射抜き、心臓に突き刺さる。

「あんたは、電撃が弱点ってわかってんのよ!」
 フラロウスの体が十字架のように射止められ動きを止める。

 次の瞬間、フラロウスの脇を瞬駆で加速する令と聖が走り抜ける。

「一文字斬っ!」 「スレイ・カトラス!」

 2人の超高速の攻撃にフラロウスの右手、左手が宙に跳ね上がる。
 令の必殺の斬撃、避けようもない聖の風の刃。

「羅刹龍転斬り!」
 蓉子は手に持つ 『インヴィンシブル』 を両手で横に構え、力を溜めた後に瞬間的に回転動作を行いつつ強力な回転斬り攻撃を行う。
 体幹軸をブレさせずに回転しながら放つ蓉子必殺の斬撃。
 優れた膂力・バランス感覚・体重移動動作を完璧にものにしている蓉子であればこそなしえるすさまじい剣技。

 ・・・フラロウスは、一声も発することが出来ず、万歳をした姿のまま上半身と下半身を切り離され、絶命した。

「す・・・すごい・・・」
 騎士団の一人が驚愕の表情でリリアンの薔薇を見る。
「魔王・フラロウスが、一瞬で・・・。 すごすぎる・・・」

 そう、この戦闘、わずか10秒もかからずに終わっていた。

「あいかわらずすごいね、蓉子。 同じ回転切りでも志摩子の何倍も威力が上だわ」
「あら、志摩子も回転切りが得意なの?」
「うん、最近ちょっと1年生たちの訓練に付き合ってるんだけどね。 あの子筋がいいんでよく見てたのよ」
「まぁ、いくら去年の中学主席、っていっても、蓉子が新人には負けられないわよね」
「うん。 でもわたしたちの次の薔薇はあの子達だからね。 大事に育てないと」
「そうね。 私たちがあの子達に残して上げられるものが 『平和な世界』 だとすれば、こんなとこで止まってるわけには行かないわ」

「そうね、じゃ、ちゃちゃっと次、行きますか〜」
「ええ、でも、中継用定点ポイント、ここに残しておかなくていいかしら?」
「まだ、100mくらいだよ?」
「有効距離がピラミッド内部で変わるのかどうかわからないから。 短距離しか飛べないかもしれない。 そのテストもしながら進まないといけないのよ」
「そうか・・・。まだ手探りだもんね」
「ええ。 では、ここの位置に中継ポイントbQをお願いします。」
「了解しました」

 蓉子の言う 『中継用定点ポイント』 とは、妖精の翼を使用して定点ポイントに戻るための中継基地になるものである。
 実際にこの中継用のポイントに帰ってくるわけではなく、どちらかというと増幅器の役目が強い。
 このポイントを多く設置することで安全確保を確実なものとする用心深い作戦だった。



〜 9初30日(土) I公園 〜

「祐巳さんは・・・。祐巳さんは平気なの?」
 悲しそうな・・・、それでいて悔しそうな顔で由乃が祐巳を見る。

「私よりも、ずっと強くて・・・。 薔薇様にも負けないくらい強くって・・・
 それなのに、連れて行ってもらえないなんて、悔しくないか、って聞いてるのよ!!」

「由乃さん・・・」
 祐巳が困ったような顔で由乃を見る。

「由乃さん、祐巳さんだって悩んだのよ。 お姉さまとどれだけ一緒に行きたかったか。
 わたしは知ってるわ。 祐巳さん、昨日の夜だってほとんど寝てないのよ!」

「じゃぁどうしてよ! かじりついてでも 『連れて行け』、って言えばよかったじゃない!
 わたしが・・・、私が祐巳さんくらい強かったら、絶対ついて行ったわよ!」

「由乃さん・・・」 
 志摩子は、由乃の気持ちがわかるだけに、それ以上かける言葉を思いつかなかった。

 祐巳はじっと目を閉じている。 そして、穏やかな声で由乃に語りかける。

「あのね、由乃さん、私たち3人はね、 『託された』 んだと思うんだ。
 なにを 『託された』 のかは、きっとわかるときが来ると思う。 
 わたし、ぼんやりとだけどね、蓉子様や、お姉さまの気持ち、わかるよ」

 祐巳の手が伸びる。その細い指先が由乃の頬を撫で、その先の、由乃の三つ編みの髪を優しく撫でた。

「令さまの気持ちもきっと同じなの。 私たちは 『妹』 なんだ。
 お姉さまを見て、学んで、信じ続けること。 それをね、お姉さまたちは望んでいるんだよ。
 決して私たちをないがしろにして進んでいくんじゃない。 自分たちの姿を私たちに見せておきたいんだ。
 だからね、私はお姉さまを信じて待つよ」

「祐巳さん・・・」
 
 由乃と志摩子は、落ち着いた声の祐巳に思わず驚く。
 それは、まるで聖母の託宣のように暖かく染み入ってくる言葉だった。

 3人の中で一番童顔で幼い雰囲気だった祐巳。 のんびり、ほんわか、天然娘だと思っていた祐巳が急に大人びて見えた。

「それに、ね」 と、急に声の調子を変え明るく微笑む祐巳。

「蓉子様たち5人の強さ、半端ないし。 案外、ちょちょい〜って終わらせてくるかもしれないよ?」

「もう、祐巳さんったら」
 二人も、祐巳の笑顔につられて笑う。
 先ほどまで激昂していた由乃も落ち着きをとりもどしたようだ。

「じゃ、これから特訓、いきますか〜」

「「うん!!」」
 3人は連れ立ってリリアンの闘武場に向かうのだった。



 地上の騎士団仮設本部では蓉子たちに同行している騎士団員からの映像をモニターでチェックしていた。

「直進して、120mで一度壁に突き当たっています。
 そこに至る回廊の幅員は6m、高さは8mで一定です。 傾斜角は一定で2.5%の下り勾配が付いています。
 壁の突き当たりには扉があり、この扉を抜けた先の小部屋にフラロウスがいました。
 小部屋の大きさは一辺30mの正方形です。
 そして、入口から右90度、つまり、東の方角に幅3m、高さ6mの扉がありました。
 この扉を抜け、120m進んだところで、また扉のある壁に突き当たっています。
 この扉を抜けた先で、魔王ゴモリーと戦闘が行われました。
 その後は、ご覧のとおり、また右90度、今度は南の方角の扉を抜けて進行中です」

 モニタ―をチェックしている団員から本部に集まる幹部に詳細な報告がされている。

「つまり、120m進むごとに角部屋があり一回の戦闘を行う・・・ということか」
「そうです。 そして、540mごとに一周して一階層地下に進む、ということになります」
「以外に単純な構造だな。 地図を作るまでもないくらいだ」
「しかし、120mごとに戦闘とは・・・。 かなり苦しい戦いになる、と見るべきか、移動距離が少なくてよかった、と言うべきか」

「それより、あのフラロウスを瞬殺した 『リリアンの戦女神』 たち。 すさまじい力量です」
「しかし、次の魔王、ゴモリー戦ではかなり苦労したようだが・・・」

「たしかに、最初の戦闘映像は驚愕でした。 しかしフラロウスは弱点も把握できていましたし、なにより手負いでした。
 次の魔王ゴモリーは無傷でしかも弱点を把握できていなかった・・・。 それが原因でしょう」

「それに、今後現われる魔王たちがフラロウスやゴモリーと同程度の力、とは思えません。 
 現に先日のアンドロマリウスとの戦闘においては負傷者が出るほど力は拮抗していました」

「誘い込まれている・・・。 その可能性もありそうですね」
「杞憂であればいいのですが・・・」
「戦闘力が少しでも欠けた場合にはすぐさま 『妖精の翼』 で戻ると言っていました。 その点は心配ないでしょう」
「はい、信じて待ちましょう」

 暗黒ピラミッドを進むリリアンの薔薇たちを期待と心配の目でモニターにくぎ付けになる騎士団。
 その時、騎士団本部にあわただしい動きがあった。
 
「大変です! 南の入口を除く3箇所の入口が消失しました!」
「なにっ? 水野さんたちが入った南入口は無事なのか!?」
「はい、その南入口を除く3箇所の入口が消失。 これはどういうことでしょう?」
「なんなんだ・・・。 しかし、南入口も閉じてしまったら水野さんたちは袋の鼠だ! 至急呼び戻せ!!」
「はっ!!・・・・・・ダメです!! 電波が届かなくなっています!!」
「っつ・・・! まずい・・・。 まさかこんなことになるとは・・・」
「しかし、南入口は閉じる気配がありません。 伝令隊をだすべきでは?」
「いや・・・二次被害の可能性もある・・・。 どうすべきか・・・」

 暗黒ピラミッドの内部は瘴気で溢れている。
 このため、内部に侵入するためには、祥子の行った 『7呪文同時詠唱』 ができる魔法使いが必要なのだ。

「しかたない。 探査ロボットを出動させる。 至急準備を!」
「はっ!!」

 騎士団に緊張が走る。
 一刻も早くこの状況を進入隊に伝えなければならない。

(どうか、手遅れにならないでくれ!)
 
 騎士団の全員が祈るような気持ちで探査ロボットを見送っていた。



〜 9月30日(土) 暗黒ピラミッド内 〜

 暗黒ピラミッドに進入した蓉子たちは、緒戦のフラロウスを瞬殺。
 しかし、次に控えていた魔王ゴモリーとは熾烈な戦闘になった。

 なにより、7呪文を同時詠唱している祥子を温存して戦う道を選択したため、どうしても直接戦闘に頼らざるを得ない。

 騎士団3名に 『物反鏡』 を装備したポリカーボネイトの盾で防御を固めさせ、その中に栄子先生と祥子を置き、4人での戦闘を行ったのだ。

 江利子の刹那五月雨撃が防がれる。
 令の瞬駆による斬撃すら、ゴモリーを傷つけるにはいたらない。
 なんとか、聖のトリッキーな動きで注意を逸らし、蓉子と令のWスラッシュ攻撃がゴモリーの腕を跳ね上げた瞬間、江利子の矢がゴモリーの眉間に突き刺さった。
 これで動きの止まったゴモリーに、蓉子、令、聖の3人の同時攻撃が炸裂し、なんとか倒すことが出来た。

 しかし、この戦闘で令と聖が腕に負傷を負った。

「参ったね・・・。今のはほんとに危なかった・・・」
 聖がほっとした顔で呟く。 栄子先生が心配そうな顔で治療に当たる。
 令の治療は江利子が行っている。

「そうね・・・。聖の動きでかく乱できたからいいようなものの、もしあの動きについていけるレベルの魔王が現れたら・・・。
 このまま進むのはかなり危険だわ」
「祥子の魔法を温存していたんじゃ、次でやられるかもしれない。
 多少、瘴気を浴びる覚悟で臨まないといけないか・・・。 命を落としたんじゃ瘴気どころじゃないよ」

「いえ・・・。恐ろしいのは魔王よりも瘴気だとおばばさまは言っていたわ。
 瘴気だけは絶対に避けなければならない。 このメンバーだけで進むのはもう無理かも」

「う〜ん。でもまだ出発して1時間もたってないよ?
 それに、令の傷も私の傷もかすり傷程度だし。 ちょっと早すぎない?」

「うん・・・。 もう一戦だけして見ましょうか。 祥子、次の戦闘で危ない状況になったら、7呪文はあきらめなさい。
 戦闘にあなたも参加して。 それで時間がかかるようなら、全員で 『妖精の翼』 で脱出。 いいわね」

「わかりました」
 祥子は蓉子の命令に頷くが、なぜか不安が頭をよぎる。

 ちょうどその頃、地上では暗黒ピラミッドの入り口が、蓉子たちの入った南入口を残して閉じようとしていた。

 ピラミッド自体が、暗黒のダンジョン、魔界のトラップになってしまったのか・・・?
 蓉子たちは、まだそのことに気付いていなかった。



(コメント)
ex >毎回、高評価を戴いていることに感謝しています。第4部もどうぞよろしくお願いします。(No.19052 2010-10-08 21:36:30)

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