がちゃS・ぷち
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No.3856
作者:奏葵
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2016-06-19 21:58:24
萌えた:4
笑った:3
感動だ:12
『祐巳の咲く季節』
マリア様がみてる
太陽と聖女
【No:3853】【No:3854】の続きです。
春の慌ただしさもひとまず落ち着いた、4月下旬。
HRも終わり各々が思い思いの放課後を過ごし始めている。
そんな中1人の生徒が教室に残りいまだに椅子に腰を下ろしたままだった。
白薔薇さまである。
なぜ残っているか、それは悩みであった。
悩んでいるのは自身の妹(プティ・スール)である聖のことである。
以前であれば山百合会の仕事を手伝わせるため無理やりにでも薔薇の館に引っ張っていたであろう。
だが今の状況が彼女を悩ませていた。
(去年とは違いあの子は自然に笑えるようになってきてる)
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聖の変化に気づいたのは入学式が終わって1週間を過ぎた頃だった。
以前から山百合会の仕事をさぼり気味であったため、
当初はいつもの気分が乗らずたださぼっているだけだと思っていた。
その日は薔薇の館へ行く前に資料を借りるため図書館に寄った後の出来事だった。
資料を借り終え薔薇の館に足を向け歩き出した目の端に聖を捉えた。
あの風貌のためリリアンではかなり目立つので見間違いはしない、
そう思っていたが一瞬別人か?と思ってしまった。
それぐらい雰囲気がいや顔つきも以前とは違ってきていた。
(初めて見るわね、あんな聖)
訝しく思い聖の後をつけるとお御堂に入っていった。
正直、聖とお御堂という組み合わせは理解できない。
聖には悪いがありえない組み合わせとさえ思えてならない。
まさかお祈りしているわけないだろうと思いお御堂を覗いた。
そこに見えたのはツインテールの少女に後ろから抱き付いている聖の姿であった。
お御堂でしかもマリア様の目の前で抱擁とは恐れ入る。
心の中でため息をつきながらも相手の娘を見た。
(制服はタイじゃなくリボンね。中等部の生徒か。あの娘が聖を変えた娘なのかしら?)
そうであるならば感謝したいと思う、が一方で姉である私が関与できていないという思い。
要するに嫉妬も少なからず覚えたのも事実ではある。
(嫌ね、マリア様の目の前でこんな醜い感情を持ってしまうのは)
自己嫌悪を払っていると2人のじゃれあいは終わり、ベンチに座り楽しそうに話し始めた。
そんな聖を見て懸念がないわけではない。
(聖みたいなタイプは大切なモノにはのめりこみやすい)
危険な賭けである。もし最悪の状況になると相手の娘を巻き込んでしまう。
以前注意したことがあるが聖は自分の殻に閉じこもる傾向にある。
その殻の中に彼女を巻き込む危険性を孕んでいる。最悪同時失踪などされたら目も当てられない。
しかし聖をいい方向に変えるチャンスでもある。
(どうするべきか・・・。)
悩んでいると2人に近づく人影があることに気づいた。
マリア様の前からやってきたのでお祈りをしていたのだろうか、その人物は2人の談笑に参加した。
すると聖がその娘にはまた違った笑顔を見せたのに気が付いた。ほんの僅かな違いではあるが見逃さなかった。
(まだ聖自身は気づいていないのかもしれないわね今の感情には。気づけばのめりこむ可能性がないわけではない。
でもあの中等部の娘が鍵になっているのはわかる。彼女を見る聖の目はとても優しい。
彼女ならうまく聖の心のバランスを取ることが出来るかもしれない。)
随分とお御堂を覗いていたことに気づきひとまず薔薇の館に向かうことにした。
(うまくいくかもしれない。少し見守ることにしよう)
聖を思いつつ忙しくなるであろうこれからの日々に思いをはせた。
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ここまでは見守り変わり始めた聖を見るのは嬉しかったが、いつまでも仕事をさぼらせるわけにはいかない。
姉としての自分、白薔薇さまとしての自分。二律背反する思いが悩みを深くさせていた。
(私がただの生徒なら答えは簡単なんだけどな・・・。)
山百合会の仕事に関しては今いるメンバーは非常に優秀だ。そのためサポートをしてもらえば何とかなる。
それに先日江利子にプティ・スールが出来た。支倉令と言って剣道部の次期エースと噂されている娘だ。
まあ、江利子の場合そんなこと関係なく外見が珍しかったとかいう理由で選んだみたいだが。
人も増え通常なら問題ない。が、時期が少々悪い。ゴールデンウィークを来週に控え部活間の折衝に一般要望や委員会要望その他etc.。
その後にはマリア祭もある。この1学期で一番忙しい時期になるのだ。猫の手ではないが頭数は多いに越したことはない。
それに紅薔薇さまと黄薔薇さまも笑顔で無言のプレッシャーを掛けてくる。
本当なら自発的来るようになればいいのだが多分無理だろう。
(仕方がないな。行ってみるか、お御堂)
椅子から立ち上がりお御堂へと向かう。
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HRが終わりいつも通りお御堂に向かおうとしていた私の許に来客があった。
「聖」
「なに?蓉子。私忙しいんだけど。説教なら受け付けないよ」
「はぁ。少しは薔薇の館に顔を出しなさいよね」
「考えとく」
「はぁ」
またため息を吐かれた。行く気がないのがばれてるな。まあ当たり前か。
「まあいいわ。今日は別のことだから」
「別?」
「たぶんあなたの事だから江利子が妹(プティ・スール)を持ったことを知らないんじゃないかと思ってね」
「江利子が?へぇ〜知らなかった。どんな娘?」
「支倉令って娘よ。剣道部所属で次期エース。後は顔が宝塚の男役って感じ」
「なるほどね、最後ので納得。キワモノ好きの江利子らしい」
「キワモノって・・・。せめて珍しい物好きとかあるでしょう」
「蓉子は?いないの?妹(プティ・スール)」
「いないわよ。まあ気になってる娘はいるけど」
「口説いてる最中ってとこ?」
「なぜか聖が言うといかがわしく聞こえるわね」
「あはは、いかがわしいとはひどいな〜、まあどうにかしちゃうんだろうな、蓉子だったら」
「ええ、どうにかするわ」
この自信はさすがだ。
「うん、まあがんばんなよ。応援ぐらいはしてあげるから」
そろそろ行こうかな、と思い鞄を持ち立ち上がる。
「・・・聖」
蓉子がいつになく真剣にこちらを見ていた。
「?」
「あなた変わったわね。表情が柔らかくなった」
「そう?自分では気づかないけど」
「何年の付き合いだと思ってるの。それに私じゃなくても気づくわよ」
「・・・」
「覚えておいて、聖」
「何を?」
「あなたがどういう答えをだそうとも私はあなたを支持するわ」
「・・・蓉子」
「そういうことだから、それと最初に言ったけどたまには薔薇の館に来なさい」
「善処するよ」
「初めてまともな答えが返ってきた気がするわ。それじゃあね、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さすが蓉子と言ったところか。
私の悩みに気づいている。伊達に親友をやってないね。
最近になって気づいたこの感情の正体。
これが私と栞だけの世界だったら答えは出ていたんだろうね。
でも祐巳ちゃん。あの娘の存在が心のいままで無かった部分を埋めている。
視界が開けた、と言えばいいのだろうか。冷静な自分がいることに気づけている。
(悩んでも仕方がないか、とりあえずお御堂に行くか)
出来るだけ考えないようにし、お御堂へ向かった。
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放課後、いつもの通りお祈りをする為、お御堂前に到着した時だった。
1人の生徒がお御堂から出てきたところだった。
中等部の制服にふわふわ巻き毛で西洋人形を思わす美少女だ。
「ごきげんよう」
と、あいさつを交わしすれ違った。
(確かミサに来ていた娘よね)
聖と同じくらい特徴的な容貌と年何回かあるミサには必ず来ていた記憶があるが、
話をしたことはなくあいさつ程度の関係であるため名前も知らない。
(お祈りに来ていたのかしら?)
少し疑問に思いシスターに聞いてみることにした。
「ごきげんよう。先ほどの中等部の彼女はお祈りに来られていたのですか?」
「ごきげんよう。ええ、でもお祈りをしているときの表情を見ているとどちらか言うと懺悔に近いかもしれませんね」
「懺悔ですか」
「懺悔は言い過ぎたかもしれませんが悩みでもあるのかもしれませんね。最近になってたまに来ていますから」
「そうですか。ありがとうございました」
シスターと別れ、お祈りをするためマリア様の前へと向かう。
(あら?あれは・・・。)
マリア様の前には一冊の生徒手帳が落ちていた。
中を確認すると先ほどの彼女の物だと分かる。
(中等部3年・藤堂志摩子さんか・・・。)
どうやら祐巳と同い年らしい。
祐巳が来たら預けようと考え、いつものお祈りを始めた。
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お祈りが終わりお御堂の入り口を見ると祐巳だけだった。
聖はまだ来ていないらしい。
祐巳に生徒手帳のことを話す。
「落としたみたいなのよ、この生徒手帳。同じ学年だし渡しといてもらえるかしら」
「誰の?」
「藤堂志摩子さんよ。最近たまにお祈りに来ているみたいだけど私は話をしたことないのよ」
「志摩子さんか・・・。何度か廊下で見かけたことがあるけど同じクラスにはなったことがないよ。それに栞ちゃんと同じく話したことないよ」
「それでも同学年だし私よりは会う機会が多いと思うから頼めないかしら?」
「うん。まあいいけど志摩子さん今日はもう帰ったんだよね?」
「多分そうね、鞄ももっていたしそのまま帰ったと思うわ」
「明日は祝日だし明後日は日曜だから月曜日か〜」
「お願いね」
丁度会話の区切りが良いところで聖が入ってきたのが見えた。
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栞ちゃんから志摩子さんの生徒手帳を預かり鞄に入れた時、お御堂の入り口に聖さまの姿を捉えた。
「ごきげんよう」
「「ごきげんよう」」
「今日は見つかったか〜、怪獣の子供の鳴き声聞きたかったのにな〜残念」
「いつもやられっぱなしじゃないですよ〜。えへへ」
「ふふふ。今日は少し遅かったんですね」
「ああ、蓉子に捕まってね。少し話してたんだ」
いつもならこれから雑談が始まるのだが今日は来訪者がそれを遮った。
「聖」
「え・・・、お姉さま!?」
「ええ。貴女のお姉さまよ。ごきげんよう」
「ごきげんよう、なんでお御堂に?」
「迎えに来たのよ。この忙しい時期にさぼり過ぎなのよ貴女は」
「拒否権は?」
「ないわ」
祐巳は驚いていた。いつも飄々としている印象の聖が随分押され気味だ。
それ以上に聖にお姉さまがいたことと何やら部活か委員会か知らないが活動をしていたことに。
その為、つい聞いてしまった。
「聖さまは何の活動をされているのですか?」
「「「え・・・。」」」
3人の驚きと共にお御堂に静寂が訪れる。
「あれ?私変なこと聞きました?」
「祐巳は知らなかったのね。聖さまは白薔薇の蕾なのよ」
「へ・・・?」
一瞬ポカンと呆ける祐巳。その後
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
今度は大声がお御堂にこだました。
幸いなことにシスターは居らず注意は無かったが居たら結構なお目玉を貰っていただろう。
「あはは、祐巳ちゃんナイス反応」
そんな笑っている聖に祐巳は。
「だって見えないんですもん、威厳とかないですし」
正直に返したところ
「うぐ!?」
ダメージを受けへこむ聖。
「あはは。言われたわね聖」
ツボにはまったのか大うけの白薔薇さま。
「もう祐巳ったら・・・」
少しあきれ気味の栞。
笑い続けていた白薔薇さまだが落ち着きなおし
「2人には悪いけどコレ持っていくわね」
「コレって・・・物扱いですかお姉さま」
「この忙しい時期にさぼり続けているんだからコレで十分よ。それともマリア祭の後にある歓迎式の催し1人でやってもらってもいいのよ?」
「ぜひ仕事を頑張らせていただきます」
不満そうな顔から一変即座に反応したところを見るとどうやら白薔薇さまは本当に1人でやらせる人物なんだろうということが分かる。
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮させていただきます。ということで2人ともごきげんよう」
変わり身から今度は聖が率先して薔薇の館に向かっていった。
「はぁ。普段からあのぐらいやる気があるといいんだけど」
愚痴をこぼした後こちらを振り返り
「今まで聖の面倒を見てくれてありがとう。良ければこれからもお願いね」
「いえ、面倒なんてそんな・・・。聖さまは良くしてくださいますよ」
「そうですよ聖さまとのおしゃべりは楽しいですよ」
畏まりながらも聖を賛称する栞と、笑顔で楽しそうに返す祐巳。
その2人を見て
「ありがとう」
と、もう一度心の底から感謝を送った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
聖さまが薔薇の館に向かったことにより今日はお開きとなった。
栞ちゃんと一緒に家に帰り夕飯を食べ団欒をして、お風呂に入った後、今日の復習をしようと机に向かう。
鞄を開け教科書とノートを取り出したとき、それも一緒に出てきた。
「あ、志摩子さんの生徒手帳」
栞ちゃんから預かっていたことを今思い出した。
今日は聖さまが白薔薇の蕾という驚愕の事実に驚かされ今まで忘れていたのだ。
(明日・明後日学校休みだしな〜。そうだ志摩子さんの家に届けてあげよう)
そう思い立ち生徒手帳を開け住所を見た。
「H市の小寓寺?へぇ〜お寺に住んでるんだ。何かかっこいいね」
よく分からない祐巳らしい感覚が炸裂したが、同時に復習がまだ終わって無い事に気づき慌てて開始する。
終わった時には夜も深け、祐巳は幸せな夢の中へダイブするのであった。
(おやすみなさ〜い)
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[あとがき]
登場人物増やしました。
白薔薇さまの名前が桂さんの名字並みに困ります。
次は祐巳と志摩子の話になると思います。
(コメント)
saxuality_660 >これは…!! 祐巳が絡む事で [白き花びら]が[白き花束]展開になるかも(≧∇≦) 次回作 楽しみに待ってます♪(No.77014 2016-06-20 20:13:48)
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